世界樹に挑む者達   作:猫太子

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ある印術師の始まりの物語


そして合流……旅が始まる


満たせぬ好奇心

薄暗い部屋の中、一人の少女が椅子に腰掛け机に頬杖を突いて本を読んでいた。

 

 

少女の名はスノー、無造作に伸びた茶色い髪と瞳、黒いローブを着込んでいる。

 

 

可愛らしい顔立ちをしているが鋭い目付きをしている為、無愛想に見える。

 

 

少女は今、鉱物図鑑を読んでいるのだが……

 

 

「う〜ん……やっぱり挿絵じゃ解りにくいわね……だからと言って実物を見に行くにはちょっと危険だし…」

 

 

少女はしかめっ面で呟いた。

 

 

「虹翼の欠片……タルシスの近くにある森の廃鉱にある鉱石…見た目は文字通り虹色に輝く鉱石でタルシスで使われてる気球の燃料に使われてる……非売品の為森の廃鉱に取りに行かないとダメだけど……あそこは安全とは言えないからな〜……それに…」

 

 

少女が躊躇っていたのは森の廃鉱が危険な為……では無い。

 

 

彼女はただのか弱い少女では無い、少女は数多くの印術を操るルーンマスターだ。

 

 

印術とはルーンを触媒にして大気中の元素を操り、炎や氷、雷を産み出す強力な術。

 

 

そして彼女はルーンマスターの中でも才覚に目覚ましく、若冠15歳にして数多くの印術を修めてる。

 

 

例え一人でも森の廃鉱に出てくるモンスターくらいなら軽くいなせる事が出来る。

 

 

では何故、彼女は躊躇っているのか?

 

 

それは……

 

 

「あそこには辺境伯の許可が必要だし……まぁ、冒険者にでもなれば入らせてくれるだろうけど……冒険者って基本的に団体で行動するからな〜……そんなのめんどくさいし……はぁ…」

 

 

彼女は内向的な性格で割りとマイペースな所がある為人に合わせたりとかが苦手だった。

 

 

周りの評価もルーンマスターとして腕は立つが偏屈で取っ付きにくい…である。

 

 

また自分の興味を何より最優先にする為、誰かの依頼を受けたりとかを煩わしいと感じているので冒険者にはなりたくないと考えていた。

 

 

「…仕方無い、諦めるか…」

 

 

と、ここで少女の腹の虫が騒ぎだす。

 

 

「…もうお昼ね……踊る孔雀亭にでも行って食事にしよう…」

 

 

少女は帽子を被り自室から出て踊る孔雀亭を目指した。

 

 

踊る孔雀亭……そこは冒険者御用達の酒場で多くの冒険者達が賑わう。

 

 

ここの酒場は冒険者達に仕事の依頼を斡旋している為か客層のほとんどが冒険者で占められている。

 

 

勿論、仕事の依頼だけで無く普通に酒と食事も提供しているから一般人でも入れるが、荒くれ者の多い冒険者達に好んで近付こうとする者は少なく、一般人の利用者はあまり多くない。

 

 

だが各地を旅する冒険者が多い為、聞き耳を立てるだけでも珍しい話が聞ける為スノーはよくここで食事を取っている。

 

 

「いらっしゃい……あら、スノーちゃん今日は食事に来たの?」

 

 

スノーが踊る孔雀亭に入ると妙齢の美女が出迎えてきた。

 

 

彼女がオーナーで踊る孔雀亭を取り仕切って冒険者相手に仕事の斡旋をしている。

 

 

「そうよ……いつものヤツをお願い」

 

 

スノーはカウンターに座って注文をした。

 

 

「…鈍色ニジマスの焼き魚セットね…解ったわ、ちょっと待っててね」

 

 

オーナーが厨房に消えて待つこと数十分、料理を持ってオーナーが現れた。

 

 

「はいどうぞ」

 

 

「ん…ありがと……所で、何か面白い話…無い?」

 

 

スノーは料理を受け取ってオーナーに質問した。

 

 

「そうねぇ……この前、統治院に賊が入ったんだけど…知ってる?」

 

 

「へぇ〜、そうなんだ……統治院に入るなんて、バカな盗賊も居たもんだね」

 

 

スノーは気の無い返事で返した。

 

 

「ううん、違うの……侵入したのは盗賊じゃなくて暗殺者よ……それも悪名高いトランプの殺し屋よ」

 

