ニィロウ
朝、目が覚めると...
「あ、おはよ、タフィーロ」
「ちょっと待って欲しい」
マグカップを2つ持ったとんでもない美人がそこにいた。
「...なんでいんの?」
「私今日休みだし、タフィーロも暇でしょ? どこか出かけようよ!」
「お誘いは嬉しいんだけど答えになってないんだわ」
目の前にいる童顔美人の名はニィロウ。
ズバイルシアターの踊り子で、しばらく前に教令院関係で一悶着あったが、それ以降ものすごい勢いで知名度が広がっている...らしい。俺はコイツの踊りを見たことないから分からん。
ちなみにコイツと俺は幼なじみだったりする。
小さい時からダンスが上手かった。それは覚えてる。
でもさぁ...。いくら踊り子とはいえ、その格好はいかがなものかと思うよ? お腹完全に出てるし。脇も出てんじゃん。
なんか...こう...それでコイツの踊りを見たらなにかに目覚めそうだから見に行ってない。
「ねぇ〜。はーやーくー。起きてー!」
「うるさいよもう...。大体今何時......6時にもなってねぇじゃねぇか!」
「だって! 休みは長い方がいいでしょ?」
「俺は休日は寝る派なんだが?」
「うるさーい! 口答えしない! ほらっ!」
ニィロウはコーヒーの入った俺のマグカップと、いつの間にか食器棚に置かれていたコイツの私物のマグカップをテーブルに置いて、俺の毛布を引っペがして、非常に満足気な表情をしている。
「やめてくれよ...もう少し寝かせて...」
「早く起きないとジュートさんのタフチーンが無くなっちゃうよ!」
「俺は自炊してんだよ...」
「むー...」
毛布が剥がれてもそのまま二度寝と洒落こもうとする俺ことタフィーロを見て、ニィロウはタフィーロに馬乗りになり頬をふくらませ、不機嫌アピールをしている。
「あーあー。せっかくのデートのお誘いなのになー」
「...」
「今日を逃したらまたしばらくやすめないのになー」
「...」
「...バザールの皆にあることないこと言っちゃうよ?」
「それだけはヤメロ」
コイツ...。ケラケラ笑ってるが俺は気が気でない。グランドバザールはコイツの家のようなものだ。そこでは俺よりもコイツの方がよっぽど権力がある。そこで何か言われてみろ? 命がいくつあっても足りなくなるぞ。
「じゃあ起きて! お出かけしよっ!」
「分かった。分かったから降りろ...重い...」
「は?」
あ、やっべ。寝起きでつい...。
「だ れ が 重 い っ て ?」
「なんでもございません」
「よろしい」
ニィロウはタフィーロからするりと降りると、いつもの顔に戻り、先程のマグカップに口をつけながら、
「まったくもう! 女の子に重いって言っちゃダメだよ! 私だからよかったけど! 他の子だったら血を見るよ!」
「...お前も大概...」
「なんか言った?」
「ヴェッ、マリモ!!」
スメールの女子は皆野蛮だと再認識したタフィーロであった。
「朝ごはんどうすんの? 俺は自分で作るけど。それともグランドバザール行ってみるか?」
布団から起きて、いつも通り朝ごはんの支度をするタフィーロ。しかし本日は家にニィロウもいる。ニィロウはグランドバザールにいるジュートのタフチーンが食べたいようだが、
「ううん! タフィーロの朝ごはん食べる!」
「さいで」
どうやら朝ごはんを2人前用意しなくてはならないようだ。タフィーロはパンをトーストし、冷蔵庫に入っていたフルーツをテキトーに取り出し盛り付け、俺のマグカップは...ニィロウが持っているんだった。
「おいニィロウ。俺のカップに何入れた?」
「......」
「ニィロウ?」
「...すー...すー...」
「なにしてんの」
なんで俺から布団引っ剥がしておいて自分が布団に入ってるんですかねぇ。やっぱり疲れてたんじゃねぇか。パンが固くなっちまうな...。
まぁ寝かせといてやるか...。
「...ったく。...お疲れ様。ニィロウ。時間に余裕があればお前の踊り、見に行くよ」
コイツが寝ていないと恥ずかしくてこんな事言えないが、寝てるなら別にいいか。
ニィロウは髪もサラサラだし顔も整ってる。彼氏の1人や2人いてもおかしくはないと思うが、それを本人に言ったところ、「彼氏? いないよ! 1度も作ったことないもん」との事だった。はぁ? うせやろ? 俺も今まで彼女がいたことは無いがそれとは訳が違う。ニィロウが本気で男を落とそうとすれば一瞬だろう。
...比較してて悲しくなってきた。
「......んゅ...んぁー...かぷっ」
「おいおい...」
頭を撫でていた手をニィロウは捕まえると指先をちゅぱちゅぱと舐め始めた。寝ながら器用なこって。...背徳感がやべぇなコレ。
「...んっ...」
今度はその手をそのまま抱き枕にされてしまった。...力強いなコイツ。段々痺れてきたんだけど。...え? い...いででででで!!
