宵宮の口調ムズい!
あとは宵宮の一人称は「うち」なのですが、ちょっと読みにくいなと感じたので「ウチ」としました。
...早速アンチ・ヘイトの片鱗が見え隠れしてますね
「源太! こっち来て!」
「おうよ。なんだ?」
「あれとそれ! ちょっと運んどいてくれへん?」
「あいよ」
今日も花見坂では息のあった2人の作業を見ることが出来る。
宵宮と源太。幼なじみの2人は基本的にいつも一緒にいる。どちらかが出かければもう片方がついて行く。宵宮が花火作りを始めれば、その隣にはいつも源太がいた。
近所の人々は何時になったら2人の子どもの顔が見れるのかと首を長くして待っている。
そんな2人のお話。
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源太は産まれて初めて聞いたのは花火の音だった。たまたま出産の時期と、花火のタイミングが重なっただけなのだが、両親は運命を感じ、花見坂に引っ越したのだ。
そして、源太と宵宮は幼なじみとなった。同じ学校に通い、時に同じ釜の飯を食べ、時に川の字になって眠るなど、非常に仲が良かった。
「ウチは大きくなったらたくさんの花火を上げるんや! 父ちゃんも超えたる!」
「いいじゃんか。俺も宵宮の花火、楽しみにしてる!」
なんて2人で言い合いながら学校から帰ってくるのを近所の人はよく見ていた。
大きな声で笑い合いながら軒先で遊ぶ2人を見て、近所の人々は「あ、コイツら将来結婚するな」と直感したのである。
時が流れ、宵宮が長野原の店主となった時、源太はいの一番に祝福の言葉を述べ、「話し相手が欲しくなったらいつでも言えよ。いつでも待ってる」なんて言うものだから、周りの大人は過去の青春が眩しくなってヤケ酒にはしったということもあった。
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宵宮は近所の子供にも好かれている。
「英雄のお姉ちゃん」なんて大層な肩書きまでついているらしい。
いやまぁ、宵宮は誰にでも分け隔てなく付き合いが上手なのだ。
「あ! 宵宮お姉ちゃん!」
「兄ちゃんもいる!」
「おう! 遊びにきたで!」
そして、その遊びに毎回源太も借り出されるのだ。子供の体力やスタミナは無限だ。そこら辺の大人よりよっぽど動けるし疲れない。宵宮1人じゃ手に負えないとのことで源太まで連れてこられている。
「姉ちゃんと兄ちゃんいつも一緒にいるな! 夫婦かよ!」
「ちょ!? ふ、夫婦!? そんな訳ないやろ! なぁ源太!」
「...そうだな。皆、宵宮が奥さんになったらって考えてみな? どうだい?」
「...楽しそう! ...けどちょっとうるさいかも!」
「だろ? よく分かってんじゃんか」
「それはそれで納得いかへんけど...?」
「やべっ。宵宮お姉ちゃんがキレたぞ! 皆逃げろっ!」
「きゃー!」
そうして鬼ごっこがスタートした。
初めは快調に子供を捕まえていた宵宮だったが、しばらくするとゼェゼェ言い始め、ついに数分後、
「あかん...もー無理...元気すぎやって...」
「はぁ。仕方ねぇな。...ほらガキンチョ! 今度は俺が追いかけるぞ!」
宵宮は息を切らしながら木陰で休んでいた。
目の前では源太が次々と子供を捕まえている。少しムキになっているような気もするが、それでも子供達が楽しそうだからそれでいっかと、ひとつ大きな伸びをした。
しかし、夫婦か...。と宵宮は考えた。
確かに、子供たちの言う通り宵宮と源太は四六時中とは行かないまでも恐らくその半分は一緒にいるだろう。
(...これってもう夫婦なんじゃ...)
