世界樹に挑む者達   作:猫太子

2 / 7
ある夜賊の始まりの物語


血と裏切りの祝杯

ここはマルク統治院。

 

 

タルシスの政治の中枢で辺境伯が、ここで統治を行っている。

 

 

辺境伯は冒険者達にミッションを頼む事もあり普段は開かれているのだが……この日の夜は違った。

 

 

統治院には多くの兵士や辺境伯にとって信頼のある名うての冒険者達がひしめき合って辺りを警戒していた。

 

 

今、統治院は厳戒体制にあった。

 

 

…理由は辺境伯を暗殺する為に刺客が放たれたと言うタレコミが前日に有ったためだ。

 

 

相手は腕利きのナイトシーカー達のギルド……トランプの一員…と言う情報を聞いて辺境伯は兵士達だけでなく冒険者達にも依頼した。

 

 

だが、いくら待っても刺客は来ない為、次第に兵士達の緊張が緩んでいった。

 

 

統治院の周りを囲っている高い塀に寄っ掛かって二人の門番達が雑談を始めた。

 

 

「……なぁ、本当に来ると思うか?」

 

 

「……さぁな…ガセかもな…」

 

 

二人は欠伸を噛み殺して言い合った。

 

 

「…所でトランプって何だ?」

 

 

1人の門番が同僚に質問してきた。

 

 

「お前、知らないのか?…あの悪名高いナイトシーカーの集団を…」

 

 

もう1人の門番が呆れて説明を始めた。

 

 

「良いか?…トランプってのは所謂、暗殺ギルドの事で殺しを生業にしてる連中だ……トランプの番号をコードネームに持ち、強さはトランプの番号にそって上がっていく」

 

 

「へぇ、じゃあ一番強いのはA(エース)って訳か」

 

 

得心がいった様に門番が答えた。

 

 

「…現状ではな…」

 

 

と、ここで辺境伯に護衛を依頼された中年の冒険者が姿を現して二人に答えた。

 

 

「あっと、巡回ご苦労様です」

 

 

門番達は慌てて冒険者に敬礼した。

 

 

「ふん、弛んでるぞ!!…門番がそれでどうする!!」

 

 

中年の冒険者は二人に一喝した。

 

 

「申し訳ありません」

 

 

「以後気を付けます」

 

 

二人は口々に謝罪の言葉を述べた。

 

 

「…まぁ、良い…こんだけ待っても現れないんだ……気持ちは解るが……じゃあ俺はもう行くからな…」

 

 

中年の冒険者は半ば呆れた様に言った。

 

 

「…あの、さっき言った現状ではとはどう言う事ですか?」

 

 

「……お前達、トランプで一番強い札を忘れてるぞ……もっとも、ソイツは先代の首領と共に行方不明になったがな…」

 

 

冒険者はそれだけ言って立ち去って行った。

 

 

「一番強い札………あっ…ジョーカー?」

 

 

残された門番はポツリと呟いた。

 

 

と、この時高い塀を乗り越えて統治院に侵入した影があったのだが…門番達は全く気付いていなかった。

 

 

「……ザルな警備だ…警戒して、このザマとはな…」

 

 

塀を乗り越えて影は独り言を呟いた。

 

 

月明かりに照らされて影が姿をあらわにした。

 

 

漆黒の服とズボンの出で立ち、服の上にロングコートとマントを羽織った覆面姿の男が統治院の敷地内にある庭に立っていた。

腰のベルトに二本の剣と二本のダガーを帯びて、コートの内側に投擲用の短刀が大量に仕込まれていた。

 

 

「…まぁ、だから俺みたいな奴が雇われてるんだがな……てめぇが暗殺者か?」

 

 

先程の中年の冒険者が物陰から姿を現して剣を抜いた。

 

 

「…………………」

 

 

男は無言で冒険者を見た……そして…

 

 

「がっ!!」

 

 

冒険者が斬りかかろうと迫った瞬間、神速の速さで短刀をなげつけた。

 

 

短刀は冒険者の喉元に突き刺さり絶命した。

 

 

「……どうやら腕の立つ冒険者を大量に雇った様だな…」

 

 

男はそう呟き、冒険者の死体を物陰に隠した。

 

