疲れめクズ野郎のラプチャースローライフ、俺は指揮官辞めて自由に生きる!!!追放(死亡)された後に後悔してももう遅い 作:雨野坂
本日も、つまらない戦場荒らしだ。
死ぬのはゴメンだから、他人が倒したラプチャーの残骸やパーツを拾って売る。つまり、バルチャー行為というわけだ。皆から嫌われている卑怯者には、相応しい仕事なのだろう。
部隊のニケたちからは、もはやゴミを見るような目でしか見られていない。自分に危機が迫ったとしても、ドサクサに紛れて見殺しにされるんじゃないか。そんな気さえしてくる。
しかし、初陣の頃は、ラプチャーを根絶するために意気揚々と頑張っていたのだ。それが、一度死にかけただけで、そんな気持ちはボロボロに崩れ去った。残ったのは、腐りきった汚物のような自分だけだ。
ニケが人間に対して攻撃できないことは知っている。だが、直接危害を加えられないだけで、やり方ならいくらでもあるだろう。
つまり、ニケに見殺しにされるか、食い扶持を失って死ぬか。そのどちらかというわけだ。
落ちぶれた人間は、どこまでも堕ちていく。
ああ、やっと戦場跡に着いた。
一足先に戦闘が終わったらしく、あちこちに残骸が転がっている。
ニケの腕と思しきものまで落ちていて、吐き気がしてきた。もう家に帰りたくなってきたが、ここで引き返したところで、何をしに来たのか分からなくなる。
最初のうちは、自分で拾っていた。しかし、部品はとにかく重い。稼ごうと思えば、人間の力では到底足りず、ニケに運んでもらうしかなくなる。
仲間のパーツを拾わせた挙げ句、それを売り払うのだ。恨まれ、軽蔑されて当然だろう。
細々としたものまで拾っていると、ラプチャーとばったり出くわす危険がある。だから、価値がありそうなものを見つけたら、すぐにその場を離れることにしている。
俺にとって、部隊のニケたちも大事な道具だ。
彼女たちは納得などしていないだろう。それでも、この行為に慣れてしまっている。つまり、代えの利かない道具というわけだ。
パーツ拾いはグレーな行為である。
有事の際なら仕方がないと思うが、そうでもないときに意図的に繰り返しているとなれば、上から制裁を受けることになるだろう。
だから毎回、適当にラプチャー殲滅任務を受けては、うまく誤魔化している。しかし、そろそろ処罰されてもおかしくないところまで来てしまったのかもしれない。
まあ、どうせパーツ拾いをしなければ死ぬんだから、同じことだよな。
とにかく、行きつけのジャンク屋でパーツを売り捌こう。
正直、アウターリムにはあまり近寄りたくない場所だ。
俺のように心の弱い人間は、社会のあぶれ者の中でも、さらに居場所を失っていく。
今日はやたらと足元を見られたな。
たったの一〇〇〇クレジットか。さすがにこれでは、生活費すら危ういかもしれない。
どうしたらいいんだ。
今日はもう、何もする気が起きない。
こんなことになったのも、指揮官なんぞを目指した俺が悪いのだ。
気分がどんどん落ち込んでいく。
慰めてくれる者もいない。誰もが俺とは遠い世界にいる人間のように思えてくる。
俺は、この世界でひとりぼっちだ。
多少なりとも裕福な家に生まれていれば、ひとりぼっちだったとしても、少しくらいは希望を持てたのだろうか。
密集型住居にある、三メートルほどしかない自分の部屋。そのベッドに潜り込む。
死にたい。だが、死にたくもない。
それでも、明日もまた同じ一日が始まる。
気が狂いそうだ。
こんなことになるくらいなら、俺はラプチャーになりたい。
少なくとも、人間でいるよりは自由に生きられるだろう。
その夜、俺は奇妙な夢を見た。
ついに俺が戦場でラプチャーに殺される夢だった。
しかし、その後が妙だった。
自分の死体が、第三者の視点から見えているのだ。
なぜ、自分の死体を自分で見ることができるのか。まったく理解できなかった。
悪夢のせいだろうか。目を覚ますと、全身が汗でびっしょりと濡れていた。
