呪いが新たな祈りを導く『君のための物語』 作:夜なべ
秋谷真紘:特級術師。ビジュアルはマイソロ2OPアニメのあたま。前世はグラニデのディセンダー。術式:【
リハビリ執筆
秋谷真紘は、物心ついた頃から──いや、それこそ『この世界の人間』として生まれ落ちた時には、『今の自分』が『前世の自分』と地続きの存在であることを自覚していた。
それは備わっていた『術式』に由来するものか、それとも『魂』自体に特性があったのか。しかしそれは真紘にとっては、さしたる問題ではなかった。
【
『前世の自分』は、『グラニデ』という世界の『世界樹』から生み出された人ならざるものであり、その世界の危機を救うための存在だった。
だから、真紘はこの世界に澱んでいる気配の正体を、早々に悟っていた。
それは『負の想念』と前世で呼ばれていたものと同質であり、またそれによって生み出される怪物は、前世の『魔物』とよく似ている、と。
つまりは、この世界における『呪力』と『呪霊』の存在を、そのように理解した。
ただし、『呪霊』に関して、『見える』者とそうではない者とに別れるのは、真紘には少し新鮮だった。
自らの『前世』の世界、そして『術式』もしくは『魂』に紐づけられた、
また、それを打ち倒す──後からその行いを『祓う』と呼ぶのだと知った──ことのできる者が、この世界では限られているのだということも。
だとすれば、なおさらだ、と、真紘は当然のように、それを『祓う』者──『呪術師』になることを決意し、受け入れた。
その日、九十九由基は、バイクに乗って風を受けながら、東京都立呪術高専専門学校への道を辿っていた。
目的は秋谷真紘。九十九や五条と同じ、特級術師の1人。もちろん初対面である。
この時間、彼は呪具の作成や強化のために、高専敷地内の端に作られた、自らの『工房』に籠っていると調べはついている(呪具作成や強化まで出来る彼の『術式』の天井とは一体、と考えてはいるものの答えは出ていない)。
世界の均衡を変えたと言われる五条悟の誕生と同じ年に、その存在──秋谷真紘は、隠れるように、しかし確かに光を纏ってこの世界に
それは五条悟誕生の衝撃の余韻も未だ強く残る中であったから、大多数から見落とされるのも無理はなかったが、現代の呪術界の根幹を成す『天元』と──同一存在とされる『星漿体』には、何故かはっきりと感知できるものだった。
その光は、この呪いばかりが廻る世界で、他の何より眩く、そして彼女らの心をあたためた。天元ですら、忘れ去っていたに等しい涙を溢したという。
しかし、因果で結ばれてはいないはずだ、と彼女らは考えた。
天元や星漿体と因果で結ばれるのは『六眼』のみ。
だとしたら彼の存在が、こんなにもはっきりと自らの中に根付いているのは、もっと根源的な────つらつらと、散々考えたことを改めて思い返しているうちに、高専の敷地内に入っていた。近くに見えるのが、彼の『工房』。
すると、タイミングが良いというのか、そうなる巡り合わせか。秋谷真紘本人がちょうど工房の出入口から姿を現し、こちらに気づく。
「──あれ、こんにちは。術師の方、ですよね? こちらには俺の工房しかなくて……校舎はあちらの──」
ああ参った、と九十九は内心白旗をあげた。
九十九由基はただ、彼・秋谷真紘に対し、問答無用の好印象しか抱かなかった。
彼は『光』を纏っていた。これが、きっと天元や星漿体に感知できたそれの正体。
そして、
「──君が、秋谷真紘くんだね。私は九十九由基、きみと同じ特級術師だ。話の前に、ひとつ聞いておきたいな。
どんな女が
彼は虚をつかれたように目を瞬かせた後、穏やかに目を細めてただ一言、
「『カノンノ』」
と答えた。九十九は我慢できず、声をあげて思い切り笑った。その人物が誰かは理解できずとも、彼が深くその人物を愛しているのは分かる。
