ソラちゃんとイチャイチャするだけのお話   作:翠晶 秋

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モノローグ 喫茶店

「おや? 〇〇さんではないですか!」

「やあソラちゃん。意外だね」

 

あなたはソラに声をかける。

喫茶店でたまたまあなたを見つけたソラは「失礼します」と言い、あなたの対面に座った。

 

「ソラシド市にはこんな素敵なところもあるんですね! 落ち着いた雰囲気で素敵です!」

「ご注文は?」

「では、この人と同じものを!」

「かしこまりました」

 

サイドテールを揺らし、あなたの顔を覗き込むソラ。

綺麗な青色の瞳に、自分の姿が映るのがよくわかる。

 

「ここには、よく来られるんですか?」

「調子がうまくいかない時に、ちょっとね」

「へぇ……大人ですね!」

 

あなたは苦笑いした。

中学2年……齢にして13か14である彼女に大人ですねと言われても彼女より年上であることに違いないあなたは返答に困る。

 

「ソラちゃんは、どうしてここに?」

「たまたま見つけたんです。何か惹かれるものを感じて入ってみたら、あなたがいたという次第で。もしかしたら、これが運命というものなのかもしれませんね!」

「運命って、大袈裟な……」

「いえ、わたしは前に運命的な出会いをしたことがありますから。二度あることは三度あると言いますし」

 

運命的な出会い? と首を傾げるあなた。

それが同級生のましろであることは、あなたはまだ知らない。

 

「お待たせいたしました」

「ありがとうございます!」

 

彼女の前に置かれるカップ。

まずい、とあなたは気づく。

いまあたなたが飲んでいたのは、この店の中でもかなり苦く抽出したコーヒー。

中学生が苦手そうな酸味こそ少ないものの、代わりに苦味を増した一品。

待ったの声をかけるが、もう遅い。

彼女は慌てるあなたを不思議そうに見ながら、コーヒーを口に含んでしまった。

 

「………………」

「……その」

「とても苦いです…………」

「だよね」

 

顔を顰め、ごくりとコーヒーを飲み込むソラ。

ヒーローたるもの、一度口に含んだものを吐き出すわけにはいかなかったのだろう。

あなたはスティックシュガーとミルクを差し出した。

 

「ありがとうございます……。これ、飲めるんですか……?」

「まぁ……。日によって苦味が変わるから、たまに砂糖とかは入れる時もあるけどね」

「すごいです……」

「無理はしないでね」

 

そう言って自らのコーヒーを口に含むあなたに羨望の目を向け、ソラは椅子に座り直した。

 

「そういえば、この前のお怪我は大丈夫ですか?」

「あぁ、それならもう完治したよ」

「良かったです!」

 

あなたは以前、彼女に手を差し伸べてもらった人間だ。

綺麗になった手の甲を見せると、ソラの顔がぱぁっと明るくなる。

 

「痕もなさそうですね!」

「ソラちゃんのおかげだよ。多分、一人じゃ放置してたと思うから」

「いえいえ! 大事にならなくて何よりです! ヒーローは、困っている人を見過ごしませんから! もう少し、確認してもいいですか?」

 

きゅっ、とソラがあなたの手を握る。

あなたの傷を確認しているようだ。用心深い。

柔らかい女の子の手が、あなたの手を包む。

ふにふにで、しかしこの年にしてはなぜか比較的がっしりしているように思える小さな手は、窓から差し込む光で淡く輝いていた。

艶のある青い髪が垂れる。

そこで、ソラは自分が思ったより長くあなたの手を掴んでいたことに気づいたようだ。

 

「ご、ごめんなさい! 男の人の手って、結構たくましいんだな〜って思っちゃいまして……。つい夢中に……」

「そう? 特に鍛えたりはしてないんだけど」

「そうなんですか? トレーニングはいいですよ! 自己を高めてくれます!」

「ソラちゃんはトレーニングをやってるの?」

「はい! 自主練ですが、日々鍛錬中です!」

「なるほどね、ソラちゃんらしいや」

 

ともすれば、この少々硬めの手指にも納得がいく。

彼女の求める「ヒーロー」になるための鍛錬の賜物なのだろう。

……ちなみに、あなたがそう勘違いしているだけで、ソラの手は鍛錬によって鍛えられたわけではない。多少はその効果もあるだろうが、ほとんどはソラシド市に来る前からそうだったものである。

 

「トレーニングかぁ。初めてみようかな」

「……よければ、一緒にトレーニングをしてみませんか? 少しのランニングなどでも大丈夫ですので!」

「ソラちゃんがそこまで言うなら……?」

「ほんとですか!? じゃあ、明日の朝に公園まで来てください! えへへ、楽しみです!」

 

屈託のない笑顔で笑うソラ。

中学2年生と朝に二人きりで公園に集う約束……。とあなたは社会的に微妙な気配を感じるが、よこしまな気持ちをもつからそう感じるだけだと首を振る。

頭を落ち着かせるためにコーヒーに手を伸ばし、一口すする。

ソラの方は砂糖もミルクも入っている。ここで間違えて間接キス……!? となるような展開は決してない。

 

「あっ、おいしいです!」

「よかった」

 

恐る恐るコーヒーを口に含んだソラだが、覚悟していた苦みが緩和されていることに気づき頬を緩める。

 

「……でも、ちょっぴり冷めちゃいましたね」

「これも慣れだよ。いつまでも続くものはないんだしさ」

「……手帳にメモします!」

 

ソラはたまに、あなたの言葉に感銘を受け(?)メモを取る時がある。

今回は、「永遠に続くものなど無い」の部分だろうか。

こんな青いセリフ、この先ソラが使うことはないんじゃないかと思うあなただが……。

 

「……よし」

 

小さく意気込む彼女を前にすると、微笑ましくて仕方がない、あなただった。

 

 


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