レ級に転生したんだけどどうすりゃいいですか? 作:ウィルキンソンタンサン
その提督は《轟沈》の意味を勘違いしており、いわゆる《ひんし》のような戦闘不能に陥るだけだと思っていた。
そうした結果、大破した電を夜戦に送り出してしまい、轟沈させてしまった。
そう、その提督とは──
_人人人人人人人人人人_
> かつての俺である <
 ̄YYYYYYYYYY ̄
本当にごめんよ電……
誤りの修正をしました。
睦月型8番艦、長門。→長門型戦艦、一番艦、長門。
なんでこんなゴミみたいな間違いしたのか本当に不思議。当時の自分を正座させて小一時間程説教したい。
提督→司令官 四姉妹は司令官呼びなの忘れてました。
「ア…ガ…ガ…」
レ級になってから2日目。俺は声を出す練習をしていた。
喉を触診したところ声帯はちゃんとある様なので声は出るはずなのだが、いかんせん何かがつっかえて上手く出ない。
「ア、イ、ウ、エ、オ」
お、いい感じじゃないか?
なんか行ける気がする。
多分、深海棲艦は言葉を喋る事が出来ないのでは無く、喋る習慣が無いのだろう。だから喉が凝り固まってしまっているのだ。
どうやら「じゃあほぐせば出る」、という仮説は正しかったようだ。
だんだんつっかえも無くなってきている気がする。
◇
カタコトだが声が出るようになった俺は、少し試したいことがあった為海に来た。
その試したいこととは…
「ア、ヤッパリウクノネ。」
海を走れるかどうかだ。
結果は浮く、なんなら滑れる。
前に行こうとすると、そのまま進み出す。
これはかなり速い。風が凄いがとても気持ちいい。
アニメの主人公は転んでいたが、俺にとっては地上で立って歩くほうが難しかったな。
あっという間に沖に着いた。やばい、楽しい。
もーちょっと走ってみるか。
と、海面を走っていると、遠くにいくつかの人影が見えた。
戦慄。
今の心情を2文字で表すとしたらこの言葉が最適だろう。先程までの楽しいという感情はまさしく深海に沈み、今は恐怖と激しい焦りが俺に取り憑く。
普通に考えて、こんな海の沖に人影なんかある訳が無い……
普通…は。
いるとしたら…そう、艦娘だ。
艦これ好きとして会えたらこの上ない幸運だが、今は違う。
俺は深海棲艦で、出会ったら戦うしかない。
沈めるか、沈められるか。それしかないのだ。
よって、逃げる。
幸いな事に彼女達はまだ俺に気付いていないようだ。
くるりと旋回し、逃げるんだよー!
すると、ダァンという轟音と共に俺の腰の横を風が通過していった。
身体がサァ、と冷えていくのが分かる。
撃たれた。気付かれた。
遠くから声が聞こえる。
「あ、外しちゃったのです…」
「ちょっと!何やってるのよ!」
「ま、遠いからしょうがないよ。」
「私はレディーだから許してあげるわ!」
ゆっくりと振り向くと、4人の艦娘が近付いてくるのが分かる。
あの4人は…
「ダイロク…クチクタイ…」
第六駆逐隊。「雷」「電」「暁」「響」で構成される隊の事であり、その中の「響」は俺の推しだ。
しかし、そんな相手は俺に砲を向けている。
俺はこれから推しの艦隊と戦わなければいけない。
しかもこの第六駆逐隊、多分全員が改か改2。暁はⅡのマークが付いてるし、響に至ってはヴェールヌイの姿だ。
響だけ他の3人より大人びた姿してんの…あかん、涙出る。
…いや、そんな事を言ってる場合じゃない。今の砲撃は開戦の合図、賽は投げられたのだ。
しかし戦いたくはない。なんとか和解出来ないだろうか…
と、意思疎通を図る。
「アノ…ヤメナイ?」
「ひっ…レ級よ、あの深海棲艦、レ級よ!」
「ほ、本当…ッ!司令官!レ級よ、レ級が出たわ!」
「レ級はサーモン海域北方にしか出現しないはず…なんで…?」
あ、聞いてないですね。あとレ級だと気付いて無かったんかい。
『グ…ガガ…』
尻尾も威嚇してるし。
どうするか思案していると、耳が何やら雑音混じりの男の声を捉えた。
『レ級だと!?何故この海域に……とにかく、4人は極力被弾を
提督の声だろうか?何故聞こえるのか。
「聞いた?応援が来るまで耐えるわよ!」
「耐えれるかな…」
『─! すまん、レ級に無線が傍受されているようだ。切るぞ。幸運を祈る。』
傍受?俺が?どうやって?まさか尻尾か。ハイスペックだなお前。
「し、司令官!?…切られた…」
「最近は鹵獲した深海棲艦が人の言葉を理解した話もあるからね。あのレ級がもし人の言葉が分かるなら作戦が筒抜けだよ。」
おう。理解してるぜ。
しっかし、長門と大和と武蔵?やべー、死ぬじゃん。
しかも全員改2だったらもっとやばいぞ、また死ぬぞ。いやマジで。
とはいえ、だ。相手はみんな改以上だとしても今の俺はあのレ級。
1人連合艦隊は伊達では無いのだ。大和改2でもなんでも倒せる筈だ。大和持ってなかったし知らんけど。
懸念すべきは砲撃の命中率の悪さ位だろうか。
これで負けたら俺の
っていやいや、何を戦おうとしているんだ。俺はできる限り平和に生きたいんだよ。
とりあえずもう一度意思疎通を…
と、艦娘達を目に戻すと。
「ちょっと電!大丈夫!?」
「はわわ…恥ずかしいよぉ…」
電が中破していた。
WTF!?
