原神:幼なじみ物語   作:Mrミステル

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ゴールデンウィークだぞ!!

連投(当社比)だぞ!!

喜べ!!




八重神子

 

 

「.........」

 

「のう、童、今日も来たのか」

 

「あ、神子さんおはようございまーす!」

 

「うむ、おはよう。元気なことじゃの」

 

鳴神神社。

立地が山の頂上で、主なアクセスがワープポイントという何を考えてそこに建てられたのか全く分からないその神社に、1人の少年が毎日のようにやってきていた。

 

徒歩にて。

 

もう一度言おう。徒歩である。

 

八重神子が作文のアイデアを考えていた時、連続する鳥居の方に目をやると小さな男の子が息を切らしてそこに立っていた。

 

その男の子こそがこの少年なのだが、あまりに息を切らしていたものだから近くにいた巫女の1人が介抱したのだが、水を1杯だけ飲むと、賽銭箱にモラを投げ入れ綺麗な作法で礼をした後、すぐに帰って行った。

巫女が「あの子徒歩で帰りましたよ!?」と報告しに来ると、怪我をしてはまずいと神子は少しばかり追いかけて様子を見ていたが、危なっかしく、見ていられない様子だった。そこで声をかけたのだ。

 

「大丈夫か童よ。鬼田村ならワープポイントを使えばよかろう」

 

「え? 巫女さんがどうしてこんなところに...。いえ! 大丈夫です! これも鍛錬なので!」

 

「ほう...」

 

八重神子はにやりと微笑んだ。鳴神神社まで徒歩で来るとは中々気骨のある奴だ。見たところまだ歳は10にもなっていないだろう。何を考えているのかは知らないが、鍛錬ならば手出しは無用じゃなと考えた。

 

「よい心がけじゃの。その歳で鍛錬とは。夢でもあるのか?」

 

「はい! おれ、将軍様のお付きの兵士になりたいんです!」

 

「ほほう...!」

 

八重神子はさらに笑みを深くした。

影が喜ぶぞと考え、それよりもこのショタの大きな志に感心させられた。鎖国が解かれ、一時はどうなる事かと思っていたが、稲妻は安泰だと思わせられた。

 

「ふむ、大いに頑張るとよい。将軍様も喜ぶぞ? こんな幼い時からお付きの兵士になりたい者がおると知れば大喜びじゃろうな」

 

「ほんとうですか!? がんばります!」

 

「うむ、ではの。気をつけるとよい」

 

「はい! さようなら!」

 

笑顔でショタを見送った八重神子。ショタの志に度肝を抜かれながらも、次の本のテーマが決まったとウッキウキで鳴神神社に戻るのだった。

 

 

ちなみに、「ショタ」と書いた理由は、以上の八重神子と少年のやりとりが、作者には最早なんかそういった本の導入にしか見えなかったからである。

 

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八重神子が出した「少年が鍛錬を続けて将軍様の懐刀になった」という流れの小説は大ヒットした。ゴローも即売会に現れ、八重神子はホクホクしながら鳴神神社へと戻ってくると、

 

「...あの童...」

 

また、あの少年が手を合わせて願い事をしていた。数人の巫女が「あの子今日も来たよ」「すごいね」なんて会話をしているのが聞こえてきた。2日連続でこの山の頂上にある鳴神神社に徒歩で参拝に来るとは。並大抵な覚悟では難しい。そんじょそこらの人では一日で諦めるだろう。

少年はまた走って坂を駆け下りていった。そんな様子を見て、八重神子は今回自分の書いた小説が現実になるやもしれんな...とクスクスと笑っていた。

 

果たして3日目にも少年は現れた。さらに4日、5日、1週間、1ヶ月、3ヶ月、半年と毎日、雨の日も風の日も雷の日も休まずに参拝しに鳴神神社にやってきた。

ここまで来るとさすがの八重神子も驚きを隠せなかった。初めは可愛らしい参拝客が来たものだと考えていたが、途中からは応援の方が思考の割合を多く占めていた。

 

そしてついに、

 

「あ、来た!」

 

「すご...1年間毎日...」

 

