レ級に転生したんだけどどうすりゃいいですか?   作:ウィルキンソンタンサン

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「神様は間違えてる。世界を破滅させるのは、人間自身だ!」



十六撃目 戦い続ける歓びを

 

 

 

 

『──あ゛ぁ゛クソ、死ぬかと思った』

 

『まさか自爆するなんて、イカれてる……!』

 

『まぁ、イカれてるからあそこまでやったんだろうけど。──はは、びっくりしたー……』

 

『生き残ってた雑魚、全部吹き飛んだぜ!?意味わかんねぇなぁ…!いいね…余計惜しい……』

 

『ああいうの、あんたの好きなタイプだからねぇ……』

 

水上での大爆発。巻きあがった海水は蒸発し空へ登り、晴れていた一帯は曇天に包まれる。

その中で、2隻の深海棲艦が満身創痍で海面に転がっている。

その傍ら、もう1隻は少し外傷があるものの五体満足な様子だった。

 

『そこらの深海棲艦が軒並み吹き飛ぶような爆発を生き残った私達も、意味分かんないけどね……あんたらは兎も角、私ただのイロハ級なんだけどな……』

 

のそり、と立ち上がるヲ級。

 

『私らの後ろにいたからじゃないの?』

 

『流石、フラグシップは立つ位置から違う。』

 

と、皮肉混じりに笑いながら2隻も立ち上がる。

 

『この前、ウチの開発が作り出したこの"ダメコン"ってやつ……これが無かったら私らも轟沈だった。』

 

『ダメージコントロールだっけ?とにかく、助かったね。』

 

『それ、量産できないの?』

 

無理かなぁ、とヲ級に笑いかける空母棲姫。

先日鹵獲した艦娘が装備していた物を解体し複製したものらしいのだが、内包された妖精なる物の再現が上手くいかない為量産は不可能、という話を聞いていた。

今回上手く作動したのも僥倖、あるいは棚ぼたというものだったのだ。

 

身体を擦りながら、さてと続ける。

 

『回復しようか。』

 

『そうだな。幸い、回復出来る物資はレ級(アイツ)が作ってくれた。』

 

ぐぐぐと伸びをしてから、辺りに散らばった深海棲艦の残骸に近付く。

そしてそれに手を伸ばし──背後の艤装を携えた巨大な(あぎと)に、喰わせた。

 

『残骸吹き飛び過ぎじゃないか……?こりゃ凄いなぁ自爆。レ級だからか?』

 

戦艦棲姫もまた、巨大な腕を生やしたソレに残骸を喰わせる。美味いかどうかと言われると、不味いとでも言わんばかりの顔をする艤装達。

 

『……いいよね。そういう捕食器官があると同族食いとか言う荒業使えるから。』

 

深海棲艦の同族食い。荒業中の荒業であり、それでいて深海棲艦が艦娘に対して戦術的優位性(タクティカルアドバンテージ)を持つ一因。

損傷した装甲が回復するだけでなく、調子(コンディション)も上がる。勿論交戦中ではこんな事をする時間は無いが、今のようなタイミングだと最も効力が高い。

 

顎を持つ深海棲艦は、損傷したからと言ってわざわざ母港に戻り入渠する必要が無いのだ。

 

そして、顎を持たないヲ級は不服そうな表情。

 

『私だけそのままなんだけど。何とかならないの?』

 

『ならないね。というか、私らの中で1番良い奴付けてたでしょ。……それじゃあ、最大の障害が除けた事だし──そろそろ。』

 

ギラリ、と目を細めて艦娘達が去っていった方角に足を向ける。

それに伴って、戦艦棲姫は好戦的な笑みを浮かべた。

 

『何度か、アレとは違う個体のレ級と共に出撃した事がある。』

 

『へぇ。どうなったの。』

 

『圧倒的だ、出る幕がなかった。独りよがりで、自分本位。連携なんてもんは一切せずに、自分が楽しむ事が最優先事項って感じだな……あと更に不気味なのは、ずっと笑顔って事だ。──真ん丸の瞳を文字通り目いっぱい広げて心底楽しそうに、負けてても勝ってても関係無しに、バグったオモチャみたいに笑うんだよ。』