夫婦の内、夫は昼は働き、妻は家にいる。この時間を考えるとそこいらの夫婦よりも宵宮と源太は一緒にいる時間が長いという計算になる。
「宵宮? おーい? 宵宮ー?」
「うぇへ、えへへへへ」
「うわなんだコイツ気持ち悪っ」
いつの間にか戻ってきていた源太に散々な言われようだったが、宵宮はしばらく妄想の世界に旅立って帰ってこなかった。
子供たちも本気で心配するかドン引きするかの2択だった。
「...外であんな顔しない方がいいよ」
「分かってる! もうせんわ! ...ふへっ」
「めっちゃしてるけど」
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宵宮が長野原の花火屋の店主となり、自らの花火作りに精を出している時も、いつも源太がすぐ横にいた。
表向きの理由としては宵宮が人と話してないと集中できないという性格故だが、裏側では源太のために作る花火のネタにするための調査を行っているらしい(宵宮談)。
しかし、長野原を訪れる前店主(宵宮の父)との知り合いは度々宵宮をからかい、源太との関係性を根掘り葉掘り聞いてくる。
「あら! 宵宮ちゃん、将来の相手は決まってるのかしら!」
「うぇっ!? い、いやいやいや! 源太とは...なんちゅーか...ただの幼なじみやから! 別にそんなんじゃないわ!」
「え〜? でもその割にはいつも一緒にいるじゃないの!」
「そ、れ、は! ウチが話し相手がいないと集中できひんから!」
以上買い物帰りのおばさんとの宵宮の一幕である。
しばらくこの2人は話していたが、店の奥から源太が出てくると、さらにおばさんは喜色満面で、
「やっぱり今日もいるじゃない! 源太! ちゃんと宵宮ちゃんの面倒見るんだよ!」
「え? いや、まぁ、はい?」
「男ならしゃんとしなさいな!」
「ちょっとおばちゃん! 余計なこと言わんといてーや!」
急に話しかけられた源太は頭の上に「?」を浮かべていたが、宵宮の面倒ならいつも見ているので別に今更だとおばさんに告げたところ、宵宮は顔を真っ赤にし、おばさんはいっそう大きな声で「あらあらあらあら!!」と言って去っていった。
「子供の顔、私にも見せてちょうだいね!」
「うっさいわ!」
「子供? 何言ってるんだあの人は?」
「アンタは黙っとき!!」
おばさんと源太、両方に振り回される宵宮であった。
おばさんが去ってしばらく。宵宮は箸を使って器用に火薬を詰めていく。ここでミスをすると全てがパァになってしまうため、普通の花火職人ならば黙って作業をするのだが、宵宮は別だ。
「...なぁ、源太。アンタ...やっぱなんでもないわ」
「なんだよ気になるなぁ」
「...源太、将来結婚したいーっちゅう願望とかってあるんか?」
宵宮は先程のおばさんとの会話が頭から離れなかった。宵宮にはまだ結婚というものがどのようなものか、よく分かっていない。
でも、心のどこかで、「ずっと一緒にいるなら源太がいいなぁ...」なんて考えていたりもする。
恋に恋するお年頃なのだ。
「は? どうしたんだ急に、...その花火は誰かの結婚式で使うのか?」
「いや...そういう訳じゃあらへんけど...」
「んー? 俺は...まぁ別にどっちでもいいかな。したくなればできるように頑張るし、したくならなかったら別に独身のままじゃないかな」
「...ほーん。...ほんだったら、ウチが結婚するってなったら...ど、どう思う?」
「...なんだよ宵宮。お前なんか変だぞ?」
「いいから!」
「えー?」
先程も述べたが、宵宮は恋に恋するお年頃なのだ。今、確かに1番仲がいい男子は? と聞かれれば迷いなく源太の名前を挙げるだろう。
幼なじみ、故の一時の間違いということもあるだろう。間違いなく、宵宮は源太に対して特別な感情を持っていた。
「んー...まぁ、素直に祝うだろうな」
「......そっか」
「あとは夫になった人に宵宮の取扱説明書でも渡そうと思う」
