世界樹に挑む者達   作:猫太子

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冒険日誌

皇帝ノ月 10日

記入者 ジャック


依頼により本日は虹翼の欠片及び、沸沸達の動向を探る為に森の廃坑を探索。

なお、沸沸達の件については他のメンバーには伝えずに処理を実行。

8:18探索開始
沸沸達の威嚇の咆哮が聞こえてきたと同時に入り口付近にてグラスイーター10匹と遭遇……スノーの印術により撃破。

特記事項
遭遇したグラスイーターは何者かを恐れて逃亡している様子、前述の咆哮との関連性が極めて高いと予想される。

9:34
ボールアニマル三匹と遭遇、背後より何者かが近付いているのに気付いた為、セルマ、ラルフ、スノー三名にボールアニマルの対応を任せて奥へと進入

暫く進んだ先に彷徨う沸沸と遭遇と同時に背後からボールアニマルが高速で飛来し彷徨う沸沸に激突し沸沸は気絶

沸沸に止めを刺した所でセルマ達と合流。

10:07
虹翼の欠片採掘完了、と同時に彷徨う沸沸達が集団で襲い掛かってきた
撃破は難しいと思われた為抜け道を利用して離脱。

10:54
ここでセルマ達と別れ、単独で沸沸達の動向を探る事となったが、暫くして豪腕の沸沸王が群れを率いて姿を現した。

沸沸達の異常な行動の原因と思われた為、交戦し豪腕の沸沸王並びに五十体の沸沸の群れを全て撃破。

11:48探索終了


冒険を終えて

「うむ…確かに虹翼の欠片だ…宜しい、この依頼は達成だ」

 

 

マルク統治院の執務室にて辺境伯の声が響く。

 

 

執務室に居るのは辺境伯とセルマとラルフとスノーの四人だ。

 

 

辺境伯は渡された虹翼の欠片を眺めて依頼達成を宣言したのだが、セルマ達は浮かない顔をしていた。

 

 

「どうしたのかね?…嬉しくないのか?」

 

 

辺境伯はそんな三人の様子を見て怪訝な顔をして質問した。

 

 

「…確かに依頼は達成出来ましたが……まだジャックの奴が帰って来てません……それに…」

 

 

ラルフは森の廃鉱であった事を辺境伯に報告した。

 

 

「…成る程、そんな事が……うむ…実は森の廃鉱に居る沸沸達の様子がおかしいと報告があったのでジャックに先行して調査する様に仕事を頼んだのだが……まさか、その様な事になっていたとは……ジャックが気掛かりだ、直ぐにでも捜索隊を組織して…」

 

 

「必要無い……方はついた…」

 

 

辺境伯の言葉の途中でジャックが姿を現し遮った。

 

 

「ジャック、いつの間に戻ったんだ!?…いや、そんな事より良く無事でいたな!?」

 

 

「……………悪いが少し疲れた……先に報告を済ませてくれ…俺の方は後で報告書を提出する…それで良いだろ?」

 

 

セルマの言葉にジャックはウンザリした様に答えた後、辺境伯に聞いた。

 

 

「あ、ああ構わない……セルマ君達の方の報告なら今しがた受けた所だ……おめでとう…これで諸君は正式な冒険者だ……その証しに君達には気球を贈呈しよう」

 

 

辺境伯はジャックの言葉を聞いて全員にそう告げた。

 

 

「有り難うございます、辺境伯……それで、ジャック!!…お前は何をしていたのだ?」

 

 

セルマは辺境伯に礼を言った後、ジャックに詰め寄った。

 

 

「……お前には関係無い…」

 

 

ジャックはウザったそうにセルマに言い放った。

 

 

「そう言う訳にもいかんな……これからも同じギルド仲間として一緒に働いて貰うんだ、仕事上での隠し事は無しにして貰いたい」

 

 

セルマの言葉に辺境伯を除いた皆が目を丸くして驚いた。

 

 

「ちょっとセルマ!!…本気なの!?…あんな得体の知れない奴を仲間にするなんて!!」

 

 

予想外の展開にスノーは思わずセルマに詰め寄った。

 

 

「本気だ……確かに胡散臭いが実力はある……それにまだ会って日が浅いんだ、得体が知れないのはお互い様だ……それよりスノー…お前はどうするんだ?」

 

 

「へっ?…私?」

 

 

突然話を振られてスノーはすっとんきょな声を上げた。

 

 

「そうだ……自分で言っていただろ?…今回はゲストだと」

 

 

セルマの言葉にスノーは暫く考え込んで、やがて口を開いた。

 

 

「……セルマが良いって言うなら、私はついて行くよ……冒険者はメンドクサイと思ってたけど…セルマなら気兼ね無くやってけそうだし…」

 

