世界樹に挑む者達   作:猫太子

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ある城塞騎士の始まりの物語


守れなかった盾

「ラルフ!!…そっちに行ったぞ!!」

 

 

「ああ、解ってる!!…村には入れさせねぇ!!」

 

 

剣を携えた青年が重装甲の青年に声を掛けた。

 

 

そして、青年に向かってモンスター達が殺到する。

 

 

グラスイーターの飛び蹴りが、ボールアニマルの体当たりが、森ネズミの必殺の前歯が……

 

 

「舐めるなよ!!」

 

 

気合いの声を上げて青年は自身の身の丈程ある巨大な盾を身構えた。

 

 

モンスター達の攻撃は次々と青年の盾に阻まれていった。

 

 

モンスター達が青年に阻まれてる隙に背後に控えていたスナイパー達が次々とモンスター達に矢を浴びせかけた。

 

 

「ギッ!!」

 

 

「グェ!!」

 

 

「ヂュッ!!」

 

 

モンスター達は急所を射ぬかれて絶命していった。

 

 

「…片付いたな……ラルフ、怪我は無いか?」

 

 

モンスター達が全滅したのを確認して剣を携えた青年がラルフと呼ばれた青年に声を掛けた。

 

 

「ああ、怪我は無いよ…ケイ…」

 

 

ラルフに剣を携えた青年にそう答えた。

 

 

「リオとグランツもご苦労さん」

 

 

ケイと呼ばれた青年は後ろのスナイパー二人組にも労いの言葉を掛けた。

 

 

「……どうも…」

 

 

「まぁ、余裕だったな」

 

 

スナイパーの二人はケイにそう答えた。

 

 

彼等は辺境伯に仕える衛士達だった。

 

 

元々、冒険者だったが辺境伯に腕を買われて辺境伯に直接仕える衛士に抜擢されたと言う経歴を持つ。

 

 

リーダーのケイはソードマンの青年で皆から信頼されてる、また剣技に長けて同年代の間で彼の右に出る者は居ないと言われてる。

 

 

ラルフと呼ばれた青年はフォートレスで茶色の髪と瞳で、その重厚な守りで敵の攻撃を通さない。

 

 

リオと呼ばれたスナイパーの少女はこの中では最年少だが、その弓の技量は高く狙った獲物は外さない。

 

 

グランツと呼ばれた青年のスナイパーはこの中では最年長で四人の中で一番経験が豊富、彼の機転で何度か窮地を脱した事がある。

 

 

彼等四人は辺境伯の指令で、ある村を守っていた。

 

 

この村は最近になって頻繁に起こるモンスターの襲撃に悩まされていた。

 

 

今みたいなグラスイーターやボールアニマル程度なら村の自警団だけで何とかなるのだが、最近では荒くれ沸沸やビッグボール果てに、さまよう沸沸まで現れるらしい。

 

 

ここまで来たら村だけではどうにもならない為、村長が辺境伯に直訴して腕利きの衛士を派遣して貰ったのであった。

 

 

「…まぁ、今日の所はザコ相手だったから良かったが油断は禁物だな」

 

 

ケイは他の三人にそう言って気を引き閉めた。

 

 

「そうだな、じゃあ取り敢えず村に戻ろう」

 

 

ケイの言葉に頷きラルフがそう提案した。

 

 

「いや、村にはケイとラルフだけ戻ってくれ……俺とリオは少し村の周辺に居るモンスターどもを探ってみる」

 

 

「?…どうしたんだ、グランツ…」

 

 

グランツの言葉にケイは訝しげに質問した。

 

 

「…少し気になってな……普通、モンスターの行動範囲なんてそうそう変わるもんじゃない……今回の件だって某かの原因が有ると思うんだ……ケイ達も村の人間からモンスターの襲撃が増え始めた頃に何か無かったか聞いてみてくれ」

 

 