「なんやそれ!!」
「『急に大声を出します。今みたいに』」
「実践せんでええわ! アホ!」
おかしなやり取りで可笑しく笑う。
こんな日常がいつまでも続けばいいのに、と宵宮は心の底からそう思っていた。
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そして、時は流れ、夏真っ盛り。『夏祭りの女王』の名を冠する宵宮はこの夏祭りの日のために徹夜で花火を作り上げた。
今回の花火も自信作。新作も幾つか用意しつつ、朝日が昇るのを見届けながら、水浴びでもしようとクルリと振り向くと、
「おはよう、宵宮。早いんだな」
「源太!?」
「朝っぱらから騒がしいなぁ」
そう言うとスタスタと源太は宵宮に歩み寄ってきた。
さて、ここで1つ確認だが、宵宮は徹夜明けである。徹夜をしたことがある方は分かると思うが、自分でも分かるほどに匂いがつく。
「ちょちょちょ、ちょっと待てぃ!!」
宵宮は慌てて源太にストップサインを出したが、気にしない源太はどんどん近づいてくる。
「待つって何に?」
「い、いや〜。...その〜...今、ウチ徹夜明けさかい。...近寄ってほしくないな〜って」
源太が1歩近づく度に、宵宮は1歩後ずさりする状況になった。
そしてここで源太はとんでもない発言をした。
「...え? 今更?」
「......は?」
「いや、だって俺たち小さい頃から抱き合ったりしてたり、つい最近だって今日のために花火作ってる宵宮のすぐ側にいたし、匂いとか今更だよ。気にしなくていい」
「.........」
そうだった。宵宮は思い出してみれば、汗だくの状態でもすぐ横に源太はいたし、自分が幼い頃には抱きついてもいた。
...その時の匂い、嗅がれてた?
「あれ、宵宮どうしたの急に近づいtグエッ!?!?」
「....ろ」
「よ、宵宮...。く、ぐるじい...」
「忘れろ忘れろ忘れろ!! 今ここで頭かち割って忘れさせたる!!」
「おぢづけ! 宵宮! キマってる! キマってるから!!」
「おらぁぁぁあああ!!!」
「グエェェェェェェ!!!」
こうして、ヘッドロックをキメた宵宮はさらに自らの匂いを源太に擦り付ける羽目になったのだった。
源太は源太で朝から二度寝()をかますこととなった。
「全く! 源太は乙女心が分かっとらん!! ...///」
そして、野原で寝ることとなった源太。
ここで運命は動き出した。寝転ぶ源太に近づく足音。源太は足音に気づくと、ムクリと体を起こし、
「ったく...おい宵宮、ちょっとは手加減...。...これは失礼」
「いえ。...貴方に渡したい物があります。手を出してください」
「俺にですか? はぁ...?」
源太は言われた通りに手を出すと、目の前の女は源太を手にひとつ、『神の目』を置いた。
源太の目の前にいるのは稲妻の支配者、『雷電将軍』だ。
しかし、源太は今までに『神の目』は炎のそれしか見たことがなかった。そして、源太は雷電将軍の容姿を知らなかった。
「それは『神の目』です。貴方は稲妻の歴史をよく学び、これからも稲妻に尽くそうと考えている。...故に私からの餞別です」
「はぁ。...そんな事より貴女、着物の着方ご存知ないのですか? そんな破廉恥な格好で外に出るもんじゃないですよ?」
「......」
「はっはっはっは!! 影! お主がそんな事を言われるとはのう!! はっはっは!!」
源太は全く分かっていなかったが目の前にいるのは神である。雷電影その人である。すぐ後ろには八重神子(源太から見ればただのピンクの巫女さん)もいたのだ。
「のう童。お主の胆力は素晴らしいのう。くっくっく...」
「...貴女がこの方に教えてあげるべきでは?」
源太は世間知らずな女性もいたものだと辟易していると、背後から「将軍様!?!?」と大きな声が聞こえてきた。宵宮である。
「え!? え!?!? 源太! アンタ何したんや!」
「え? いや...なんかこれもらった」
