レ級に転生したんだけどどうすりゃいいですか? 作:ウィルキンソンタンサン
私事ですが、明日から高校で旅行があるためしばらく更新、並びにコメントの返信が途絶えます。その分多めに書きました。
よろしくお願いします。
ちょっとした誤字の修正をしました。
『──で?なんでアタシはここに連れてこられたんだ、レの字?』
「まァ待てっテ。今食べてるだロ?」
現在、間宮食堂。
先程のネ級を連れて、食事中である。何故こうなっているのか?それは数分前に遡る。
◆
長門、提督と共に留置所へ連れてこられた。
「えーっと……まぁ色々聞きたいことはあるけど、とりあえず通訳とやらをしてみてくれないか?」
「あいわかっタ。おーいネ級、さっきぶり。」
先程囚われていた檻の目の前、つまり重巡ネ級改がいる檻へ声をかける。
『…んあ?あァレの字か。随分とお早いお帰りだな。』
「なんダ?おねむだッたカ?」
『いやいや…こんな所じャ寝るしかやる事が無いんだよ。』
「なるほど、確かにそうダ。」
『それで?そんな大層な艦娘サンを連れてどうした?ってか、そのニンゲンは提督サンか?やっぱあれか、敬礼とかしなきャダメか?』
「腕動かないだろ、オマエ。」
『ごもっともだネ。』
ヒエッヒエッと不気味な笑いを漏らすネ級。顔は良いのにしわがれた笑い声で全てを台無しにしている。
ちなみに長門さんは驚き半分、残り半分は苦虫を噛んだような顔をしている。提督は…なんだその顔。どういう表情?
「提督、奴ら本当になにか話してるみたいだが……」
「ネ級は喋ってないが…会話は成立してるようだ。念話の類か?」
「おっ、提督サン流石。鋭いネ。ご察しの通りテレパシーだヨ。」
『よく分かるな。ワタシだったら気でも狂ってるんだと思うかもやしれん。』
2人は意外そうな顔をして、俺に問う。
「本当か?結構適当に言ったんだが…?」
「私は気でも狂って虚空に話しかけてるんだと思ったが。」
「ハハッ、ネーちャんと同じこと言ってラ!」
『おい、ネーちャんってなんだよ。』
「ん?いやオマエ、オレのことレの字って言うだロ?だからオレもなんかあだ名付けようと思ってだナ…」
『センスねぇナ、レの字は。』
「んだとコラァ!お前よりはマシじゃあ!」
『ケッケッケ!まァいいさ。あだ名を付けられるなんざ初めてだが、随分と気分がいいナ!』
再び不気味な笑い声を零す。
ネ級が笑う度、2人の顔が引き攣るのは少し面白い。
「そんじゃま、ちョっと通訳やんなきャなんないからヨ。なんか適当に喋ってくれヤ。」
『あー?めんどいなァ……。まま、ええわ。じャあしっかりやれよ?』
「はいヨ。──お2人サン、待たせたネ。それじゃあ通訳するゾ。」
「…あぁ、よろしく頼む。」
「そんじャあ行くゼ?」
提督と長門は目を瞑り、耳に全神経を集中させる。これから発せられる言葉を一語一句聞き漏らさないように。
「えっと…『そこの美人サン、アンタさてはワタシを大破させやがった艦娘だな?いやァ、また会えて嬉しいよ。是非ともまた手合わせ願いたいね』。」
「……」
「『ソレと、ソッチは提督サンかな?あの時ワタシ達との戦いで陣形を組んだり作戦を立てたりしたのはアンタだな。いやはや、してやられたよ。誇って良いぜ?アンタすげーよ、ネーちャんのお墨付きだ。って、こりャ逆に不名誉か?