「成る程、解ったよ…俺とラルフで村人達から情報を集めておくよ……グランツ達も気を付けてな」

 

 

「ああ、ヤバくなったら直ぐに戻るさ」

 

 

ケイとラルフは二人を見送ってから村に入って行った。

 

 

ケイとラルフはグランツに言われた様に情報を得る為に村長の家に向かった。

 

 

「村長の家はこの先だったな…」

 

 

「ああ、そうだ……にしても、ケイ…ここは喉かだな」

 

 

ラルフは村を見渡して言った。

 

 

時刻は正午、それぞれの家から良い匂いが風に乗って二人の鼻孔をくすぐる。

 

 

ラルフの腹の虫が鳴った。

 

 

「やべぇ、美味そうな飯の匂いを嗅いだら腹が減ってきた」

 

 

「…我慢しろラルフ……飯はリオとグランツが戻ってから食え」

 

 

ケイは呆れた顔でラルフをたしなめた。

 

 

「解ってるよ……しかし、この風景を見たら村に危機が迫ってるなんて嘘みたいだな」

 

 

「…そうだな……一見すると平和そのものだ……冒険者やってた時には縁遠い物だと思ってたがな」

 

 

ケイは暗い顔で呟いた。

 

 

「どうした?」

 

 

ラルフはそんなケイの様子を見て訝しげな表情を浮かべて声を掛けた。

 

 

「……なぁ、ラルフ…」

 

 

「ん?…何だ?」

 

 

「タマに昔みたいに冒険がしたいと思わないか?……こうやって辺境伯の下で働くのも悪くないけど、俺は前みたいに危険と隣り合わせの生活が性に合ってるんじゃないかと思う時がある」

 

 

ケイは真面目な顔でラルフに言った。

 

 

「……ケイ…俺達はもう冒険者じゃないんだ、昔を懐かしむのは構わないがそれに囚われるのはやめろ……それに、こう言う仕事だって必要だろ?…それに…」

 

 

ラルフはここで一呼吸入れて、それから穏やかな表情を浮かべてケイに言った。

 

 

「それに、お前には守るものが居るんだろ?……パパさん」

 

 

「なっ!?…ラルフ!!…何でその事を知ってる!?」

 

 

「バ〜カ…俺達何年の付き合いになると思ってる……と言うよりリオとグランツも知ってるぞ」

 

 

「…そうなのか?」

 

 

「…寧ろアレでバレて無いと思う方が不思議だよ……お前、ちゃんと男としての責任を取れよ?」

 

 

 

ラルフは鈍い相棒の様子を見て呆れた顔で言った。

 

 

「…解ってるよ……っと、村長の家に着いたぞ」

 

 

「…雑談してる内に着いちまったな……じゃあ入ろうぜ」

 

 

二人は村長の家に入って行った。

 

 

その頃、リオとグランツは二人して周辺に居るモンスターの調査をしていた。

 

今、二人は草むらに隠れて一体のモンスターの様子を見ていた。

 

 

「…話に聞いていたが、まさか本当に居やがるとはな……やはり変だぜ、アイツがこんな所に居るなんて…」

 

 

「……そうね…」

 

 

グランツの呟きにリオは言葉少なげに答えた。

 

 

二人の目の前に大きな沸沸が忙しなく辺りを見渡して警戒していた。

 

 

さまよう沸沸……本来、こんな所に居ない筈のモンスター……別名、ルーキー殺し、初心者がよく訪れる森の廃鉱を縄張りして、うっかりエンカウントした初心者の頭蓋をその豪腕で叩き潰す沸沸…

 

 

グランツ達のパーティにとって、さしたる驚異では無いがそれでも二人で挑むのは荷が少々重い。

 

 

「……ねぇ、グランツ……アイツ、一体何をあんなに警戒してるのかしら?……この辺のモンスターならアイツに敵う奴は…」

 

 