「ニィロウ! 起きろ! 痛い痛い!」
「...んーん......んっ!」
「いっでぇ!?」
ニィロウは起きろという要望に断固拒否の体制だ。布団を頭から被り、俺の腕ごと向こうを向いてまた寝息を立てている。腕が反対に曲がるかと思った...。
「...ぐぉ...抜けねぇ...」
なんだコイツ、ゴリラか? 男の俺が全力で腕を引っこ抜こうとしてんのにビクともしないんだけど。
「...んふぅ...」
「起きてくれニィロウ。朝ごはんがダメになる。あと俺の腕がヤバい」
「...やぁだ。...タフィーロも一緒に寝るの...」
「うおっ!?」
いよいよニィロウに布団に引きずり込まれてしまった。今度は全身を抱き枕にされ身動きが取れない。
あー...めちゃめちゃいい匂いする。柔らかい感触もするし、信頼されてんだなぁと感じる
「...ぎゅううぅぅうう♪」
「いっででででででで!!!」
前言撤回。コイツ俺を殺す気だ。
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「ふんふんふーん♪」
「ご機嫌だな」
ニィロウは鼻歌にスキップも混じえながらタフィーロの横を歩いていた。結局9時を過ぎたあたりでニィロウが目覚め、朝ごはんをもう一度作り直した後、タフィーロが押し切られ、スメールシティの中をブラブラと散歩するのに駆り出された。
「だって久しぶりだもん! 2人でブラブラするの!」
「そんなにだっけか?」
「前は2ヶ月前だよ。その前は半年前。またその前は8ヶ月前だったし...。よーし! 今日はめいっぱい楽しむぞー!」
「...お手柔らかに頼むぞ。俺はお前みたいに体力がある訳じゃないからな」
そうして2人は朝焼けの眩しい中、スメールのあちこちを歩き回った。途中でドニアザードやアルハイゼンとたまたま遭遇したが、どちらも「邪魔すると悪いから」と言ってすぐに立ち去ってしまった。
ニィロウは途中から腕を絡ませ手をにぎにぎしながら「えへへ...手、おっきいね」と笑っていた。なんだそれ可愛いが過ぎる。これがスメールの性癖をねじ曲げた女か...。
歩き回って冒険者協会の前を通り過ぎるといくつか新しい依頼が舞い込んでおり、少し気になったが、ニィロウが強引に腕を引っ張るもんだからまったく内容が分からなかった。
「今は私とのデートに集中して!」
「デートなのか...」
今更ながらこれやばくね? おそらくスメールで1番認知されている女性と全く忍ばずにデートって。刺されてもおかしくないやんか。
腕を引かれて一日中歩き回って、ニィロウの食べる量に戦慄しながら、ニコニコしている彼女を見ていると俺も自然と笑みが溢れる。ニィロウは人の気持ちを読む能力に長けている。だからこそ、本気でデートを楽しむことが彼女への最大の恩返しなのだ。
「...今日はありがとな。1日、楽しかったよ」
「ほんと? よかったぁ。私も楽しかった! しばらくは会えなくなっちゃうけど...。また一緒にデートしよっ! ねっ?」
「...今度はもう少し変装とかしような」
1日歩き回ったが、ヒソヒソと周りに後ろ指を指されるのはあまり気分が良くない。俺とニィロウはただの幼なじみで、恋人でもなんでもないのだ。そんな勘違いをされるのはニィロウにとっても良くないだろう。
...というか勘違いされると俺が刺される。頼むから勘違いしないでくれ(迫真)。
「えー? そんなに私と恋人だーって勘違いされるのが嫌なの?」
「いやまさか。ニィロウみたいな奴が彼女なら俺の人生勝ち組だよ」
