凱旋大歓迎パーリーもなんとか終わり、帰終原も徐々に元の落ち着きを取り戻してきた。
帝君率いる前線部隊は、ここでおおよそ一ヶ月の休暇を取り、英気を養ってから再び戻るらしい。
今後は天衡山の麓にも大規模な拠点をつくり、そこから更なる侵攻を計画するとのこと。
そうした旨を帰終様は留雲真君を初めとする
皆真剣な顔つきで聞いていたので、僕はこっそりお茶をお出しするだけして隅っこでじっとしていた。
だが、最初のうちは『魔神戦争』の戦況と作戦を話し合う大真面目な会合だったが、いつの間にか旧友との再会を喜び合う宴へと様変わり。
留雲真君と鳴海栖霞真君、そして帰終様が誰のからくりorお宝が優れているかでレスバトルを開始するわ、ピンさんが美麗な仙楽を奏でるわ、竈神が美味しい酒と料理を振る舞うわでもうめちゃくちゃ。
でも、気難しい理水畳山真君や帝君も笑顔で楽しんでいたようだったし、留雲真君も珍しく饒舌になっていて皆の笑い声は止まらなかった。
僕にはその様子がいつもの高貴な仙人様ではなく、まるで純粋無垢な少年少女たちが騒いでいるように見え、とても尊いものに思えて仕方が無かった。僕これから璃月仙人箱推し勢になります。
ちなみになぜか僕もお呼ばれした。絶対場違いだったが、竈神と一緒に配膳したりお酌をすることで媚びへつらったりしてなんとかその場から逃げていた。
…いや、だってオーラが違うんですもん。皆杯を片手にバカ騒ぎしているが、実際は一般人が大統領達の宴会に紛れ込んでしまったような状況である。緊張で胃が痛い。
だが、宴の終盤に酔った帰終様にとうとう捕まってしまう。
そしてそのまま僕は話題の種として狩り出され、皆が僕の活躍について語り合うことになってしまった。どうして…
「……といったことがあった。甘雨は初めて会ったときから、心身共に大きく成長したな。我も誇らしいぞ」
こちらを見つめながら、にこやかに微笑むピンさん。あまりにもお美しいです。
お美しいのですが…そろそろ止めていただけないでしょうか。そこまで褒められ慣れてないので、もう少しで恥ずか死します。
「ふん、歌塵よ。お前が甘雨の昔を語るなど驕りも甚だしい。妾は甘雨がこーんなに小さかった頃から知っておる。あのときは借りてきた猫のようにおとなしかったが、角を撫でてやるとすぐに寝付いたものだ。そうそう、たかがスライムに「化け物がでましたぁ!」などと泣きついてきたこともあっt」
「わー!わー!留雲真君、お酒のおかわりはいりませんか!杯が空っぽですよぉ!!!」
いきなりなんてことを言い出すんだ留雲真君。それ本当に転生初期の初期の話じゃないか。
一応ここにいる仙人たちには、僕はしっかり者の弟子だって認識してもらってるんだぞ。
こんなクソダサエピソードを聞かれては、僕がコツコツ積み上げてきた真面目なしっかり者のイメージが崩壊する。
しかし哀しいかな、留雲真君の余計なおしゃべりは既に皆の耳に入ってしまったようで。
親戚のおじちゃんポジションの削月築陽真君や鳴海栖霞真君、そして憧れの帝君まで大笑いしている。僕はひどく赤面した。
く、くそぉ…こうなったら、度数の高い酒で皆を酔い潰させて記憶を消させてやる!
僕はこっそり竈神と目配せし、追加の酒を用意する意思を伝えた。竈神は後でクッキーでも賄賂として渡せば手伝ってくれるからな、案外現金な奴なんだ。
こうして新たに運ばれてきた酒を杯に注いで回る。お酌してるときの横顔に、皆からの生暖かい視線が感じられて死にたい。
…や、ちょっと待って。よく考えれば仙人が酔い潰れることなんてないよな。だめだ、詰んだわ…
そう思考を巡らせていると、再び留雲真君が口を開く。
「どうだ、お前たちも羨ましいなら弟子でもとってみたらどうだ。無論、妾の一番弟子は渡すつもりはないがな」
「留雲真君…そこまで私のことを……」
明らかに雰囲気に酔っての発言なのだろうが、仮に冗談でも僕はとても嬉しかった。
正直、十数年経った今でも弟子入りしたことに心のどこかでは後ろめたく感じていたのだ。
留雲真君は、可能なら一人でからくりいじりをしていたいというスタンスであることは長い付き合いで分かっている。
だから、僕が弟子入りしてからそんな時間が減ってしまっていたので、非常に申し訳なく思っていた。
もちろんそんな感情はたまーに湧いてくるだけで、いつもは留雲真君とはコミュ症どうし仲良く笑い合って暮らしていたが。
この言葉を聞けて、そんな憂いは僕だけだったのだと思えて一安心だ。
しかも留雲真君は、僕が他の仙人のところに遊びに行ったり、人里で色々やることがあって帰ってこれなくなったりした次の日には、僕を抱きながら眠って「例え大きくなってもお前は妾の弟子だ。そのことを決して忘れるでないぞ…」と僕が確実に眠ったころに細々と伝えるのだ。当然僕はばっちり聞いていた。ガチで萌えたね。
そのときから僕は、留雲真君を更に性的な目で見ている。
人型の姿は赤メガネでおっぱいでかくてパツパツタイツで腰あたりのスリットからムチムチ生足が見えていて、痴女だろ…って思うことが多かった。
でも、最近よく見れば仙鳥形態の留雲真君もエロい気がする。
アイシャドウのような赤い目元の模様。他の野鳥と比べるとムチムチな御御足。そして流れるようなしなやかな羽。よく手入れされているのが分かる。