あ、あるぇー?俺何もしてないぞ?
もしや、と思い尻尾を見ると、やはり艤装の口から煙が出ている。
《先制雷撃》。
レ級が開戦でする先制攻撃。命中率は砲撃とは打って変わってほぼ当たる。んで威力も中々だ。
あー、ガチガチに装備積まなきゃそりゃ改でも駆逐艦はそうなりますよ。大破しなくて良かったな。つか提督やる気あんのか?
というか、先制雷撃したってことは俺……elite?危険度eliteですか?やべー、まんま俺の苦戦したレ級に転生したんやなー。
「やってくれたわね…反撃するわよ!」
「もちろん、信頼の名は伊達じゃない。」
あるぇー?殺気立ってるんすけど…
まぁ、姉妹艦を目の前で中破させたらそうなるわな。
艤装の頭を叩いて叱る。
「ギソウ、オマエヤッテクレタナ。」
『ガ…ガギ……』
うん、艤装も反省したようだ。今から一緒にごめんなさいだからな。
瞬間、頬を風が殴りつける。また撃たれた。
しかも距離を詰めているせいか、狙いも正確になってきている。
やばいな……それこそレ級は熟練の提督からも恐れられている程に強い。だが本体はそんな強い訳では無いのだ。姫クラスによくある様な「当てても装甲を貫けないので効かない」なんてことは無く、当てれば普通に倒せてしまうのだ。
つまり何が言いたいのかと言うと、このまま何もしないと普通に死ぬ。
「アノ…ワザトジャナインダ、ユルシテクレ。」
「ほら!もっと撃って!」
「電の本気を見るのです!」
「ちょっと待ちなさい電!あなた中破してるんだからさがって!」
「変だ、あのレ級雷撃以降全く反撃してこない。」
あ、聞く耳持ってないですね。
なんだろう、泣いていいですか?
「チョットコウゲキヤメテ……」
制止の言葉をかけた刹那、ダガァンと鈍い音が顔中を巡り鼓膜を叩く。
体は大きく仰け反り、その姿はさながらマトリックス。
あまりの衝撃に脳が頭の中でバウンドし、視界がチカチカする。
遂に砲撃が顔面に当たったようだ。おめでとう、顔に命中は100点あげよう。
ここで俺の意識は、深い海の底に沈んだ。
「!命中なのです!」
「でも相手はレ級よ、油断しないで。」
「後は大和さん達に任せて、帰投した方がいいかも…」
「ねぇ、あのレ級ちょっと変だと思うんだけど。」
ヴェールヌイは姉妹達にそう言う。
「え?なんでよひび……ヴェールヌイ?」
「だってさ、レ級を相手にしてなんで誰も大破してないのかな。」
「でも、電は中破したのです。」
「中破なんてよくあることだよ。でもレ級を相手にしたら大破なんて当然のハズ。それなのに誰もそうなってないって事は……」
「つまり……?」
「レ級は攻撃をしなかった。」
ハッとする3人。
「そういえば、あのレ級は先制雷撃以降、攻撃をしてこなかった…」
「それに、レ級は攻撃した後に驚いた顔をして自分の尻尾の頭を叩いてた。まるで叱る様にね。」
「波の音と砲撃の音で気の所為かと思っていたのですけど、なにか喋っていた気も……」
「え?深海棲艦が喋る訳無いでしょう……?」
電の言葉に首を傾げる暁。もう少し話を聞こうとすると、
「大和型戦艦、一番艦、大和。応援に参りました!皆さん大丈夫ですか?」
「同じく二番艦、武蔵だ。待たせたな。怪我は無いか?」
「長門型戦艦、一番艦、長門。応援に来たぞ。レ級がいるというのは本当か?」
「あ、どうもありがとうございます!はい、あそこに……」
「砲撃が頭部に直撃したので、今の内なのです。」
「おぉ、そうか……ッ!構えろ、起き上がるぞ。」
「え?」
ふと倒れている筈のレ級へと目を向けると、そこには先程とは打って変わって、図鑑で見た通りのにこやかな反面、不気味な雰囲気を含んだ笑みを浮かべた深海棲艦がいた。
その深海棲艦は、首元に手を伸ばしたかと思うと、チャックを臍まで下げた。
その次に、右の肘を横に広げて手の平が見える角度に構える、いわゆる陸軍式の敬礼をし、頭を少し上に傾けてこちらを見下すような姿勢をとる。
そう、正真正銘そこには、『鎮守府を破滅へと導く、小さくも強大なる悪魔』
《戦艦レ級》
が立っていた。
戦艦レ級は目の前に並ぶ艦娘を確認し、満面の笑みを浮かべた
『ミナゴロシ。』
敵キャラに転生した主人公がふとした理由で敵キャラとしての人格が出る展開、とても好きです。
分かる人いますか?