世界樹に挑む者達   作:猫太子

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冒険日誌

皇帝ノ月 11日

記入者 ラルフ


本当はこの日に冒険に出る予定だったが…今日は結局1日街で過ごす事になった。

何故なら、昨日セルマとジャックが朝まで踊る孔雀亭で飲み明かしたせいで二人とも夕方までずっと眠り続けたせいだ。

全く、二人して何をやってるんだ。

酒を飲むのは構わないが酒に呑まれるのは戴けない……まさか、セルマがあんな酒乱だったとは思わなかったよ。

オーナーから渡された請求書の額を見て目眩がした……今後は宴会を控えないと破産してしまう。

まぁ今日休んだ分、明日は頑張って貰わないとな…


荒ぶる巨獣

「………とまぁ、気球の操作の仕方はこんな感じだ…後は実際に乗って覚えてくれ」

 

 

快活そうな青年がアイアンマウス一行に気球の操作を教えていた。

 

 

ここはカーゴ貿易所……アイアンマウス一行は辺境伯から気球を一隻贈られたので係りの者に教わっていた。

 

 

幸いな事にラルフは経験者であった為それほど問題なく気球操作の講習は終わった。

 

 

「じゃあ、俺はこの辺で……頑張れよ、アイアンマウス」

 

 

係りの者はそう言って去っていった。

 

 

「ふむ…では早速気球で冒険に出るとしよう…皆、準備は良いな?」

 

 

セルマの質問に全員頷いた。

 

 

「では…町外れに係留してある気球の所まで移動しよう」

 

 

セルマの指示に従い一行は町外れまで移動し気球に乗り込んだ。

 

 

気球は空高くまで舞い上がり風馳ノ大地を突き進んだ。

 

 

「うわぁ〜…空の上からの景色ってこうなんだ〜」

 

 

スノーが気球から顔を出して興味津々に周りの景色を見渡した。

 

 

「あまり顔を出すと危ないぞ」

 

 

ラルフがそんなスノーをたしなめる。

 

 

「解ってるよラルフ……あっ!?…大きいカンガルー」

 

 

「あれはうろつく跳獣だ…初めて見るのか?」

 

 

「うん♪…図鑑でしか見たことが無いよ」

 

 

スノーは更に身を乗り出そうとしてラルフに止められた。

 

 

「だから危ないって……気持ちは解るがはしゃぎ過ぎだ」

 

 

そんな二人の様子を尻目にセルマはジッと北の方角を見ていた。

 

 

北の方角には一行が目指す碧照ノ樹海がある。

 

 

そこは数多くのタルシスの冒険者が挑む迷宮……辺境伯の号令で長年探索が続いているが、未だその全貌が掴めていない。

 

 

「…ここからが本当の冒険の始まりだな…」

 

 

セルマは未だ見えぬ碧照ノ樹海を睨んで呟いた。

 

 

「……………………」

 

 

ジャックは我関せずと武器のチェックと道具の確認を無言でしていた。

 

 

(アリアドネの糸が一本…後はメディカが五本か……本当はネクタルとアムリタとテリアカが欲しい所だったが…品切れだから仕方無い…)

 

 

ジャックは内心で溜め息をついた。

 

 

そんなジャックの様子を見てラルフが声を掛けた。

 

 

「どうしたジャック……不景気な顔をして」

 

 

「何でもない……気にするな…」

 

 

ジャックがラルフに返事をした時、巨大な影が気球に被さった。

 

 

訝しげな表情でスノーが上空を見上げて、その正体を見て息を飲んだ。

 

 

釣られて上空を見たラルフは『それ』を見て怒りと緊張で顔を歪ませた。

 

 

「圧倒する巨翼!!」

 

 

ラルフは憎しみを込めて影の主をそう呼んだ。

 

 

「ラルフ……どうしたの?……顔が恐いよ…」

 

 

スノーが若干怯えた顔でラルフに声を掛けた。

 

 

「アイツは!!…アイツだけは!!」

 