まァともかく、そこの美人サンともっかい戦わしてくんねーかな、いやでも沈むと困るナ…』
ってネーちャん、そんな戦いたいのカ?なら鎮守府には演習弾があるから、それでやると良いゼ。」
『マジでか。』
「マジだゼ。」
「…どうやら、本当に通訳出来てるみたいだな、提督。」
「そうみたいだな……。しかし、重巡ネ級改のお墨付きの提督か…。」
「提督?まさか"悪くない"とか思ってるんじゃ無いだろうな?」
「いやぁ…その……」
俺はネ級から2人の方に向き直って、言う。
「まァそんな訳でサ。見ての通りオレは深海棲艦と意思疎通が可能ダ。日本語が分かるヤツ限定だけどナ。
…どうだ?役に立つダロ?」
そう言うと、提督は顎に手を当て少し思案する。そして顔を上げたと思うと。
「深海棲艦と話せると言うのは分かった。それも十分ね。他の深海棲艦も自己を確立しているとは驚いたよ……」
「じゃあ解放してくれるカイ?ちなみに、ネーちャんも『ワタシは悪い深海棲艦じゃないよー』って言ってるぜ。」
『えっいや言ってないけど』
「そうか…そうだな。ネ級もどうやら敵性は無いようだし……」
「提督…まさか……」
「うん、うん。──よし、とりあえず2人とも、ご飯でも食べないか!?」
「えッ」
「なッ」
『は?』
◆
って感じだ。ネ級はただ単純に良い奴だと思ったから、あそこから少しでもいいから出してあげたかったのだ。
「美味いダロ?間宮さんのご飯ハ。」
『いや美味いけどさ。それとこれとは話が別っつーかってホントに美味いなコレ!』
俺はオムライス。ネーちゃんはカレーだ。
提督と長門は用事があると言ってどこかへと消えていった。まぁ監視はいるみたいだけども。
「しかしまァ…あれで気付かれてないと思ってんのかねェ…。」
『そーだな。なんだったら一緒に食えば良いのに。』
「やめとけ、オレらただえさえ避けられてんのに。」
いや、別にあの監視が下手という訳では無い。だかまぁ、俺達は深海棲艦だしねぇ……。何となく分かるのよ。
あとやはり事情は知っていても俺達が恐ろしいのか、座っているテーブルの近くには誰も座らない。
遠巻きにチラチラと見られる感覚があり、少し恥ずかしかったり。ネーちゃんは別に気にしていないみたいだが。
「あれッ、ネーちャん福神漬け使わねーのカ?」
『フクジンズケ?この赤いのか?』
そう言ってテーブルに置かれた瓶を手に取る。
「そウ。カレーにはソイツが良く合うんダ。」
『ほーん…』
蓋を開け、備え付けのミニトングで一掴みカレーに入れる。
スプーンにカレーと一緒に乗せ、口の中へ。
『…!コレは良いな!素晴らしい!』
と、なんとも素敵な笑みを浮かべる。
こうしてれば普通に可愛いんだけどなぁ…。とか思いながら、オムライスを口に運ぶのであった。
◆
同時刻、執務室。
「さて、あのレ級についてだが…」
「その顔からして、当たりだったかな?司令官?」
「…そうだね。」
執務室では暁、雷、ヴェールヌイ、電、長門、大和、陸奥、雪風、伊58、ビスマルクが自分の赴くままに立ったり座ったりしながら、提督に注目していた。
「ベルが提出した資料。これにはレ級に関しての様々な考察があったが…その中のいくつかが大当たりだ。流石だな。」
「それ程でもない。」
「えーと…なんだっけ?」
「はい、資料!」
「ありがとう雪風!」
「どういたしましてっ!それで司令官、そのいくつかってのは何ですか?」
「そうだな、主なのは…[二重人格]、[切り替わりのキッカケ]、[極めて理性的]ってところだな。」
「
「二重人格…確かに、大人しかったのが急に凶暴になったのです。」
「ですが、武蔵も大破寄りの中破でまだ修復中です…あのレ級、本当に理性的なのですか?とてもそうとは…」
怪訝な顔をする大和。大和だけではなく、第六駆逐隊以外の艦娘も同じような顔をしている。レ級が理性的な時にはいなかったから仕方がないだろう。
「…理性的なのは、間違いない。私がこの目で見てきた。」
「そうだな。敵対しているような素振りもなく、それにどこか…艦娘を上の存在として見ているような発言もあった。」
