帝国騎士の旅路
吹き荒ぶ吹雪の中、一隻の気球が進んでいく。
重厚な装甲が施された気球には数多くの傷跡が残されていた。
「…最初の渓谷を抜けただけでこの有り様とはな…」
気球から一人の女性が顔を出す……二十歳ぐらいの歳で長い金髪、蒼い眼…そして美しい顔立ちの女性だった。
だが、街中で彼女を見て声を掛けようとする者は恐らく居ないだろう……なぜなら、その身に重厚な甲冑を纏い手には機械仕掛けの大剣を持っているからだ。
インペリアル……帝国が誇る重騎士…余人では使う事はおろか持つ事さえ難しい機械仕掛けの砲剣を手足の如く使いこなす者達…
「セルマ様、顔を出すのは危険です」
一人の兵士が女性に声を掛けた。
気球には女性以外に複数の人間が乗っている様だ。
「解っている」
セルマと呼ばれた女性は静かに答えて遥か先を見通してから顔を引っ込めた。
「…副長、被害の程は?」
「ハッ……三人が死亡…二人は重症を……気球の方も小破してます」
セルマの問いに中年の兵士が答えた……どうやらセルマと呼ばれた女性を隊長に旅をしている様だ。
二人のやり取りを聞いて他の兵士達がざわめき始めた。
「おい、俺達これからどうなるのかな?」
「……渓谷を1つ越えただけでこのザマだ…下手すりゃ全滅だな…」
「冗談じゃねぇ!!…不吉な事を言うな!!」
兵士達はそれぞれ不安を口にし、言い合いを始めた……それを見たセルマはウンザリした表情で一喝した。
「お前達、いい加減にしろ!!…皇帝陛下やローゲル卿はこの困難な道程を通ったと言うのに、このザマは何だ!?」
セルマの一喝に兵士達は驚き口を閉ざした。
そして暫くして一人の兵士がオズオズと口を開いた。
「……しかし、皇帝陛下とローゲル様が旅立たれてから十年近く経ちます……本当に生きておられるのでしょうか?」
「…それを確める為に我々はこうして旅をしているではないか……大丈夫だ、必ず生きている」
不安にかられた兵士達を元気づける様にセルマは自信を持って答えた……その時、見張りの兵士が緊迫した声で叫んだ。
「敵襲!!…敵襲!!…アイスシザーズが来るぞ!!」
気球内に、にわかに緊張が走る。
「砲撃用意!!…動ける者は迎撃に当たれ!!…取り付かれる前に撃ち落とせ!!」
セルマの号令に兵士達は皆行動に移った。
気球に巨大な蟷螂のモンスターが迫る……凍り付いた鎌を振りかざし猛スピードで襲い掛かる姿はさながら死神の風体を醸し出していた。
「セルマ様!!…砲撃の準備が出来ました!!…砲撃の命令を!!」
兵士が緊迫した声でセルマに砲撃命令を求めた。
「まだだ!!…よく引き付けろ!!…あの速度だ、外したら次弾装填する前に突っ込まれるぞ!!」
セルマは落ち着いた声で兵士に言い聞かせた。
アイスシザーズが更に気球に迫る……その距離は20メートルも無い。
「セルマ様!!」
「よし、撃てぇぇぇ!!」
セルマの命令に応えて気球から大砲が放たれる。
「シュギャァァァァァ!!」
砲弾はアイスシザーズに直撃し、アイスシザーズは悲鳴を上げて大きく吹っ飛ばされる。
「やった!!」
「…まだだ、次弾装填!!…急げ!!」
歓声を上げる砲撃手にセルマは厳しい声で命令した。
アイスシザーズは大きく吹っ飛ばされても、その闘争本能は衰え様子を見せなかった。
先程の砲撃で腹の外骨格が爆ぜ割れて体液を噴き出しながら迫ってきた。
「ヒィィ!!」
砲撃手はその様子を見て悲鳴を上げながら次弾を装填し、再び狙い撃った。
アイスシザーズはまた悲鳴を上げて大きく吹っ飛ばされたが、意に介した様子も無く再び気球に迫ってきた。
「アイツ、何なんだ!?…痛みや恐怖を感じないのか!?」
砲撃手はアイスシザーズのおぞましいまでの執念に恐怖を覚え、更に砲撃を加えた。
「…痛みは知らんが恐怖は感じてないのかもな……無駄撃ちはするな、頭を狙え!!」
砲撃手はセルマの指示を受けてアイスシザーズの頭部に狙いを付けて撃ち放った。
アイスシザーズの頭が吹き飛び、そのまま動かなくなり地上に落ちていった。
「はぁ…はぁ…はぁ……なんて非常識な奴なんだ…」
砲撃手は落ちていくアイスシザーズを見ながら息を荒げて呟いた。
「…全くだな…あんなのがこの先の道程に待ち構えてると思うとゾッとする…」
セルマもまたウンザリした調子で呟いた……その時、大きな影が気球に被さる。
セルマは慌てて上空を見上げると、そこには巨大な怪鳥が気球を見下ろしていた。