「これって! 『神の目』やんか!」
「え? これが?」
「そう! この人は雷電将軍!! 神サマや!!」
「...えっ」
そして宵宮の解説によって源太はようやく目の前の女性が雷電将軍であると理解した。
そして、そこからの行動は速かった。
「数々の御無礼、大変申し訳ございませんでした」
土下座である。無意識のうちに雷元素による身体強化を使っての目にも止まらぬ土下座であった。
「...よいのです。気にしていませんから。頭をあげてください。...貴方のこれからのより一層の稲妻への貢献を期待しています」
「そうじゃぞ。影にものを言える人間など多くない。誇っても良いくらいじゃ」
「は、はぁ...」
許された...。宵宮も源太も雷電将軍と八重神子が去った後にへなへなと座り込むと、
「バカ! ヒヤヒヤしたで!」
「...あの方が...雷電将軍...」
「知らんかったの!? わざわざ『神の目』届けてもろたのに!?」
宵宮のお説教タイムは日が真上に昇るまで続いた。途中で源太が「宵宮、早く水浴びでもなんでもした方がいいぞ」とか言うもんだから、説教の時間が倍に伸びた。
「...神子」
「どうした?」
「...私は...破廉恥なのでしょうか?」
「...ハッハッハ!! お付きの剣豪に聞いてみたらどうじゃ! ハッハッハッハ!!!」
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源太は雷の『神の目』を得た。
そして、その扱いは宵宮も口をあんぐりと開けて閉まらないほどに上手いものだった。
「おぉ...こりゃ便利だな...」
「電気を出すどころか出力の調整までできるん!? アンタ扱い上手すぎや!!」
「そうか? ...宵宮、そろそろ花火の準備しないと」
「あっ、そうやった。源太、手伝ってーや」
「あいよ」
そして、花火の入った箱を花見坂から甘金島に一緒に運んでいる時、周りから「またあの2人一緒にいるよ」なんて思われながら源太と宵宮が歩いていると、コソコソと見るからに怪しい動きをする男と目が合った。男はこちらを見るなりそそくさとその場を離れ、その行動が怪しさを倍増させた。
甘金島は夏祭りの最中、屋台が置かれるなど素晴らしい盛り上がりを見せる。今はまだ準備中だが、その中を2人はえっちらおっちら重い箱を運んでいると、
「宵宮! 今年の花火も期待してるぞ!」
「今日はどんな花火を見せてくれるんだ!?」
などと宵宮に対する期待が聞こえてくる。その度に宵宮は、ニカッと笑いながら
「楽しみしとき!」
と応えたのだった。
かく言う源太も楽しみにしていたので、
「宵宮、今年の花火はどんなもんなんだ?」
と、聞くと、
「源太も楽しみにしとき! ぜぇったいびっくりするで!」
と、誰にも花火については教えてくれないらしい。「楽しみにしてる」とだけ返した。ただ、花火の話題を出すと、宵宮はずっとニコニコと笑いながら話を繋いでくれる。
今年の出来も素晴らしいものなのだろうと源太は胸を躍らせながら甘金島を背に宵宮と2人で再び花見坂に戻ってきた。
宵宮は、店に戻ってからも「今日の花火はどんなものか」と質問攻めにあい続け、そのまま夜になった。
そして、事件は起こった。
「ない! ないないない!! ない!!」
「こっちにもないぞ。どうする」
宵宮と源太は再び花火を甘金島に運び終えた。しかし、そこに1回目に運んできた花火が無くなっていたのだ。
島の屋台の人達にも手伝ってもらったがやはりどこにもない。
「すまん宵宮! 俺たちがちゃんと見とかなかったばっかりに...」
「んーん。兄ちゃん達は悪くあらへん。悪いのはウチの花火盗った奴や。絶対見つけ出しちゃる!」
そんな会話をしている横で源太はじっとある一点を見つめていた。
「宵宮、とりあえず近くを探してみよう。まだ間に合うはずだ」
「でも、どーやって...」
すると源太はニカッと笑って、
「...