 

『そりゃ怖い、全員そうなの?』

 

『そうだ。沈む時だって笑顔なんだよ、不気味ったらありゃしない。だから、そんなようなイカレをあそこまでにさせたあの艦娘共は───』

 

そこで言葉を切って目を瞑り、目を開き、笑って言う。

 

『──殺さなきゃあならない。』

 

『……ま、異論は無いよ。行こう。』

 

その結論は、自爆したレ級──コヨミの実情を知らないが故のモノであり、深海棲艦にとっては自然の事。

勢力の中でも最大級の戦力を持ち、尚且つどの個体も正気を持っているとは思えない様な存在を懐柔していた様に見える彼女らは……当然、危険因子だ。

 

海で生まれた、生まれながらの海の覇者である深海棲艦にとって、あの艦娘達に追い付くのにそう時間は必要なかった。

 

 

 

 

 

暁の水平線。そこに全速で滑走する艦娘が五体。

 

「赤城さん!もっとスピード出ない!?」

 

「これが限界です───ッ!」

 

駆逐艦である第六の面々よりも船速の遅い赤城の手を、ヴェールヌイが掴んで引っ張る形で無理矢理加速。それを見た雷も反対側の手を掴んで引っ張る。

 

「まだ通信圏内じゃないの!?」

 

「あと少し!全くもう、なんで遠征は広域じゃないのよ!」

 

「速くしないと何もかも手遅れに───」

 

「分かってる!」

 

ミシミシと身体に負担がかかる音を無視して、通信圏内へと全速。

 

艦隊の頭上を飛行する艦載機から送られてくるデータを見ながら、赤城は敵艦隊を避けるルートを指揮する。

 

「───ッ!繋がった!」

 

きゅらきゅらと通信機を弄っていた暁がそう声を上げる。

ノイズが入った後、聞き馴染みのある男性の声が聞こえた。

 

『──こちら舞鶴鎮守府。どうしたのかな?』

 

「司令官!遠征部隊の暁よ!至急増援を!早く!」

 

縋るような叫びに提督は狼狽し、しかしすぐに持ち直して言う。

 

『落ち着いて、暁。何があった』

 

だが尚のこと暁は落ち着きを取り戻せない。見かねたヴェールヌイが通信機を取り上げ、代わりに報告を始める。

 

「……捜索目的の深海棲艦とみられる敵艦隊に接敵。主戦力にヲ級flagship、空母棲姫、戦艦棲姫を確認。…………舞鶴鎮守府所属戦艦、レ級elite──コヨミが単独にて交戦中…over。」

 

『……分かった、コヨミは今1人なんだね?GPSの座標に増援を送る。一旦みんなは帰ってきた方がいいかも──』

 

「最速でお願い。遅かったら恨むわ……!」

 

『──了解。』

 

そこで、通信は終わる。

さて、これからどうするか。

 

「このまま帰投?」

 

「ダメ!コヨミが1人で戦ってるのに、私達はそそくさと母港に逃げるの!?」

 

「……増援を待つ?」

 

Нет(ダメ). それこそコヨミが戦ってる間、私達はカカシになるのか?」

 

「コヨミさんの所へ戻る?」

 

「だめ、です。赤城さんはともかく、わたし達じゃ足手まといになります……」

 

一瞬、希望が見えたような気がしたが、現状はまるで変わっていない。

1秒が1分、1時間にも思えるほど長く重苦しい沈黙が続く。

 

しかし、その沈黙を打ち破るように暁が顔を上げた。

 

「──私は行くわ。雷の言う通り、このままおめおめと逃げ帰るなんてレディーのやる事じゃないもの。例えコヨミの意志を反故にしたとしても、絶対に突き通さなきゃいけない……最後の"いちじくの葉"ってのがあるの!」

 

「私も行くわ。まだ一緒にやりたい事がいっぱいあるんだから!沈まれたら困るわ!」

 