 

「そうか…なら共に行こう…改めて宜しくな、スノー…」

 

 

セルマとスノーは互いに握手を交わした。

 

「俺はどうする?」

 

 

「勿論、歓迎する…宜しくな、ラルフ」

 

 

ラルフの問い掛けにセルマは握手で答える。

 

 

「ああ、宜しくセルマ……本当の事を言うと、このギルドで再び冒険がしたいと思っていたんだ」

 

 

「そうか、ラルフは元々冒険者だったな……と言う訳でジャックも宜しくな」

 

 

セルマはジャックにも握手を交わそうとしたがジャックは背を向けて執務室から立ち去ろうとした。

 

 

「………………俺が何をしていたかは冒険日誌に書いておく……気になるなら後で勝手に読め…」

 

 

ジャックはそう言ってから部屋を後にした。

 

 

「……意外だね……てっきり断るのかと思ったけど…」

 

 

スノーはジャックの背を見てポツリと呟いた。

 

 

「…まぁ、彼に断る権利は無いからな…」

 

 

スノーの呟きに辺境伯は仏頂面で答えた。

 

 

「辺境伯、それは一体どう言う意味ですか?」

 

 

「ああ、いや……彼には君達が望むのなら同行する様に命じてあるからね……それだけの事だよ……そんな事より後金を渡して無かったね」

 

 

セルマの質問に辺境伯は歯切れ悪く答え、金をセルマに渡した。

 

 

「君達も疲れているだろう…気球の説明は明日係りの者が行う…今日はゆっくり休むと良い」

 

 

「はぁ、解りました……皆、行こう」

 

 

セルマは釈然としない気持ちで返事をして皆と共に執務室を後にした。

 

 

「ねぇ、セルマ…今日はこの後どうするの?」

 

 

「取り敢えず、武器を補充したいな……さっきの戦闘で剣が折れてしまったからな…」

 

 

マルク統治院を出た後、スノーの質問にセルマは仏頂面で答えた。

 

 

「…そう言えば、沸沸との戦いで折ったんだったな……いっその事、鎚にしたらどうだ?」

 

 

「ラルフ…私は鎚について心得が無い……剣なら有るが…」

 

 

「……心得ね…」

 

 

ラルフはセルマがボールアニマルを吹っ飛ばした所を思い出し、何とも言えない表情を浮かべた。

 

 

「…何か言いたそうだな……ラルフ…」

 

 

「いや、何でも無いよ……そんな事より今夜はギルド結成を祝って踊る孔雀亭で宴会をしよう」

 

 

ラルフは恐い目で睨むセルマに誤魔化す様にして提案した。

 

 

「何ぃ!?…宴会だと!!」

 

 

「えっと…不味いかな?」

 

 

セルマの剣幕にラルフは及び腰で言った。

 

 

「……悪くない……良し、今夜は宴会だ!!」

 

 

「って良いのか!!」

 

 

「うむ、互いの親睦を深めるには酒の席を設けるのが一番だ…ジャックの奴にも来る様に伝えてくれ」

 

 

「あ、ああ…解った、ジャックに伝えとくよ……多分アイツは今セフリムの宿に居ると思うから早速向かうとするよ」

 

 

「うむ、頼んだぞラルフ」

 

 

この時、セルマは故郷で酒の申し子とかドラゴンすら飲み潰すとか呼ばれている事にラルフはまだ気付いて無かった。

 

「では私は買い物を済ますとするか…」

 

 

「あっ、私も付き合うよ」

 

 

そしてセルマとスノーは二人してベルンド工房を目指した。

 

 

その頃、森の廃鉱で一人の冴えない風貌の冒険者が顔を歪ませていた。

 

 

「……ジャックの奴だな……この有り様は…」

 

 

ワールウィンドはその光景に軽く戦慄を覚えていた。

 

 

ここは森の廃鉱の入り口から少し進んだ所にある開けた場所だが……そこには辺り一面、沸沸の死体で埋め尽くされていた。

 

 

「…軽く五十体分はあるな…」

 

 

沸沸達の死体はどれも血塗れで凄惨な姿をしているが……その中心にあった一際大きい沸沸の死体はより無惨なものであった。

 

 

四肢は全て切断されていて、毒でやられたのかアチコチ体毛が禿げて皮膚が変色していた…一部では溶けて骨が見えていた。

 

 

そして……頭の部分が綺麗サッパリ無くなっていた。

 

 

「……生きたまま、抉り出したか…」

 

 

ワールウィンドは沸沸の死体のすぐそばにある頭の『中身』を見て吐き捨てる様に言った。

 

 