 

「…少し急ぐか…」

 

 

再び呟き、男は庭から建物の中へ侵入した。

 

 

中は兵士と冒険者達が巡回して回っていた。

 

 

また各階段や扉、エントランスに五人組の見張りが張り付いていた。

 

 

「…中は厳重だな…だが、妙だな……中と比べて外がザル過ぎる……罠か?」

 

 

男は訝しげに独り言を呟いた。

 

 

「……一度出直すか?」

 

 

男は踵を返そうとした時、背後から声を掛けられた。

 

 

「待ちな……ジャック、何処に行くんだい?」

 

 

 

ジャックと呼ばれた男は振り返った……そこには1人の女性が立っていた。

 

 

女性は長い金髪でワインレッドのホットパンツとボンテージ風の衣装を着込んだ二十歳位の女だった。

 

 

そして、腰に二本の剣をさしていた。

 

 

「……クイーン…何しに来た?」

 

 

ジャックは女性に対して質問を投げ掛けた。

 

 

「忘れたのかい?…今回の見張り手は私だと言う事を…」

 

 

クイーンと呼ばれた女性はジャックにそう答え、退路を塞いだ。

 

 

「ジャック、この依頼は途中で降りるのは禁止だよ?」

 

 

「降りるのでは無い、出直すだけだ!!」

 

 

クイーンの言葉にジャックは声を荒げて言った。

 

 

「バカ!!…声が大きい!!…見付かったらどうするんだい?……出直すにしても同じ事よ、期限は今日までなんだからね」

 

 

「何だと?…依頼を受けた時点じゃ期限は設けないと言ってた筈だ!!」

 

 

「そんなの知らないわよ…急に変更になったんだから」

 

 

クイーンの言葉を聞いてジャックは憤慨して言った。

 

 

「バカな!!…規約違反だ!!……悪いが俺は降りるぞ!!………規約違反の依頼に対して放棄しても咎めは無しの筈だ」

 

 

「ざ〜んね〜ん……期限を今日までに変更したのは依頼人じゃなくボスよ」

 

 

「!!……キングがだと!?」

 

 

ジャックは驚きの表情でクイーンを見つめた。

 

 

「ほらっ…行った行った……早い所仕事を済ませな」

 

 

「くっ………後でキングに問い詰めてやる!!」

 

 

ジャックはそう言い残して奥に進んだ。

 

 

「……どうぞご自由に………それが出来たらね」

 

1人残されたクイーンはそう呟いて姿を消した。

 

クイーンの言葉に憤りつつもジャックは見張りをかわしながら奥へ奥へと進んで行った。

 

 

一見死角が無い様に見えるが、所々警戒の薄い箇所があったのでジャックはその隙を突いて進んで行った。

 

 

……まるで誘われるかの様に…

 

 

「……やはりおかしい……誘導されている……これは…やはり罠か?」

 

 

ジャック不審に思いながらも歩を進めていく、やがてジャックは統治院のある部屋に辿り着いた。

 

 

…中はもぬけの殻だった。

 

 

「…ここではないか…」

 

 

ジャックは執務室を出ようとしたが、いつの間にか部屋の扉は閉ざされ鍵を掛けられていた。

 

 

「悪いがここが終点だ」

 

 

部屋のアチコチから冒険者達が姿を現した……どうやらこの部屋に隠れて潜んでいた様だった。

 

 

「……………全員で五人か…」

 

 

冒険者達の陣営は前衛に巨大な盾を持ったフォートレスが三人、後ろで弓を構えたスナイパーが二人

 

 

「相手はナイトシーカー1人だ、一気に潰せ!!」

 

 

リーダー格のフォートレスが号令を掛けて襲い掛かろうとしたが、ジャックは慌てずコートから投擲用の短刀を五本抜き取り、そのまま冒険者達に投げつけた。

 

 

「がっ!!」

 

 

「ぐっ!!」

 

 

「ぐはっ!!」

 

 

冒険者達は次々と悲鳴を上げていった……そして全員体が痺れて思うように動けなくなった。

 

 

「…麻痺の投刃!!……いや、そんな事より先制スプレッドだと?」

 

 

