レ級に転生したんだけどどうすりゃいいですか? 作:ウィルキンソンタンサン
関係ないですが、レ級のセリフで夕立と打つと、口調の都合上カタカナが混ざるのも相まって夕がタに見えます。ミスったか?って錯覚する。
というわけで夕立が1部タ立になってます。見つからなかったら私の勝ちです。
追記:ちょいと修正しました (2023/05/20)
ご機嫌よう皆さま。レ級です。
本日はお日柄もよく。晴れ時々鉛雨、と言っところでしょうか。
とは言えども、今私に向かって放たれている弾丸は鉛では無くペイント弾ですが。
あ、そうそう。これです。今私の脇腹当たりに飛んできた弾丸。捻って避けますが。
「あっぶナ!このォやったナ!」
「そんな攻撃当たんないわよ?」
すかさず反撃するが……クソ、当たらん。
え?さっきの口調はなんなんだって?ノリだよ。ノリ。違う海苔じゃない。違う黒海苔じゃない!それはなんだか卑猥だ!
と、言い忘れたが、今は演習中だ。俺の命運を分かつ決戦たる定例会を明後日に控えているのに、一体何をしているのかという気持ちは分かる。俺も思った。
夕立ちゃんにやろうと言われたから脳死で受けたんだが……まぁ狙いはあれだろうな。
艦娘との親睦を深めるためだろう。
ネ級と別れた後、俺は一応この鎮守府の人員の前で軽く挨拶をしたのだが……ほとんどの子は顔が引き攣っていた。
当たり前田のクラッカー(古い)、あちらからしてみれば敵を拠点に迎え入れている事になるのだから、いくら安全だと言われても警戒するだろう。
むしろ警戒されなかったらそれはそれでこの鎮守府のセキュリティを疑う。
だから、仲良くとまでは言わないが、とりあえず警戒は解いてもらうために色々やったんだが……
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以下回想……
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「よォ那珂チャン、よろしくネ。」
「ッ……」
「?震えテ……寒いのカ?」
「ハァーッ!ハァーッ!」
「──那珂ちゃん!?……ごめんレ級、那珂ちゃんコッチ!」
「えェ....(困惑)」
─────────
「アノー、言ってから多分3時間は経ったと思うんだけどサ。掃除しなきゃだから一旦部屋出て貰っても良いかナ?」
『キャプテン・ファルコン! サムゥス!』
「大乱闘しないデ?」
『秋山凛子、参る!』
「誰だアクション対魔忍やってるノ!」
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現在へ戻ル……
─────────
と、まぁ。こんな感じで。
無視されるし。
那珂ちゃんに至っては話しかけたら過呼吸されたし、泣かれたし。那珂ちゃんのファンやめます。
(後で聞いたが、那珂は以前別個体のレ級に轟沈1歩手前まで追い詰められた上、友人が自分を庇って沈められたらしい。何それひどい。そりゃそーなるよね。那珂ちゃんのファンになります。)
と、打ち解けるのを半ば諦めていた時だ。タ立ちゃんから「提督さんから演習の許可貰ったっぽい!レ級ちゃんもやろ!っぽい!」と言われたのは。
で、今。5対6で戦っている訳なのだ。
が。
「今やる事だったノカ……?」
そう、タイミングだ。こちとら今後の人?生が懸かっているんだけど。
俺が鎮守府での艦娘見物ライフが送れるかどうかの大一番。それがいよいよ明後日に迫る中、
「今やる事って……演習の事っぽい?」
「おわァビックリしたァ!突然後ろから話しかけるなヨ夕立!」
「えへへー、ごめんっぽい!」
敵艦隊からの魚雷を避けつつ器用に会話する。
「あんなんに当たりたかねーからな、艤装クンよ……魚雷射出。」
『ガウ!』
尻尾の頭が水中に潜り、口から魚雷を発射する。
離れで水飛沫が起きる。どうやら当たったようだ。やるじゃねぇか。
あの終始虫の息だった艤装も、緑色のバケツの中身をぶっかけてから中々調子が良い。
先制雷撃も相手の武蔵に見事命中したからな。
「ははっ!やってくれるじゃないか!だが、まだ温い。あの時のお前はもっとギラギラしていたぞ!」
と、武蔵の主砲から弾丸が腹めがけて射出される。それをエンジンを噴射させて、自身の軌道を無理やり横にずらすことで回避。
少し体勢を崩したせいか、肩にペイント弾のインクが少量付いた。
ちなみにエンジンはナップザックのように背負って装備している。重い。
「危ナッ!だから、あの時ってなんだヨ!」
「体勢を直すのが遅いな!」
「ウグッ!」
重いエンジンに気を取られて体勢が崩れたままな所を副砲で狙われ、数発が脇腹に当たる。
《レ級、中破》
そんなアナウンスが海に響く。さすが武蔵、火力がエグい。
「っの野郎!お返しダ!」
『ガゥギャ!』
素早く艤装の砲の照準を合わせ、放つ。
「グ……」
《武蔵、小破》
数発当たったようだ。なんだよ……結構当たんじゃねぇか……
「最後にこれでも喰らっとけ!」
そして主砲を武蔵の顔面へシュゥゥゥ!!!