リオがグランツに質問しようとした瞬間、近くの崖の上から白い影が降り立ち、さまよう沸沸を殴り飛ばした。

 

 

吹っ飛ばされた沸沸はそのまま動かなくなった。

 

 

二人はさまよう沸沸を殴り殺した白い影を見て目を見張った。

 

 

それは巨大な真っ白いカンガルーだった。

 

 

「…オイオイ、聞いて無いぜ……ありゃ、うろつく跳獣じゃねーか」

 

 

「……嘘でしょ!?…アレは縄張りから出てこないモンスターなのに……何でこんな所に?」

 

 

予想外の乱入者に二人は息を飲む……うろつく跳獣は彼等の住む風馳ノ草原において上から2、3番目に強いモンスター、グランツ達がフルメンバーで挑んでも苦戦は免れない相手だ。

 

 

うろつく跳獣は辺りを見回してから走り去って行った。

 

 

「……グランツ…どうする?」

 

 

「…追って見るぞ……もしかしたら、アイツが原因で周りのモンスター達が縄張りを変えて村に現れてるのかもな」

 

 

「…危険じゃない?」

 

 

「ああ、解ってる……だから、ほんの少しでもヤバいと思ったら引き返そう…」

 

 

「…解ったわ、じゃあ見失わない内に行きましょう」

 

 

二人はそのまま、うろつく跳獣の後を追って行った。

 

 

リオとグランツが、うろつく跳獣の後を追っている時、ケイとラルフは村で村長の話を聞いていた。

 

 

「……では村長、モンスター達の襲撃が増えたのは先日の地震が起きた後なんですね?」

 

 

「そうです、ケイさん……あれから暫くしてモンスター達が村を襲う様になったのです」

 

 

初老に差し掛かる村長がケイの言葉を肯定した。

 

 

「まぁ、アレだけの地震だ……モンスター達にも影響が出てたんだろうな」

 

 

二人のやり取りを聞いてラルフはゲンナリとした表情で呟いた。

 

 

「そうだな、ラルフ……幸いタルシスやこの辺りはそれほど被害は無かったが風馳ノ大地の中央はかなりの被害が出たらしい……まぁ、アソコらへんは元々人間が住んでないから人的被害は無かったが…」

 

 

「…住んでないと言うより住めないと言った方が正しいがな……ふむ、ここはグランツが言った様にそうした原因が有ってモンスター達が暴れてるのかもな」

 

 

「…となると…リオとグランツが有益な情報を持ってくるのに期待したいな」

 

 

「そうだな、ケイ……俺達は村を回って他に情報が無いか聞いて回ろう」

 

 

「ああ、そうだな……じゃあ、村長さん…俺達はこの辺で」

 

 

ケイ達は村長に挨拶をして村長の家を後にした。

 

 

その後二人は各村人達に話を聞いて回ったが有益な情報は得られなかった。

 

 

そして夕方、二人は村長が用意した部屋でリオとグランツの帰りを待った……そして…

 

 

「…ただいま…」

 

 

「今帰ったぜ……収穫有りだ」

 

 

リオとグランツが部屋に顔を出した。

 

 

「二人とも、遅いぞ」

 

 

ケイは二人に抗議の声を掛けた。

 

 

「悪い悪い、だがお陰で原因が掴めたぜ」

 

 

グランツはケイを宥めながら言った。

 

 

「原因?…やはり何か有ったのか?」

 

 

「ああ、ラルフ…そうだ……先ずモンスター達が縄張りを変えた直接の原因なんだが……本来ここより北に棲息してる筈の、うろつく跳獣がこの辺に来てたからだ」

 

 

グランツの言葉にケイとラルフは目を丸くして驚いた。

 

 

「グランツ…それは本当か?」

 

 

「本当だ、ケイ……それで気になって元々、奴が棲息してた土地に足を運んだんだが……そこに有った筈の奴の住み処が何者かに荒らされていたんだ」

 