 

「トランプ?……何それ?」

 

 

スノーは眉を潜めて聞き返したが、隣に座っていたフォートレスの冒険者が嫌そうな顔で口を挟んできた。

 

 

「……嬢ちゃん、トランプってのは凄腕の暗殺ギルドの事だよ……俺もあの時居たんだが……まるで歯が立たなかった…奴一人に対して俺達は五人で挑んだんだが………一瞬で俺達五人の動きを封じやがった……生きて帰ってこれたのが不思議なくらいだよ」

 

 

男はそう言って代金をカウンターに置いて踊る孔雀亭から出て行った。

 

 

「……今の人、辺境伯も一目置いてる程の実力者なんだけど……話を聞く限り軽くいなされたみたいね………もしかして、スート級の暗殺者だったのかしらね?」

 

 

オーナーは神妙な顔して呟いた。

 

 

「スート?…トランプの絵札の事かしら?」

 

 

「そうよ、スノーちゃん……トランプはそのギルド名の如く、その番号で強さが決まるのよ」

 

 

「ふーん……じゃあ、一番強い奴はジョーカーって呼ばれてんだね…」

 

 

スノーがその言葉を口にすると店内の冒険者達がざわめき出す……主にベテランの冒険者達が…

 

 

「?……何?」

 

 

周りの反応にスノーは戸惑った。

 

 

「スノーちゃん……その話題はここではあまりしないでね……冒険者の中でもトラウマになってる人が沢山居るから…」

 

 

オーナーは顔を潜めて言った。

 

 

「…そんなにヤバい奴なの?」

 

 

「……鮮血の死神……って言えば解るでしょ?」

 

 

「!!」

 

 

オーナーの言葉にスノーは固唾を飲んだ。

 

 

鮮血の死神……タルシス史上最悪の殺人鬼。

 

 

曰く、一晩で死体の山を5つ築き上げた。

 

 

曰く、たった一人で当時タルシス最強の冒険者ギルドを皆殺しにした。

 

 

人もモンスターも問わず殺し続けた魔人。

 

 

ある日を境にその姿を消したが今でも、その恐怖はタルシスに残っている。

 

 

スノーもその話は知ってる……と言うより、この話を知らない者はタルシスには居ない。

 

 

「……そう……だったんだ…」

 

 

スノーはすっかり萎縮していた。

 

 

「……成る程、そんな奴がこの街に居たのか…」

 

 

見知らぬ女性が話し掛けてきた。

女性はいつの間にかスノーの隣の席に座っていた。

 

 

スノーは驚いて女性の方を見た。

 

 

そこには赤いバンダナで長い髪を纏めた金髪のソードマンの女性が居た。

 

 

「………(綺麗な人だな)」

 

 

スノーは思わず溜め息をついた。

 

 

「…見掛けない顔ね…もしかしてタルシスは初めてかしら?」

 

 

オーナーが女性に訝しげな表情で話し掛けた。

 

 

「ああ、そうだ……私はセルマ……ソードマンを一応やっている」

 

 

女性はオーナーに自己紹介をした。

 

 

「そう……その出で立ちからすると冒険者みたいね…もう冒険者ギルドで登録したの?」

 

 

「…いや、まだだ……街には最近来たばかりでな…勝手がよく解らないのだよ……一応、場所は聞いたのだが…」

 

 

「そんなに難しい事は無いわ……行けばギルド長が教えてくれるわよ……所で、貴女一人みたいだけど……仲間はいないの?」

 

 

「……私一人だ…だからまず仲間になりそうな者を探していたのだが…」

 

 

セルマは困った顔で言った。

 

 

「よー、姉ちゃん…それなら俺達のギルドに入らないか?……見た所、腕が立ちそうだし歓迎するよ」

 

 

「いやいや、俺ん所にきなよ」

 

 

傍で話を聞いてた男達が声を掛けてきた。

 

 

「…貴方達…下心が丸見えよ…」

 

 

オーナーが男達をたしなめる。

 

 

「でも確かに貴女、腕が立ちそうね……だったらこの子なんてどうかしら?……スノーなら貴女の腕に見合うと思うけど…」

 

 

「ええっ!?…私!?」

 

 

スノーは突然の指名に驚いて飛び上がった。

 

 

「彼女がか?…にわかに信じられないが…」

 

 

「あら、彼女はこうみえても名うてのルーンマスターよ……そこいらの冒険者よりずっと頼りになるわ」

 