「アウッ」
《武蔵、中破》
「超!エクサイティン!!」
「め、メガネがインクで!」
インクまみれになったメガネを取る武蔵。あとで謝っとこう。
「お見事っぽい!次は航空戦っぽい!」
「航空戦艦の異名が伊達では無いことを見せてやれ、レ級!」
「ん、頑張れ。」
「制空権、また取れなかったらダメなのです!」
「そうよ、使い方分からないとかお話にならないわ!」
仲間から檄を飛ばされ、野次を飛ばされ。
1ターン目の航空戦は艦載機の操作が分からずアッサリ制空権を取られてしまうという失態をやらかしているため、致し方無し。
あと俺がクソエイム過ぎてた。恥ずい。
「あーあー皆まで言うナ!モウ大丈夫!」
さっき一通り理解したため、もう大丈夫だろう。恐らく。多分。Maybe。
そもそもね?俺は戦争なんざとは無縁の日本生まれ日本育ちなんですよ。艦載機の使い方やら戦い方やら、分かるわけ無いやろって。
深海棲艦としての本能的感覚が無かったら間違いなく俺は詰んでた。
「──さテ、妖精サン。深海棲艦の言うこと聞くのは癪だろうケド、まァ頑張レ。」
『────!』
頭に艦載機を操縦する複数の「妖精」の声が響く。
どれも好意的な声音。これは信頼出来そうだ。
「ヨシ、んじゃ行こうか。艤装も準備は良いな?全機離陸、さァ飛び立テ!」
艤装が開けた口から艦載機が複数飛び出す。深海棲艦特有のものでは無く、艦娘の。
衝突、砲撃の末、制空権を握ったのは……
「──っし、オマエラ良くやっタ!」
こちら陣営。やったぜ。
「さてここからが本番ダ、みんな気を引き締めて行けヨ?」
「「「おー!」」」
「……
◆
「だーッ!負けター!」
「勝ったわ!」
演習終了。ギリ負けで終わった。くやしい(小並感)
砲を返却し、談話室のソファーに飛び込む。
「あそこで私が砲撃を当てていれば……すまない」
「私があそこで避けてればなー……」
「反省は後だよ。とりあえず講評を聞こう。」
初めての演習だったが、まぁ健闘した方だろう。
提督が部屋の扉を開ける。
「とりあえず皆、お疲れ様だな。」
「司令官!私勝ったわ!」
「ああ、見たよ。じゃあ講評を始めようか。」
───
「──だな。ビスはこんな感じかな。」
「分かったわ。」
「金剛も旗艦としてだいぶ良くなってきたけど、スグに感情的になる癖は直そう。そこが金剛のいい所ではあるけどね。」
「デース……」
「でも、制空権を取られた時の咄嗟の判断はとても良かった。成長したな。」
「提督!…バーニングラァァァァアーブ!!!!!!」
「さて、Aチームはこんなところかな。次はBチームだ。まずは長門──」
────なんて言うか……ガチだな。
いや、分かってるよ?軍ですからね。長年にわたる海戦の前線ですから。
ただね?オニーサンちょっとついていけないかなーって。
ほらもう、こんな話誰も興味無いから皆ブラウザバックしてるもん。
「さて、次はレ級だね。」
「あ、はイ。」
「まず、艦載機。最初使い方が分からず制空権を取られても、慌てず使い方を確認してきちんと取り戻したのは良かった。けど、その後。せっかく取った制空権をあまり生かせてなかった。制空権があるだけでできることはかなり多くなる。良く周りを見ることだ。」
「ウス……」
簡単なこと言ってくれるねぇ……。純日本人に器用な戦いを求めるんじゃないよ。そもそも前線に出ることなんかないんだから。誤射されるがな。
「あ、そういえばレ級。」
「ン?」
「定例会で君が認められたら、軍から制服が支給される。期待しててくれ。」
誤射の可能性が無くなった!?