「い、電も行くのです!まだコヨミちゃんは心から笑っていません!もっと、もっと鎮守府を好きになって欲しいのです!」

 

暁の言葉に、雷と電が賛同する。

その様子を見て、ヴェールヌイと赤城はやれやれと顔を見合わせた。

 

「司令官は戻ってこいって言ってるのに……軍法会議になっても文句は言えない───けど、思う事は一緒だよ。ладно(仕方ない). 私も行こう。」

 

「私も出来る限り、全力でサポートします。」

 

部隊の意見が一致した。皆頷き合い、そして来た海路を辿ろうと振り返った瞬間────

 

 

 

 

 

水平線の向こうで、大きな爆発が起きた。

 

 

 

ワンテンポ遅れてくる衝撃。爆風と押し寄せる波にバランスを崩しかける一同。

遠くの紅色を孕んだ爆発は海水を巻き上げ、再び水面へ戻る前に蒸発し蒸気として空へと昇る。

その代わりに、黒い鉄塊のような物がボチャボチャと水飛沫を上げて落ちてきた。その姿はさながら火山弾であり、爆発は噴火と言ったところか。

 

「な、なに!?なんなの!?」

 

困惑しながらも素早く旋回し、陣形を再形成。よく見れば、飛んでくるその鉄塊は深海棲艦の破片の様だった。

 

『何が起きた…?爆発したように見えたけれど。』

 

海上戦で、あの大規模な爆発。方角的に、コヨミがいた───

そこまで考え、悪い予感を感じた為に思考を中断する暁。

 

『はわわ……とにかく避け──うっ』

 

ゴーン、と鐘のような音を頭から奏でる電。どうやら破片が頭にクリーンヒットしたらしい。

幸い、そこまでダメージは負っていない様子。

 

ヴェールヌイは、純白の帽子を目深に被り頭を回し始める。

 

 

あの水爆にも似た大規模な爆発。

だが放射線等の被害は確認できない上に、爆発の余波による被害も無い。しかし深海棲艦達がこのザマなのを見るに、それに相当する威力だったのは間違いないだろう。

──こんな海上で、そのような破滅的威力のある兵器を持つ者はいない。艦娘だろうが深海棲艦だろうが、それこそ水爆を引っ提げて出撃でもしない限りは不可能だ。

 

ならば何が起きた?

不明だ。まさか深海棲艦共が新たな兵器でも作り出したか?

 

否。味方を軒並み爆破している。こんな()()まがいな事をした所で費用対効果が薄────

 

 

 

……待て、()()

 

 

 

口元を抑え、顔を上げるヴェールヌイ。

 

 

───いや、まさか。

 

けど、それしか考えられない────

 

 

『ちょっと響!どうしたの?』

 

「だから響じゃなくてヴェールヌ……いや、いい。そんな事より───」

 

大きなため息を吐き、帽子を被り直す。

 

「行こう。マズい事になってるかもしれない。」

 

『そうしましょう。先程から、悪寒が止まりません。』

 

ヴェールヌイの言葉に賛同しながら、艦載機を射出する赤城。

駆逐艦の面々も顔を見合せ頷き、ゆっくりと加速を始める。

 

原速、第一、第二、第三、第四戦速と速度を徐々に上げ、爆発が起きた方へと歩を進める。

 

向かい風が、通常よりも強い。まるで風が、「来るな」と言っているかの様に。

 

一瞬風が止み、ひゅるりと柔らかい風が頬を撫でた。

 

『うっ』

 

先頭にいた暁が、呻き声を出す。何事かと見てみれば、顔に何か布が張り付いているではないか。

 

「それは…?」

 

『なんなの、もう……?』

 

うんざり、と言ったように張り付いた布を剥がし正体を確認する。

 

────もしかすると、確認せずにそのまま捨ててしまえば良かったのかもしれない。

 

『────ッ!?』

 

なんの前触れも無く急停止する暁。それに驚き、つんのめってぶつかるスレスレで止まる。

 

『あっぶな!?ちょっと、どうしたの!?』

 