赤と黒で彩られた羽、鋭い嘴とカギヅメ……そして獲物を狙う眼……怒れる猛禽の姿がそこに在った。
「一難去って、また一難か……この角度では砲撃が出来ん……逃げるぞ!!」
セルマの指示で気球は全速力で猛禽から逃げたが、猛禽は凄まじい速度で気球を追い掛けてきた。
「くっ…位置取りをして砲撃しろ!!」
「ダメです!!…あの鳥、常に砲撃出来ない角度を維持して飛んで来ます!!」
「何だと!?……先程のアイスシザーズの戦いを見て発射角を見切ったと言うのか!?」
砲撃手の報告を受けてセルマは苦悶の表情で呟いた。
怒れる猛禽の爪が気球に襲い掛かかろうとした瞬間……
「グォォォォォォォ!!」
遠くから怒号にも似た咆哮が聞こえてきた。
怒れる猛禽はその咆哮に驚き、逃げる様にして飛び去って行った。
「…助かった様だな、だが今の叫び声は一体?……!!…アレは!?」
吹雪の中、遠くで巨大な生物の影をセルマは見付けた。
…蒼い体色、巨大な翼、そして三つの頭……氷嵐の支配者、ドラゴンだ。
「……まさか、あの生ける伝説…竜を見る事が出来るとはな…」
「……全くです…セルマ様…如何しますか?」
眼を見開き戦慄するセルマに副長が指示を伺った。
「……お前は挑んでみたいか?」
「御冗談をセルマ様……皆、逃げるぞ!!」
副長の指示で気球は氷嵐の支配者から遠ざかって行った。
竜は気球に特別関心を示す事無く、悠然と空を飛んでいた。
「…どうやら、アチラさんは人間に興味が無い様ですね」
「そうだな…我々にとって幸いな事だ」
セルマと副長は竜の様子を見てホッと胸を撫で下ろした。
「…先はまだ長いな…」
セルマは遥か先の地を見渡して呟いた。
セルマ達の旅は続いた……犠牲を払いつつも、幾つもの大地と渓谷を越えて同胞が居ると思われる地に向けて…
厳しい自然の驚異と迫り来る巨大なモンスター達に時には立ち向かい、時には退き進んで行った。
だが、遂に乗っていた気球に限界が訪れた。
旅の道程で度重なるダメージを受け続けてきた気球は既に耐久力の限界を越えて、飛んでるのが奇跡的だった。
穏やかな風と見渡す限りに広がる草原……牧歌的な風景を見せる大地に気球は不時着した。
地に落ちた気球から1人セルマだけが降り立った……他の兵士達の姿は無かった。
「……生き残ったのは……私だけか…」
暗い表情でセルマは呟いた。
とその時、落ちてきた気球に興味を示したモンスター達がセルマの周りを囲んできた。
見た事の無い大きなバッタやネズミにガエル…中には一際大きい真っ白いカンガルーまで居た。
「…フン…実に牧歌的だな……しかし、この数…今の私には荷が重いな…」
ここまで生き残ってはいたがセルマも決して無傷では無かった……長い道中、付けられた傷は深い物で立って居るのも不思議な位にセルマは傷を負っている。
セルマは死を覚悟したその時、上空から叫び声が聞こえてきた。
「捕まれ!!」
その叫びと共に上空から別の気球が地表スレスレに高速で飛んで来た。
セルマはその声に反応して気球に掴まった。
そして気球は急上昇しモンスター達を振り切った。
「…危ない所だったな…帝国の騎士さん」
気球に乗り込んだセルマに男が声を掛けた。
「お前は帝国を知って……!!……貴方は!?」
自らの素性を知る男に訝しげな表情を浮かべて質問をしようとしたが、男の顔を見てセルマは驚愕した。
「ローゲル卿!!…生きていたのですか!?」
一見冴えない風体の男が探していた人物である事にセルマは驚きを隠せないでいた。
「おっと、こっちではワールウィンドって名乗ってるんだ……そっちの名で呼んでくれ………しかし驚いたな、その鎧の紋章は帝国四将の物だろ?」
ワールウィンドと名乗った男もまた驚きの表情で答えた。
「…失礼しました、私はセルマートと申します……御察しの通り、帝国の現四将です」
「ああ、ここではそんなに堅っ苦しくする必要は無いよ……寧ろ、帝国出は隠しておいて欲しい」
セルマの言葉にワールウィンドは手をひらひらさせて答えた。
「…取り敢えず積もる話はタルシスに戻ってからにしよう」
…気球は一路タルシスを目指して飛んで行った。
やがて、セルマの目に賑やかな街並みが見えてきた。
ここからが本当の冒険の始まりである事にセルマはまだ気付いていなかった。
ここまで読んで戴いて有り難うございます。
ちょっと新しい事にチャレンジしてみました。
個人的には好きなゲームなので一度書いてみたかったので挑戦してみました。