 

そこでグランツは背負い袋から一枚の巨大な鳥の羽を取り出した。

 

 

「これを見てくれ……コイツはうろつく跳獣の住み処に落ちてた羽だ」

 

 

ケイとラルフはその羽をシゲシゲと眺めて呟いた。

 

 

「何だ、この羽」

 

 

「…見た所鳥の羽の様だが……う〜ん、こんなデカイ羽は初めて見るな…」

 

 

訝しげな表情を浮かべるケイとラルフを見てリオが口を開いた。

 

 

「それ……圧倒する巨翼の羽よ…」

 

 

リオの言葉を聞いて二人は戦慄した。

 

 

圧倒する巨翼……巨大な鷲のモンスターで竜や未だ未確認の太古の鳥を除けば風馳ノ大地において最強のモンスター……その悠然たる姿で他を圧倒する空の王者……なのだが……

 

 

「ちょっと待て……圧倒する巨翼は高空に棲息するモンスターだろ?……何で地表に居るんだ?」

 

 

ケイの疑問はもっともであった……圧倒する巨翼は本来人間が住む土地より高地に棲息するモンスター……タルシスの技術で造られた気球でも届かない場所に棲息している。

 

 

「…まさか、この間の地震で住み処を失い地表に舞い降りたのか!?」

 

 

「ああ、恐らくラルフの言う通り地震のせいだろうな……圧倒する巨翼は中央に居たからな…」

 

 

グランツは渋い顔をして答えたが直ぐにフォローする様に次の事をケイとラルフに言った。

 

 

「…だが、悲観する事は無い…さっきも言った通り直接の原因はうろつく跳獣がこの辺に現れた事だ…圧倒する巨翼はコチラに来る様子は無い……もっとも、それもあの辺で餌が取れてる間だけだろうが…」

 

 

ケイはグランツの情報を聞いて暫く押し黙り、その後意を決した様に言った。

 

「……よし、取り敢えず俺達は当面の問題である、うろつく跳獣を倒そう…圧倒する巨翼に関しては辺境伯に報告してそれから対策を練るとしよう……グランツ、悪いが伝書鳩で辺境伯に現状の報告をしてくれ……恐らく俺達じゃ圧倒する巨翼には勝てないだろう」

 

 

「解った、早速報告書を纏めて辺境伯に送る」

 

 

「グランツ、頼んだぞ……明日、うろつく跳獣を討つ…皆、今日はゆっくり休んで明日に備えてくれ」

 

 

ケイの言葉でグランツ以外、皆思い思いに休みを取った。

 

 

夜も更けた頃、グランツは報告書を書き終えて一息ついた。

 

 

「よし、書いたぞ……こんな時間じゃ鳩は使えんから梟を使うか…」

 

 

グランツは飼っていた梟に報告書を付けて空に飛ばした……そして、皆の寝顔を見て呟き始めた。

 

 

「…明日はうろつく跳獣退治か……強敵だが、勝てない相手じゃねぇ……なのに胸騒ぎがするぜ…」

 

 

とここでケイの寝顔に目が止まった。

 

 

「……お前達、死ぬんじゃねぇぞ………特にケイ、お前は絶対に死んではならねぇ」

 

 

程無くグランツも横になり眠りについた。

 

 

そして翌日、ケイ達はうろつく跳獣の住み処に足を運んだ。

 

 

自らの住み処に現れた人間達を見て、うろつく跳獣の瞳は怒りに燃えて冒険者達に猛然と突進してきた。

 

 

「ブォォォォォォ!!」

 

 

叫び声と共にうろつく跳獣の腕が唸る。

 

 

強烈なフックがパーティを襲う……が…

 

 

「甘い!!」

 

 

ラルフが前に立ち、身の丈程ある大盾を構えてフックを受け止める。

 

 

「ブォ!!」

 

 

自らの攻撃をアッサリ防がれて、うろつく跳獣は驚きの叫びを上げる。

 

