疲れめクズ野郎のラプチャースローライフ、俺は指揮官辞めて自由に生きる!!!追放(死亡)された後に後悔してももう遅い 作:雨野坂
家の周りに煉瓦を乱雑に積み上げた俺たちは、その後、少しばかり探索に出ていた。
もちろん、強力なラプチャーや人間に見つからないよう、物陰に隠れながらひっそりと行動している。
この一帯はラプチャーの侵攻によって、住人たちが早々に放棄した場所らしい。瓦礫の下には、当時の暮らしを思わせる物が大量に残されていた。
もっとも、長い年月が経っているせいで、今も残っているのは腐食しにくい素材でできた物ばかりだが。
ちなみに、ここは先ほどまで煉瓦などを集めていた場所から、約一キロほど離れた住宅地である。
さて、こっちには何があるかな。
そんなことを考えながら、周囲を探索していく。
彼は俺の隣を、何も喋らずについてきてくれていた。
互いの意思を伝えるのが難しい俺たちにとって、何も言わずとも一緒に行動してくれるというのは、実にありがたいことだった。
……そういえば、人間だった頃の俺も、あまり人と会話が続く方ではなかったな。
自分の考えを周囲に伝えること自体は、それほど難しくない。
問題は、それを相手が理解してくれるかどうかだ。
そもそも、俺は人間であり、ラプチャーでもある。
一方、彼は人間だった記憶を失い、ラプチャーとなった存在だ。
生きる環境や、自分が属するものによって、人間の思考は少なからず影響を受ける。
たとえ微々たる変化であっても、それは毒のように少しずつ内側へ染み込んでいく。
現に俺も、ラプチャーの体の動かし方に慣れ、彼と一緒に行動することにも、いつの間にか疑問を抱かなくなっていた。
つまり、俺は今も変化の途中にいるということだ。
では、彼はどうなのだろうか。
彼も元は人間だった。しかし、ラプチャーになる際に記憶を失っている。
言ってしまえば、その時点で一度リセットされたようなものだ。
彼にとっての変化は、俺のように少しずつ進むものではなく、一瞬で起きたのかもしれない。
変わり続ける思考と、すでに定まった思考。
たとえ互いに影響を与え合っていたとしても、そこには価値観の違いがある。
そして、その違いが摩擦を生み、取り返しのつかない事態を招く可能性もある。
だからこそ、急激に何かを変えようとするのではなく、今の状態を維持しながら、少しずつ前へ進むのがいいのだと思う。
何事も、失敗から学ぶのが一番だ。
……とはいえ、失敗すれば命を落としかねないこの世界では、その考え方もあまりに危うい。
できることなら、失敗する前に学びたいものだ。
……別に、彼と喋らずに済むことへの言い訳じゃないぞ。
そんなことは思っていない。本当に。
……本当だからな。
そんなふうに自分の考えを巡らせていた、そのときだった。
何かの音が聞こえた。
俺と彼は、びくりと体を震わせた。
音の正体はわからない。俺たちは反射的に近くの物陰へと身を隠した。
息を潜めて耳を澄ませる。
……泣き声?
かすかに聞こえてくるのは、人間が泣いているような声だった。
なぜ、こんな場所に人間がいる?
俺は、目の前の状況をにわかには信じられなかった。
彼も音の正体に気づいたようだ。
だが、音のする方へ向かおうとはしない。むしろ、ここから離れた方がいいと俺に伝えようとしているように見えた。
確かに、その判断は正しい。
もし相手が人間ではなく、ニケだったら?
あるいは、ラプチャー側についたニケ――ヘレティックだったら?
俺たちなど、あっという間に地上の塵にされてしまうだろう。
それでも、音の正体を確かめずに帰るのは、どうにも落ち着かなかった。
何より、あの泣き声が聞こえた場所は、俺たちの家からそう遠くない。
正体のわからない何かが近くにいると知りながら、何もせずに暮らし続けるのは不気味だった。
俺は彼に向かって、音の正体を確かめに行く、と身振りで伝えた。
彼はしばらく俺を見つめていたが、やがて、仕方がないな、とでも言いたげな様子で応じてくれた。
……本当に、付き合わせて悪いな。
音は、ここから右手にある廃墟の辺りから聞こえてくる。
俺たちは警戒を怠らず、ゆっくりとその建物へ近づいた。
そして、意を決して中を覗き込む。
そこにいたのは――
手足を失ったニケが、一人、床に横たわっていた。