『………嘘』

 

『え?』

 

『嘘よ』

 

『何が?』

 

『嘘』

 

『何が嘘なの…?ちょっと、大丈夫?』

 

『だって、さっきまであんなに元気で……』

 

『ねぇ!』

 

『あんなに、強くて……!』

 

『ちょっと!』

 

ふらふら、ぐらぐらと覚束無い。

壊れたように「嘘」と呟く暁に痺れを切らしたのか、はたまた様子のおかしい事に心配になったのか、雷が近付き手に持った布をふんだくる。

 

────しかして、それは伝播する。

 

 

『……え?』

 

雷もまた、暁と同様に顔を下げる。何が起きているのか?ヴェールヌイの頭は疑問で埋め尽くされる──が、何か呪物めいた嫌な気配を、あの布は発していた。

 

『どう…したの……?なんの布なのです…?』

 

戦々恐々としながら、それでも意を決して電も雷の持った布を取り確認する。

 

『…………』

 

そのまま、海面へ座り込んだ。

 

一体なんのコントなんだと空を仰ぎ見つつも、ヴェールヌイはその布の正体を薄々勘づいていた。

赤城もそれは同じな様で、歯痒そうにしながら目を細めている。

 

無線越しに聞こえる荒い息遣いが耳障りに感じ、顔を顰めてヴェールヌイは電から布を取り、確認。

 

「───ッ…なる……ほど……!」

 

それがなんなのか認めた瞬間、自身の姉達がなぜあの様になったのかを理解した。してしまった。

そういう事か、と。

 

 

 

 

その布は、腕章であった。

 

白を基調とし、赤いラインが引かれた煤まみれで焼け焦げた腕章。

デカデカと、記されている文字が嫌でも読めた。

 

 

───舞鶴鎮守府。

 

 

他でも無い、海軍──鎮守府の所属を示す為の特徴的な腕章だ。

そして…連合作戦でも無いのにわざわざ腕章を着けている艦なぞ、1人しかいない。

 

 

 

「……コヨミッ!」

 

腕章を握り締め、顔を上げて推力を上げる。

 

『ヴェールヌイさん!?ちょっと!?』

 

突然加速を始めたヴェールヌイに驚き、静止の声をかける赤城。

だが、それに反応し止まる事が出来るほど……ましてや、陣形を乱してしまうことに気を使える程、ヴェールヌイの脳にはリソースがなかった。

 

故に、だ。

 

自らに迫る砲弾にさえ、気付かなかった。

 

「───くぅッ!?」

 

頭に直撃し、海面に叩き付けられる。

 

『───ッ、響!?』

 

『ヴェールヌイさん!?…どうして、レーダーにも視界にも敵性反応なんて……!?』

 

突然の敵襲。再度確認しても、空に飛ばした艦載機からは何も反応が無い。

 

───日が暮れてきているから?いや、そんな事は関係ないはず。

 

何があったのかと発艦した艦載機を調べると、そこで赤城は妖精とのリンクが安定していない事に気が付いた。

 

『まさか、さっきの爆発が…!?』

 

先程の爆発。

どうやらあの爆発の影響で辺りの磁場が乱れ、出鱈目な光景が送られてきていたらしい。

 

 

───なぜ?

 

────なぜ、私はこんな事に気が付かなかった?

 

 

赤城は鎮守府でも古株だ。提督がヒヨっ子で、まだ基地の提督をやっていた時から所属していた。

幾度もの死地を乗り越え、大規模な作戦を何回も経て今がある。

だからこそ、この様な事に気が付かなかった自分を激しく責める。

 

 

──こんな事にすら気付かなくて、なんの為の一航戦なの?