365日目もその少年は現れた。八重神子は賽銭箱の前で待ち構え、その少年に挨拶した。

 

「ふむ、やるのぅ童。今日で1年じゃ。記念に何かくれてやろう。甘味か? 玩具か?」

 

「あ、八重神子さん! ...そうですね...。おれは...」

 

八重神子はこの少年が何を欲しいと言うのか、別にそこまで気になっている訳ではなかった。ただ、1年間その小さな体でここまで登り続けたこと。それに対しての褒美を少しくらいくれてやってもいいと思ったのだ。

 

そして少年から斜め上を行く答えが返ってくる。

 

「おれは...あ! 「おかあさん」と「おとうさん」が欲しいです!!」

 

さすがに八重神子も眉をひそめた。

周りの巫女もこの少年が何を言っているのか分からないようだった。そりゃそうだ。当然「父」と「母」が欲しいと言い始めたのだ。

これは何かあると踏んだ八重神子は慎重にこの少年の言葉の真意を汲み取ろうとした。

 

「童には「おかあさん」と「おとうさん」がいないのか?」

 

「はい! いません!」

 

少年は「当然でしょ?」と言わんばかりに屈託のない笑顔でそう言い放った。

 

周りから「えっ!?」という叫び声が聞こえてくるのを無視して、八重神子はさらに質問した。

 

「どうして両親がいないと分かったのじゃ?」

 

「りょう...?」

 

「ああ、すまぬ。両親とは「おかあさん」と「おとうさん」のことじゃ」

 

「りょうしん...両親! 覚えました! おれが気づいたのは本を読んだからです!」

 

「...どんな本を読んだのじゃ?」

 

「家に「おかあさん」がいて、ご飯を作ってて、「おとうさん」が幕府の兵士の話でした! おれは「むすこ」ですよね? でもおれの家にはおれ1人です。ずっとずっとそうでした!」

 

八重神子は理解ができなかった。歳が10にも行かないような小童が今まで両親の助けなしに生き抜いてきた? そんなこと有り得るのか? 心配どころかそれを通り越して警戒すらし得る言葉だ。

 

「...今までどうやって生きてきた?」

 

「...? 村の人がご飯は作ってくれるし、一緒に遊んでくれます!」

 

「...なんじゃ...そうだったのか」

 

「はい! そうだったです!」

 

まだまだ言葉足らずなところを見るとどうやら本当のことらしい。八重神子はそう判断すると、少年に甘味を買い与え、「また来るとよい」と声をかけ、手を振って見送った。

 

その後も、ずーーーーっと少年は一日も欠かすことなく鳴神神社に参拝しに訪れた。最早狂気の沙汰である。少年は毎朝走って鳥居を抜けてはパンパン! と大きな音を出して二拍手をして腰を深く曲げて礼をして帰っていく。巫女さんの名前も覚えたらしく、朝に会えば元気よく「おはようございます!」と挨拶し、帰る時は「さようなら!」と快活なものだから、いつしか鳴神神社の皆が少年を待つようになっていた。

 

 

 

 

 

そして、暗雲立ち込める曇りの日、とある巫女がこう言った。

 

「あれ? そういえばあの子の名前ってなんだっけ?」

 

「え? ...あ、言われてみれば知らないや。聞いてみようか」

 

巫女達の世間話に混じって少年の話題になると八重神子も「ふむ...」と唸った。

確かに、あの少年の名前を知らない。1年も来てなぜ誰も知ろうともしなかったのか少し疑問ではあるが、まぁ今日も来るだろうし聞いてみるかと軽い気持ちでいた。

 

そして、少年はやってきた。初めの頃に比べると余裕が出来てきたのか、膝に手をつかなくなっていた。

そこに八重神子が寄っていき、

 

「あっ、八重神子さん! おはようございます!」

 

「うむ、おはよう。...時に童よ。そなたの名前、教えて貰えぬか?」

 

「名前? あぁ、言ってませんでした! おれの名前は.....