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甘金島と稲妻本島の間には砂浜がある。そして、そこは基本的に海に濡れながら歩かなくてはならない。源太はそこに注目した。
「つまり、犯人が稲妻本島に逃げた場合足跡が濡れてるからそこに電気を通すってことだ」
「無茶や! さすがにそれは無理やで!」
「やってみなきゃ分かんねぇだろ。さ、『神の目』、応えてくれよ...」
源太は『神の目』を光らせ、その力を行使した。
さて、先程も述べたが、源太は『神の目』の扱いがとても上手い。具体的に言えば、距離、精度、電撃の強弱、どれをとっても精密な調整ができるようだ。強さに関しては戦闘を生業とする九条裟羅や雷電将軍には及ばないが、細かな調整に関しては既に源太の方が長けていた。
「...ほれみろ。あっちだ」
「...すっご...」
源太が放った電撃は砂浜に残った僅かな水に反応し、犯人の足跡を辿っている。
宵宮と源太はその電撃が流れる方へ走っていった。
しかし、すぐに水は乾いてしまうもので、道のど真ん中にて電撃は途切れていた。
「...あちゃぁ...」
ある程度追跡できていた手前、宵宮も源太に文句を言う筋合いはなく、ガックリとうなだれるだけだったが、そこに救世主が現れた。
「あれ? 宵宮じゃないか? おーい! 宵宮ー!」
「旅人! パイモン!」
「どうしたの?」
「いやそれが...」
かくかくしかじかだと宵宮は旅人に説明した。
するとパイモンが蛍に「元素視覚!」なんてわけのわからないことを話していたが、どうやら旅人は元素の軌跡を追跡できるらしい。旅人を先頭に歩を進めていくと、犯人はそこにいた。
甘金島に花火を運ぶ最中に見たあの男である。
「あれや! ウチの花火!」
「...どういう事か説明してもらおうか」
源太が精一杯のドスを効かせた声で男に問いを投げかけると、男は鼻で笑いながら、
「バレちゃ仕方がねぇな。...そうだ。俺は職を失ったんだよ! そこのアバズレのせいでなぁ!」
話を聞くと、どうやらこの男は元々花火職人で、長野原の花火屋が有名になる前まではそこそこのシェアを占めていたらしい。
そして、自分からシェアを奪った長野原花火屋の店主である宵宮を逆恨みした結果、この男は夏祭りで使う花火を奪ってやろうという暴挙にでたのである。
「誰がアバズレや! はよ花火返せや!」
「そうだぞ。確かに宵宮はかなり際どい格好してるが、アバズレじゃない。訂正してもらおうか」
すると男はニヤリとほくそ笑むと、
「そんなに花火が大事かよ? なら...こうするしかねぇよなぁ!?」
花火の入った箱を高々と持ち上げた。何をしようとしているのか、宵宮と源太は一瞬で察知した。
「バカ! やめぇ!」
「これで...長野原は終わりだ!」
宵宮はなんとか自らの身体で受け止めようと弓を投げ捨て男に突っ込んだ。
そして、男が頭の上に箱を持ち上げたその瞬間だった。
男の動きがピタリと止まったのだ。
「な、なんだ...? う、ごかねぇ...」
「! 今や!」
男が動きを止めた隙に宵宮が箱を奪い取ると、そのまま飛び蹴りを加え、男は吹っ飛んだ。吹っ飛んだ男はよろよろと立ち上がると、
「ふざけんな...。ふざけんな! このまま長野原の思い通りにさせるかァ!!」
猛然と突進してきた。
宵宮は今、箱を持っている関係で弓を持つことが出来ない。ならばと蛍が宵宮の前に出るが、男はひるまずに突っ込んできた。
そしてまた、男は一瞬動きを止めると、地面に顔面から墜落した。
そしてそのまま痙攣をおこし、立ち上がらなくなった。
「...クソが...うごかねぇ...。...テメェの仕業だな!」
顔だけ前を向く男の視線に映るのは、この日の午前中に『神の目』を授かった男であった。
宵宮も源太の方を見ると、源太は片手を男の方に突き出し、そこから電撃を男に与えているようだ。
パイモンも「え? よっわ...」と引き攣る程の微弱な電撃だった(蛍に殴られていたが)。しかし、
「...人間、身体を動かすには必要だろ? ...