 

すかさず、ケイが自らの剣に炎を宿して斬り付ける。

 

 

「ブガァァァァ!!」

 

 

うろつく跳獣は斬り付けられた痛みと火傷で悲鳴を上げる……そして、炎はうろつく跳獣にまとわりつく様に燃えていた。

 

 

「…その厄介な腕…封じさせて貰う!!」

 

 

グランツが弓を構えて、うろつく跳獣の腕を狙い射った。

 

 

矢は寸分違わず、うろつく跳獣の腕に突き刺さり、その機能を奪った……そして、まとわりついていた炎が傷口に吸い込まれる様にして傷口を焼いた。

 

 

「…チャンス……追撃…」

 

 

その様子を見てリオが追撃の矢を放った。

 

 

「ブガオォォォ!!」

 

 

リオの追撃を受けて、うろつく跳獣は無様な悲鳴をあげた……と思ったらリオに向かって体当たりをしてきた。

 

 

「おっと、ここは通さないぜ!!」

 

 

再びラルフが大盾でガッシリ受け止めた。

 

 

だが、怒りに燃える獣の一撃は思いの外重く二人纏めて吹っ飛ばされた。

 

 

「うわぁぁぁ!!」

 

 

「きゃあ!!」

 

 

ラルフは直ぐに立ち上がりリオに手を差し伸べた。

 

 

「いってー……リオ、無事か?」

 

 

「…私は大丈夫……!!…ラルフ、前!!」

 

 

うろつく跳獣は二人に追撃すべく突進してきた。

 

 

「!!…やべぇ!!」

 

 

ラルフは慌てて盾を構えようとしたが間に合わない。

 

 

再び、うろつく跳獣の体当たりが決まると思われた時、うろつく跳獣は足をもつれさせて転倒した。

 

 

「ブォ!?」

 

 

うろつく跳獣は慌てて立ち上がろうとしたが足に力が入らない様だ。

 

 

見ると、うろつく跳獣の足に一本の矢が突き刺さっていた。

 

 

離れた所で弓を構えたグランツがケイに向かって叫んだ。

 

 

「足は封じた!!…ケイ、止めを刺せ!!」

 

 

グランツの叫びに答えてケイは剣を上段に構えて跳躍した。

 

 

「これで、終わりだぁぁぁぁ!!」

 

 

地面に這いつくばる、うろつく跳獣の脳天にケイの剣が突き刺さる。

 

 

「ブガァァァァァァァァ!!」

 

 

うろつく跳獣の断末魔が草原に響き渡る……そして、うろつく跳獣は二度と動く事は無かった。

 

 

「やったな…ケイ…さすがリーダーだ」

 

 

グランツがケイに賞賛の声を掛けた…その瞬間、グランツの腹は貫かれた。

 

 

一瞬の出来事だった……上空から物凄い速度で何者かが急降下して、その嘴でグランツの腹を貫いた。

 

 

グランツは即死だった。

 

 

「グランツゥゥゥ!!」

 

 

ケイはその惨状を目の当たりにして叫び声を上げた。

 

 

グランツの傍らに巨大な鷲が立っていた。

 

 

それは圧倒する巨翼……空の王者の姿をケイ達は呆然と見ていた。

 

 

「…まさか、この瞬間を狙って……!!…」

 

 

リオが呟いた瞬間、圧倒する巨翼が再び羽ばたいた……その暴力的なまでの進撃を誰も止める事は出来なかった。

 

 

「あっ…あっ……」

 

 

リオの体を鋭いカギヅメが貫いた……リオは口から血を吐き続けて絶命した。

 

 

圧倒する巨翼は傍らに居たラルフを睨み付けた。

 

 

「な……くっ……」

 

 

ラルフは恐怖で動けなかった……ただ呻くのが精一杯だった。

 

 

