疲れめクズ野郎のラプチャースローライフ、俺は指揮官辞めて自由に生きる!!!追放(死亡)された後に後悔してももう遅い 作:雨野坂
恐ろしい光景に出くわした俺たちだったが、その後は特に何事もなく、無事に拠点まで戻ることができた。
ラプチャーの体に疲労はない。……はずなのだが、人間だった頃の感覚が残っているせいか、なんとなく疲れたような気がする。
なので、俺は少し休憩を取ることにした。彼とニケにも、そのことを伝えておく。
ニケの方も疲れていたらしい。俺と少し話した後、すぐに眠り始めた。
さて、俺も休むとしよう。
そうして意識を手放した俺は、不思議な夢を見た。
まるで、自分がラプチャーとして生まれ、そのまま生きてきたかのような夢だった。
夢の中の俺は、さまざまな場所を旅していた。
多種多様な水生生物が暮らす海。あたり一面に緑の絨毯が広がる山々。ほかにも、数え切れないほどの場所を訪れた。
アークでは映像でしか見たことのないような景色ばかりだった。
俺は、その光景の数々に感動していた。
……だが、分かっている。
これは夢だ。
どれほど鮮明で、どれほど現実味があろうとも、これは俺の記憶ではない。
そう思っていた。
しかし、その夢にも終わりが訪れた。
人型の生命体に襲われたのだ。
俺は必死に逃げた。
あいつらが追ってこられない場所を目指して、ひたすら走り続けた。
だが、数の暴力には抗えなかった。
とうとう追い詰められ、逃げ場を失った。
俺は、まだ生きていたかった。
こんなところで死にたくない。
死にたくない。
死にたくない――。
頭の中で何度も繰り返し願った。
しかし、願いが届くことはなかった。
人型の生命体が放つ銃弾が、容赦なく俺の体を撃ち抜いていく。
金属の外殻が砕け、体がぐちゃぐちゃに壊されていく。
そして、俺の意識は途切れた。
次に目を覚ましたとき、俺はまた別のラプチャーになっていた。
今度のラプチャーは、人型の生命体と戦っていた。
劣勢ではあったが、ただ追われるだけの獲物ではない。
迫りくる敵に立ち向かい、最後まで抵抗を続ける。その姿には、確かな矜持が感じられた。
……それでも、結果は変わらなかった。
俺は再び、人型の生命体に殺された。
次も、また別のラプチャーだった。
そいつも人型の生命体と戦い、そして敗れた。
また次も。
その次も。
何度も、何度も繰り返す。
まるで、テープを巻き戻して再生するかのように。
ラプチャーとして生まれ、人型の生命体と戦い、殺される。
その繰り返しだった。
……この夢に、終わりはないのだろうか。
そう半ば諦めかけていたとき、俺はある夢にたどり着いた。
その夢の俺は、人型の生命体と戦っていた。
しかも、あと少しで相手を倒せそうだった。
俺は歓喜した。
ようやく、今までの俺たちが報われる。
これで、今まで殺されてきた俺たちの無念も晴らせる。
そう思い、目の前の相手を殺そうと意識を集中させた。
……しかし。
その相手の顔を見た瞬間、俺は言葉を失った。
そいつは、俺だった。
正確には、人間だった頃の俺。
かつての俺自身が、そこにいたのだ。
人間の俺を殺そうとした、その瞬間だった。
横合いから銃弾が飛んできた。
俺は咄嗟に身をひねり、それを回避する。
弾丸の飛んできた方向へ目を向けると、そこには、かつて俺の部隊に所属していたニケたちがいた。
……なんで、あいつらが?
よく見ると、ほかのニケたちもいる。
俺が銃弾を避けている隙に、彼女たちは人間の俺を助け出そうとしていた。
そして、無事に彼を救出すると、互いにかばい合いながら戦線を離脱していく。
その姿を見て、俺は気づいた。
あいつは、ニケたちから信頼されているのだ。
……なんでだ?
俺とあいつで、何が違うというのだ。
俺は憤った。
俺だって、同じ人間だったはずだ。
それなのに、どうしてあいつだけが、あんなふうに信頼されている?