「...そ、そっか///」
これは実際そう。
ニィロウが恋人のシチュエーションなんてスメールの全男子が妄想したことがあるだろう。それほどまでにニィロウは有名だし、可愛らしい。
だからこそ、自分の身は大切にして欲しい。最近では砂漠のアアル村の方にも出向いて踊りを披露しているらしいが、少し頑張りすぎな気もする。
「ニィロウ、疲れてないか? せっかくの休みだったのに、1日歩き回ってたじゃないか」
「ん? 全然疲れてないよ! それどころかタフィーロからいっぱい元気貰っちゃった!」
「...そっか。疲れたらしっかり休むんだぞ。踊り子は身体が資本だろ? 辛くなったらいつでも連絡してくれていいからな」
これは幼なじみの特権だ。俺からニィロウに連絡することはほとんどないが、彼女から俺には何度か連絡してきたことがある。大体はシアターで訪れた土地の写真が送られてくるのだが、時々、たまーに、本っ当にごく稀に、「辛い、しんどい」という旨の連絡をしてくる時がある。
そういった時は俺から通話を試みて、夜ニィロウが眠りにつくまでの間、話を聞いている時がある。
そんな時に寂しそうな声で「会いたいな...」なんて言うもんだから勘違いしそうになるが、その度に俺は「また遊びに行こう」ともはやテンプレのような返しをするんだ。それで元気に「うん!」と返ってくれば、それがニィロウの「もう大丈夫」の合図だ。
「...」
「ニィロウ?」
「また、会えなくなっちゃうね...」
「おいおい、どうしたんだよ...。またすぐ会えるって。毎日連絡してくれてもいいんだぜ?」
「...タフィーロ」
「どうした?」
珍しく真剣な声音で、名前を呼ばれた。こういう時は大体茶化すと怒るので俺も真面目に話を聞く。
「...も、もっと一緒に居たい...って言ったら...困る...?」
なんだこの可愛い生き物。上目遣い、涙目、セリフ、全てが完璧すぎる。先程まで真剣な雰囲気だったのにいきなり尻込みしてんの可愛すぎか?
「...俺だってそうしたいけどさ...。お前、明日にはまた出るんだろ? 早く休んだ方がいいんじゃないか?」
「...じゃ、じゃあ...」
「なに?」
「また、タフィーロの家で寝たい...」
急に何を言い出すのこの子は。俺仮にも男なんだけど? ...あっ、もしかしなくても男として見られてないパターンですかそうですか...。
「明日の準備は?」
「もうできてる」
「着替えは?」
「タフィーロの借りる」
「...はぁ...。明日何時起きなんだ?」
そういうと俺が折れたのを悟ったニィロウは満面の笑みを浮かべながら俺に抱きついてきた。今朝も抱きつかれたが、今回はちゃんと力加減がされており、柔らかいニィロウの体を俺が包み込む形となった。
「明日は8時に出発なの! だから...6時に起きれば間に合うね!」
「はっや...」
やはり女性の朝は早いらしい。俺は8時に予定がある時は7時過ぎに起きるからな...。
ニィロウはまたステップを踏みながら俺の家への道をクルクルと回りながら辿っていく。
俺の家までさほど時間はかからない。
「先に飯? 風呂?」
「ご飯食べたい! 大盛りで!」
「お前今日だけでどんだけ食うつもりなんだ...?」
そんな俺のツッコミは夕焼けへと消え、他愛もない話をしている間に俺の家に着いた。
鍵を捻ってドアを開けるとニィロウが「いちばーん!」とはしゃぎながらソファにダイブして行った。...ニィロウを連れ込んでるところ、誰にも見られてないよな?