 

 

名前。それはスメールのこんがらがった学者に聞けば「個体の識別コード」というひねくれた答えが返ってくるだろうが、一般的に言えば、これから愛する我が子につける一世一代の大事である。

影や神子はその限りではないかもしれないが、人間ならばそうであろう。

だからこそ、八重神子は次に述べられた少年の言葉に絶句した。

 

 

 

 

......おれの名前は『グズ』か『ゴミ』です!!」

 

「...........は?」

 

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ちょっと待て。今この童はなんと言った? 『グズ』? 『ゴミ』? ありえない。

近くの巫女もザワザワしている。「虐められてるのかしら...」なんていう巫女がいたから、八重神子はこの童が虐められていて、それで『グズ』やら『ゴミ』やらと呼ばれているのだろう。そして、卑屈になってそう言っているのだろうと考えた。

 

「...童よ。それは気にすることではない。そなたの本当の名前を教えておくれ?」

 

「え? これがおれの名前ですけど...」

 

「...名前は普通は1つなのじゃ。その鬼田村の人達からはなんと呼ばれておる?」

 

八重神子は願った。

どうか、どうか目の前の少年が、凄惨な背景に描かれていないように。悲劇の物語に登場しないように願った。

 

「...? 村のおじさん達からそう呼ばれてます」

 

「...そうか。...そなたの家は...どこにある?」

 

「鬼田村にありますよ?」

 

「...ついて行ってもよいか?」

 

「それはダメです! おじさん達からキツく言われてるので!!」

 

 

黒だ。オロバシが白に見えるほどの黒だ。

この童の家...いや、もはや本当に家なのかすら分からないが、住んでいるところはおそらく世間一般とはズレている。

 

「...そうか。気をつけて帰るが良い」

 

「はい!」

 

周りの巫女は至極心配そうな顔をしている。話しかけてきた1人の巫女に対し、「分かっておる」とだけ答えると、八重神子は鬼田村の情報を集めるべくとある場所に向かった。

 

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「...で来たのがここですか? ...私も暇では無いのですが」

 

「なんじゃ。そんなに彼奴が恋しいのか? さっさと手篭めにすれば良いじゃろうに」

 

「なななななんて事言うんですか!? 私はあの子の母ですよ!? 許されません...でも...まぁ...ゴニョゴニョ...」

 

「別に育てただけであって産んだ訳ではないのじゃろう?」

 

 

八重神子が来たのは一心浄土。

話している相手は雷電影である。

話している内容が脱線しまくっているが、一応元の路線に戻ってきた。

 

「鬼田村、ですか?」

 

「そうじゃ。どうにもきな臭いのでな」

 

「...私よりも将軍に聞いてください」

 

という訳で雷電影は何も知らないことが確定したので、八重神子は城下町へとくりだした。

 

 

「鬼田村...か」

 

なんの気もなくただ口にしただけであったが、たまたまそこを歩いていた鬼の青年が血相を変えて八重神子へと迫ってきた。

 

「貴女今! 鬼田村と仰いましたか!?」

 

「お、おう...?」

 

鬼の青年の後ろから荒瀧一斗とその連れが追いかけてきた。息を切らしているが、目の前の青年は焦ったように八重神子の両肩を掴みながら問の答えを待っていた。

 

「そ、そうじゃ。確かに妾は鬼田村と言ったぞ。お主、何か知っておるのか?」

 

「知るも何も! あそこには絶対行っては行けません!! 絶っっっっ対にです!!」

 

横から荒瀧一斗も同調してきた。

 

「お? 巫女さん鬼田村に行こうってのか? ダメだ。あそこは俺たち鬼...いや、ホンモノの鬼が住んでやがる」

 

「...荒瀧と言ったか。妾に教えてはくれぬか? 鬼田村は何処にあってどんなところなのか」

 

「おう、いいぜ! まずは...「親分の話だと分かりづらいと思うので俺が説明します」...おい本郷。お前なぁ...」

 

という訳で荒瀧の隣で八重神子に最初に話しかけた鬼の青年、本郷がゆっくりと語りだした。

 

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......これは、おそらく将軍様がこの稲妻を生み出してすぐのことだと思うのですが、人と、我々鬼が生まれました。

 

時に争い、時に助け合いながら稲妻は発展してきたのは今の大人もみんな知っていると思います。

 