───
「──うん、こんな所かな。皆お疲れ。」
っっっ終わったーー!長かった……
「レ級、間宮さんが演習終わったら来てくれって言ってたぞ。」
「マジ?行ってくるわ。サイナラー!」
もしかしたら新スイーツとかあるかもしれん、急がねば!
◆
バタン、と扉が閉まる。バタバタバタと壁越しに足音が聞こえ、やがて遠のいていく。
完全に音が聞こえなくなると……
「「「「っハァァァーー!!」」」」
大きなため息が部屋に響く。
「緊張したぁー……」
「緊張したのはコッチデース!ヒヤヒヤしたデース!」
「ん、金剛さんずっとソワソワしてた。」
「武蔵さん、再三言うけどアレはあの時対峙したレ級とは別人格だから。なんならアレが主人格だから。」
「あぁ、あいつからは例の禍々しい瘴気も出てないし、何よりあの時に感じたギラギラが無い。やっと納得したよ。」
「でも無事で良かったっぽい!」
「いや、本当にお疲れ様。何とか平穏に終わったね。」
彼女らがこんなにも気を張り詰めていた理由。それは、例のレ級の『裏』
にある。
「『深海棲艦の人格』──仮にウラと呼んでるが、出てこなくて良かった。」
「ウラが出る条件……《脳への大きな衝撃》はほとんど間違いないな。」
「そうだな。まぁペイント弾ごときが当たったところで出てこないと思うが……」
「それでも疲れたデース……」
まぁ何事もなくて良かった。とお疲れ様ムードが漂う。
そこへ話を切り出したのは、響。いやヴェールヌイだった。
「……司令官。言い出したのは私だけど、ウラが出るスイッチが脳の衝撃はちょっと怪しいと思うんだ。」
「どういうこと?」
と雷。
「脳への衝撃はあくまで1つの過程に過ぎない。言わば間接的原因。問題はその脳への衝撃が引き起こした結果、それが答えだと思う。それは──」
「──なるほど。《気絶》か。」
とビスマルク。
「そう、それだ。何らかの要因であのレ級の意識が消えるとウラが代わりに出る。私はそう思ってる。」
「じゃあ、寝てる時は?ウラは出ないのです?」
そう電が言うと、ヴェールヌイは待ってましたと言わんばかりに口を開く。
「いい質問だな電。そう、そこだ。睡眠も一種の気絶なのに、ウラが出ないのはおかしい……
だから、私はこう仮説を立てた。《自身に脅威が迫り尚且つ主人格の意識が無い場合》だ。つまり、ウラは一種の防衛本能……とでも言おうか。」
「……なるほど、確かに充分ありえる話だ。その仮説が本当なら、あのレ級はここを安全な場所だと思ってくれているという事になる。なんだか嬉しいな。」
だからこそ。だからこと何とかしなければ。と提督は胸の内にそう考える。
生前がどうとか、性別がどうとかそんなことはもはやどうでも良い。あんなに良い子が頭の硬い上の連中のせいで悲劇に逢うなどあってはならない。と。
わけも分からないまま命を狙われ、檻に入れられ、あまつさえ親しくなった友人と離れ離れにされ。
今度は軍に利用されようとしている。こんなことがあっていいのか?
