レ級に転生したんだけどどうすりゃいいですか?   作:ウィルキンソンタンサン

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一撃目 転生

 

 

 

 

 

空気を切り裂く様なブレーキの音と、つんざくような悲鳴。

最後に聞いた音はその2つで、俺の人生は終わった。

 

簡単に言おう、事故った。訴訟も辞さない。

ちゃんと歩道信号は青だったのだ。それなのにあのトラックめ、突っ込んで来やがった。

「信号は、青だった。」ってか?どこの迷い牛だよ。

 

走馬灯見る暇も無かったよね、一瞬でドガンだったよ。この世界がギャグ漫画なら次の日には完全復活なんだがまぁそう甘くは無く。哀れ、高校生俺氏は死んでしまったとさ。

 

あと今気付いたけどここどこよ。死んでんのに俺はどうやって思考してるんすかね。

 

目から見える瞼は、光が透かして淡いオレンジ色になっている。

痛みが無い、だが意識はある。そんな状態だ。

 

もしかしてまだ生きてるとか?目を覚ますと病院で、母やらなんやらが泣きながら飛び付いてくるとか?

……無いな。自分の事は自分が1番分かるのだ。あの時俺は確かに死んだ、これは間違いない。

 

ならここはどこか。良い事をした人が行く天国か?悪い事をした人が行く地獄か?それとも中くらいの事をした人が行く中国か?

まず音を聞こう。音で大体分かるやろ(適当)

 

『ゴポ……ゴポ…』

 

…泡?まるで水の中みたいな音…

 

匂いは……

 

「──ッ!!」

 

水!?しかも塩水だ!!

ここは海なのか!

…やっぱり視覚だよな。百聞は一見にしかずと言うし、見りゃ分かるな。

 

恐る恐る瞼を開く。

 

目に映る景色は、ゆらゆらと揺れる白い光の線。よく分からないカラフルな海藻たち。あと名前が分からん魚。

 

…どう見ても海の中です本当にありがとうございました。

 

なんだ?俺海に捨てられたんか?海葬?

それともアレか、魚に転生したんか?

 

ヒレでは無い事を祈って腕を顔の前に動かす。

 

腕あった。どうやら魚では無いようだ。

あー良かった。

黒い袖を纏った腕は自分の腕にしては細いな。そう思った。

 

ひとまず魚では無いことに安堵し、とりあえず海面に出ようとする。

このままじゃ浸透圧に負けちゃうよ☆

 

…んお?俺泳ぐの上手くね?

 

泳ぎの心得はあるが、そこまで上手い訳では無い。海ならばプールとは泳ぎ方が違うため尚更なハズだが、何故か泳ぎやすい。泳ぐというか浮上するというか……少し違和感。

 

…あと今気付いたけどなんで呼吸してないのに平気なんだ?

 

なんだか色々な疑問点があるが、とりあえず後回しだ。

今は海面に上がる事を優先しよう。

 

ザパン、と音を立てて海面に上がると、お暑い太陽が俺を出迎える。

 

シャバの空気は美味いねぇ。

 

キョロキョロと辺りを見回すと、近くに島を発見した。

乗り込むか。

 

 

ふいー、着いた着いた。

海岸に到着し、砂浜に足を着いて上陸しようとすると、

 

ズデン。

 

転んでしまった。

疑問に思って足を見るとアラびっくり。足首から先が無く、黒い模様が入っている。靴か?これ。

まるでディフォルメキャラの足の様な形だ。

 

しかし、それよりも驚く物を発見した。

 

『ググ…ガ…』

 

蛇の様な生物だ。いや、これ生物なのか?歯は鋭く口内から飛び出しており、戦艦の武装の様な物を着けている。なんなら顔自体が船の様な形になっている。

 

しかもコイツは俺の尻と繋がって尻尾のようになっている。

 

……頬を一筋の水が伝う。これは海水ではなく汗なのだろう。俺は今焦っているから。

 

何故焦っているのか。そりゃあバケモノが自分の尻に付いていたら誰だって焦る。

だが俺が焦っているのはそこじゃない。

 

俺はこのバケモノに見覚えがある。

 

コイツは俺が昔からやっているブラウザゲーム、またはアーケードゲームの《艦隊これくしょん》…通称艦これと呼ばれるゲームの敵キャラの尻尾だ。

 

…なら、そんな尻尾が付いている俺は?