「ラルフ!?…どうした、しっかりしろ!!」

 

 

ラルフの豹変に驚き、セルマが慌てて声を掛けた。

 

 

「……ラルフ……あれは違う…」

 

 

ジャックがラルフの肩を叩いて言った。

 

 

「……ああ、解ってる……アイツはもう…」

 

 

ラルフはそれだけ言うと沈んだ顔で口を閉ざした。

 

 

圧倒する巨翼は眼下の気球に気を取られる事無く飛び去っていった。

 

 

「ラルフ……大丈夫か?」

 

 

「大丈夫だ…済まない…皆…」

 

 

心配そうに声を掛けるセルマにラルフは言葉少なげに答えた。

 

 

セルマとスノーは心に引っ掛かりつつも、それ以上ラルフに何も聞かなかった。

 

 

沈んだ空気の中、気球は進み…やがて広大な樹海が一行の目に映った。

 

 

「……どうやら、あれが碧照ノ樹海の様だな…」

 

 

「そうだねセルマ……地図によると多分あれがそうだよ……?…ねぇセルマ…樹海の北に渓谷があるよ」

 

 

スノーは渓谷を指差してセルマに言った。

 

 

「……そうだな…」

 

 

セルマは渓谷を見て暗い顔で答えた。

 

 

「どうする?…行ってみる」

 

 

スノーがセルマに聞いたがラルフが止めた。

 

 

「いや…それは止めた方が良い……見てみろ、気流が激しすぎる…近付くだけでも危険だ」

 

 

ラルフの言う通り渓谷から激しい気流が流れていた。

 

 

「…ラルフの言う通りだ…この気球では恐らく持たないだろうな……それに、今は碧照ノ樹海の探索が先だ」

 

 

セルマもラルフに同調する様に言った。

 

 

(…この気球では?…何を言ってるんだ?…タルシスの気球は皆このタイプだぞ?)

 

 

セルマの言葉にラルフは内心首を捻った。

 

 

「とにかく、樹海に降りるぞ…準備は良いな?」

 

 

セルマの言葉に従い、一行は碧照ノ樹海に降り立った。

 

 

「ふむ…見た感じ森の廃鉱と変わらんな…」

 

 

「………いや、空気が違う…そんな事より…前方に敵の気配がする……来るぞ!!」

 

 

セルマの呟きにジャックがそう答えて身構えた。

 

 

皆もそれに倣って臨戦態勢に入った。

 

 

「チュー!!」

 

 

「ギィィィ!!」

 

 

一行の前にモンスターが五体現れた。

 

 

「森ネズミが三匹にボールアニマルが二匹……ここは私の印術で…」

 

 

「待てスノー……まだ探索は始まったばかりだ、あまり強力な術は控えろ…」

 

 

「解ったわセルマ……じゃあ火球の印術で前衛の二匹を潰すから後お願い!!」

 

 

スノーがそう答えた後、火球を杖の先から生み出し前衛にいるボールアニマルに飛ばした。

 

 

「ギュィィィ!!」

 

 

ボールアニマルはアッサリ燃え尽きた……それを見計らってジャックが両手にダガーを構えて森ネズミ達に襲い掛かった。

 

 

「チュウ!?」

 

 

森ネズミは抵抗する間も無く頸動脈を斬られ、血を吹き出して絶命した。

 

そして返す刀で隣に居た森ネズミを斬り付けて仕留めた。

 

 

「ハァッ!!」

 

 

「ヂュウッ!!」

 

 

残った一匹もラルフが鎚で押し潰して倒した。

 

 

「……私の出番は無かったな…」

 

 

その様子を見てセルマがポツリと呟いた。

 

 

「良いじゃない……こんな所で剣を折らないで済んだんだから」

 

 

「いや、スノー…いくら私でも同じ過ちは犯さないぞ……多分…」

 

 

スノーの物言いにセルマは自信無さげに答えた。

 

 