リーダー格のフォートレスは恐れをなして逃げようとしたが……麻痺して体が思うように動かなかった。

 

 

ジャックはそのまま止めを刺そうとしたが部屋の外からかなりの数の足音が近付いて来たため、止めを断念し窓から外へ飛び出した。

 

 

「………チッ……失敗か……いや、コイツら…最初から俺の事を………これは依頼自体が罠だな…」

 

 

ジャックはそのまま塀を乗り越えて退散しようとしたが……塀の前に1人の騎士が道を塞いでいた。

 

 

まるで待ち構えていたかの様に…

 

 

「…!!……何だ、コイツ…」

 

 

騎士の風体にジャックは驚きの声をあげた。

 

 

重厚な鎧を身に纏い、鉄仮面を被った姿で手には機械仕掛けの大剣が握られていた。

 

 

…それは砲剣と呼ばれる兵器でタルシスより遥か北の帝国の騎士達が使う剣なのだが、そんな事ジャックの知る由ではなかった。

 

 

「ジャック…スート(絵札)を冠された凶手よ……悪いがここで捕まって貰う」

 

 

騎士はジャックに向かってそう言った。

 

 

「……鉄仮面で顔が解らないが、声からして男の様だな……しかし、俺の事を知ってるとは……やはり罠だったか!!」

 

 

ジャックは憤怒の声を上げて騎士に襲い掛かった。

 

 

二本の剣を引き抜き、ジャックは騎士に斬りかかったが騎士は巨大な砲剣を自在に操りジャックの剣を防いだ。

 

 

「チッ……思ったより小回りが利くな…」

ジャックはそう呟き一旦後ろに下がって距離を取った……ところを騎士は猛スピードで突進してジャックに斬りかかった。

 

 

「食らえ…アサルトドライブ!!」

 

 

砲剣は甲高い駆動音と爆発音を撒き散らしてジャックに迫った。

 

 

そして斬撃と共に凄まじい衝撃波が襲い、ジャックもろとも周辺の地面を消し飛ばした。

 

 

「むっ!!……やり過ぎたか………なんて事は無いようだな」

 

 

騎士の背後に消し飛んだ筈のジャックが立っていた。

 

 

「ハイドクローク……うつせみか……用意が良いな…」

 

 

 

騎士は称賛の声を上げた。

 

 

「…………」

 

 

それに対してジャックは無言で答えた。

 

 

「アソコに居たぞ!!…追え!!」

 

 

統治院の中から兵士と冒険者達が大量に姿を現し二人の元に迫った。

 

 

「おっと、この姿を見られるのは不味い……私は退散するとしよう」

 

 

騎士はそう言い残して姿を消した。

 

 

「……フン…」

 

 

ジャックも短く嘆息し、塀を乗り越え様としたが…

 

 

遠くから風切り音が聞こえ、そしてジャックの腕に短刀が突き刺さった。

 

 

ジャックは強烈な睡魔に襲われ、その場で倒れた。

 

 

「!!…これは…クイーンの投刃!!」

 

 

塀の上でクイーンがニヤニヤした顔でジャックを見下ろす。

 

 

「だから言ったろう?…途中で降りるのはダメだって……まぁ、最初からアンタには捕まって貰う積もりだったけどね」

 

 

「…どう…言う……事だ?」

 

 

薄れ行く意識の中ジャックはクイーンに問い質した。

 

 

「…ボスがさ……アンタの事が邪魔だってよ……だからアンタはここで消えて貰うわ……次会うときはアンタは死刑台の上かしらね」

 

 

「…おのれ…キング……裏切ったな!!」

 

 

そこでジャックの意識は無くなった。

 

 

ジャックが次に目を覚ましたのは薄暗い地下牢の中だった。

 

 

「ここは?……そうか、俺はあの時、クイーンに」

 

 

ジャックはここまでの経緯を思い出し、怒りをあらわにした。

 

 

「くそっ!!…クイーンめ!!」

 

 

そう叫んで牢の壁に拳を叩きつけた。

 

 

その後ジャックはすぐに冷静さを取り戻して自分の身体をチェックした。

 

 

(……どうやら睡眠以外厄介な毒は盛られて無い様だな……装備は…さすがに取り上げられたか…)