 

「ルーンマスター………不思議な術を使う者達か……確かに彼女から、えも知れない気配を感じるな…」

 

 

セルマはここでスノーを見つめて考え込んだ。

 

 

「ちょっと!!…私は冒険者になるつもりは無いよ!!」

 

 

スノーは抗議の声を上げた。

 

 

「あら、良いじゃない……冒険者になれば色んな土地に行けるんだし…貴女の知的好奇心も満たせると思うわ」

 

 

「嫌よ、確かにそれは魅力的だけど私はギルドに縛られたくない!!」

 

 

「それは貴女の思い込みよ……仕事の依頼を受ける受けないは自由なんだし……貴女が思ってる程束縛されないわ」

 

 

「…でも…」

 

 

スノーが渋っているとセルマが横から口を挟んだ。

 

 

「まぁ待て…それなら一度冒険を体験してはどうだ?……聞いた話だと止めたくなったら何時でも登録の抹消が出来ると聞く……一度体験して合わないと思ったらやめれば良い……私もそこで無理矢理引き留めるつもりは無いしな…」

 

 

セルマの言葉を聞いてスノーは考え込んだ……そして、オーナーが畳み掛ける様にスノーに話し掛けた。

 

 

「セルマさんの言う通りよ…それに最初のミッションは虹翼の欠片探しよ……貴女それに興味があるんでしょ?」

 

 

オーナーの言葉にスノーはピクリと反応した。

 

 

 

 

「成る程、それが望みか……ならばこうしよう…もし虹翼の欠片が複数手に入るようなら1つお前に渡そう…ギルドに残る残らない問わずにな」

 

 

「………本当?」

 

 

スノーは疑わしげにセルマに聞いた。

 

 

「本当だ…約束しよう」

 

 

セルマの答えを聞いてスノーは暫し考え込んだ……そして…

 

 

「……解ったわ…私、やってみる」

 

 

「決まりだな、では早速冒険者ギルドに行って登録を済ませよう」

 

 

「そうね……行きましょう」

 

 

二人はそう言い合って踊る孔雀亭を後にした。

 

 

「…これで良かったのかしら、ワールウィンドさん?」

 

 

オーナーは二人が出ていくのを確認してから店の隅で酒を飲んでたワールウィンドに声を掛けた。

 

 

「ああ、ありがとよ……取り敢えずこれで一安心だ……アイツの性格を考えたら一人でも行きかねないからな…」

 

 

ワールウィンドは胸を撫で下ろして答えた。

 

 

「…まぁ、あの嬢ちゃんが次も一緒に冒険するとは限らないだろうがな」

 

 

「…多分、その心配は無いわ」

 

 

ワールウィンドの言葉にオーナーはニッコリと笑って答えた。

 

 

「……そうなのか?」

 

 

「ええ、そうよ……だって、あの子には冒険者にとってある意味一番必要な素養を持ってるもの」

 

 

「へぇ〜、そいつは一体何なんだ?」

 

 

「好奇心よ」

 

 

ワールウィンドの問いにオーナーは楽しそうに答えた。

 

 

踊る孔雀亭を出たスノーとセルマは足早に冒険者ギルドに向かった。

 

 

そして冒険者ギルドに着いた二人はギルド長の指示に従い冒険者登録を済ませた。

 

 

「ふむ、登録が済んだらお前達のギルド名を決めると良い」

 

 

ギルド長は二人にそう告げた。

 

 

「ギルド名?」

 

 

セルマは首を傾げてギルド長に質問した。

 

 

「そうだ、これからは個人ではなくお前達のギルド全体で仕事を受けたりするからな……それに今は二人だけだが仲間が増えるかも知れないしな……だから気の利いた名前にすると良い」

 

 

ギルド長は腕を組んでセルマの質問に答えた。

 

 

「私は何でも良いわ、セルマが決めて」

 

 

スノーは興味無さそうに言った。

 

 

「そうか……ならバスタードはどうだ」

 

 

「バスタード(私生児)?……止めてよね、みっともない」

 

 

スノーは嫌そうな顔で言った。

 

 

「なら……特零号師団はどうだ?」

 

 

「どこの軍隊よ……却下」

 

 

「なら……竜撃隊はどうだ?」

 

 

「私は竜と戦うつもりは無いわ……却下」

 

 