「…剣と言えばジャック……お前、その二刀を使った所を見た事が無いな…」

 

 

セルマとスノーの会話を聞いてラルフがジャックに聞いた。

 

 

「………俺の勝手だ…」

 

 

ジャックはウザったそうにラルフに答えた。

 

 

「…ねぇ…使わないんなら一本セルマに渡したら?…どうせ折るんだし…」

 

 

スノーの言葉を聞いてジャックは冷たい目でスノーを睨んだ。

 

 

「そんなに睨まないでよ!!……冗談も通じないの!!」

 

 

スノーはムッとしてジャックに言ったがジャックは無視して歩き出した。

 

 

「何なのよ!!…言いたい事があるならハッキリ言いなさいよ!!」

 

 

「まぁまぁ、スノー抑えて抑えて…」

 

 

憤慨するスノーをラルフは宥めながらジャックの後を追った。

 

 

「………このパーティ……大丈夫かな?」

 

 

そんな様子を見てセルマは溜め息をついた。

 

 

一行が樹海を歩き続けると二股に別れた道に出た。

 

 

取り敢えずセルマ達は左の道を進んだ……暫く歩くと前方に天まで伸びている光の柱を一行は見付けた。

 

 

「あれは……何だ?」

 

 

セルマが訝しげに呟くとラルフが話し始めた。

 

 

「ああ、あれは樹海滋軸だ……アレの中に入ると街まで戻れるんだ…どう言う理屈かは知らんがアレを利用すれば樹海と街を往き来出来るぞ」

 

 

「そうなのか?……にわかに信じがたいが…まぁ、利用出来る物は利用させて貰おう……ん?…あの先に扉があるな…行ってみよう」

 

 

一行はセルマの言葉に従い、扉を潜った。

 

 

「……何も無いわね…」

 

 

潜った先の広い空間を見てスノーが呟いた。

 

 

「いや、この先道が続いてる様だが……木が邪魔して進めないな…」

 

 

ラルフは目敏く道を見付けたが…目の前の巨大な倒木に拳を打ち付けてそう言った。

 

 

「本当だ……でもこれじゃあ進めないね…それにしても、この倒木……甘い匂いがするね」

 

 

スノーは倒木を調べて呟いた。

 

 

「ここは一旦さっきの別れ道まで戻って反対の道を進もう」

 

 

埒のあかない状況を見てセルマが提案し一行はそれに従い別れ道まで戻り、反対の道を進んだ。

 

 

暫く道なりに進んで行くと一行の目の前に再びモンスターが現れた。

 

 

「グラスイーター四匹に…シンリンチョウ!!…また面倒な奴が現れたな」

 

「ラルフ…ヤバい奴なのか?」

 

 

ラルフの言葉にセルマが質問の声をあげた。

 

 

「いや、それほど強い奴では無いが……奴のリンプンが目に入ると一時的に視力を失う……スノー、アイツを先に焼き払ってくれ」

 

 

「解ったわ…」

 

 

ラルフの言葉にスノーが応えてシンリンチョウを焼き払ったが…

 

 

「嘘!?…伏兵!?」

 

 

近くの草むらから新たに二匹のシンリンチョウが現れてラルフとスノーにリンプンをばら蒔いた。

 

 

「きゃっ!!…目が…」

 

 

「しまった!!」

 

 

ラルフとスノーはリンプンにやられて視力を失った。

 

 

そこへグラスイーターが一匹スノーに迫る。

 

 

「ハァァァ!!」

 

 

セルマが空かさずスノーに迫ったグラスイーターを斬り裂き、グラスイーターを真っ二つにした。

 

 

「チッ……」

 

 

その様子を見てジャックがモンスター達に向かって短刀を投げ付けた。

 

 

短刀を食らったモンスター達は皆、苦しみながら絶命していった。

 

 

「……毒か?」

 

 

「………………」

 

 

モンスター達の惨状を見てセルマが聞いたがジャックは無言で答えた。

 

 

「……終わったか…済まない、油断した」

 