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さて、キッチンに立ったはいいが、何作ろう。とりあえずニィロウに聞いてみるか。
「なんかリクエストあるか?」
「うーん...。あ! あれ食べたい! シチュー!」
「あぁ、シャフリサブスシチューね。キンギョソウあったっけか...」
シャフリサブスシチューはとある酒場でバイトをしていた時にメニューを教えてもらった。少しばかりアレンジを加えたりして、今では俺の得意料理だ。低コストなのもポイント。
「そうそれ! ...私あれ大好きなの。タフィーロの味がする」
「なんか猟奇的だな」
「そういう事じゃないもん!」
肉を刻んで、玉ねぎを少々、キンギョソウと一緒に鍋にぶち込み、しばらく煮込んだら香辛料を入れる。これがオーソドックスなシャフリサブスシチューの作り方。
俺はここからさらに肉と塩を少し加えて煮込む。味は濃くなるしカロリーも高くなるが、満足感を重視したらこうなった。
ニィロウはソファで1人でいても退屈なのか、しばらくするとキッチンにやってきてちょっかいを出してきた。
「お腹へったー」
「まだ煮込んでるから少し待って」
「...タフィーロって料理もできるよね。勉強も得意だし、苦手なことあるの?」
「...運動」
「えっ!? 運動が苦手なの!? ...意外かも...」
そうなのだ。生まれてこの方運動がどうも苦手なのだ。
とは言っても一応平均くらいには位置している。いつも隣にニィロウがいると自分の運動センスがないと勘違いするのも無理はない。だってニィロウ体力エグいし。
そんな話をしていると、
「...えいっ」
「おわっ!? あぶねぇ!」
ニィロウが背中から抱きついてきた。いくら弱めとはいえキッチンでこんな行為は危険極まりない。少し注意しようとニィロウの方を見ると、
「...グスッ...」
「...なんだよ...どうした?」
ニィロウは目に涙を溜めながら背中に抱きついていた。怒るに怒れず、何故涙を流しているのか聞くと、
「...次、いつ会えるのかな...」
どうもニィロウはセンチメンタルになっているらしい。先程からタフィーロと離れたくないという気持ちが抑えきれなくなっている。タフィーロは菜箸から手を離し、ニィロウと正面に向き直ると、
「...ぁっ」
正面から抱きしめた。この一日でタフィーロ側からアクションを起こしたのは初めての事である。
「ニィロウ。...きっとまたすぐに会えるさ。今までだって俺たちは仲良くやってきた。そうだろ? 例え会えない時間が長くなっても連絡は取れるし...あー、だからもう泣くなよ。俺だって寂しくなっちまうよ」
「...じゃあ」
「じゃあ?」
「...もっとギュッてして。長くなっても、忘れないくらい」
「...あいよ」
そういうとタフィーロはニィロウを強く抱き寄せ、右手で赤い髪を撫でながら左手は背中にまわした。
自分の胸の高さに顔を埋めているニィロウを強く抱きしめた。相変わらずの細身で、壊してしまいそうな不安もあったが、それでも強く抱きしめ続けた。
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「うん! タフィーロ成分チャージ完了!」
と、元気になったニィロウは少し赤くなった目を気にしながら、食器をテーブルに運んだ。すぐにテーブルはタフィーロの料理で埋まり、ニィロウのコップと箸をもう当たり前のように並べ、テーブルの中央に鍋ごとシチューを置いた。
「「いただきます」」
タフィーロとニィロウは時折駄弁りながら箸を進めていった。ニィロウはというと、男であるタフィーロと同じかそれ以上の量をペロリと平らげ、タフィーロを驚かせた。
「タフィーロ。あーん」
「...んっ。相変わらず美味い」
と、食べさせあったり、鍋をつつきながら箸を進めた。傍から見れば恋人と間違われてもおかしくないが、この2人、あーんだとかそういった行為に一切の恥じらいがない。1度だけ「兄妹か?」と間違われたことすらある。それほどまでに距離感が近い。
「ご馳走様でしたぁ!」
「はい、お粗末様でしたっと」
「あー美味しかった! やっぱりタフィーロ料理上手いよ! ご飯屋さんで働けるかも!」
「元々働いてたんだよ。今はもう辞めちゃったけど。...ほら、風呂もう沸くから入ってこい。着替えは......、お前下着どーすんの?」
「ふふーん。こんな事もあろうかと...」
こんな会話をしているとニィロウはゴソゴソとタフィーロが使うクローゼットを漁りだし...
「はい! 置いておいたの!」
笑顔で上下の下着を取り出した。
「お前なにしてんの?」
この間友人がドン引きしてたのはこれのせいか! 「女装すんのか?」と真顔で聞かれた時は訳が分からなかったが、犯人見つかったな。
「お前...さすがに男の家に下着置いとくのはいかがなもんかと思うぞ?」
「いーじゃん。タフィーロも気にしないでしょ?」
「いやまぁそうだけど...」
多分俺じゃなかったら処理に使われてたと思うぞ。なんの処理かって? 発電処理だよ。発電。
「...あっ。...タフィーロが先に入っていいよ!」
「え? いやでも...」
「いいからいいから!」
「お、おう? なら先入るぞ?」
「はーい! ごゆっくり!」
こうしてタフィーロはまたまたニィロウに押し切られ、一番風呂を頂いた。
1日歩いてくたびれた体に温かい風呂が染み渡る...。瞼も重く...