どうして、俺は……。
怒りに任せて、なんとか人間の俺を殺そうとする。
だが、俺がそちらに意識を集中させた、そのときだった。
注意を向けていなかった瓦礫の隙間から、弾丸が飛んできた。
気づいたときには、もう遅かった。
俺の体は撃ち抜かれ、またしても意識が途切れた。
……あまりにも、無念だった。
あの場で、あいつを殺せなかったことが。
俺よりも優れているあいつが、何事もなかったかのように生きていることが。
許せなかった。
俺は、そこで目を覚ました。
……いや、目を覚ましたと思った。
そこは、真っ白な部屋だった。
壁も、床も、天井も、どこまでも白い。
何もない空間の中に、彼女は立っていた。
黒く、もやもやとした輪郭。
その姿は人間の女性のように見えたが、体の境界は曖昧で、まともな生き物とは思えなかった。
「うん? ここに来たのか。お疲れ様。ここは、お前の心の中だ」
女が口を開いた。
「俺の心の中? じゃあ、お前は誰だ?」
「私か。私は、すべてのラプチャーの始祖と呼べるような存在だ」
「ラプチャーの始祖? ……頭は正気か?」
俺は思わず吐き捨てた。
「ラプチャーの親玉が、なんで人間の姿をしているんだ。妄想も大概にしろ」
「妄想などではないが……まあ、信じられないのも無理はなかろう」
女は、少しも気にした様子がなかった。
「しかし、私はラプチャーを統べる存在。それだけは紛れもない事実だ」
「……」
何を言っているのか、さっぱり分からない。
だが、ここが夢の中だというのなら、こんな存在が現れたところで不思議ではないのかもしれない。
「改めて言おう。お疲れ様」
女は、穏やかな声で続けた。
「お前は、ここまでたどり着いた。よって、お前の意識はもうじき消える」
「……俺が、消える?」
「そうだ。ラプチャーが死ぬとき、私は永遠の安楽を授けるために、ここに現れる。お前がこうしてここへ来たのも、そういうことだ」
「つまり、お前は俺に死を告げる神だっていうのか?」
俺は女を睨みつけた。
「嫌だ。嫌だ、まだ嫌なんだよ!」
気づけば、声を荒らげていた。
「俺は、まだ……あいつを殺せていない!」
女は、興味深そうに首を傾げた。
「ほう。あいつが誰なのかは知らぬが……まだ生きたいと申すか。ラプチャーにしては珍しい性格よな」
「……」
「そうであれば、もう少し生かしておいてやろう」
女はそう告げると、俺に向かって手を差し出した。
「だが、ここで終わることこそ、お前にとって最大の幸福だと思うがな」
その手を見つめる。
何をされるのかは分からない。
それでも、ここで終わるわけにはいかなかった。
女は、聞いたこともない言語で何かを呟いた。
そして、もう一度、俺に手を差し出す。
……手を握れ、ということか?
俺は、何の迷いもなく、その手を握った。
その瞬間、全身が激しく震え始めた。
熱い。
体の奥底から、焼けるような熱が込み上げてくる。
体の節々から棘が突き出し、肉が裂けるような激痛が走った。
「ぐっ……!」
声を上げそうになる。
それでも、俺は必死に意識をつなぎ止めた。
あいつを殺す。
あいつへの恨みを晴らす。
それだけを、ひたすら頭の中で繰り返す。
どれほどの時間が経ったのだろう。
気の遠くなるような苦痛の果てに、ようやく、それは終わった。
少しずつ意識が戻ってくる。
俺は体を動かした。
ガシャッ。
……あれ?
いつもとは違う感触がした。
視線が、やけに高い。
足を動かしてみる。
体の動きに合わせて、視界がわずかに揺れた。
これまでのラプチャーの体では、こんな感覚はなかった。
次に、前腕に力を入れてみる。
手に力がみなぎる。
……はて?
俺に、手なんてあっただろうか。
そもそも、今までの俺には、人間のような手などなかったはずだ。
そこで、ようやく気づいた。
これは――人間の体だ。