「じっと見つめてどうした、甘雨。妾の顔に何か付いているのか?」
僕の目の前で、成人男性よりも巨大な青と白の毛並みをもつ
一般人が見たら卒倒しそうな光景だが、僕も生まれ変わってからのこの数年で見慣れてしまった。
いきなりだが、どうやら僕は『原神』の世界に転生したっぽい。家の近くで氷スライムっぽい魔物に襲われたときに確信した。ゲームだとなんともない雑魚なのに、今はガチで怖かった。知らんおっさんが助けてくれるまで恐怖で動けなかったわ。
この世界には魔物を始めとした摩訶不思議な存在がおり、特にこの帰離原周辺では仙人や魔神といったド●ゴンボールにいそうな上位存在がいる。これも、僕が『原神』だと確信した理由の一つである。
一家に一台みたいな感覚でそこら中にいるパンダっぽい謎生物も、実は『竈神マルコシアス』って魔神の一人らしい。でもゲームで見たことあるような気がするんだよなぁ。誰かが元素スキルで呼び出してたような…?
僕がこれまでに見た
南の方の海をテリトリーとする『渦の魔神』や、南西の方にはこの辺りで最強と呼ばれてる璃沙郊の魔神もいるらしい。
『渦の魔神』は原神のストーリーで見たから知ってるけど、最強の魔神って誰だよ。最強はモラクスじゃないのか。鐘離先生好きな身としては少し残念。
あと『塵の魔神』やら『塩の魔神』ってのもいる。魔神多過ぎ問題。
でも『塩の魔神』は少し前に殺されちゃったって聞くし、この魔神戦争を生き残ってる時点で『塵の魔神』って魔神も相当強いんだろうなぁ。
帰離原を納めているのが『塵の魔神』とは耳にするんだけど、これで「敵は全て塵にしてやる」的な思想を抱えていたらどうしよ。僕絶対戦争行きたくないでござる。
ちなみに僕が初めて目覚めたときにいた水色毛玉神獣は僕の母親で、しかも仙獣。
母が人間と恋に落ちた結果、それらのハーフである僕が生まれた。そしてこの
…いや、何でだよ!確かに僕は「嗚呼、甘雨ちゃんと一心同体(意味深)になりたいなぁ~」なんてほざいたことがあったけど、甘雨ちゃんそのものになりたかった訳じゃねぇよ!
えっ、これ大丈夫か?僕が憑依しちゃったことで甘雨ちゃんの人格が代わりにどっかいっちゃったりしてない?そんなことになってたら僕凄く嫌なんだけど!
中身が僕なんて誰得だよ、せっかく震天動地かつ空前絶後の美少女だってのに台無しじゃないか。
性格が伴わない甘雨ちゃんなんて、お肉が入ってないカレーみたいなものじゃん。
うわぁー萎えるねこれは。今からでも中身甘雨ちゃんに戻してくれない?僕はその辺の石ころになっても構わないからさ。
甘雨ちゃんの性格の良さ語ったらワンチャン変わらないかな。まず甘雨ちゃんは基本穏やかで可愛くてほわほわしてて可愛くて争いを好まない性格してるんだけど、厄介事を対処しないといけないときには苛烈な一面を見せることもあるんだよね。特に格好いいのは魔神任務間章でオセルの妻である魔神と戦うことになるんだけど、そのムービーでは甘雨ちゃんは…
「……甘雨!甘雨!聞いておるのか?考え込み始めたと思ったら急に顔をほころばせて、一体どうしたのだ..」
今は幼女である僕に目線を合わせるため首を下げつつ、留雲借風真君は心配そうに告げる。
いけないいけない、現状を嘆いたところでどうにも出来ないし、今僕が変なことをやらかしたら甘雨ちゃんがやらかしたことと同じになってしまうんだ。
万が一にも僕の無礼な行いで目の前の仙人サマを怒らせ、甘雨ちゃんの評価を下げようものなら、それこそ向ける顔がなくなってしまう。
性格も似つかぬ僕には少々難しいかも知れないが、せめて人前では最低限甘雨ちゃんらしい行動をとるようにしよう。
「も、申し訳ありません留雲借風真君。少々考え事をしていました..」
「妾のことは留雲でよい。しかし、ふむ…多少ぼんやりしているところもお前の母親に似ているな。だが、数年ぶりに連絡が来たと思えば、まさか子守を頼まれようとはな」
「あ、では留雲真君、もしかして母は何もお伝えしていなかったのでしょうか?」
確かに今の僕の母は、多少…というレベルで済まされないほど天然である。