が、それを快く思わない鬼の一派が居たんです。「鬼より劣る人間と付き合う必要はない」「人間よりも鬼が稲妻の主導権を握るべきだ」「鬼は鬼であることに誇りを持て」「鬼は純血であるべきだ」なんて言いながら稲妻の外れに彼らだけの村を築いたんですよ。

それが鬼田村です。

 

ですがアイツら。次第に数を減らしました。当然ですね。狭いコミュニティの中で繰り返し代替わりなんてできませんから。

 

近年はその鬼田村にも人間が住み着いているはずです。

とは言ってもあそこに住んでいるのは前科持ちであったり、何かと問題を抱えている人達です。

 

...ですから、貴女のような高貴な方が行ってはいけません。ほぼ確実に襲われます。あそこは稲妻の汚点と言ってもいいでしょう。

 

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「...そうじゃったか」

 

「はい、我々鬼にとっても負の遺産と言って差し支えないでしょう」

 

「なぁ本郷。俺、鬼田村にまだ鬼がいるって聞いたぜ?」

 

「なに?」

「そんな馬鹿な。親分が言う鬼って純血の『月鬼』のことですか?」

 

「月鬼?」

 

今度は荒瀧一斗が話し始めた。

 

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巫女さん。月鬼ってのは...。俺様もよく知らねぇんだがよ。さっき本郷が言ってた純血の鬼族のことを指すんだ。

 

んで、なんでもとんでもねぇ力を持っているらしいんだよ。月鬼の角は神の目をも凌ぐだとか、血は万病に効くとか。

昔...月鬼の中から抜けてきた奴が居たんだけどよ。ソイツはどんなに怪我してもすぐに再生するようなやつだったな。

 

大昔、俺様たち鬼族は単純に力が強いだけのモンだと思われてた...実際俺様も特別な能力なんてねぇし、そんなもんだと思ってたんだが...。

 

あぁ、すまねぇ。鬼田村の話だったな。

 

生き残りがいるらしいぜ? 

まだガキの姿らしいが...実際はもう50年は生きてるらしい。焼こうが沈めようが電流流そうがくたばらねぇからってんで檻に縛られてるらしい。

 

ひでぇ話だよな。鬼だってそんなに悪いヤツじゃねぇのによ。

 

 

 

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「ま、俺様も詳しくは知らねぇけどよ」

 

「そうか。で、結局鬼田村はどこにあるのじゃ?」

 

「今の話を聞いてまだそこに向かわれるつもりですか!?」

 

「んだよ本郷! 困ってんだから教えてやりゃいいじゃねぇか!」

 

「いや俺だって知らねぇよ! ただ存在しているってのを知ってるだけでさ!」

 

 

 

これ以上こやつらに構っていても時間のムダだと察した八重神子は、そそくさとその場を離れ、稲妻城の内部へと入っていった。

 

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結局のところ、雷電将軍ですら分からないとのことだった。

そもそも月鬼という種族がいるのかどうかもあやふやで、1種の都市伝説では無いかとさえ口にしていた。

 

 

 

 

 

そして、ある日を境に少年はパタリと来なくなった。

別に参拝するための道が崩れた訳でもない。周りの巫女たちも「明日はまた来るでしょ」なんて呑気なことを言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

100年が経った。

呑気なことを言っていた巫女は皆旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

200年が経った。

世代は移ろうとも、八重堂の小説は未だに売れている。

旅人にはもう会うことは無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

300年が経とうとした時、ようやく彼は現れた。

ボロボロではあったが、かつての幼い風貌を幾分か残しながらも青年と呼べる見た目にまで成長していた。

 

「童!!」

 

息も絶え絶え、服は破け、額には切り傷。

周りの巫女はゾッとしていたが、ただ1人八重神子だけは青年に近づき、

 

「どうした! 何があった!?」

 

「...神子...さん...」

 

青年は八重神子の服を掴み、懇願した。

 

「逃げ...て......遠くに...皆も......」

 

「逃げ...? 一体何があった! 申してみよ!」

 

「八重神子様! とりあえずこちらに!」

 

巫女たちは簡易的な治療所を用意すると、八重神子はそこに青年を寝かせた。

 