それに、僕の髪色と体色はほぼ同じである。これ絶対僕のこと好きじゃん…
理水畳山真君や鳴海栖霞真君も同じ鷺の姿をした仙人なのだが、彼らと比べても留雲真君は仙獣の状態で既に女性的な柔らかさをもつ体つきをしている。エッチだねエッチ。
…あれっ、よく考えれば留雲真君って普段全裸で過ごしてるってことだよね。
は?この留雲ドスケベ真君が…こんなの襲われても文句言えないよね。今度襲うわ。
そんな邪な考えを巡らせていると、今度は鳴海栖霞真君が杯を片手に口を開く。
「うーん、ボクも弟子をとってみたいって思うこともあるけど、甘雨ほどボクの考えに共感してくれる子はいないからなぁ。やっぱり、甘雨を弟子にしたいんだけどダメ?」
相変わらず外国かぶれな口調で話す。そんなに僕のこと買ってもらえているのか。とても嬉しいと思いました。
鳴海栖霞真君は探知能力に長けた仙術を使うので、魔神戦争でも偵察部隊の要として役立っているらしい。
もちろん偵察は敵情視察が主な仕事なので、最悪の場合敵に捕まる事もありうる。そうして捕まった後には…どんな恐ろしいことが待っているかは言うまでも無い。
僕は敵に捕まった斥候がどうなるか対●忍で学んだからな、そんな苦痛を知り合いには絶対に味わって欲しくないぞ。
それに鳴海栖霞真君は、空いた時間を見つけてはお宝探しをしてそれを僕のところに自慢しに来る。もちろん僕も綺麗なお宝は見ていて楽しいから一緒にワイワイする。
そして、なんとごくまれに使わなさそうなお宝は譲ってくれることもあるのだ。感覚的には、もう正月のときに顔を合わせてお年玉をめっちゃくれるおじさんのようなもの。
この前なんて、聖遺物?ってやつもくれた。僕は『原神』初心者だったからよく分かっていないが、確か『聖遺物厳選』とかいうのがこのゲームにおいて一番難しいのだとか。
厳選って聞くと、僕が前にやったことのあるポケ●ンでの理想個体厳選を思い出すなぁ。流石にあれほど過酷なものじゃないよね…よね?
ちなみに譲り受けた聖遺物はドラゴンスパインに昔存在したとされている王国の跡から
ドラスパなんて本当にゲームでトラウマになってるから行きたくなかったんだけど、こんなに凄そうなやつが眠ってるなら墓荒らししにいこうかな。ちょうど氷元素を吸い続ける練習にもなるだろうし一石二鳥だ。
だが、こんな戦場でもプライベートでも危なっかしいことをしているようでは正直心配。
本人はベテランだから不覚をとるつもりはないのだろうけど、どんなプロでもやらかすときはやらかすからな。人は慣れてきた頃が一番危ないんだ。
だから、「あまり危ないことはしないでくださいね。こっちは気が気でないのですから」的な意思を伝えると、鳴海栖霞真君は「分かった分かった、ボクも危ないと思ったらすぐ逃げるようにするから」と言って頭を撫でてくれた。いや、これは話聞かずにやられちゃうタイプの発言な気がするぞ。本当に無理はしないでほしい。
「我も甘雨や帰終が話してくれる内容を聞いていると、人間社会のあれこれに興味が湧いた。機会があれば我も門弟をとるやも知れぬ」
ほんの少しだけ口角を上げながらそう言うピンさん。美しいです…
僕と帰終様はときどき帰離集の人間達の道徳や営みについて話し合うことがある。それにピンさんも混じることがあるのだ。
「今年はどれぐらい人口が増えて、幼児死亡率も下がってきてます」とか「個々の力は確かに小さいですが、彼らの集合知は私さえ凌ぐかも知れないです」とか、色々。
そんな話をピンさんも耳を傾けて下さっており、少しずつだが人間に関心を寄せて下さっている。
これまではその辺の野生動物と同じ程度の認識だったようだが、愛玩動物程度には愛着を持ってくださっているのではないだろうか。
人間寄りの思考をもつ僕としても、ピンさんが人間を守るべき存在だと思ってくれたらとても嬉しい。
「…私も甘雨ほど誠実な人間がいたら、面倒を見てやらんこともない」
「ほぅ、理水がそこまで言うようになるとはな。我も才あるものには、
杯を片手に、 理水畳山真君と削月築陽真君も続く。
誠実だなんて、そんな…確かに理水畳山真君と初めて交わした『契約』に従って、今もたまに琥牢山に行って洞天のお掃除と動物たちの保護をすることもある。
でも、約束を守ることなんて社会人なら当然のことだからやってるだけで、そんなに大層な心がけではないのに。大袈裟だなぁ。
あと削月築陽真君には仙術の修行をする上でも大変お世話になった。
卜占術は細かな仙力操作が必要になるので、僕に修行をつけてくれるときには分かりやすく経験を元に指導してくれたのだ。
おまけに性格も仙人の中では快活な方で、僕としても気兼ねなく質問をすることが出来た。もう頭が上がらないぞ。
しかし、そんな皆の発言を聞いて、帰終様も黙ってはいられないようで。
「甘いわね留雲、それに皆も甘雨を弟子にしたいだなんて。私は甘雨と『契約』を交わしているの。つまり私の眷属、誰も私に勝てやしないんだから」
そう言いながら、僕を後ろから抱きしめる。ぶかぶかの萌え袖が僕の顔の前で揺れたと思えば、僕の鼻腔を帰終様の瑠璃百合のような良い匂いが襲った。
あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!゛!゛甘い匂いがする!背中に控えめな、しかし確実に存在を主張しているお胸が当たってる!!