「なぁ皆、聞いておきたいことがあるんだが。」
なんだなんだと全員が提督に注目する。
「あのレ級のことなんだが。ほとんどドックにいて会ってない武蔵と、あまり接点のなかった金剛はいいとして、皆はここ数日過ごしてどう思った?」
「……私は、笑顔でスイーツを食べている姿を見た時、不覚にもときめいてしまった。悪魔とも呼ばれる深海棲艦であるということも忘れ、ただの愛らしい少女にしか見えなくなってしまった。」
と長もん。間違えた、長門。
「私は……そうね。提督がいなかった時、ご飯を作ってくれたのよ。生姜焼きを作ってくれたわ。
そりゃあ初めはさすがに警戒したけど、あまりにもいい香りに負けて食べてみたらね。もうとっても美味しくて。
また作ってと言ったら、笑顔で『いいヨ』って。あの時感じたあれが俗に言う"バブみ"って奴なのかしら……」
とビスマルク。
「どうって……私達姉妹はだいたい同じ感じだと思うのです。」
「そう、『真のレディー』とは何なのか……一緒に考えてくれたの。それに、子供扱いもしないし。」
「背丈はそんなに変わらないけど、あれはまた違う種類の『レディー』ね。深海棲艦とはとても思えないわ。」
「あぁ。そして何より、こんなことになった元凶とも言える私達を快く許してくれた。それだけじゃない。戦闘のアドバイスまでしてくれた。」
と第六駆逐隊4人。
「レ級ちゃん、いつも笑ってるっぽい。人当たりも良くて、根っから善なんだって分かるっぽい。
……今までレ級ちゃんが何をしてきたのは知らないっぽい。けど、あんなに優しくて良い子が不幸な目に逢うなんて、私は許せないっぽい!」
と、最後に夕立。彼女の言葉に、皆頷く。
「うん、そうだね。その通りだ。笑ったり、怒ったり、驚いたり。そんなの、もう人と、艦娘と変わらないじゃないか。いくら深海棲艦だとしても、あそこまで酷な思いをさせるなんてあんまりだ。」
今のあの子が常に浮かべている笑顔は、きっと偽物だ。色々な感情を押し込んで、見えないようにして。悟られぬように、人あたりの良さそうな笑顔を貼り付けている。
そんなの、悲劇以外ほかあるだろうか。
「……助けたい。」
誰かがそう小さい声で言葉を零す。
その言葉は、全員の思いが重なった故なのか。
「──あぁ、助けよう。救おう。それ以外に、選択肢があるか?」
「
「…そうだな。あの笑顔を見ると、胸が苦しくなるような感覚を覚える。あんな笑顔をいつも見られるのなら、これ以上の幸福は無いだろう。」
そんな長門の言葉に、全員が深く頷く。
偽物じゃない。ここにいる全員が、あのレ級の『本物』の断片を見ている。知っている。
「やるぞ。目指すはレ級の人権の確保。並びに友人のネ級の解放だ。」
「ネ級は解放までとは行かずとも、何時でも会えるようにはしたいな。」
「同感ね。結局あの子はネ級と話している時が1番幸せそうよ。」
「ネ級のこともレ級のこともまだ良く分からないデスけど……でも、演習の前にご飯を食べた時、ネ級について話すレ級の顔は素敵デシタ!いつも雑務をしてくれていてとても助かってマスし、私も何か手伝いたいデース!」
「……私はまだ彼女がどんなものなのか、正直よく分からないが……演習のあとメガネについて謝られた時、少なくとも悪いやつでは無いのだと思った。おそらく、皆の言う通りあのレ級はとても素晴らしいのだろうな。
この武蔵、微力ながら協力しよう。」
「……決まりだな。それじゃあ、やるぞ。ビス、ドックの大和と雪風と陸奥に繋いでくれ。」
「分かったわ。」
執務室近くの談話室。後世の教科書に載る伝説の作戦が、幕を開けた瞬間の場所だった。
大和「妖精さん、あとどのくらいで修復が終わりますか……?」
妖精『あと4時間ってところだね。』
大和「はぁ……高速修復は出来ないのでしょうか?」
雪風「大和さん、司令も言ってたでしょ?
大和は高速修復剤を使い過ぎてる、そろそろ副作用が無視できない規模になってくるからダメだって。……私あとどのくらい?」
妖精『あと2時間半かな』
大和「それは分かってはいるのですが……演習したかったです」
陸奥「あら、それは私も同じよ?ちなみに私は?」
妖精『あと6時間だね』
陸奥「高速修復剤を」
妖精『駄目。使い過ぎ。』
陸奥「(絶句)」
大和「そろそろ演習が終わった頃でしょうか……はぁ。」
女衛兵「失礼します!3名全員に提督より架電です!」
大和雪風陸奥「……え?」