「......」
「宵宮、花火は全部回収したんだな?」
「...え、あ、お、おう! これで全部や!」
「よし。...旅人さん。すみませんが天領奉行の方に伝えに行って貰えませんか? 俺は足止めしておくので。...ほら、宵宮。ちゃっちゃか準備しとけよ。時間無くなるぞ」
2人は源太の指示通りに動き、数分後には九条裟羅が男を連行して行った。
「ふむ...。宵宮の幼なじみは『神の目』を持っていなかったと記憶していたが...」
「今朝、将軍様から授かりまして。ありがt「将軍様とお会いしたのか!? 無礼は働いていないだろうな!?!?」......ノーコメントで」
しばらく九条裟羅の追求は続いたが、源太はのらりくらりとかわし、「宵宮のとこに行かないといけないのでこれで」と退散した。
「最後にひとつだ!」
「...なんでしょう?」
「...上手くやれよ。『神の目』とも、宵宮とも」
「...もちろん」
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「兄ちゃん達! 手伝ってくれー!」
宵宮は箱を抱えて、そのまま甘金島へとやってきた。既に花火を打ち上げる筒の用意はできている。あとはそこに花火を詰めるのみだ。屋台の人々に手伝いを頼み、なんとか準備を終えた。稲妻城からもよく見えるこの位置、甘金島からは絶好のスポットとなる。
そして、宵宮は甘金島へと戻り、過去に旅人と一緒に自身の花火を眺めたスポットに腰を下ろした。源太はまだかな、早く来ないかな、と1人でぐるぐると考えていると、後ろから源太の声が聞こえてきた。
「...! 源太...!」
振り返ると、そこにいるのは源太と談笑している旅人とパイモンの姿。源太は宵宮に気づくと、
「お、いたいた。こっちは片付いたよ。そっちはどうだ?」
「...あ、あぁ、バッチリや! もう始まるで!」
宵宮は胸に鋭い痛みを感じた。
別に旅人のことが嫌いなわけではない。それでも、旅人と一緒に笑う源太を見ていると、とてつもなく源太が遠くにいるように感じる。源太は宵宮と同じように相手が誰であっても愛想よく振る舞う。旅人やパイモンにもそう振舞っているのだろう。
宵宮は、源太が旅人に笑いかけた時、胸が締め付けられた。
宵宮は、源太が旅人の話をした時、置いていかれた気がした。
宵宮は、源太が旅人と.......
宵宮はバッと立ち上がり、その場から駆け出した。
その様子に蛍とパイモンは面食らったが、隣にいた源太はすぐさま宵宮を追いかけた。
「お、おい! 花火は!?」
「すみません。宵宮を追いかけてきます。埋め合わせはさせますので、勘弁してつかぁさい」
「...うん。行ってらっしゃい」
パイモンは喚きたてたが、蛍は冷静に源太を送り出した。パイモンを引き摺って前回花火を見た、先程は宵宮が腰を下ろしたポジションに腰を下ろした。
「...いいなぁ、宵宮は。あんなに想ってくれる人がいて...。...お兄ちゃん...」
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走って、駆けて、駆け抜けて、
気がつけば紺田村の手前まで来ていた。
ここからではあまり花火は見えないだろう。せっかく作った花火、源太と一緒に見たかった花火。今頃は旅人と2人で楽しくおしゃべりしているのだろうか。
「...いややぁ...。...源太ぁ...」
無意識に涙がぽろぽろと零れ出した。
源太が他の女の子と話しているのが嫌だ。
源太が他の女の子と笑っているのが嫌だ。
源太が...ウチの隣にいないと嫌だ。
我ながらよくもまぁここまで惚れたものだと笑いが零れてしまう。
拭っても拭っても涙は溢れて止まらない。
源太への想いも溢れて止まらなくなりそうで、必死に止めようとしているが、嗚咽が聞こえてくるのみだ。
さっさと戻るべきなのは分かっている。源太と旅人はウチの行動を不思議に思っているに違いない。
だから、だから......