 

「助かったわ……うぅ…目が…」

 

 

戦闘が終わったのに気付いてラルフとスノーが二人に声を掛けた。

 

 

「いや、私も新手に気付かなかったからな…気にするな……それより、また二股の別れ道だ…どっちに進む?」

 

 

セルマは皆に聞いた。

 

 

「…そうね、じゃあ右に行ってみようよ」

 

 

「俺はどっちでも構わない」

 

 

「…………………」

 

 

スノーは右を主張してラルフとジャックは答えを保留にした。

 

 

「では右に行くとしよう」

 

 

セルマはそう決断し、一行は右の道を進んだ。

 

 

一行が歩き続けると、やがて広い空間に出た。

 

 

「…ここも行き止まりか…」

 

 

セルマは溜め息をついて呟いた。

 

 

「いや、ここも道が続いてるが……さっきと同じで倒木が道を塞いでいる」

 

 

「そうだねラルフ……あっ、ちょっと待って」

 

 

ラルフの言葉に答えた後、スノーが道端に咲いてる花を摘んできた。

 

 

「それは何だ?」

 

 

「これ……ネクタルの原料になる花だよ…これ以外にもテリアカβの原料になる樹海アロエもあったよ」

 

 

セルマの問い掛けにスノーが答えた。

 

 

「このままじゃあ使えないけど街に戻って専門家に渡せば薬になるよ……まだ幾つか咲いてるから持っていこうよ」

 

 

「そうだな…所でジャックは何処に行ったんだ?」

 

 

セルマは周りを見渡して皆に聞いた。

 

 

「そう言えば……いつの間にか姿を消したな」

 

 

「アイツ!!…何処に行ったのよ!!」

 

 

セルマの言葉を聞いてラルフは訝しげに、スノーは憤慨して言った。

 

 

「……俺ならここだ…」

 

 

そんな中、ジャックが音も無く現れた。

 

 

「ちょっと!!…おどかさないでよ!!…何処ほっつき歩いてたのよ!!」

 

 

突然現れたジャックに驚きスノーは抗議の声をあげる。

 

 

「……抜け道を見付けた……樹海の入り口に繋がっていたぞ…」

 

 

スノーの抗議を無視してジャックは皆に言った。

 

 

「そうか……抜け道を見付けてくれたのは感謝するが、あまり単独行動はしないでくれ…皆が心配する」

 

 

「………善処はしよう…」

 

 

セルマの言葉にジャックは仏頂面で答えた。

 

 

「はぁ……取り敢えず、これ以上ここを調べても埒が明かない…さっきの別れ道まで戻って反対の道を調べるぞ」

 

 

セルマは溜め息をついて皆に宣言した。

 

 

一行は再び元来た道を戻って反対の道を進んだ。

 

 

また暫く進んで行くと……

 

 

「また行き止まり……いい加減にしてよね…」

 

 

「ここもアチコチで倒木が道を塞いでいるぞ」

 

 

「そうだな…」

 

 

スノーとラルフとセルマはウンザリして呟いた。

 

 

「それにしても……相変わらず甘い匂いがするね……どうも蜜の匂いみたいだけど……私達は熊じゃないから嬉しくないね…」

 

 

スノーは辟易しながら呟いた。

 

 

「ん?…熊はこう言うのを好むのか?」

 

 

「そうだよセルマ……と言っても図鑑で得た知識たけどね」

 

 

スノーは倒木を蹴飛ばしてセルマに答えた。

 

 

「待て!!…蹴るな!!…その先に何か居るぞ!!」

 

 

「えっ?」

 

 

ジャックが慌ててスノーを止めたが一足遅かった。

 

 

「グォォォォォォ!!」

 

 

倒木の先の道に居た巨大な何かが咆哮をあげた。

 

 

「うわわわわ!!…何!!…何なの!!」

 

 

スノーは慌てて逃げ出した。

 

 

そして巨大な何かが倒木を粉砕して一行の前に姿を現した。

 