「ならば何が良いのだ!?」

 

 

セルマの答えにスノーは少し考えて、そして答えた。

 

 

「そうね……アイアンマウスなんてどうかしら?」

 

 

「アイアン……鉄ネズミ!?…いや、それは…ってちょっと待て、書類に書き込むな!!」

 

 

セルマが止める間も無くスノーは書類に書き込んだ。

 

 

「ふむ、アイアンマウスか……解った、今日からお前達のギルド名はアイアンマウスだ」

 

 

「いや、ちょっと待て…訂正を」

 

 

「ダメだ、一度書類に書いた以上取り消せない(公文書だから訂正するのが面倒なんだよな)」

 

 

セルマの要求をギルド長は応じなかった。

 

 

「良いじゃない、アイアンマウス…可愛いでしょ?」

 

 

「可愛いのか、それ?……まぁ、仕方ない…済んでしまった事だ……はぁ」

 

 

セルマは深々と溜め息をついた。

 

 

「これで書類上の手続きは全て終わった…だが、あくまでも書類上の話だ…これからお前達は辺境伯からミッションを受けてそれを見事クリアしなければ正式に冒険者と認められない……しっかりやれよ」

 

 

ギルド長は二人にそう伝えた。

 

 

「解った、世話になった…行こう、スノー」

 

 

「そうね…統治院に行こ」

 

 

二人はそう言い合って冒険者ギルドを後にした。

 

 

「…………本来なら二人だけの冒険は止める所なんだが……まぁ、あのスノーが付いてるんだ心配は無いだろう…あの女もかなりの腕前の様だし…だが、あの女……本当にソードマンなのか?……もっと異質な何かを感じたぞ」

 

 

二人を見送った後ギルド長は訝しげな表情で呟いた。

 

 

セルマとスノーはマルク統治院の門で足止めを食っていた。

 

 

「そこの女、身分を証明出来る物は持ってないのか?」

 

 

門番はセルマに詰問をしていた。

 

 

「それなら、冒険者ギルドから発行されたギルドカードがある」

 

 

セルマは門番にギルドカードを提示した。

 

 

「アイアンマウス?…聞いた事の無いギルドだな」

 

 

門番は不審そうにギルドカードを見て呟いた。

 

 

「それは今日出来たばかりだからだ、解ったらそこを通して欲しい」

 

 

セルマは苛立たしげに門番に言った。

 

 

「…ふん……余所者が…悪いが街に来て日の浅い新参者をおいそれと信用など出来ん!!…冒険者ギルドに問い合わせるからそれまで待ってろ!!」

 

 

門番は憮然とした表情で言った。

 

 

「ちょっと!!…私は余所者じゃないよ!!」

 

 

スノーが門番に抗議した。

 

 

「確かにお前はそうだが…だが、お前は胡散臭くて偏屈で有名だから同じく信用ならん!!」

 

 

「なっ!!…アンタそれ…」

 

 

スノーが門番に文句を言う前にセルマが門番の襟首を掴んで怒鳴り付けた。

 

 

「貴様!!…訂正しろ!!…私の仲間を侮辱するな!!」

 

 

門番は一瞬唖然としたが直ぐに言い返してきた。

 

 

「貴様こそ反抗する気か!!…大体お前達冒険者がどれほど役に立った事か!!…この前の襲撃だってほとんど役には立たなかったじゃないか!!」

 

 

「確かに役には立たなかったが……お前達兵士は役に立ったか?」

 

いつの間にか門番の背後に一人の青年が立っていた。

 

 

「バカめが…こうしてアッサリ背後を取られる様な兵士にどれ程の価値がある?」

 

 

青年は静かに、そして冷徹に門番に告げた。

 

 

「…お前は……ジャック…」

 

 

門番はおぞけを震って青年に答えた。

 

 

「ソイツらはワールウィンドが推薦した連中だ……通してやれ」

 

 

門番は青年の言葉に大人しく従い道を空けた。

 

 

「辺境伯は入り口を入って真っ直ぐ進んだ先の部屋に居る……早く行け」

 

 

青年は二人にそう告げて去って行った。

 

 

「……今の人…何か恐い…」

 

 

スノーは青年が去った後、青ざめた顔で言った。

 

 

「……そうだな……(今の男…かなり出来る)」

 

 

セルマもまた、緊張して答えた。

 

 

「何をしてる……さっさと入れ」

 

 