這いずって海面に映った自分の顔を見る。

 

そこに映っているのは、いつもの見飽きた自分の顔ではなく、最早トラウマになっているあの白い頭髪に黒いフードを被り、大きな目に青白い肌の幼女。

 

間違いない。通称「ぼくのかんがえたさいきょうのせんかん」。もしくは「戦艦の皮を被ったなにか」。または「超弩級重雷装航空巡洋戦艦」。

 

忘れもしない、こいつに俺は何回負けたことか。何回「お前のような戦艦がいるか」と言ったことか。

 

 

 

 

『戦艦レ級』

 

 

 

 

俺はどうやら、最恐の『深海棲艦』に転生してしまったようだ。

 

さて、ここまで気付いて何故俺が死ぬほど(もう死んでるけど)焦ってるのか教えよう。

それは単純明快、『深海棲艦』がいるなら『艦娘』もいるだろう。

深海棲艦は人類の敵、艦娘と戦う運命なのだ。

俺は呆れ返るほど平和な国、日本に住むただの高校生だ。

 

戦いなんて…出来るわけないよォ!(30%シンジ)

 

まあ現実は非情なので戦わなかったら艦娘に殺されるだけなんすけどね。

 

死んだばっかってのに、なーんでまた死にそうになるんすかね。

 

ま、いつまでも地面に這いつくばってる訳にも行かないんで、立つ練習をしましょうね。

 

 

-30分後-

 

 

 

た、立った!クララが立った!

 

しばらく練習し、遂に尻尾を駆使して立って歩けるようになった。

いやー、長かった。

 

そういえば、と思いふと自分の身体を見る。

胸から臍までぱっくりと空いている黒いコートを身につけており、黒いビキニが胸を覆っている。

臍の下辺りを指圧すると、元の身体の時には感じられなかった弾力が指に伝わる。

子宮だろうか?深海棲艦ってそういうこともできるんか…性とかいう概念無いと思ってた。

チャックを上げてしっかり身体を隠す。

 

首元は白い縦線が入った…アフガンストール?みたいな物を巻いている。

 

いや、分かってたけどね?やっぱりレ級なんだな。

最悪なTSだなぁ、せめてするんなら普通の世界でTSしたかった。

 

あとさっき気付いたけど声が出ない。

 

「──ッ、──ッ!」

 

ね?何かが引っかかったようになって声が出ないのだ。

しかし喋れないのは凄い弊害だな。意思疎通が出来ない。二次創作では「レレレレレ」とか喋ってたのに。

 

…なんかバカボンに居そう。

喋れなくて良かった。いや良くは無いが。

 

ひとまず人里に上がってみる。

 

これで誰かと遭遇したら双方発狂もんだが、悩んでる時間が勿体ないのでさっさと行く。

もう夕方なのだ、急がないと。

 

 

案外居ないもんだな。

海辺は危険だからだろうか?避難要請とか出てんのかな。

そう思ってしまう程に人気が無い。

 

まぁいないなら好都合だけどさ。

ふと目に付いた家のドアに近づき、試しにドアノブを捻る。

ガチ、と音を立ててノブが止まる。

どうやら鍵がかかっている様だ、当然と言えば当然か。

 

少し力を入れると、ガキンと鈍い音を立ててドアが開く。

 

…え、壊れた?嘘でしょ、そんなアッサリ?

自分と深海棲艦の力のギャップに驚きつつ、おずおずと家に入る。

普通に不法侵入だが、今晩の寝床がないのだ。許せ家主、これが最後だ。

 

部屋に入ると少し埃っぽい。どうやらかなりの間ここには人がいないようだ。

いい感じのソファがあったので寝転ぶ。仰向けには構造上なれないので横向きに。

 

しばらく脱力していると、そういえばレ級ってナップサック背負ってたよな。と思い、立ち上がって背中からカバンを下ろす。

 

さて、中身はなんじゃらほい。

 

 

 

 

〜レ級のカバンの中身〜

・弾薬のようなもの

・赤い炎のような謎の塊

・非常食のようなもの

〜以上〜

 

…なに?これ…てっきりゴチゴチのエンジンとか入ってんのかと思ってたんだけど……

弾薬みたいなのは…まぁ、攻撃のための予備だろう。

赤い炎みたいなやつは何となく分かる。某サンドボックスゲームの深海棲艦育てるmodで見たことがある。

怨念だ。まぁ燃料のようなもんか?これが無いと動けないのだろう…知らんけど。

 

非常食のようなものは…本当に分からん。缶詰めのようだが、レーションでもなく…そもそも人の食うもんでは無いことは確かだ。

 

先が果てしなく不安になってきた。俺は人の食べ物を食えるのだろうか。この残りの怨念が切れたらどうなるのだろうか。

 

『グゥガ…』

 

俺の不安が伝わったのか、尻尾の艤装も不安そうに鳴く。

…なんか愛着が湧いてきたな。

 

ま、考えてもしょうがないか。

 

そうして俺は眠りに着いた。

この先、どんな大変な事が待ち受けているのかも知らずに。

 

 




ウィルキンソンタンサンと申します。
レ級ちゃんへの愛が爆発して書きました。後悔はしてません。

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