 

「って熊ぁぁ!!…本当に出たー!!」

 

 

その姿を見てスノーは慌てふためいた。

 

 

ラルフ以外皆臨戦態勢に入ったが…

 

 

(…凄まじい力だ…倒木が木端微塵に……ん?…待てよ……もしかしたら…)

 

 

ラルフの頭に閃きが過った。

 

 

「…皆…ここは一旦引くぞ!!」

 

 

「ラルフ、何を言って…」

 

 

「セルマ、俺に考えがある!!」

 

 

「…解った、ラルフを信じよう……皆、引くぞ!!」

 

 

セルマの言葉に従い皆一斉に逃げ出した。

 

 

その様子を見て巨大な熊は咆哮をあげて一行を追い掛けた。

 

 

「ちょっと!!…アイツ追い掛けてくるよ!!」

 

 

「それで良いんだ!!…それ、逃げるぞ!!」

 

 

スノーとラルフが言い合っている間に巨大な熊が距離を詰めてくる。

 

「しつこく追い掛けてくるな…」

 

 

「多分アイツ…森の破壊者よ…アイツらは獲物を見付けると縄張りから出るまで追い掛け回す習性があるのよ!!」

 

 

セルマの呟きにスノーが律儀に答えた。

 

 

逃げる一行の背に森の破壊者が迫る……後少しの距離で森の破壊者は…

 

 

「グォォォォォォ!!」

 

 

一行を無視して、すぐ近くの倒木に突進して粉砕した。

 

 

「えっ?…どう言う事?」

 

 

その様子を見てスノーがポカンとした。

 

 

「…やはりな……コイツは倒木から漂ってくる甘い匂いに釣られて倒木に突貫する習性があるようだ」

 

 

粉砕した倒木の破片に爪を振るってる森の破壊者を見てラルフは得心がいったように呟いた。

 

 

「成る程、そう言う訳か……ならば、この調子で他の倒木を粉砕して貰おう」

 

 

セルマがそう呟いた所で森の破壊者は満足したのか倒木から離れて再び一行に狙いを定めた。

 

 

「よし、逃げるぞ!!」

 

 

再び森の破壊者との鬼ごっこが始まった。

 

 

一行は森の破壊者を上手く誘導して道を塞いでいた倒木を全て破壊した。

 

 

「…倒木は全部破壊して貰ったけど……私達、追い込まれちゃったね」

 

 

スノーの言葉通り、一行は袋小路に追い込まれていた。

 

 

「…倒木は全て破壊した……もうコイツは用済みだ……仕留めるぞ…」

 

 

「そうだなジャック……こんな所で食われてやる訳にはいかない…倒すぞ!!」

 

 

セルマの言葉に皆一斉に身構えた。

 

 

「グォォォォォォ!!」

 

 

「おっと、やらせねぇ!!」

 

 

森の破壊者が獰猛な唸り声をあげてセルマに迫ったが、間髪入れずにラルフが間に立ちその鋭い爪を大盾で防いだ。

 

 

「グガァァァ!!」

 

 

森の破壊者は再び爪を振り上げたがカスリもせず虚しく空を斬る。

 

 

「グガッ!?…グォォォ!!」

 

 

更に爪を振るったが一行とは見当違いの所を攻撃していた。

 

 

「何だ?…我々の姿が見えないのか?」

 

 

「…の、様だ……アレを見ろ」

 

 

訝しげな表情を浮かべて呟いたセルマにラルフが森の破壊者の肩を指差して答えた。

 

 

そこには一本の短刀が突き刺さっていた。

 

 

「盲目の投刃……か?…ジャックの奴、いつの間に…」

 

 

明後日の方向に爪を振るう森の破壊者を見てセルマは驚きの声をあげる。

 

 

「何だって良いわ…今の内だよ!!」

 

 

「そうだったな……スノー、合わせろ!!」

 

 

「任せてセルマ、取って置きを食らわせてやる!!」

 

 