それでも、夢の内容はある程度覚えていた。恐怖を感じながらも、稼ぐために戦場へと向かう。
今日も、ニケとラプチャーの戦闘跡を探していた。
しかし、運悪くラプチャーの集団に捕捉されてしまった。
ニケたちにはジャンク品の運搬をさせるため、武装は必要最低限にとどめていた。そもそも、ラプチャーとは極力出会わないように立ち回ってきたのだ。
だが、どうやら先ほどまで戦闘を行っていた部隊は壊滅してしまったらしい。万全の状態を保ったラプチャーの集団だけが、その場に残されていた。
内心では、もう終わったと思った。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。
とりあえず、ニケに俺を守らせようと考えた。しかし、見殺しにされる可能性も十分にある。
そう判断した俺は、真っ先に後方へと走り出した。
だが、どうやら幸運の女神は俺に微笑んでくれなかったらしい。
前方の瓦礫の陰から、小型のラプチャーが飛び出してきた。
鉤爪のように尖った前足が、俺の胸元へと振り下ろされる。
「ぐっ……ごふっ!」
声にならない声が漏れ、口から血が溢れた。
こうなってしまっては、もう助からないだろう。
クソみたいな俺の人生も、ここで終わりか。
ようやく終わるのか。
死にたくねぇ。死にたくねぇ。
そんなことを思いながら、コソコソと慎重に立ち回ってきたというのに、最後がこれだ。笑えてくる。
来世では、世界が今よりも平和になっているといいな。
そう願ったところで、俺の思考は途切れた。
機械音が頭の中に響き渡る。
……なんだ。俺は死んだんじゃなかったのか?
最底辺の信頼感しかなかったニケたちが、俺をメディカルセンターにでも連れて行ってくれたのだろうか。
それにしても、機械音がうるさい。
まるで、地響きのような音が自分の身体の内側から響いているみたいだ。
うるさすぎる。
うるせぇ。
そう思いながら目を開けると、そこにはメディカルセンターなどなかった。
代わりに目に入ったのは、荒野に放り出された誰かの死体だった。
……いや、身に着けている装備から察するに、俺の死体か?
なぜ俺の身体が、あそこに転がっているんだ。
また夢を見ているのか。それとも、極度の恐怖で正気を失ってしまったのか。
何が起きているのか、まったく分からない。
とりあえず、身体を動かそうとしてみた。
すると、機械的な駆動音とともに、身体が動いた。
……これは、一体?
手頃な場所に、鏡代わりになりそうなジャンク品が転がっていた。
俺はそれを覗き込んだ。
そこに映っていたのは、なんとも奇怪な化け物だった。
「うわっ!」
驚いて後ずさると、鏡の中の化け物も後ずさった。
……理解したくはないが、これが今の俺の姿らしい。
なぜかは分からない。
ただ、ラプチャーの身体に、俺の頭がくっついている。
正直、死ぬ間際に見ている悪夢なのだと思いたかった。
しかし、顔にサラサラとまとわりつく粉塵の感触が、あまりにも生々しい。
俺は、本当に生きているのだ。
これからどうするべきなのか、何も分からない。
ただ、一つだけ分かることがある。
俺は、ラプチャーでも人間でもない化け物になってしまった。
たぶん、もうどちらの側にも戻れない。
……ああ、どうしようもないな。
とりあえず、近くにある窪みに身を隠すことにした。
ラプチャーでもない俺がラプチャーに見つかったら、八つ裂きにされるかもしれない。それどころか、貴重なサンプルとして実験の対象にされる可能性だってある。
……まあ、でも。
よく考えてみれば、案外この状況も悪くないのかもしれない。
アークにいた頃だって、うだつの上がらない指揮官だった。金銭的な自由もなかったし、何より、他人から蔑まれる視線が痛かった。
だが、ここなら誰にも邪魔されずに生きていける。
そうだ。
それが嬉しいんだ。
そう思うと、胸の奥がスーッと軽くなり、妙に心地よい気分になってきた。
……まあ、まずは住む場所を探さないとな。