世界樹に挑む者達   作:猫太子

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冒険日誌

皇帝ノ月 9日

記入者 セルマート


この日、私のギルドは私とラルフとスノー、そしてジャックの四人で結成された。

ラルフはフォートレスの青年で過去に冒険者をやっていたらしい。

今まで数多くの冒険を風馳ノ大地で行ってる為、私達の中では一番経験が豊富だ。

スノーはルーンマスターと呼ばれる術士で不思議な技を使う……らしい…

何故らしいと付けたかと言うと、私は所謂魔法と呼ばれる物を見たことが無いからだ。

……知識はある様だが、見た所彼女は体力的にも腕力的にも貧弱だ……正直、戦力になるのか不安だ。

ジャックはナイトシーカーで気配だけでも、その実力が伺えるが……この男、普段何を考えてるのか全く読めない。

それに時折、尋常じゃない殺気を放つ時がある……あれが敵に向けられてる内は良いが間違っても味方に向けて欲しく無いものだな……

とにかく、この四人で明日私達は森の廃鉱に冒険に出る事になった。


……願わくば、この一歩が故郷を救う一歩になって欲しい所だな…


穏やかな風と草原の大地
震える森


「ねぇ、セルマ……薬も必要じゃない?」

 

 

「むっ…そうだな……じゃあ、コッチのメディカも…」

 

 

スノーの言葉にセルマが棚に陳列されてるメディカに手を伸ばす。

 

 

今、二人はベルンド工房と呼ばれる店で買い物をしていた。

 

 

「しかし……私1人だけ装備を新調して良かったのだろうか?」

 

 

セルマは仏頂面で呟いた。

 

 

「良いんじゃない?…私もラルフも元々使ってた装備があるし……ジャックは…全然姿を見せないし…」

 

 

セルマの呟きにスノーが答えた。

 

 

「…そうか……まぁ、私としては有り難いがな……とは言え…今買えそうなのは…これだけか…」

 

 

セルマはショートソードを眺めて呟いた。

 

 

「ごめんねぇ〜、素材が無いと私達も武器や防具が作れないからね」

 

 

店員の金髪の少女が申し訳無さそうに言った。

 

 

「…いや、構わないさ……取り敢えず、武器があるだけ御の字だ」

 

 

「セルマの言う通りだよ……それに森の廃鉱にはそんな強いモンスターは居ないしね」

 

 

二人はそう言って買い物を済ませて、ラルフの待つ踊る孔雀亭に向かった。

 

 

「おう、買い物を済ませたみたいだな」

 

 

踊る孔雀亭に着くとラルフが二人を出迎えた。

 

 

「ああ、問題無く済んだ……所でジャックはどこに行ったんだ?……早速、森の廃鉱に挑もうと思っているのだが…」

 

 

セルマは店内を見回してラルフに聞いた。

 

 

「…さぁな、アイツが今どこで何してるのかは俺も知らん」

 

 

ラルフは肩を竦めて答えた。

 

 

「はぁ……それじゃあ出発出来ないじゃない…」

 

 

「…俺ならここに居る…」

 

 

溜め息をつくスノーの背後にジャックが姿を見せた。

 

 

「!!!!!!……びっくりした……いきなり背後を取らないでよ!!」

 

 

スノーはジャックに抗議の声を上げたが、ジャックはスノーを無視してカウンターに座った。

 

 

「だから無視するな!!」

 

 

「まぁまぁ、落ち着いて……ジャック、どこ行ってたんだ?」

 

 

いきり立つスノーを宥めてからラルフはジャックに聞いた。

 

 

「……調べ物だ…気にすんな…」

 

 

ジャックは言葉少なげに答えた。

 

 

「調べ物?…一体何を調べていたのだ?」

 

 

「…森の廃鉱に出てくるモンスターだ……一応、初めて向かう所だからな…」

 

 

セルマの言葉にジャックはそう答えた。

 

 

