疲れめクズ野郎のラプチャースローライフ、俺は指揮官辞めて自由に生きる!!!追放(死亡)された後に後悔してももう遅い 作:雨野坂
ニケかと思ったが……人間なのか?
廃墟のそばに倒れているのは、人間のように見えた。しかし、四肢がない。
非合法な処置を受けた債務者だろうか?
俺たちは、今にも命が尽きそうなその姿に脅威を感じなかった。とはいえ、警戒を緩めるわけにもいかず、慎重に近づいていく。
そして、目の前まで来て、ようやく正体が分かった。
やはり、ニケだった。
おそらく、どこにでもいる量産型のニケだろう。
ただ、センサーが故障しているのか、俺たちが近づいても気づいていないようだった。
俺は彼女の肩を、前腕で軽く小突いた。
「……そこに誰かいるのですか?」
ニケが反応した。
さて、どう返事をしたものか。
俺たちの正体がラプチャーだと知られるのは、絶対に避けたい。そのうえで、この場所で何が起こったのか情報を引き出せれば上々だ。
「意識はあるのか。俺は別の任務でここを訪れている者だ。お前は、なぜそんな状態になっている?」
……久しぶりに人間と話したせいか、うまく言葉が出てこない。
そもそも、今の俺の声が相手にどう聞こえているのかも分からない。ちゃんと意思は伝わっているのだろうか。
「指揮官様でございますか!? 私は助かったのでしょうか? お願いです、私を助けてください!!」
どうやら、かなり錯乱しているらしい。
これでは情報を聞き出すどころではない。まずは落ち着かせなければ。
「待て、落ち着け。そんなに騒ぐとラプチャーが寄ってくるぞ」
「落ち着くことなんてできません!! まだこの近辺に、あの大型ラプチャーがいるはずです! 早くここを離れないと!!」
……なるほど。ラプチャーに襲撃されたというわけか。
大型となると、タイラント級のラプチャーだろうか。
だとすれば、この辺り一帯がそいつの縄張りになっている可能性もある。
ううむ、面倒なことになった。
今は姿が見えないものの、いつ戻ってくるか分からない。しかも、家からさほど離れていないこの場所で、ニケとラプチャーが戦闘を始めれば、俺たちまで危険にさらされる。
……しかし、妙だな。
ラプチャーに襲われたというのに、なぜこいつは四肢を失い、目まで潰されているのだろうか?
俺は改めて、目の前のニケを観察した。
どうにも腑に落ちない。
「今のところ、ここは安全そうだ。だから、あまり大声を出すな」
俺は一度言葉を切り、彼女の反応をうかがった。
「……それとも、自分から死にたいのか? そういうことなら、俺たちはここを離れる。そうされたくなければ、ここで何があったのか、速やかに話せ」
脅しが効いたのか、ニケの声が急に小さくなった。
「あなたに見捨てられたら、私は死ぬしかありません……。ここで起きたことは、すべてお話しします。ですから、どうか助けてください……」
よし。ようやく話ができそうだ。
「私たちは、小型ラプチャーの群れを討伐するために、ここへ来ていました」
ニケは震える声で語り始めた。
「ですが、途中から次第に様子がおかしくなっていったのです。そして、ラプチャーたちが一斉にコーリングシグナルを発した、そのときでした。空から巨大なラプチャーが現れたのです」
「私たちの指揮官は……その状況で生き延びるために、ニケの一体を囮にすることを決めました」
彼女は一瞬、言葉を詰まらせた。
「……それが、私です」
「ですが、あのラプチャーは私には目もくれませんでした。その一方で、指揮官と、残ったニケたちは殺されてしまったのです」
……囮にされた、か。
卑怯なことを考える人間もいるものだ。
まあ、俺も人のことは言えないけどな。
しかし、話が本当なら、妙なことがある。
なぜ、こいつはラプチャーに襲われなかったのだろう?
改めて見ても、ごく普通の量産型ニケにしか見えない。これといって変わったところもない。
……そういえば、彼はどうしている?
俺は隣にいるはずの相棒へ視線を向けた。
彼は特にニケを気にかける様子もなく、ただ俺たちの会話を見守っていた。
何の反応もない。
もちろん、彼がニケに対して特別な温情を持っているわけではないだろう。
だとすれば……これは?
何か引っかかるものを感じたが、今はまだ答えが出ない。
ひとまず、話を先に進めることにした。
「つまり、お前は仲間たちに見捨てられたんだな」
「……はい。そういうことになります」
「お前を連れていってやってもいい。ただし、条件がある」
「条件、ですか?」
「ああ。一つ目、俺たちのことを詮索するな。二つ目、自分でできることは、できるだけ自分でやれ」
「そうはおっしゃいましても……私は四肢を失っているのですが」
「四肢なら、あそこに転がっているお前の仲間たちの物があるだろう」
「なっ……仲間たちのパーツを使うのですか?」
「なんだ、嫌なのか? それなら、俺たちはこのまま立ち去るが」
「いえ、パーツを装着すること自体が嫌なわけではありません。ただ……自分を裏切った者たちと一つになるようで、どうしても嫌悪感が……」
「そうか」
俺は短く答えた。
「だが、嫌悪感があろうとなかろうと、装着してもらうぞ。今の状態では、足手まといにしかならないからな」
「…………分かりました。装着します」
「よし。パーツを持ってくる」
さて、散らばっているパーツを回収するとしよう。
周囲を確認してみると、破損したニケの残骸がいくつも転がっていた。どうやら、ここには三体のニケがいたらしい。
しかし、使えそうなパーツは思いのほか少なかった。破損が激しく、どうにか一人分の四肢を揃えられる程度しか残っていない。
……まあ、ないよりはマシか。
「これから四肢を装着する。ただし、センサーは修復しない」
「なぜでしょうか? 目が見えた方が、あなた方のお役にも立てると思うのですが……」
「俺たちの姿は機密事項に当たる。お前自身の命が惜しければ、余計な詮索はするな」
「……はい。分かりました」
これ以上、不信感を抱かせるのも面倒だ。
とはいえ、念を押しておく必要はある。調子に乗って俺たちの正体を探られでもしたら、取り返しのつかないことになるかもしれないからな。
……それにしても。
こいつをうまく利用すれば、人間との衝突を避ける手段が増えるかもしれない。
そう考えると、なかなかの拾い物だった。
俺はそんなことを考えながら、回収したパーツを抱えて彼女のもとへ戻った。