門番が二人を急かした。

 

 

門番に促されるまま、セルマとスノーはマルク統治院の中に入って行った。

 

 

途中の通路でスノーがセルマに話しかけた。

 

 

「あのさ、さっきはありがとう」

 

 

スノーはモジモジしながらセルマに礼を言った。

 

 

「…気にするな…仮初めとは言えお前は仲間だ……助けるのは当然だろ?」

 

 

セルマはさも当然の様に言った。

 

 

「…うん…でも、ありがと…」

 

 

スノーは照れた様に再び礼を言った。

 

 

「…だから気にするな……着いたぞ」

 

 

セルマは目の前の扉をノックした。

 

 

「入りたまえ」

 

 

中から男性の声がした。

 

 

「失礼します」

 

 

二人はそう言って部屋に入った。

 

 

部屋には犬を抱えた髭を伸ばした壮年の男性が立っていた。

 

 

「私が辺境伯だ……君達はワールウィンドが推薦した冒険者だね?」

 

 

壮年の男性が二人に質問してきた。

 

 

「はい、そうです…私はセルマートと言います…セルマと呼んで下さい……こちらは…」

 

 

「スノーと言います…辺境伯、初めまして」

 

 

二人は辺境伯に自己紹介をした。

 

 

「ふむ、セルマ君にスノー君だね…初めまして……ジャックから話は聞いてる、門番が失礼をして申し訳無い」

 

 

辺境伯は二人に深々と頭を下げた。

 

 

「いえ、気にしてません…どうか頭を上げて下さい」

 

 

セルマは慌てて辺境伯に言った。

 

 

「いや、部下の非礼は私の不徳の為す事……ただ、以前統治院に賊を侵入させて以来彼等は警戒心を強めてしまってね……これも私を守ろうとする一心でした事……どうか彼等を許して欲しい」

 

 

辺境伯はなおも頭を下げ続けた。

 

 

「いえ、だから気にしてません」

 

 

セルマは更に慌てて言った。

 

 

「そうか…ありがとう…」

 

 

辺境伯は頭を上げて二人に礼を言った。

 

 

「いえ、御気遣い無く……それより、私達はここでミッションを受ける様に冒険者ギルドのギルド長から言われたのですが」

 

 

セルマは辺境伯に話を促した。

 

 

「おっと、そうだった……君達には1つ私からの依頼を受けて貰いたい……と言ってもこれは諸君の力量を試す為の物……これを見事成功させてこそ正式なタルシスの冒険者と認められる……気を引き締めて挑んでくれ」

 

 

「成る程、それで内容はなんですか?」

 

 

「なに、簡単な物だ……森の廃鉱から虹翼の欠片を持ってきて欲しい……場所はこの地図に書いてある」

 

 

二人は辺境伯から渡された地図を覗きこんだ。

 

 

「何これ?……泉と採掘ポイントしか書いて無い…」

 

 

スノーが首を傾げて呟いた。

 

 

「うむ、それには大まかな位置しか書いていない……残りの空白は君達が実際に歩いて書き込みなさい……それも含めて君達の力量を計らせて貰う……実際の探索でも諸君等が地図を書き込まないといけないのだからね」

 

 

辺境伯は訝しげな表情を浮かべる二人にそう告げた。

 

 

「成る程ね…正に試験ね……所で辺境伯…虹翼の欠片は1つで良いの?」

 

 

「そうだが……それがどうかしたかね?」

 

 

スノーの問い掛けに辺境伯は眉を潜めて聞き返した。

 

 

「じゃあ、2つ以上見付けたら1つは貰っても良いんだね?」

 

 

スノーは瞳を輝かせて辺境伯に聞いた。

 

 

「ああ、そう言う事か……勿論、構わないよ……ただ、虹翼の欠片は簡単に見付かるものでは無い……果たして2つ以上見付かるかな?」

 

 

辺境伯は面白そうに答えた。

 

 

「ふふん…必ず見付けてやるわ」

 

 

「意気込むのは構わないが、本来の目的を見失わないように……では支度金を渡そう…これは言わば前金だ…虹翼の欠片を持ち帰ったら同じ額の報酬を渡そう」

 

 

辺境伯はそう言って金の入った袋をセルマに渡した。

 

 

「中には500エンが入っている…それで準備を整えると良い」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

セルマは辺境伯に礼を言った。

 

 

「うむ…それと………入って来なさい」

 