あ、あ、ヤバい、童貞には辛い。横を向くと、童顔の美少女がこちらをニコニコしながら向いている。うっわ、顔ちっちゃ、ほっぺたぷにぷにしてそう。
そんなにっこにこの帰終様に対して、留雲真君がまるでこの世の終わりみたいな顔をしながら告げる。
「な、に……甘雨よ、今の帰終の戯言は誠か」
なんでそんなおそるおそる聞いてくるんですか留雲真君。別に契約したところで僕との関係性が変わるわけでもないでしょうに。
まぁ、契約したのは本当の事だから、一応頷いておく。
すると、留雲真君はあからさまにしょんぼりして、テンションがいつもの二段階ぐらい下がってしまった。
そんな様子を見て、帰終様はますます喜色満面といった感じで皆を勝ち誇ったように見回す。
えっ、なに、契約ってそんなに重要なことなの?僕何も考えずにやってしまったんだけど。
慌てて帰終様の方を見るも、帰終様は絶対僕の困惑が分かっているだろうに、ニコニコ意味深に微笑んだまま答えてはくれなかった。
宴が終わると、今度は帝君と帰終様のお二人に呼び出された。
場所は、帰離原近郊にある瑠璃百合の花畑の隣にある高台。
なんだろ…僕悪いことしたかな…もしかして、途中でお酒を飲んで酔っ払った上、判断力が鈍って留雲真君と理水畳山真君と鳴海栖霞真君の三人を間違えまくった件で怒ってるのかな。
普段は仙力とか匂いとかで判断していたんだけど、あまりに酔いすぎて全員同じに見えていたんだから許して…
指定された場所に着くと帝君と帰終様は既にいらしていたようで、花畑の脇に座りながら寄り添って談笑していた。とは言っても、帰終様が一方的に話しかけていたようだが。
噂によれば、帰終様の方が帝君よりも数千年ぐらい年上らしい。だが、見た目では少女姿の帰終様が圧倒的に若く見えるし落ち着きもない。そんな明らかに正反対なお二人だけど、帝君が帰ってきたときにはいつも一緒にいる。
…やっぱりこの二人ってデキてんのかな。帝君っていっつも寡黙で落ち着いているように見えるが、帰終様と一緒のときは表情と雰囲気が少しだけ柔らかくなっている気がする。
帰終様のマシンガントークにもうっとうしがるような様子が一切見えないし、反応は少ないがしっかり聞いているようだ。
お二人を見ながらそう考えていたが、こちらに気づいた帰終様に手招きされてそばに駆け寄った。
「やっと来てくれたね。ちょうど貴方の話をしていたところなの」
「私の話、ですか?」
ニコニコしながら帰終様は告げる。こんなに嬉しそうな表情をしているから、悪いことを話していたわけじゃないんだろうけど…
「俺との契約を遵守し、璃月の安静を保てているようだな。先ほどの宴の様子も見させてもらった。理水、削月、歌塵…皆、凡人に好意的だ。実に喜ばしい」
「私たちが『魔神戦争』を終わらせたら、いよいよ魔神が力で支配する時代は終わり。これからは、仙人と人間が手を取り合う新時代の幕開けね」
二人は遠くの山河を眺めながらそう告げる。この人たちは、もう未来のことまで考えて行動しているのか。
まるで母が息子を見守るような、穏やかな目つきをしている。
普段は忘れがちだが、この時代において人間など吹けば死ぬような脆く儚いもの。
凡人一人の力は決して強くなく、賢いわけでもない。故に普通は人間なんて軽視されている存在である。
だが、この二人は凡人の可能性を認め、庇護して下さっている。
この二人の眷属となることが出来たことを、改めて幸運に思えた。
もしもこの二人の障害となるような相手が現れたときには、仮に『最強の魔神』が相手であろうと戦い、璃月の命の幸福とお二人の崇高な精神を守ろう。
そう僕は密かに決意した。