彼はとても普遍的だった。栗色の髪と瞳をして、整った、精悍な顔つきの青年だった。
それでいて、まるで御伽話の勇者のような、闇を切り拓く力を持った『主人公』だと思った。
◇◆◇
「ああ、俺の『光』が見えていらっしゃるんですね。……となると、星漿体の方かな。
『六眼』持ちの悟……五条悟にも見えているそうですが、その時に言われました。この光が見える人はとても限られるだろう、と。
あとは高専に入学した時に、担任の先生に『天元様に【光まとう者】と呼ばれていた』と聞いたので……消去法でそうなるかな、と」
「なるほどね、これはまたも一本取られたかな。
……しかしこの工房、給湯室に応接スペースまであるの、何を目指してるんだい? お茶まで美味しいし」
「ああいや、呪具作成の依頼が来るので打ち合わせ等に使えるし、やっぱりあると便利で」
工房内に通された九十九はまず、ある程度の結界が張られており万が一の備えにも余念がないことに舌を巻いた。
中には様々な工具や設備、素材が並び、完成品は鍵のかかる棚に整理してしまわれている。
ご覧になりますかと問われて、興味本位でナイフを一振り手に取ると、呪力から読み取れたその効果のほどに、思わず顔が引き攣った。
「……詠唱時間短縮、消費
真紘の術式で作成された呪具における『詠唱時間短縮』は、本来、呪詞を詠唱して威力を底上げする呪術において、その
が、それを可能にするあたり、やはりまだまだ真紘の術式は底が知れない、と九十九は再確認する。
「俺の術式だったら、としか説明できないのですが……そのあたりは少し複雑なので、また次の機会に。そろそろ、本題を聞かせてくださいますか」
「おっと。興味深かったもので、つい。
──単刀直入に言うと、私はね、『呪霊の生まれない世界』を作りたいんだ。その研究に協力してほしい」
そして九十九はその研究に対するアプローチを解説した。
①全人類から呪力を無くすこと、②全人類に呪力のコントロールを可能にさせること、の2案。
主に①の『呪力からの脱却』をメインプランとしており、『天与呪縛のフィジカルギフテッド』のモデルケースもいたが協力を断られてしまったということ。
そして、この研究の行き詰まりを解消すべく、新たに特級術師として登録された真紘に協力してほしいということ。
真紘は驚いた様子もなく、最後まで九十九の話に耳を傾けて、なるほど、と頷いた。
「驚かないんだね?」
「ああいえ、まあ、実は俺も似たようなことを考えていて……研究にはもちろん協力させていただきますが……そうだな、なんと言えばいいのか」
真紘は少し眉を下げた後、俺の考えにはなるのですが、と前置いて、ゆっくりと、しかしはっきりと語り始めた。
『呪力』とは人間の『負の感情』(真紘はこれを『負の想念』と呼んだ)から出来ているもので、これを無くすということは、『天与呪縛』の例外を除き、人間から感情を無くすことと同義であり、それはさすがに無理がすぎるのではないか、ということ。
かといって、全人類に呪力のコントロールを可能にさせることも、現時点では
ここまでは当然、九十九も想定していた懸念事項であり、だからこそ行き詰まりを感じている部分であった。
しかし真紘は表情を柔らかくして、ですから、と微笑んだ。
「俺は第3の選択肢を提示したいと思います。
あなたには荒唐無稽な話に聞こえるかもしれませんが、これは俺の術式の開示にも当たることで、モデルケースとしては……前段階ではありますが、既に検証が出来ていると考えます」
だって俺がいつもやっていることですからね、と真紘は至極簡単そうに、その方法を述べる。
「呪力の変質────この世界の全ての生物から漏出した『負の想念』を、無害かつ有益な別のもの──俺はこれを『マナ』と呼んでいますが──に作り替える。
これは、俺の術式【
九十九は息を呑んだ。そして思わず立ち上がる。