「……恐らく、一番強いコイツを無惨に殺して他の沸沸達をビビらせたな…」

 

 

沸沸達の死体はどれも恐怖で顔が歪んでいた。

 

 

「……幾度もルーキー達を無惨に刈り取った豪腕の沸沸王もこうなっては哀れだな…」

 

 

と、そこへタルシスの兵隊達が姿を現した。

 

 

「ワールウィンドさん、信号弾を上げたみたいですが何が………うっ…何ですか、これは!?」

 

 

兵士の一人がこの惨状を見て悲鳴を上げた。

 

 

「……見ての通りだ……こんな惨状…ルーキー達には見せられないから暫くここを封鎖してくれ」

 

 

「解りました……辺境伯にも報告します」

 

 

ワールウィンドの言葉に応えて一人の兵士が街へ向かった。

 

 

「俺達はこれを片付けるとしよう」

 

 

「了解しました」

 

 

ワールウィンドは残った兵士達と共に地面に穴を掘って沸沸達の死体を埋めていった。

 

 

「……ジャック…こいつぁ、やり過ぎだぜ……こんな事を続けてたらお前は何れ…」

 

 

ワールウィンドは沈痛な表情を浮かべて静かに呟いた。

 

 

一方その頃、セルマとスノーは買い物を済ませてセフリムの宿に向かっていた。

 

 

「良かったね、セルマ…新しい剣が手に入って」

 

 

「ああ、素材が入ったお陰で新商品が手に入った」

 

 

セルマは新しく手に入れた剣を腰にさして上機嫌に言った。

 

 

「コピスと言ったっけ?…今度は折っちゃダメだよ?」

 

 

「…解ってる…」

 

 

二人が雑談してる間にセフリムの宿に辿り着いた。

 

 

「ここがセフリムの宿なのか?」

 

 

「そうだよセルマ、ラルフとジャックが待ってるから早く行こう」

 

 

「そうだな…もうすっかり夕方だしな…」

 

 

セルマとスノーが宿に入ると一人の女性が出迎えてきた。

 

 

「いらっしゃい…二名様ね」

 

 

柔和な表情を浮かべて女性は二人に聞いてきた。

 

 

「ああ、そうだ…私はセルマート、セルマで構わない……こっちはスノーだ」

 

 

「セルマさんとスノーちゃんね…ラルフさんから聞いてるわ……私はここの宿のオカミをやってるわ…貴女達の部屋を案内するからついて来てね」

 

 

オカミはそう言って二人を案内した。

 

 

「ここが貴女達の部屋よ…ラルフさん達は隣の部屋に居るわ」

 

 

オカミはそう言って立ち去った。

 

 

その後、セルマとスノーは隣の部屋ドアをノックしてラルフとジャックを呼び掛けた。

 

 

「二人とも居るか?」

 

 

「どうぞ、入ってくれ」

 

 

セルマが呼び掛けると部屋の中からラルフが応えた。

 

 

セルマとスノーは中に入るとラルフは椅子に腰掛けて、ジャックは床に座り込んで各種の投擲用の短刀やダガーの刃を研いでいた。

 

 

「……武器の手入れか?」

 

 

「………ああ…」

 

 

セルマの問い掛けにジャックは言葉少なげに答えた。

 

 

「……物騒な男ね……そんな事よりジャック…アンタ冒険日誌書いたの?」

 

 

スノーが質問するとジャックは無言で冒険日誌を投げて寄越した。

 

 

スノーは渡された冒険日誌に目を通してみた。

 

 

「何これ?…どこの軍の報告書なの?」

 

 

スノーがジト目でジャックに言った。

 

 

セルマも冒険日誌を見て何とも言えない表情を浮かべた。

 

 

「ジャック……これは日誌なのか?」

 

 

「…要点だけ簡潔に書いただけだ」

 

 

セルマの言葉にジャックは無表情で答えた。

 

 

「だから言ったろ、ジャック……それじゃ日誌じゃないって」

 

 

セルマとスノーの様子を見てラルフは呆れた顔でジャックに言った。

 

 

「……まぁ、良い……日誌の書き方については後日ゆっくり話し合うとして……これから宴会をやるから踊る孔雀亭に行こう」

 

 

セルマは疲れた顔でラルフとジャックに言った。

 

 

「俺は遠慮する」

 

 

「ん〜〜、私もパスしたい」

 

 

ジャックとスノーは断ったがセルマは聞き入れず強引に二人を部屋から連れ出した。

 

 

「ダメだ!!…アイアンマウス結成の宴会だから全員出席して貰う……ほらっ、行くぞ!!」

 

 

「わわ!!…解ったから」

 

 

「…引っ張るな」

 

 