ガラガラっ
「お、お邪魔しまーす///」
「ちょっ!? おまっ!? ニィロウ!?!?」
一瞬で瞼は軽くなった。代わりに色々なものが重くなった。タオル一枚で浴室に入ってきたニィロウは顔を真っ赤にしながら体を流し、既にタフィーロが入っている浴槽に体をねじ込んだ。
「お、おい...ニィロウ...」
「...///」
確かに小さい時には一緒に風呂に入ったこともあったが、今はもう成人している。さすがに看過できない。タフィーロがすぐに上がろうとすると、
「ま、待って!」
「...お前...これはさすがに」
「いいの。私がいいって言ってるから、いいの」
「いや俺が良くないんだけど...」
「一緒に入ってたじゃん。ちっちゃい時」
ニィロウのパワーには適わず、無理やり浴槽に座らせられ、その上にニィロウが腰を下ろした。...息子が元気になってきていたが気合いで鎮めた。
ニィロウはタフィーロの両手をとると、シートベルトのように自分の前でクロスさせた。所謂あすなろ抱きと言うやつだ。
「今は...今だけは...このまま...」
やっぱりセンチメンタルになっている。タフィーロと離れるのが余程寂しいらしい。タフィーロもそれを分かっている。体を洗うという口実で抜け出しはしたものの、再び浴槽に入ろうとすると、またあのポジションにニィロウが誘導してきた。
「チャージ完了したんじゃなかったのか?」
「...うるさい」
どうやらリチャージする必要があるらしい。随分燃費の悪いエンジンを積んでいるようだ。
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風呂は逆上せない程度で上がり、ニィロウのダボダボな姿にドギマギしながらも、明日は早いので、2人は就寝することにした。
しかし、ベッドは1つしかない。一応敷布団はあるが、
「ベッド使っていいよ」
「一緒に寝よ?」
「俺は敷布団で寝るから」
「一緒に寝ようよ」
「ちゃんと体休めろよ」
「ほら、早く」
会話が噛み合っていない。タフィーロは完全に無視を決め込み、ニィロウは強引にタフィーロをベッドに引きずり込んだ。鼻と鼻が触れそうな距離で、ニィロウとタフィーロはお互いを見つめ合いながら、
「「おやすみなさい」」
と、言うだけ言ってみた。
ニィロウはすぐに「すー...すー...」と寝息を立て始めた。それを確認したタフィーロも1つ大きな欠伸をすると、すぐに眠りについた。
ちなみに2人は一切の間違いを犯していない。
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翌朝、とは言ってもまだ日は昇っていないが、ニィロウは目を覚ました。
隣にあったはずの温もりは既に消えており、ベッドには1人きりだった。
「お、起きたか。おはよう」
「...おはよう」
タフィーロは既に起きて身支度を始めている。ニィロウも毛布を畳んで、すぐに自分の支度に取り掛かり始めた。
朝ごはんの時に「酷い寝癖だな」と笑われた寝癖を直し、整え、ある程度の化粧も済ませた。もう、やるべき事もない。あとは家に帰って荷物を持って出発するだけだ。
憂鬱だ。とてつもない憂鬱加減だ。今日を境にまた数ヶ月はタフィーロと会えなくなる。そんなマイナスな感情を押し殺しながら、自宅に戻る準備を勧め、ついに残す準備は足を入れた靴紐を結ぶのみとなった。
「...じゃ、バイバイ。...帰ってきたらまたデートだよ。絶対だからね?」
「分かったよ。何度だって付き合うよ」
「...行ってきます」
「...またすぐ会えるよ」
「またすぐ会える」その言葉はニィロウにとっての猛毒で、しばらくは会えないという現実を突きつけられる気がした。
これ以上玄関にいても辛くなるだけだと、ニィロウは自らを奮い立たせ、少し強めに玄関のドアを開け、走って自宅に向かった。
「...グスッ...ヒグッ...たふぃーろ...」
涙と嗚咽をできる限り抑えながら走り、自宅の荷物をかっさらうように持って集合場所に到着したニィロウ。もう、悲しんではいられない。踊り子である自分が悲しい気持ちでいては、それが周りに伝染してしまう。続々と集まるズバイルシアターのメンバーとの会話では、いつもの笑顔で、楽しく、お話できた...はずだ。
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「よし、時間だな。皆忘れ物はないか!?」
「...うん、全部ある...。ないよ! いつでもおっけー!」
「確認が終わったヤツから注目してくれ!」