「オイオイ、ジャック……俺は二度目だから出てくるモンスターなら大体解るぞ……少なくともお前が手こずる様な奴は出ないよ」

 

 

「……そうか…」

 

 

ラルフが呆れた様に言ったがジャックはさして気にせず答えた。

 

 

「あまり俺の事を信用してないな……まぁ良い、それじゃあリーダー…森の廃鉱に行くとしようぜ」

 

 

ラルフはセルマに出発を促した。

 

 

「ん?……私がリーダー?」

「そうだ……少なくとも俺とジャックは今回はゲストだしな」

 

 

訝しげな表情を浮かべるセルマにラルフがそう言った。

 

 

「そうだね……ギルドを立ち上げたのはセルマだし……私も今回はゲストだよ…」

 

 

スノーもまたラルフに賛同する様に言った。

 

 

ジャックは我関せずとダンマリを決め込んでいた。

 

 

「はぁ……解った……じゃあ、皆…森の廃鉱へ向けて出発だ」

 

 

セルマは溜め息を吐いてから皆に号令を掛けた。

 

 

そしてアイアンマウス一行は踊る孔雀亭を後にし、街を出て森の廃鉱に向かった。

 

 

街を出て暫く西側に草原を歩いて行くと、やがて森が見え始めた。

 

 

「あの森が目的地か?」

 

 

セルマはラルフに質問した。

 

 

「ああ、そうだ……あそこが森の廃坑だ」

 

 

ラルフはセルマの質問にそう答え、森の様子を伺った……すると…

 

 

「?……変だな…沸沸の鳴き声がここまで聞こえてくる……いつもはあんなに騒がないのに…」

 

 

ラルフの言う通り森から獣の鳴き声が聞こえてくる。

 

 

「……そうだね、何か…凄く怒ってるみたい……」

 

 

スノーが沸沸の鳴き声を聞いて緊張した様な声で言った。

 

 

無言で鋭い目で睨み付ける様に森を見てるジャックにセルマは訝しげな表情で声を掛けた。

 

 

「ジャック……どうかしのか?」

 

 

「………いや……なんでもない………行くぞ」

 

 

ジャックは言葉少なげに答えて歩き出した。

 

 

「あっ、ちょっと待ちなさいよ」

 

 

スノーが慌てて後を追い、皆もスノーに倣って森の廃鉱に向かった。

 

 

一行が森に着くと一斉に沸沸の怒声が聞こえてきた……まるで入って来るなと言わんばかりに…

 

 

「……ねぇ、ここに居る沸沸って…いつもこんな感じなの?」

 

 

スノーが若干顔を青ざめさせて言った。

 

 

「いや……以前来た時はこんなに騒がしくなかった…」

 

 

ラルフは緊張した顔付きでスノーの質問に答えた。

 

 

沸沸達の怒声は暫くすると止み、再び森は静けさを取り戻した……不気味なほどに…

 

 

「……行こう……速やかに目的の物を取って立ち去ろう」

 

 

「…そうだな……今日の森はおかしすぎる……んっ?」

 

 

セルマの言葉に答えた後、ラルフは前方からモンスターの大群が押し寄せて来るに気付いた。

 

 

「……8、9、10………10匹のグラスイーターか…」

 

 

ジャックはそう呟いて身構えた。

 

 

「待って、ここは私がやるわ」

 

 

スノーが前に出た。

 

 

「あっ、おい……一人で前に出ては…」

 

 

セルマの言葉にスノーは構わず精神を集中させた………そして、複雑な印を切って術を解き放った。

 

 

「焼き尽くせ!!」

 

 

スノーの杖から激しい炎の嵐が吹き荒れる。

 

 

グラスイータ達は為す術もなく燃え尽きていった。

セルマはその光景を目を見開いて見ていた。

 

 

「…セルマ、もしかして印術は初めて見るのか?」

 

 

「…あ、ああ…そうだ、話しには聞いていたが……ここまで凄いとはな…」

 