スノーは困惑し、ジャックは迷惑そうな顔をしてセルマに引っ張られて行った。

 

 

「…やれやれ…にしても、随分と乗り気だな…」

 

 

そんな様子を見てラルフはボソッと呟き三人の後を追った。

 

 

踊る孔雀亭に着いた一行はラルフが先に手配した席に着いた。

 

 

各々のグラスに酒が注がれたのを確認してからセルマが乾杯の音頭を取った。

 

 

「では…アイアンマウス結成を祝って、乾杯!!」

 

 

「乾杯!!」

 

「かんぱ〜い…」

 

 

「………………」

 

 

セルマの音頭で各々、グラスを高く掲げて乾杯した。

 

 

「ふふ、結成おめでとう……はい、料理よ♪」

 

 

オーナーが料理を次々とテーブルの上に並べていった。

 

 

「ありがとう…さぁ、乾杯も終わった事だ…食べるとしよう」

 

 

セルマがオーナーに礼を言うと皆料理を食べ始めた。

 

 

「……ねぇ、ラルフ…冒険者って毎回打ち上げするものなの?」

 

 

「まぁ、今回はギルド結成を祝っての宴会だからな……毎回毎回やる訳では無いが、大きな冒険が終わった後なんかはよくやったな…」

 

 

「そうなんだ……じゃあ、これからも宴会やるんだね…」

 

 

ラルフの答えを聞いてスノーは嫌そうな顔をして呟いた。

 

 

「ハハハ、安心しろ…大きな冒険なんてそうそう無いさ………なぁ、ジャック」

 

 

「………俺は冒険者じゃないから知らん…」

 

 

「ん?…そうなのか?…今日の探索を見てる限り素人とは思えなかったんだがな…」

 

 

「……………………」

 

 

ラルフの問い掛けにジャックは無言で返した。

 

 

「確かに、あの動きは素人のものでは無かったな…一体どこで覚えたんだ?」

 

 

「………お前には関係無い…」

 

 

「まぁ、そうだが…」

 

 

セルマが興味深げに質問したがジャックは冷たい声で返した。

 

 

「……そんな事よりジャック……全然飲んでないな」

 

 

「…酒を飲む習慣が無いだけだ……気にするな…」

 

 

「そうはいかん、宴会なんだ…お前も飲め!!」

 

 

「!!…何をする!!…止めろ!!」

 

 

セルマが嫌がるジャックに無理矢理酒を何杯も飲ませた。

 

 

「ほう……中々の飲みっぷりだ…やるな、ジャック」

 

 

「お前が無理矢理に飲ませたんだろうが!!」

 

 

ジャックがセルマに抗議の声を上げたがセルマは全く気にしてなかった……それどころか…

 

 

「ふむ、私も負けてられないな」

 

 

と言ってセルマは酒のボトルごと一気に飲んだ。

 

 

「ぷはっ……さぁ、飲め!!」

 

 

「飲め!!…じゃない!!…深酒するつもりは無いぞ!!」

 

 

セルマはもう一本のボトルを持ってジャックに迫った…その様子を見てラルフとスノーは引いていた。

 

 

「オイオイ、火酒をボトルごと飲む奴が居るか…」

 

 

「…凄いけど……真似したくないね…」

 

 

そんな二人を尻目にセルマはジャックにボトルごと無理矢理酒を飲ませていた。

 

 

「止めろ!!…ブフッ!!……いい加減にしろ!!」

 

 

「とか何とか言っておきながら飲んでるではないか……さぁ、もう一本だ」

 

 

セルマは再びボトルを持ってジャックに迫った。

 

 

「セルマの奴……絡み酒だな……意外に質が悪い…」

 

 

「…そうだねラルフ……でもジャックもジャックであれだけ飲んで顔色1つ変えないね…」

 

 

次々と空になっていくボトルを見てスノーは呆れていた。

 

 

「……そう言や、アイツ……毒には強い耐性を持ってるって前に言ってたな…」

 

 

「…だから、アルコールに酔いづらいって訳?……でもこの場合、返って地獄ね」

 

 

セルマとジャックを見てスノーは疲れた様に溜め息を吐いた。

 

 

「見直したぞジャック…イケる口では無いか…さぁ、朝まで飲むぞ♪」

 

 

「止めろ!!……絡むなら他を当たれ!!…だから、飲ませるな!!」

 

 

その後、セルマとジャックは朝まで飲み続けた……そして翌朝、請求された額を見てラルフは苦虫を噛み潰した顔で二人を睨んでいた。




ここまで読んで戴いて有り難うございます。


今回は冒険を終えてセルマがハメを外す回でした。


次回から第一の迷宮に挑みます。
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