 

 

しかし、今更自身を責め立てたところで不毛も不毛。反省は後。

最早偵察は意味をなさない。もう敵が来ている。

 

妖精には任せる事が出来ない。全て目視で、マニュアル操作で空戦を仕掛ける必要がある。

……それがなんだと言うのか。()()()()()()()かでは無い、()()のだ。

 

 

───しっかりしなさい。私は一航戦なのよ、このままでは加賀さんに笑わられてしまうわ。

 

 

『……敵が見えない。どういう事…?』

 

雷がそう疑問を提示する。

それもその筈。ヴェールヌイが撃たれて以降、一切の攻撃が無い。

どころか、そもそも敵影が見えないのだ。

 

先程から、何が起こっているのか全く理解が及ばない。クラクラする頭を抑えながら、ヴェールヌイは立ち上がり1歩前へ。

 

『……Дерьмо(クソ)っ、何が何だか────!』

 

 

同時に、彼女は海へ引きずり込まれる様に沈んだ。

 

 

 

 

「……え?」

 

 

呆けたような声が出た。

 

『……響、ちゃん?』

 

『───やだっ、響!』

 

『沈んでっ、なんでっ!』

 

唐突な、姉妹艦のロスト。明らかに沈むような損傷では無い。

だとしても、コヨミが"そうなった"ことを示す腕章を見た後では、トドメに等しかった。

 

ここで赤城。古株の運命(さだめ)として数々の仲間の轟沈を見届けてきた彼女は、この場において最も冷静。

 

「まさか、海中!?」

 

そんな赤城の解に対し、正解だと言わんばかりに海面が盛り上がる。

 

2度目だ。この現れ方は。

冷静に、盛り上がった水が紅色を孕んだ瞬間、空中を旋回させていた艦載機から爆撃を仕掛ける。

 

それを合図に、残る3人も旋回しながら陣形を形成し砲撃を放つ。

 

激しい水飛沫の中現れた三体の魔物。

 

空母ヲ級。戦艦棲姫。空母棲姫。

 

───所々に外傷があるものの、五体満足に、楽しそうに愉快そうに…どこかつまらなさそうに、笑っていた。

 

戦艦棲姫が、その大き過ぎる艤装を動かし狙いを定める。

「さぁ、やろうぜ」と、そう言いたげに。

 

艤装の手に、響──ヴェールヌイが握られている。気を失っているらしく、ぐったりと項垂れている。

 

背後から爆発。大きく身体が揺れ、戦艦棲姫が驚いたように後ろを振り向くと、雷がいる。魚雷が当たったらしい。

 

「………!」

 

目を見開き、砲塔を向ける。

─────もはや言葉は不要。それが開戦の合図だった。

 

瞬間的に推力を上げ、副砲で牽制を仕掛けながら集まり陣形を再形成。

ヲ級と空母棲姫による面で仕掛けられる空戦は、赤城が発艦させたいつもの2,3倍の量の艦載機を全てマニュアルで操作してドッグファイトで堕としていく。

 

戦艦棲姫の攻撃はなるだけ避ける。もし当たれば、ヴェールヌイはともかく装甲の柔らかい駆逐艦など一溜りも無い。

 

ひりつく死の気配が頬を掠める。

剥がれていく衣服が終わり(轟沈)へのカウントダウン。

 

だがそれは、相手とて例外では無い。

 

4人の内誰かのカウントダウンが0になる前に、あの化け物共を0にすればいい。

心で燃え上がる炎に水を焚べ、冷静な炎を燃え広がらせ、落ち着きを持って慎重に撃つ。

 

───だが。"規格外"とは、"例外"とは……"姫"、とは。

どこまでも、残酷で冷酷で圧倒的で、理不尽なモノだ。

 

「………アイアン………ボトム…………」

 

口を歪ませ、雑音混じりの穢れた声を発する。

三艦同時砲撃をもものともせず、余計楽しそうに砲塔を向ける。

 

砲を放った。

弾頭は逸れ、海面を叩いて水飛沫を立てる。外したのではなく、狙ったのだと一同が気付いた時にはすべからく遅く──

 

「……サウンドニ…………シズミナサイ………!!」

 

水の壁で射線は悟れず、回避も出来ない。艦隊4人の内、誰かのカウントダウンが一気に0になる事が確定した。

 

 

 

 

やがて、1発の砲弾が放たれる音が聞こえ─────

 

 

 

 

 

 

 