すかさず長門がフォローを入れ、提督が肯定する。
「つまり、あのレ級は友好的人格と、敵対的人格が存在している。私が思うに恐らく、友好的人格が
ヴェールヌイが言う。
「えっ?なんでかしら?」
と雷が問う。
「暴れた事を把握してなかったから、かな。そうだよね、ビスマルクさん?」
「えぇそうね。確かに、『オレは暴れてない』と言っていたわ。」
「…ビスちゃん、食べかす付いてるわよ。」
「えっ」
慌てて口元を拭うビスマルク。「私が取ってあげようと思ったのに」と残念がる陸奥。
「えぇと、それでね。敵対的人格の方はこう言ったんだよ、『アテテソノママ……ツメガアマイ……』って。これは友好的人格の記憶も持っているって事に他ならない。基本的に多重人格の主人格は他の人格の記憶を持ってないからね。」
「へー!響って物知りだね!」
「ヴェールヌイだよ、野菜や豆腐などを炒めた沖縄料理ちゃん。」
「チャンプルーじゃないよぉ!」
流石だと思う反面、まぁそうだろうなと思う提督。元人間だと言うのが本当だとすればそれは必然だろう。
あのレ級が元人間だということは彼女らには決して言わないが。約束したし。
しかし、あれは男なのだろうか?女なのだろうか?一人称はオレだが、それだけでは特定は難しい。
もし元男なのだとしたら、対応を考えなければな。まぁ思い出せないくらい記憶が曖昧なのだとすれば、特に問題は無いか。
提督は、そう腹の中で考える。
と、同時に。彼女らに報告すべきことがあることを思い出す。
「…それと、ひとつ想定外だったものが。」
「なに?司令官。」
「あのレ級は、深海棲艦の通訳ができる。」
一瞬、静寂。その次に、
「「「「な、なんだってー!!!」」」」
驚愕。
「ここまで綺麗に驚いてくれると、逆に清々しいな。」
と長門。
「ちょっと司令官!通訳ってどういうこと!?」
「えぇっと…ちょっと脳が追いつかないでち!」
「深海棲艦とお話出来るのです?」
「呑気なこと言ってる場合じゃないわよ電!深海棲艦と喋れるなんて、歴史が変わるわよ!」
「そうです!それってつまり、他の深海棲艦も会話が成立する程の知能があるってことになりますよっ!どういう事なの!?し・れ・え!!」
「深海棲艦の通訳…?ちょっと待ってくれ、
「あらあら、それって結構とんでもない事なんじゃないの?」
「とんでもないどころじゃないですよ!永きに渡るこの戦争を終わらせる大きな手がかりになりえますよ!?」
「そういえば確かに喋ってたわね…。ただの独り言かと思ったけれど、もしかしてアレって前の奴と話してたのかしら?」
一気に騒がしくなる執務室。
「まぁ落ち着いてくれ。ここからはレ級本人が言っていた事なんだが──」
提督は、深海棲艦はテレパシーで意思疎通をすること、人の言葉が分かる個体としか話せないことなどを話した。
「いや…それでもかなりとんでもないですよ…。」
様々な情報を聞いた艦娘達は、驚きを通り越してもはや引き気味と言ったところ。
「…あ、アレってそういう事だったのね。なるほど。」
ふと納得したように呟くビスマルク。
「どうした、ビス?」
「…いや、なんで話せるのか聞いたら『使わないだけで声帯はあるから』と言ってて。テレパシーを使うから喋る習慣が無いって事だったのね。」
「「「「えっ」」」」
「えっ」
総員、困惑。
「えっと、それって……」
「教育次第で、みんな喋れるようになれるってことでは……?」
「ビスゥ……!」
「な、なによ。」
提督は、大きく息を吸い込み、叫ぶ。
「そういう大事なことは早く言えー!!!!」
◆
「──なんか今聞こえなかっタ?」
『気の所為だろ。』
「そうかァ…」
『てか、このぷりんとやら美味すぎやしないかい?』
「このアイスも絶品ダゾ。」
『なんだと、1口よこせ。』
レ級「もしもオレが元人間だってこと艦娘さん達に言ったらどうなるか分かってるな?」
提督「……どうなるんだ?」
レ級「間宮さんのデザートを食い尽くしてやる。」
提督「勘弁して下さい。」