「やめろ!!…俺の仲間をこれ以上殺すなぁぁぁぁ!!」

 

 

ケイが圧倒する巨翼に向かって斬り掛かったが、圧倒する巨翼はその翼でケイをアッサリ吹き飛ばした。

 

 

「ケイ!!……くそっ!!」

 

 

ラルフは吹き飛ばされたケイを見て歯噛みし絶望した。

 

 

そして、死を告げる嘴がラルフに迫る。

 

 

(くそっ……ここで終わりか!!……俺は仲間を守る盾…フォートレスなのに誰一人守れずこの化け物に食い殺されるのか!!……畜生が!!)

 

 

血飛沫が上がる、大量の血が噴水の様に噴き出す。

 

 

そして、ラルフの目の前で圧倒する巨翼が首筋から血を噴き出しながら悲鳴すら上げる事無く崩れ落ちた。

 

 

ラルフは目の前の光景が信じられず、茫然自失としていた。

 

 

「…おい……そこで呆けてないで生存者を集めろ……上空の気球が収容してくれる筈だ…」

 

ラルフは声がした方を見た。

 

 

そこには一人のナイトシーカーが立っていた。

 

 

流れる様な長い銀髪、整った顔立ち…射抜く様な紅い双眸……そして、手には血塗られたダガー

 

 

「…聞こえて無いのか?」

 

 

ナイトシーカーは再びラルフに言った。

 

 

「…お前が殺ったのか?」

 

 

ラルフはようやく言葉を口にした。

 

 

「…そうだ……そんな事より生存者を…」

 

 

「何なんだ!?…お前は何なんだよ!!……俺達が敵わない相手を……グランツだってリオだって死んだってのにあんなにアッサリと……お前は一体何なんだよ!!」

 

 

ラルフはナイトシーカーの言葉に耳を貸さずに襟首掴んで目の前のナイトシーカーに詰め寄った。

 

 

「……………話にならんな…」

 

 

ナイトシーカーはラルフの腕を掴んで襟首から手を離させた。

 

 

と、その時上空から気球が舞い降りてきた。

 

 

「ジャック…アッチに生存者を一人見付けた……見てきてくれ…俺はコイツと死体を収容する」

 

 

気球から冴えない風貌の男が降りてきてナイトシーカーに言った。

 

 

「解った…」

 

 

ジャックと呼ばれた青年はケイの元へ向かった。

 

 

そして、気球から降りてきた男がラルフに話し掛けてきた。

 

 

「…生き残ったのはアンタと、そっちのソードマンだけか……その、何だ……済まねぇな……報せを受けて早足で来たつもりだったが…」

 

 

男は申し訳なさそうに言った。

 

 

「…アンタ…誰だ?」

 

 

「っと、まだ名乗ってなかったな…俺はワールウィンド、見ての通り冒険者だ……で、アッチのナイトシーカーはジャックって名だ」

 

 

「…そうか……助けてくれたのに取り乱して悪かった…」

 

 

「仲間がやられたんだ……仕方無いさ…さぁ、アンタも気球に乗ってくれ……辺境伯も心配してたから、せめてアンタとそっちのソードマンの顔だけでも見せてやってくれ」

 

 

ラルフはワールウィンドに促されるまま気球に乗り込んだ。

 

 

そして、ジャックもまた気絶しているケイを担いで気球に乗り込んだ。

 

 

リオとグランツの死体もワールウィンドが悲しそうな顔で気球に収容した。

 

 

気球は程無くしてタルシスを目指して飛んでいった……沢山の悲しみを乗せて…




ここまで読んで戴いて有り難うございます。


今回は少々鬱エンドでしたが一歩間違えば全滅もあり得る稼業、シビアな展開もやはり必要と思って書きました。

今回はフォートレスが主役の筈でしたが、あまり活躍してなかったな…

ま、まぁこれから成長して活躍する予定です。


次回で始まりの章は終了の予定です。
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