 

ラルフの問いにセルマは驚きを隠さずに答えた。

 

 

「…そうか……まぁ、あれだけの印術を使える奴はそうは居ないけどな……」

 

 

「そうなのか?」

 

 

セルマはラルフに聞き返した。

 

 

「…………爆炎の印術……高等印術の1つだ……あの歳で使える奴は滅多に居ない……」

 

 

セルマの質問に答えたのはジャックだった。

 

 

「フフン♪……どうよジャック、少しは見直したかしら?」

 

 

「……残敵無し……行くぞ…」

 

 

「って、無視するなぁぁぁ!!」

 

 

サラリとスルーするジャックにスノーは怒鳴り声をあげた。

 

 

「まぁまぁスノー……俺達も先を急ごう」

 

 

「そうだぞ、お前が凄いのは今の印術で解るから」

 

 

セルマとラルフがスノーを宥めて先を促した。

 

 

「う〜〜〜〜」

 

 

二人に宥められてスノーはうなり声を上げて歩き始めた。

 

 

(……今のグラスイーター……俺達に襲い掛かると言うより何かから逃れようとしていたな……チッ…辺境伯め……面倒な仕事を押し付けやがって…)

 

 

ジャックは今の襲撃を思い返して内心で辺境伯に毒づいた。

 

 

その様子をラルフは目敏く気付いてジャックに話し掛けた。

 

 

「ジャック……どうした?」

 

 

「何でも無い…それよりラルフ、新手だ」

 

 

前方からボールアニマルが三匹姿を現したので皆一斉に身構えた。

 

 

「……奥から少し厄介な奴が近付いて来るな……片付けてくる」

 

 

ジャックはそれだけ言うと音も無く姿を消した。

 

 

「ちょっと、何処に行くのよ!?…もう!!」

 

 

その様子を見てスノーが憤慨した。

 

 

「はぁ……取り敢えず私達は目の前のモンスターを片付けよう」

 

 

セルマは溜め息をついて目の前の一体に攻撃した。

 

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

 

セルマは抜刀と共に凄まじい斬撃をボールアニマルに浴びせた。

 

 

「ギィィィィィィィ!?」

 

 

斬撃を受けたボールアニマルは悲鳴を上げて猛スピードで吹っ飛んで行き、一瞬で一向の目の前から姿を消した。

 

 

「……うわぁ……セルマ凄い…」

 

 

「…斬ると言うより叩き付けるだな……」

 

 

ラルフとスノーは目を丸くして驚嘆の声を上げた。

 

 

「ギッ…ギィィ!?」

 

 

「ギギギィ!!」

 

 

残りの二匹はその様子を見て逃げ出した……気のせいか顔を青ざめさせて……

 

 

「………賢明な判断だ…」

 

 

「…モンスターもドン引きの腕力……セルマ…ゴリラみたい…」

 

 

ラルフとスノーは口々に呟いた。

 

 

「スノー……さすがにそれは傷付くぞ…」

 

スノーの呟きにセルマは情けない顔で言い返した。

 

 

「あっ、ゴメン…悪口を言うつもりは無かったんだよ…」

 

 

スノーは慌ててセルマに謝った。

 

 

「…いや、良い……それより先を急ごう……ジャックが心配だ…」

 

 

セルマはそう言って二人を促し、一向は足早に先を急いだ。

 

 

暫く進むとジャックの姿が見えた……傍らに首筋から血を流して倒れてる大きな沸沸の姿があった。

 

 

「彷徨う沸沸か……ソイツが厄介な奴か?…それにしても、もう倒すとはさすがだな…ジャック」

 

 

ジャックの姿を見てラルフが感嘆の声を上げた。

 

 

「いや…気絶した所に止めを刺しただけだ」

 

 

「気絶?」

 

 

ジャックの言葉に不可解な表情を浮かべてラルフは質問した……ジャックは質問に答えず、顎をしゃくって沸沸の傍で転がっているボールアニマルを指した。

 