セルマが跳躍して森の破壊者の頭上を目掛けて斬り付ける。

 

 

「グゲァァァァ!!」

 

 

「怯んだね?…今だ!!…落ちよ、稲妻!!」

 

 

森の破壊者の頭上に空から稲妻が落ちた。

 

 

強烈な落雷を受けて森の破壊者は断末魔すらあげる事無く黒焦げになり、絶命した。

 

「……あれだけの巨大なモンスターが一瞬で……印術とは凄いな…」

 

 

「でしょでしょ♪…セルマは解ってるね♪」

 

 

セルマの様子を見てスノーは自慢気にはしゃいだ。

 

 

「いや、実際大したものだよ……稲妻の印術なんて使える奴、初めて見たぜ」

 

 

近くの木陰から一人の冴えない風貌の冒険者が姿を現した。

 

 

「ワールウィンド殿……いつから見てたんですか?」

 

 

「お前さん達が追い掛け回されてる所からだ」

 

 

セルマの質問にワールウィンドはいけしゃあしゃあと答えた。

 

 

「何よ……手伝ってくれても良かったじゃない…」

 

 

「悪いね嬢ちゃん……ちょっと余裕が無くてね…」

 

 

スノーの言葉にワールウィンドは困った顔で答えた。

 

 

「それはどう言う意味だ?」

 

 

「ああ、実はね…」

 

 

ラルフの質問にワールウィンドは急に真面目な顔をして話し始めた。

 

 

「この先に樹海の奥に通じる階段があるんだが……その階段を降りた先にヤバい奴が現れて、先に進んだ冒険者やタルシスの兵士達が皆殺られちまったんだ」

 

 

ワールウィンドの言葉に皆息を飲んだ。

 

 

「ソイツはお前さん達が今倒した森の破壊者によく似てるんだが…全身真っ赤な体毛…もしかしたら返り血かも知れんが…に覆われている…強さも、そこで転がってる奴より数段上だ…」

 

 

ワールウィンドは溜め息をついて話し終えた。

 

 

「……ワールウィンド殿はこれからどうするのですか?」

 

 

「俺は一旦タルシスに戻って辺境伯にこの事を報告する……お前達も先に進むんなら気を付けろよ」

 

 

ワールウィンドはそう言って去っていった。

 

 

「…ねぇ、私達はどうするの?」

 

 

立ち去ったワールウィンドを見てスノーがセルマに質問した。

 

 

「……そうだな…私は一旦街に引き上げるべきだと思う…その赤いモンスターに立ち向かうにせよ一度体勢を建て直した方が良い」

 

 

セルマは重い口調で言った。

 

 

「…そうだな…それに辺境伯から某かの指示が出るかも知れないしな」

 

 

ラルフも同調する様に言った。

 

 

「私も賛成……ジャック、アンタはどうするの?…まさか、また一人で残るなんて言わないよね?」

 

 

「……今回は特に依頼を受けてない…」

 

 

スノーの質問にジャックは言葉少なげに答えた。

 

 

「なら、決まりだな……一旦戻ろう…じゃあ、さっきの樹海滋軸まで戻ろう…」

 

 

「その必要は無い……アリアドネの糸がある…これを使えばこの場で直ぐに戻れる…」

 

 

ジャックはそう言って道具袋からアリアドネの糸を取り出した。

 

 

「いつの間にそんな物を……冒険者じゃないと言ってた割に随分と用意周到だな……お前、本当に素人なのか?」

 

 

ラルフは懐疑的な視線を送ってジャックに言った。

 

 

「……戻るぞ…」

 

 

ジャックはラルフの質問に答えず、静かに呟いてアリアドネの糸を使った。




ここまで読んで戴いて有り難うございます。


今回から碧照ノ樹海の探索が始まった訳ですが、ちょっとくどかったかな?

そして、戦闘もセルマはある縛りのせいで中々活躍出来いし……一応主人公なのに…


次回こそ、セルマが活躍……出来たら良いな…
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