 

辺境伯は隣の部屋に声を掛けた。

 

 

すると、隣の部屋から二人の男が入ってきた。

 

 

1人は茶色い髪と瞳をしたフォートレスの青年。

 

 

もう1人は先程門に現れたジャックと呼ばれた青年だ。

 

 

「こちらのフォートレスはラルフと言う名の青年で私の下で衛士をやっている者だ……彼は元冒険者で経験も豊富だ」

 

 

「ラルフだ…宜しく」

 

 

辺境伯に紹介されてラルフは言葉少なげに名乗った。

 

 

「こちらはジャック……君達はさっき会ったと思うが…彼は凄腕のナイトシーカーだ……恐らく、彼の右に出る冒険者はそうそう居ない」

 

 

「……………………」

 

 

ジャックは無言で二人を見つめた。

 

 

「彼等も君達のギルドに入れて欲しい……勿論、嫌なら断っても構わない…ただ、今回の依頼の間だけは彼等を連れて行って欲しい…必ず役に立つ筈だ」

 

辺境伯の言葉にセルマとスノーは顔を見合わせた。

 

 

「…今回の依頼で合わないと感じたらギルドから外して貰っても構わないぜ……だが、折角の機会だ…試すつもりで同行させてくれ」

 

 

二人の様子を見てラルフが提案してきた。

 

 

(どうする、セルマ……あっちのフォートレスは良いけど…向こうのナイトシーカーは胡散臭いよ)

 

 

(……確かにな…だが、辺境伯たっての願いだし…無下に断るのも…)

 

 

セルマとスノーが声を潜めて話し合ってるのを見てジャックが二人に声を掛けた。

 

 

「……胡散臭いのは認めるが、こっちも仕事だ…今回に限り無理にでも付いていくぞ」

 

 

「!!」

 

 

「!!」

 

 

ジャックの言葉に二人は驚いて思わず背筋を伸ばした。

 

 

「…アンタ……聞こえてたの?」

 

 

「………………」

 

 

スノーの言葉にジャックは無言で呆れた様な視線を寄越した。

 

 

「……一流のナイトシーカーなら僅かな物音でも見逃さない…特にコイツ程にもなれば尚更だ」

 

 

無言のジャックに代わってラルフが答えた。

 

 

「そ、そう……それは頼もしいね……宜しく」

 

 

スノーは取り繕う様に言ったがジャックはスノーの事を無視した。

 

 

「ちょっと、無視しないでよ!!」

 

 

「あ〜、悪い……コイツは見ての通り無愛想なんだ…勘弁してやってくれ…」

 

 

ムッとするスノーにラルフがフォローを入れた。

 

 

「はぁ…先が思いやられる……取り敢えず、街に出て探索の準備をしよう……皆、行くぞ」

 

 

セルマが溜め息を吐いて皆を促した。

 

 

「そうだな……簡単な依頼とは言え、このパーティでは初めてのミッション…気を引き締めないとな」

 

 

「そうだねラルフ……行こ」

 

 

ラルフとスノーがセルマに続いて部屋を後にした。

 

 

ジャックの姿は既に無かった。

 

 

「……やれやれ、騒がしい連中だね……でも何故あの二人を?……いや、ラルフは解るがジャックは危険すぎる」

 

 

セルマ達が出て暫くしてワールウィンドが姿を現した。

 

 

「ふむ、君の言う通り確かに彼は危険な男だ」

 

 

辺境伯は突然姿を現したワールウィンドに驚く事無く答えた。

 

 

「危険だと解ってるなら何故?」

 

 

「……恐らく、彼の力は後々必要になると私は考えている…それに…」

 

 

辺境伯はここで一呼吸を入れてワールウィンドに言った。

 

 

「彼はトランプに対する切り札になりえる」

 

 

「………そうですかね?」

 

 

ワールウィンドは不安な顔で言った。

 

 

…その不安は辺境伯を心配しての事か……あるいは自分の目的の妨げになる可能性を考慮してか……その胸中、誰も知る由も無かった。

 




ここまで読んで戴いて有り難うございます。


今回で始まりの章はお仕舞いです。

一応、ルーンマスターの回なのですが……全然活躍してない……

…タイトル詐欺にならなければ良いけど……


取り敢えず、何とかパーティ結成までこぎ着けましたが……大丈夫かな、このパーティ…


次回、新章……やっと冒険するよ
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