「...寝かせておくのじゃ。妾が様子を見ておく」

 

 

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鬼の青年はすやすやと眠り続け、半日すぎて日が沈んだ後にようやく目を覚ました。

 

「巫女さん!」

 

「落ち着け。まずは再会を喜ぼうではないか。いい男になったのう、童よ」

 

「え、あ、あぁ。ありがとうございま...す? いやそんな事よりも!!」

 

「なんじゃ、言うてみい」

 

「鬼田村が壊滅しました!」

 

「...ほう。して、結局のところ鬼田村はどこにあるのじゃ。妾も探しはしたのだが、300年も見つけられぬでな」

 

「...鬼田村は地下にあるんです。なんだかすごいピリピリしてすげぇ嫌な感じのする谷の下です」

 

「...まさか。無想刃狭間の下にあるとでも?」

 

 

 

話を聞いたところどうやら本当のようだ。

ピリピリする、というのは雷の元素のこと。

嫌な感じ、というのは過去の魔神の残骸のこと。

 

 

ということは、魔神の残滓に晒され続けた結果この青年が居た月鬼の一族は狂ってしまい、全滅の一途を辿った。

たまたま毎日この神社に参拝に来ていた彼奴は単純に他の鬼たちよりもその残滓に触れる時間が短かった。

そしてそこに越してきた人間たちはその残滓によって更なる暴力性を抱き、この童にとんでもない仕打ちをした。

 

そう考えるのが妥当だろう。と八重神子は結論付けた。

 

通りで見つからない訳だ。あの谷には近づくことすらままならない。

 

「なるほど。では何があった?」

 

「先祖の亡霊が暴れだしました。人間は皆死にました。俺は今まで何度も「頼むから落ち着いてくれと、大人しくしてくれ」と何度も頼んだのですが」

 

「ふむ...」

 

「とりあえず小手先の術で封印はしました。ですがまた彼らが暴れ出すのは時間の問題です」

 

 

 

ザワザワと、周りの巫女たちは話し始めた。

 

怨念?

そうみたい。

大丈夫なの?

 

「...その封印とやらはどれほど持つのじゃ」

 

「...初めて使ったので分かりませんが...100年しか持たないと思います」

 

 

八重神子以外の巫女はずっこけた。

 

100年!?

充分すぎる...

私たち死んでるよ。

 

「...まぁ、良いじゃろ。100年持てば万々歳じゃの。してお主、ここに住むと良い。もちろん働いてはもらうがの。住む所ごと封印したのじゃろ?」

 

「本当ですか。ありがとうございます!」

 

こうして、この鬼の青年は鳴神大社に居候することとなった。

 

 

 

 

 

 

のだがこの青年、名前も無ければ愛を知らない。

 

名前は八重神子の鶴の一声で「鬼太郎」となった。ここまではまだいい。微笑ましいのだ。

 

が、問題は愛を知らずに育ったことである。

 

 

ある日、巫女の1人が鬼太郎に昼ご飯を振舞った。

が、「出された食事」には基本毒が盛られていることが当たり前の鬼太郎は決して手をつけなかった。

八重神子に諭され、ようやく納得した鬼太郎は誰かが手をつけた物だけを食べるようになった。

 

またある日は「掃除」というワードに過剰に反応し、隅で震えながら機械のように「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい...」と繰り返すようになってしまった。

巫女たちが懸命に説明、説得して、なんとか鬼太郎は立ち直った。が、掃除と言いつつ鳥居を素手でへし折ってしまった。曰く「無い方が綺麗だよ?」との事。

 

またまたある日。賽銭泥棒が現れた。

珍しいこともあったものだと八重神子が重い腰を上げた時には既に事は終わっており、息一つ崩さずに血塗れの拳を携えている鬼太郎とおそらく賽銭泥棒と思われる人間かも怪しい形のナニカがそこにいた。

八重神子が鬼太郎を問い詰めると、「「悪いこと」をしたから殴った」とサラリと言い放ち、「死んでしまっているではないか!」と叱れば、「...人間はこの程度で死ぬのか。1つ学べた」と反省する様子は見せるものの悪びれる様子はない。

 

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とは言うものの、年がすぎるにつれて段々と丸くなり、また常識を覚えた鬼太郎は...