 

「……背後から凄まじい勢いで飛んでコイツの顔面に当たった……ゴリラでも出たか?」

 

 

ジャックの言葉にセルマは何とも言えない表情を浮かべ、ラルフとスノーはクスクス笑い出した。

 

 

「?……どうした?」

 

 

そんな三人の様子を見てジャックは訝しげな表情で聞いた。

 

 

「な、何でも無い!!…ほらっ、先を急ぐぞ!!」

 

 

セルマが不機嫌そうに先を急ぐよう促した。

 

 

「???」

 

 

ジャックはその様子を見て更に訝しげな表情を浮かべた。

 

 

「あー………あまり触れてやるな…」

 

 

「そうだよジャック……ぷっ……くっくっくっ…」

 

 

「そこ!!…笑うな!!」

 

 

三人の様子に半ば呆れながらジャックは後をついて行った。

 

 

一行が暫く森の中を歩いて行くと、やがて泉が見えてきた。

 

 

「…地図によると……ここみたいだね…」

 

 

スノーが地図を見ながら三人に言った。

 

 

「そうか……ん?……スノー、いつの間に地図を書いていたんだ?」

 

 

セルマが地図を覗き込んでスノーに質問した。

 

 

「歩きながら書いていたんだけど……気付いて無かったの?」

 

 

「歩きながら……器用だな…」

 

 

セルマは呆れながら言った。

 

 

「危ないぞ、モンスターに不意打ちされたり罠があったりしたらどうする?」

 

 

ラルフがスノーをたしなめた。

 

 

「あら、そこはセルマとラルフとジャックが警戒しながら歩いてたじゃない……だったら一人はマッピングに専念した方が効率的でしょ?」

 

 

「効率的って…」

 

 

スノーの言葉にラルフが言い募ろうしたがセルマが押し留めた。

 

 

「まぁ待てラルフ…確かに無警戒で歩くのは危険だが、かと言ってマッピングをおろそかにするのも危険だ……ここは各々の能力に応じて役割分担をした方が良い……何、一人分の穴は私達三人で力を合わせて埋めれば良い……見た所、ジャックの気配を読む能力とラルフの洞察力で充分埋まると思うぞ」

「ほう……どうやらセルマはリーダーの適正が高いみたいだな…」

 

 

セルマの言葉にラルフは感心した様に言った。

 

 

「二人共……そんな事よりさっさと虹翼の欠片を探そうよ」

 

 

スノーはそう言って採掘ポイントに向かおうとした所でジャックに止められた。

 

 

「待て……あれを見ろ…」

 

 

ジャックが指を指した方向を見ると……大きな沸沸達がが採掘ポイントの周りをうろついていた。

 

 

「彷徨う沸沸……それも二体……だが……やはりおかしい……酷く興奮している……無闇に近付かない方が良いな…」

 

 

ラルフは沸沸達の様子を見て三人にそう伝えた。

 

 

「でも二体程度なら私達なら問題無いでしょ?」

 

 

「いやスノー、その油断は危険だ……ここに入った時から既に普段とは違う雰囲気を醸し出している……一瞬の油断が命取りになる事もある……ここは慎重に沸沸達が遠ざかった隙に採掘しよう……俺達の目的は沸沸達の駆逐じゃない、あくまでも虹翼の欠片だ」

 

 

「…そうだな……大体このパーティで冒険は初めてだしな……個々の力量が高くてもまだ連携が上手く機能してるとも言い難い……不安要素がある戦闘は避けたい所だ」

 

 

ラルフの言葉にセルマが同調する様に言った。

 

 

「そうね、解ったわ…じゃあタイミングを見計らって採掘しましょ」

 

 

スノーも二人の言葉に従い、沸沸達の動きに注意を向けた。

 

 