「それは、しかし、いや、そんなことが可能なら──では君の術式は──それならあの呪具は──ああもう、訊ねたいことがありすぎる!」
真紘は穏やかに微笑んだまま、手の届く範囲に立てかけてあった『杖』を取って実践してみせた。
「そもそもこの世界の
瞬間的に呪力が巡ったかと思えば、真紘の足元に一瞬『陣』らしきものが出現し、彼が合わせて『デルタレイ』と唱えたときには呪力の反応が消失していた。
しかしそれによって放たれたごく微弱な光弾は、室内の結界に当たって阻まれるまで消失しなかった。
「術──この呼び方だとややこしいな、便宜上『魔術』と呼びますが──この魔術のエネルギー源が『マナ』です。性質としては『正の呪力』に似ていますね。ですが、マナは生命を育みこそすれ、呪霊を生み出す力ではない。それは今まで扱ってきた俺が知っています。
なんなら、これまでの任務の場所を調べて、残穢だとか、痕跡を調べてくれてもいい。
そして、世界の呪力全てがマナへと変化することができれば──『負の想念』の漏出が無くならなくても、『呪霊が生まれない』ことは可能になると思いませんか」
九十九は高専の記録から調べた、真紘の任務遍歴を思い出す。
どれほどの呪霊の群れに襲われても、初めて見るであろう等級の呪霊を相手にしても、手間取ることなく遂行できていたのは、センスや実力だけでない、その術式の特性からくるもの。
まさに『呪い特効』の術式──!
「し……しかし、その術式があったとして、どうやって呪霊のいない世界を──」
はた、と言葉が途切れる。真紘がこちらを見つめているのに気づき、そしてその先の考えに見当がついたからだ。
「──なるほど、私と……そして天元の力が必要なんだね」
「そうです。俺はまだ『呪術師』になってから日が浅く、この研究を進める『星漿体』の九十九さん、そしてこの日本全土を覆う結界を担う天元様にご協力いただかなければ、到底影響を及ぼすことはできません」
彼はこの世界を覆う
現状、呪術界の基盤を作ったのは天元で、何を行うにも天元の能力が必要不可欠。
『呪霊の生まれない世界』という新たな理を作用させるには、どう考えても、まずは天元の能力による結界を利用しなくてはならない。
それでも、希望は今、ここにはっきりと示された。
「──わかった。交渉は成立だ。君のおかげでゴールは見えた。あとはその道筋をつけるだけだ」
九十九は手を差し出す。真紘も迷いなくその手を握った。
「ところで、それってああいう呪具が作成できることの説明にはなってないよね?」
「あー、まあ……関係なくもないんですけど。これは本当に俺の術式の根本のところで、正直俺もそれが何故できるのかは……昔できたから、としか言いようがなくて……」
「ふうん……? まあ、今は置いておこうか。いずれ教えてもらうからね」
「うう〜ん……」
◇◆◇
まだ調べたいことも、詳細を詰めたい研究もある、ということで、連絡先を交換し、高専を出ていく九十九を見送る。
見る間に遠くなっていく背中を眺めながら、それにしても、とぼんやり思い返す。
グラニデでは、自分の『光』を視認できたのは、『精霊』と世界樹を奉じる神官たる『神子』、それと様々な世界を見てきた、身体を持たぬ不死の存在・ニアタのみだった。
天元様と星漿体、そして『六眼』は、きっとそのポジションに当たるのだろう、と見当をつける。
また似通ったところを見つけられたな、とどこか郷愁に似た気持ちを抱えて、真紘はそっと心臓の位置に手を当てる。
「大丈夫。カノンノ、ゲーデ、ニアタ、俺のグラニデ──そして俺に知識をくれた
故郷と仲間たちに誓って。生まれた意味は、もうとっくに知っているのだから。
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いのまたむつみ先生、素敵なキャラクターたちをありがとうございました