 

「八重神子さん。俺と結婚しましょう」

 

「何を言うておる童。ガキのクセして」

 

今日も今日とて八重神子に求婚していた。

というのは情操教育を施した結果。周りの巫女含め八重神子たちを「好き!」と言って抱きしめキスをする、悪く言えば強姦魔みたくなってしまったのだった。

 

実はこのハグが巫女たちには好評だったりするのだが。

 

「でも神子さん俺とやってる時に好きって言ってたじゃない」

 

「......それとこれとは話が別じゃ」

 

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紆余曲折はあったが鬼太郎は愛を知り、鳴神大社にいる皆を家族と言い出した。

 

さすがにこれを言い始めた時には、八重神子含め鳴神大社の巫女は揃って涙を流した。

 

「神子さん。俺、分かったよ。皆は家族だ。お母さんだ。皆が俺を見てくれた。皆が俺に教えてくれた。だから家族。だよね?」

 

「......立派になったのぅ。もう童とは呼べんな」

 

「生きる術も、戦う術も教わった。......だから行ってくるよ。俺の故郷、鬼田村に。今度こそ皆に静かにおやすみしてもらう為に」

 

「妾も行こう。1人よりは良いじゃろう? ......安心せい。邪魔はせぬ」

 

 

 

八重神子は鬼太郎と一緒に無想刃狭間へと向かっていった。

道中で鬼太郎の過去の話を聞き、腸が煮えくり返りそうだったが、そこは年長者の余裕を見せた。

 

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「......なんと...これが...」

 

「ボロボロだなぁ。100年経ってまた崩れちゃったか」

 

前方に広がる光景は、おそらくかつて集落があったであろう瓦礫の山であった。何らかの強大な力によって引き裂かれたかのような荒廃ぶりは、人間が住むにはまったく適さず、鬼ですら住めるような環境ではなかった。

 

その奥深くには、違和感を醸し出す歪な紋様が、岩を刻み込んでいた。それこそが、鬼太郎が100年前に施した封印である。

歴戦の八重神子ですら、感嘆の声を漏らすほどの、強力な仕上がりであった。月鬼由来の強さからくるものだろう。しかし、その封印の奥からは、何とも言えない物々しい雰囲気が、ほのかに溢れ出ていた。

 

「...嫌な感じじゃのう。怒り、哀切、嘆き。色んな声が聞こえてくるわ」

 

「......いい加減成仏してくれよな。静かに寝てくれればいいのに。......あ、そうだ神子さん。俺の『月鬼』としての能力なんだけど...」

 

その時だった。

ピシィッと、明らかに何かにヒビが入る音がした。バッと目をやれば封印が刻まれた岩にヒビが入っている。

 

「チィッ...! 神子さん! 俺がなんとか封印するから飛びまわるやつだけお願い!!」

 

「鬼は飛べるのか!」

 

「俺たちだけだよ畜生が!!」

 

鬼太郎が100年の間に漁った資料には確かに『飛行する月鬼』の記載があった。

その怨念は、未だに健在であり、それ以外の怨念たちは浮遊するだけで、あまり飛行しない。しかし、元々飛行に長けた怨念たちは、信じられない速度で飛び回り、熟達した動きを見せてくる。故に八重神子の殺生櫻で撃ち落とすのが手っ取り早い。

 

「...っ! 来ます! 備えて!!」

 

「言われなくとも!」

 

 

 

が、岩が割れた瞬間。八重神子は本能的に一歩後ずさりした。凄まじい勢いで飛び出してくる怨念。頭に直接過去に彼らが受けた仕打ちが流れ込んできた。

常人であればこの瞬間に狂っている。が、八重神子は雷神の眷属だ。耐えた。いや、耐えてしまった、と言うべきか。目の前の事象を「悪夢」で片付けられたらどれほど楽であったか。

 

「......ぐ、お、おぉ...」

 

とめどなく流れてくる数々の記憶。そのどれもが叫び声や泣き声に彩られており、罵声や怒声がアクセントとなって八重神子の精神をガリガリと削った。

 