「はよ戻らな...」
「見つけた。何してんだ、こんな所で」
嗚呼、どうして。
この男はウチがして欲しいことをしてくれるのだろうか。
「...源太...」
「...? 泣いてんのか? どうした」
「...源太ぁ...」
「...はぁ。...ほら」
源太は諦めたように腕を広げた。
宵宮はそこに勢いよく突っ込むと、ひとしきり泣き喚いた。辛い時や不安な時はいっつもこうしてもらったなぁ、と思い出しながら。
宵宮は頭にゴツゴツした源太の手の温もりを感じながら、段々と落ち着いていった。
「ほら、行こう。旅人さんが待ってる」
「...嫌や」
「嫌やって...お前なぁ...」
「嫌や! 今日は源太と一緒に見るって決めてたんや! 旅人には悪いと思っとる!」
「...まぁ、いっか」
「...ぇっ」
あっさりと旅人のことを諦めた源太はグイッと宵宮の腕を引っ張ると、
「ほら、向こうで見よう。一緒に」
宵宮はつまづきそうになりながらも、源太の台詞を聞いて、また涙を目に貯めながら、大きな声で、
「うん!」
と返事した。
この時の宵宮の笑顔はどの大輪にも勝る程の眩しさであった。
2人が手を繋いで歩いていると、目の前が一際輝き、大空に大輪の花が咲いた。
宵宮は自らの花火に見とれ、その場に立ち止まり、そのまま空を見上げていた。源太もこうなった宵宮はテコでも動かないと知っているので、その場で見とれた。
宵宮は花火を見ている時、話さないし話しかけられても気づかない。
それでも、源太の声だけは鮮明に、はっきりと聞き取れた。
「キレイだよ。宵宮」
確かに源太はそう言った。
花火のことだろう。そうだろう。と宵宮は花火に集中しているフリをして聞き流した。
ただ、少しだけ、本っ当にその言葉は花火に対してだけなのか。気になってしまった。
宵宮は目線だけを源太に向けた。
そして、宵宮の視線は源太の視線と絡み合った。反射的に顔を前に向け、再び花火を見ていた宵宮だったが、心臓は花火の炸裂音よりも煩く、花火もただただ光るだけのものに感じてしまう。
「宵宮」
再び源太が話しかけてきた。
今度ばかりは無視する訳にもいかないだろう。
「...なんや」
少しぶっきらぼうだっただろうか。暴れ回る心臓を落ち着けながら、宵宮は次の言葉を待った。
「俺、好きだよ」
「...な、なんや。今は花火の最中やで? 感想だったら後からでも...」
「違う。俺はお前が好きなんだよ。宵宮」
嗚呼、嗚呼。なんてウチは幸せ者なのだろう。やっとの思いで止まった涙が再び決壊するのにそう時間はかからなかった。
「...ウチも...」
「...そっか」
だいぶ素っ気ない返事になってしまった。
目の前で弾ける花火はもはや色合いしか分からないほどに涙で視界はぐちゃぐちゃになってしまった。
「宵宮、こっち向いて」
「...うん」
涙でぐちゃぐちゃな宵宮と、告白が成功して安堵した源太。
正反対でかつ、同じ気持ちの彼らの距離はどんどん近づいていき、
その夜、一番の大輪が稲妻を照らす中、2人の距離はゼロとなった。
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「源太! こっち来て!」
「おうよ。なんだ?」
ここは稲妻、花見坂。
そこには稲妻で最も有名な花火屋がある。『長野原花火屋』。文字通り長野原夫婦によって経営される花火屋だ。
「あれとそれ! ちょっと運んどいてくれへん?」
「あいよ」
長野原源太と長野原宵宮。
順当に付き合いを重ね、晴れて夫婦となった2人の披露宴は満員御礼となり、ここ数年で稲妻一の盛り上がり...だったかもしれない。
...宵宮の性欲が強すぎて、源太が苦労しているのは、また別のお話。
そして、宵宮からアドバイスをもらった社奉行のお嬢様が暴走するのもまた別のお話。
絶対宵宮は性欲強い(またまた偏見)。
口調間違ってたらスマソ。誤字報告ありがとうございます(素振り)。
あんまり評価とか気にせず書いてますが、すごく高評価が多くて嬉しい限りです。
これからもどうぞよしなに。