そして、二体の沸沸が採掘ポイントから遠ざかったのを見届けて一行は素早く採掘ポイントに向かい、採掘を始めた。

 

 

暫く作業を続けて遂に…

 

 

「有った!!…虹翼の欠片!!…図鑑で見た通りだよ!!」

 

 

スノーが歓喜の声を上げて三人に言ったが、その喜びは長く続かなかった。

 

 

「グォォォォォォ!!」

 

 

スノーの声に反応して沸沸達が叫び声を上げて一行に迫った。

 

 

「えっ?…嘘!?…何で沸沸達が!?」

 

 

スノーは信じられないと言わんばかりに叫んだ。

 

 

「スノー!!…驚いてる場合じゃない!!…コイツらを倒すぞ!!」

 

 

「いや、ここは逃げた方が良い……セルマ見ろ」

 

 

勢い込むセルマにラルフが指を指して言った……指を指した方向から沸沸達が更に姿を現した。

 

 

「……ラルフ、彷徨う沸沸は普段あんな行動に出るものなのか?」

 

 

「いや……普段なら自らの行く手を遮らない限り、どんなに大声を上げても襲い掛かったりしない……それに、あんな風に仲間を呼んだりもしない」

 

 

ジャックの言葉にラルフは落ち着いて答えた。

 

 

「来た道は塞がれたか……かと言って、あんな数相手にしてられない……奥に進むしかないな……ジャック!!…先行して道を切り開いてくれ!!…スノーはそれに続け!!……殿は私とラルフで行う!!」

 

 

セルマは状況を見て全員に指示を出した。

 

 

「でも、それじゃセルマとラルフが……」

 

 

「心配するな!!…マトモに戦う気は無い!!…それよりも急げ!!」

 

 

心配するスノーにラルフが怒鳴った。

 

 

「解ったわ……二人とも気を付けて!!」

 

 

スノーはそれだけ言うとジャックの後に続いた。

 

 

「ラルフ、路地まで後退するぞ!!…あそこなら一辺には襲って来れない筈だ!!」

 

 

「解った!!」

 

 

ラルフとセルマは狭い路地まで後退して陣取った。

 

 

そこへ一体の沸沸が拳を打ちおろしてきた。

 

 

「ゴァァァ!!」

 

 

沸沸の拳はラルフが構えた大盾に阻まれた。

 

 

「やらせるかよ!!…セルマ!!」

 

 

ラルフの言葉を受けてセルマが空かさず沸沸に斬り込む。

 

 

「はぁぁぁ!!」

 

 

「グォォォォォォ!!」

 

 

沸沸は脇腹を深く斬り付けられて悲鳴を上げた……だが、深々と沸沸の脇腹に食い込んだショートソードは剣先を沸沸の体内に残し、音を立てて折れた。

 

 

「くっ……剣が!!」

 

 

と、そこへスノーが現れて沸沸達に向かって氷槍の印術を使った。

 

 

狭い路地に一列で追ってきた沸沸達は次々と氷槍に貫かれて悲鳴を上げた。

 

 

「ついて来て!!…ジャックがアッチで抜け道を見付けたから急いで!!」

 

 

セルマとラルフはスノーの言葉に従い、沸沸達が怯んでる隙にスノーと共に路地の奥へ逃げ込んだ。

 

 

そして、袋小路まで来て人が一人分通れる位の抜け道を見付けて三人は素早く抜け道に逃げ込んだ。

 

 

「グォォォォォォ!!」

 

 

「ゴガァァァァァ!!」

 

 

「グルォォォォォ!!」

 

 

背後に沸沸達の叫び声が聞こえてくるが、沸沸達が通るのには抜け道は小さく、いつまでもその場で吠えていた。

 

 

三人は抜け道を出た所でジャックと合流した。

 

 

「ふぅ…危なかった……まさか剣が折れるとはな…」

 

 

セルマは安堵して力無く呟いた。

 

 

「それはセルマがバカ力を出すからだよ…」

 

 