 

 

ふと、部屋の隅に貯まっていた水溜まりを覗き込んだ。

 

 

水溜まりには覆面を剥ぎ取られた自分の顔が映っていた。

 

 

長い銀髪、紅い双眸……そして整った顔立ちの二十歳前の青年……血色は悪かったが…

 

 

「…フン…それは元々か…」

 

 

そこで遠くから足音が近付いて来るのにジャックは気付き身構えた。

 

 

「…よう、殺し屋さん…景気はどうだい?」

 

 

冴えない風貌の中年の男が鉄格子の向こうから声を掛けてきた。

「…誰だ?」

 

 

「俺か?…俺はワールウィンドって名の冒険者だ…今日はお前さんに辺境伯から言伝てを伝える為に来たんだがな…」

 

 

男はペラペラと用件をジャックに伝えた。

 

 

「……言ってみろ」

 

 

ジャックはワールウィンドに話を促した。

 

 

「…取引がしたいんだとよ……ここから出す代わりに1つ仕事を頼みたいんだと……ああ、言っとくが暗殺の依頼じゃないぜ」

 

 

「……仕事だと?…一体何をさせるつもりだ?」

 

 

「…それは辺境伯に直接聞いてくれ」

 

 

ジャックの質問にワールウィンドは肩を竦めて答えた。

 

 

「……ここで話せ…」

 

 

ジャックはギロリとワールウィンドを睨んで静かに殺気立って言った。

 

 

「オイオイ、あまり我が儘を言うもんじゃ無いぜ……アンタだって自分の立場は解ってるんだろ?」

 

 

だが、ワールウィンドはジャックの殺気を涼しい顔で受け流した。

 

 

(……やはり出来る……そして、この気配…それに独特の足運び……恐らくコイツはあの時の騎士だな…)

 

 

ワールウィンドの様子を見てジャックは内心、警戒を強めた。

 

 

「それで、どうするんだ?」

 

 

ワールウィンドは訝しげな表情を浮かべるジャックに返事を促した。

 

 

ジャックは暫し思案し、そして…

 

 

「…解った、辺境伯の依頼を受けよう」

 

 

と答えた。

 

 

「うし、決まりだな……じゃあ早速ここから出て辺境伯に会って貰う」

 

 

ワールウィンドはそう言って鉄格子の扉を開いた。

 

 

「…っとそうだ、まだ装備は返せないがコイツだけは先に返しておこう」

 

 

ワールウィンドの手には一枚のカードが握られていた。

 

 

クラブのジャック……それは暗殺ギルド、トランプにおいてのジャックの身分を示すスート(絵札)だった。

 

 

「……それはもういらない、くれてやる……好きに処分しろ」

 

 

ジャックは素っ気なくワールウィンドに答え、出口に向かって歩いて行った。

 

 

「……いや、俺が貰ってもな」

 

 

ワールウィンドはそう言いながらカードを燃え盛る松明の中に入れようとしたが……

 

 

「ん?……何だ?……松明の熱に反応して別の絵柄が浮かび上がるぞ?」

 

 

不審に思いワールウィンドはそのカードを凝視した。

 

 

「!!…この絵は…」

 

 

ワールウィンドは浮かび上がった絵を見て絶句した。

 

 

「何をしてる、ワールウィンド!!…お前の案内が無いと統治院に入れないだろ!!」

 

 

遠くからジャックの声が響き渡る。

 

 

「あ、ああ…済まない直ぐに行く…」

 

 

ワールウィンドはカードを懐に仕舞い込んでジャックの元に急いだ。

 

 

(…辺境伯…アンタはとんでも無い悪魔を抱き込もうとしてるぞ)

 

 

ワールウィンドは静かに戦慄した。

 

 

…そう遠くない未来に再び、この男と対峙する姿を想像して…




ここまで読んで戴いて有り難うございます。


今回は夜賊(ナイトシーカー)を題材に書きました。

いやぁ、ナイトシーカーってカッコイイですよね……扱いに癖がありますが、その分ツボにハマった時は爽快です。


取り敢えず四人パーティを予定してます。


まぁ、原作でそれをやったらかなりキツいプレイになりますが…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。