ニィロウは自分荷物の確認を済ませ、既に集まっている劇団員の輪の中に入っていった。
その中ではマネージャーのシェイクズバイルがいつもの面持ちで全員の確認を待っている。
...クーロシがまた怒られてる...。
「大丈夫? 準備できた?」
「う、うん...。小道具が多いからさ。また時間かかっちゃったよ...」
なんて愚痴を聞いていると、
「よし、みんな一旦注目してくれ。今日からこの団体に新たなメンバーを迎え入れることとなった。みんなの食事系統を担ってくれるとのことだ。...ほら、来い」
「.......!!」
ニィロウは目を見開いた。夢じゃなかろうか。自分の記憶違いがなければ目の前にいるのは...。
「...えー。タフィーロです。今日から皆さんの食事管理を任されました。腕に自信があるので、期待してください。リクエストにはある程度応えてみs...」
「タフィーロっ!!」
「えっ、ちょっと待って今真剣な挨拶してるグベラッ!?!?」
シアターのみんなの目がある中、ニィロウはタフィーロに飛びつき、セミのように張り付いた。
シェイクズバイルはその様子を見ながら溜息をつき、「とりあえず自己紹介は最後までやってくれ」と投げやりな様子で言った。
「おいニィロウ。一旦離れてくれよ締まらねぇから」
「やだっ! ねぇタフィーロ! あなたもシアターに加わるの!? ずっと一緒にいられるの!?」
「...あー、うん。というわけで皆さん。改めましてタフィーロです。ニィロウがこんな事になってますが別に恋人とかじゃないんで、...そこ、余計なアイデアはすぐに捨ててください。俺は舞台には上がりませんからね」
「タフィーロっ! タフィーロっ!! へへっ♪」
「ったく、すぐに会えるって言っただろ? 会いに来た。これからよろしくな」
「うんっ! 任せて! 色々教えてあげる!」
以下、元々のズバイルシアターのメンバーの会話である。
「え? 恋人じゃないの? あの距離感で?」
「まさか、冗談だろ? ...え? マジなの?」
「あぁ、ニィロウは満更でもなさそうだが、タフィーロの方は「ただの幼なじみです」の一点張りだ」
「そんな事は今はいい! 今は次の舞台をどうやって恋愛系にするのかが最重要項目だっ!!」
「それはシェイクズバイルさんに相談してください...」
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満点の星空の下。キャンプを張り、食事の支度をしているタフィーロの元にニィロウがちょこちょこと歩み寄ってきた。
「...飛びつくなよ。マジで」
「分かってるよ♪」
タフィーロがズバイルシアターに加わってからはニィロウは絶好調。というか暇さえあればすぐにタフィーロに構いに行き、先輩風を吹かせている。とは言っても可愛らしいもので、大体はシアターの説明がほとんどだ。「あれはねー」とか「この人はねー」とか、劇団員の先輩として、振る舞ってはドヤ顔でタフィーロを見るのだ。タフィーロが「ガキか」とツッコめば「ガキじゃないもん!」と不機嫌モードに入るのだが、ひとたびタフィーロが頭を撫でれば、「もっと撫でろ!」と言わんばかりに頭を差し出してくる。
そしてタフィーロが食事の準備をしている時はこうして手伝いに来る。初めはタフィーロは「早く休め」と手伝いを拒否していたが、それを知ったシアターのメンバーにすんごい剣幕で捲し立てられたので、ニィロウに手伝ってもらうこととした。
「...あっ。シチューだ!」
「おう、どうもみんな気に入ってくれたらしい。...そのバッグに入ってる香辛料と塩取ってくれ」
「...はい!」
「さんきゅ」
真剣に料理に向き合うタフィーロとその様子を満面の笑みで見つめるニィロウ。この光景に多くの劇団員は砂糖を吐くこととなり、基本的に劇作家以外はこの領域に近づかない。ある種の
その聖域の中で、2人は何を話すわけではないが、ずっとお互いがどこにいるのか把握し、意志を汲み取り、居心地のいい空間を作り出している。劇作家曰く「幸せオーラが半端じゃない」らしい。
「ねぇ、タフィーロ」
「どうした?」
「...これから先も、ずっと一緒にいてね。...劇団員としてじゃなく、私個人との約束」
「...あぁ、約束する。お前こそ勝手にどっか行くなよ」
...このやり取りを見ていた劇作家は砂糖を吐いたことによる糖分不足と、鼻血による血液不足になって1週間ほど生死をさまよったという。
おしまい
俺にもこんな幼なじみほしかったなぁ(叶わぬ願い)
こんな具合に書き散らしていくので今後も機会があればどうぞよろしくお願いします。