何も、起きない。

 

 

 

 

水の壁は再び海面へ戻り、砲塔を構えていた筈の戦艦棲姫を確認────

 

 

 

 

出来ない。

 

 

 

いや、出来る。下だ。

 

海面に倒れている。攻撃されたらしい。

ならば今の砲声は戦艦棲姫のものでは無いのか。

 

 

次の瞬間、おぞましい数いたはずの敵艦載機がボトボトと虫のように堕ちてきた。

 

「…ひ、響っ!」

 

攻撃された拍子に手放したのか、転がるように海面に倒れているヴェールヌイに暁が駆け寄る。

 

「う……げほっ、げほっ……なんなんだ、次から次へと…!」

 

肩で息をしながらも、辺りを見渡して現状把握。

 

「………………」

 

戦艦棲姫も、困惑したように立ち上がり撃たれた方角を見る。

 

瞬間、心底嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

 

 

戦艦棲姫の視線、その先の光景を見て───眼を、見開く。

 

 

 

日が沈みかけ、ミルフィーユのような色合いになっている空を背景に立っている、小さな、黒い人影。臀部からはナニかが生えており、その先に着いた艤装の砲塔から白い煙が立っている。

 

────よく知っている、影。だがどこか違う。

 

その人影から立ち上る瘴気は───黄色、なのだ。黄金の大いなる瘴気が、その人影を中心として発している。

その光の強さは計り知れず、海面すら黄色に染まっている程。

 

有り得ない。有り得ないのだ。"彼女"がその色を持つ事は無い。無いのだ。あるはずが無い、()()()()()()()()

 

「こよ、み…?」

 

 

 

…違う。

 

本能が告げている。()()は、違う。別物だ。

あれは、悪魔だ。

 

口の中が急激に乾いていく。

 

忘れては、いなかった筈だ。

だが、7日。7日間だ。その間何も無かったのだ、少しくらい思考から外れていても仕方がないというものだろう!?

 

 

 

「─────う、ら…!!」

 

うら。

裏。

 

……ウラ。

 

 

 

黄色い瘴気が更に広がる。

 

戦慄。

敵味方関係無しに、臨戦態勢となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふ、フフ…」

 

少し強い波。風も程よく、実に気持ちがいい。

 

風に煽られ、パタパタと真っ黒な服が揺れる。

セーラー調ではない。腕章も無い。首元の布も紅白ではなく、白黒。背中にはナップサック。

コートのファスナーは、臍まで開いている。

 

──正真正銘、"戦艦レ級"の装いだ。

 

 

長らく()にいた事も相まって、実に清々しい。深呼吸で新鮮な空気を取り込み、満足気に目を細める。

 

「ま、別にあそこがヤだッてワケじャないけどネェ…。」

 

どこの誰に向けた訳でもない言い訳を口にしながら腰を折って前のめりになり、両手を目の上にかざす。

 

「うんウン、よく見えル。」

 

そうして、眼を見開く。

これでもかと言うほど大きな眼を輝かせ、目標を見付ける。

身体の主を傷付け、死の河に片足どころか肩までゆったりと浸からせた敵を再確認。

 

よくも、可愛い可愛い我が主人を。湧き上がる炎は一旦横へ。

 

「ちャんト当たってるネ。………ンじャ、ヤろうカ…?」

 

ニッコリと、そう言って笑う。

 

あの深海棲艦共が怨めしい反面、久方振りの戦場に心が躍る。ましてや、同族討ちときた。

全くもって、どうしようもなくゾクゾクしてしまうではないか。

 

もはや傍らの艦娘は眼中に無い。

 

それは、深海棲艦の本能。艦娘を打ち倒す事よりも優先される、心の奥底に刺さった1本の柱。

 

 

 

 

 

────戦い続ける、歓びを。

 

 

 

 

 




レ級は変身する度にパワーが遥かに増す……、その変身を彼女はあと1つ残している。その意味が分かるな?




近況ノートにも書きましたが、X(Twitter)始めました。お絵描きと生存報告と進捗報告してます。
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