スノーも安堵してかセルマに減らず口を叩く。

 

 

「だが、あの沸沸達は異常だった……普段とは違う行動、それとアイツらはアソコまで強くは無い…」

 

 

沸沸の一撃を大盾で防いだ時の腕の痺れを思い出してラルフは呟いた。

 

 

「……それに、あの沸沸達……妙に統制が取れてた…」

 

 

「それって、何処かに群れのボスが居るって訳?」

 

 

ラルフの言葉にスノーが嫌そうな顔で答えた。

 

 

「何れにしろ、辺境伯には一度報告した方が良いな……行こう」

 

 

セルマがそう言って皆に引き上げる様に促した。

 

 

ラルフとスノーはそれに従いセルマの後を追い掛けたがジャックだけその場を動かなかった。

 

 

「どうした、ジャック?」

 

 

ラルフは不審に思いジャックに声を掛けた。

 

 

「…悪いが俺はここに残る……辺境伯から1つ仕事を頼まれてな……それが済んだら戻る」

 

 

ジャックの言葉に全員驚きの表情を浮かべる。

「待てジャック…そんな話しは聞いて無いぞ?……大体、こんな状況で一人で残るなんて、いくらお前でも危険過ぎる」

 

 

「そうよ、セルマの言う通りだよ!!…仕事なら私達と一緒にやった方が良いよ!!」

 

 

セルマとスノーは慌ててジャックの事を止めた。

 

 

「…直ぐに済む…手伝いは不用だ……お前達は虹翼の欠片を先に辺境伯に渡しに行け」

 

 

「…………解った…早く戻れよ…」

 

 

ジャックの言葉にラルフは頷き帰路についた。

 

 

「あっ、ちょっと待て!!」

 

 

「待ちなさいよ!!」

 

 

セルマとスノーが慌ててラルフを追い掛けた。

 

 

「ラルフ、いくら相手がジャックでも冷たいんじゃない?」

 

 

「そうだ、今からでもジャックを止めた方が良い」

 

 

二人は先を急ぐラルフに咎める様に言った。

 

 

「……良いんだ……恐らく、俺達が居るとやりずらいんだろ……それに…」

 

 

「それに?」

 

 

スノーは言いにくそうにしてるラルフに質問した。

 

 

「…アイツは強い……ヤバすぎる位に…」

 

 

ラルフはそれっきり口を閉ざした。

 

 

セルマとスノーとラルフが去って暫くして、一人残ったジャックの前に何十体もの沸沸達が姿を表し、ジャックを包囲する。

 

 

「……フン……出て来たか…」

 

 

沸沸達の群れの中心に巨大な角を二本生やした一際大きい沸沸をジャックは冷たい目で睨み付けた。

 

 

「…豪腕の沸沸王……話を聞いた時は眉唾物と思っていたが……本当に存在するとはな…」

 

 

ジャックは静かに呟いた。

 

 

「グゴアァァァァァ!!」

 

 

豪腕の沸沸王が威嚇の咆哮を上げる……それに合わせて周りの沸沸達も咆哮を上げた。

 

 

「…吠えるなよ……直ぐに骸に変えてやる」

 

 

地面をも振るわせる沸沸達の咆哮を受けてジャックは涼しい顔で答えた。

 

 

「グガァァァァァァ!!」

 

 

豪腕の沸沸王の咆哮と共に周りの沸沸達が一斉にジャックに襲い掛かる。

 

 

ジャックも両手を握り締め、沢山の投擲用の短刀を指に挟んで構えた。

 

 

沢山の沸沸達に囲まれて絶望的な状況下でジャックは笑っていた………セルマ達には見せた事の無い凄惨な顔で笑っていた。

 

 

「さぁ……狩りの始まりだ…」




ここまで読んで戴いて有り難うございます。


新章が始まって、いよいよ本格的な冒険に入ってきます。

まぁ、それでもまだ最初の一歩ですが
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