以前、人間の姿になって外に出かけようとしたとき、全裸で出かけようとしたほどだ。しかも、甘雨ちゃんの母親となればその美貌は絶大。僕が全力で引き留めなければ、一瞬でグヘヘな展開に陥っていたことだろう。
そんな母は数年かけてある程度の言葉と地理などの常識を教えてくれた後、もっと詳しく仙術の使い方などを学ばせるために古い友人の元に弟子入りさせると言いだしたのだ。
僕は普通に焦った。僕自身人見知りなのもあるし、何より4歳にも満たない我が子をこうも簡単に離れさせちゃうのかと。
しかし、どうやら仙人の感覚だとそれが普通らしい。麒麟という種族は長命で、なにより体がタフ。よっぽどのことが無ければ生きていけるし、いつでも再会できる。
だが、この留雲真君の言い様からして、母は前々から伝えていたわけではないようだ。困惑した様子だし、ついて行っても大丈夫なのかな。
「すみません...ご迷惑でしたでしょうか...?」
「いや待て、軽率に子供が頭を下げるでない。妾はそこまで器の小さいやつではないぞ」
留雲真君はその翼で僕の頭を撫で、慈愛を感じさせる口調で告げた。
ふわふわの羽毛で角を撫でられる感覚、めっちゃ気持ちいい。前に母にも撫でられたことがあるが、この心地よさは何物にも代えがたい。
「それにな、旧友の子を預けられて嫌だと思うわけないだろう?しかし、妾の修行は厳しいからな」
あっ、撫でられるの終わっちゃった。できればもっとしてほしかったのに。ちょっと残念。
…僕、精神まで幼くなってない?しっかりしろ、一般成人男性であったことを忘れるな。
てかこの人?鳥?めちゃくちゃ優しいな。ものすごい人格者じゃん。好きです。
声といい撫で具合といい、とてもママみを感じる。こんな人に弟子入りしたら、思いっきり甘やかしてくれそう。
「は、はい!不肖、この甘雨、貴方に弟子入りさせて下さい!」
「して甘雨よ、お前は今の場所がおおよそどのあたりか理解できるか?」
「はい、留雲真君。今は帰離原の町から少し西に向かったところだと思います。もしかして、これから絶雲の間に向かうのでしょうか?」
帰離原の町はそこそこ規模のある町で、ここ周辺じゃ一番栄えている場所でもある。
前に数回立ち寄ったことがあるが、道行く人は皆希望に満ちた表情をしていて印象深かった。
魔神戦争なんて物騒なことが起きてる世の中なのにそんな表情が出来るとは、『塵の魔神』の施政が十分に行き届いているのかもしれない。
いやぁ凄いわ。頭も良くて武力もあるのかな。僕とは大違いだ。
ちなみに僕と母は帰離原から更に東の、ドラゴンスパインの麓で暮らしていた。
しかもボロのあばら屋でびゅーびゅー風が吹き込むものだから、父親は何をしているんだと憤ったものだ。
しかし、これを口にしたときマッマが少し悲しそうな顔をしたので、聡明な僕はこれ以上聞かなかった。
まあジャ●プ主人公だって大体父親いないしな、これぐらいハンデよハンデ。
そして僕たちが向かう先にあるのはおそらく絶雲の間。世間では仙人が住むと言われている場所だ。
通常、ここに足を踏み入れようとする者は少ない。しかし、鉱石を採掘し生計を立てるようとする者、仙人に会おうとする者、罪を犯し隠れ蓑とする者などがごくまれに侵入する。
そうした者たちは悉く戻ってくることが無いため、恐ろしい場所なんだろうなぁ~ぐらいの認識でいた。
まさか自分が足を踏み入れることになるとは、夢にも思わなかっただろう。
「うむ、その通りだ。妾の洞天は絶雲の間の更に奥、奥蔵山の山頂にある」
あぁ~、何かそんなだった気がする。璃月の魔神任務で訪ねたんじゃなかったっけ。ゲームでは分からん名前が沢山出てきたからあまり覚えきれんかった。
あと洞天ってのは仙人の家のことだ。つまりは、「今から妾の家に行くぞ」って意味。…奥蔵山なんてかなり離れてるし、もしかしたら師匠の背中に乗せてってもらえるとかないかな?
アニメとかでよくある巨大生物にのって空を飛んだり地を駆けたりするやつ、密かに憧れてたんだよなぁ。別ゲーだとモ●ハンとかA●Kとか。
僕ぐらいなら背中に乗れそうだし、それにこんな優しい留雲真君がものすごい距離を歩かせるはずなんてn...
「甘雨よ、お前には妾の洞天まで一人でたどり着いてもらう」