そして、怯んだ敵を怨みに塗れた怨念が見過ごすはずもなく、多くの怨念が八重神子に攻撃を仕掛けた。

 

「...神子さん!? くっ...『離れろ』!」

 

鬼太郎がそう叫んだ瞬間。八重神子を襲う怨念は一斉に何かに弾かれた。

鬼太郎が持って生まれた能力。それは『言霊』と呼ばれるものだ。口に出した言葉が現実となって現れる。単純明快、これほど強力な能力はないだろう。しかも本人の意思でオンオフをコントロールできるときた。

 

鬼太郎は素早く八重神子に駆け寄り、

 

「神子さん! 大丈夫!?」

 

「...お、お主......すまぬ。大丈夫じゃ。飛んでいる奴を落とせばいいのじゃな?」

 

「お願いします。俺は『成仏してくれ』って叫び続けるので。それでも残るような奴はまた封印します」

 

再び鬼太郎は戦闘態勢をとった。八重神子もたくましく育った鬼太郎の背中を見ながら、殺生櫻を3つ生み出した。

 

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戦闘は三日三晩続いた。

既に大半の怨念は成仏したが、世の中に余程強い怨みを持つものだけが残った。

その怨念に3日も当てられ続けた八重神子は精神が崩壊しつつあった。

 

痛い苦しいやめて辛い死んでしまうしんどい息子を返せ痛いやめてくれ彼が死んだお母さんを返してもう嫌だ殺してくれなぜ我々がこんな目に憎い苦しい人でなし誰のせいでこんなことにやめて人間め殺してやるおふくろを返せ辛い子供だけはどうか死んでしまう痛い角を折られた憎い許してくれもう殺してくれよ苦しいいっそ殺してくれうんざりだやめろ死にたくない助けて腕が息ができない復讐を痛い親父も爺も死んだ女は嬲られたなんで私たちがこんなこと人間が憎いなぜあいつらはのうのうと生きている娘が死んだ人でなし息子を返してよ辛い痛いやめてくれどうして俺たちが産まれただけで悪いのかなにもしていないのに苦しい助けてもう嫌だ。殺す苦しめる絶対に許さない奴らの息子を殺す奴らの娘を殺す奴らの父を母を殺す人間は皆殺しだ我らの復讐を人間を許すな徹底的に殺せ痛めつけろ女は輪姦だ男は殺せ受けた痛みを返してやれやめろと言われてやめる奴があるか人間は劣等だ純血のみが至高の鬼である劣等はひれ伏せ劣等ならば死んでも問題ない殺すこれは息子の分だ我々は負けぬ四肢を落とせ首を晒せ貴様らのせいだ自分の胸に聞いてみることだ稲妻を堕とせ雷神とその仲間を殺せ!!!」

 

「殺す! 殺す!! 殺す!!!」

 

 

 

「......っ」

 

一瞬、ふらついた。

 

「神子さん!!」

 

次に八重神子が見たのは、怨念にズタズタにされた鬼太郎の姿であった。膝をおった八重神子は残っている怨念の総攻撃を捌きながらなんとか鬼太郎のそばによった。

 

「鬼太郎! 起きぬか! 妾はまだ大丈夫じゃ!!」

 

「......っ!? すみません! 寝てました!!」

 

八重神子がピリッと電気を流せば鬼太郎は飛び起きてまた封印を始めた。

 

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果たして、2人はボロボロになりながら最後の一体を封印した。

その瞬間、八重神子と鬼太郎はバタンと倒れ、その場で眠りについてしまった。

 

 

 

1時間が経とうかという時、八重神子は目覚めた。

 

「おい寝坊助、帰...る......ぞ...」

 

八重神子が鬼太郎に手をかけると、その手にはベッタリと赤い鮮血がこびりついた。よく見ると鬼太郎は眠っているように見えて息をしていない。

 

「き、鬼太郎! 起きぬか!! 鬼太郎!!」

 

必死の呼び声も届かない。鬼太郎は既に冷たくなっており、目を無理やり開けても視線が合わない。

 

「死んでしまうぞ!! そ、そうじゃ電気で...」

 

はるか遠くのスメールで電気による蘇生術があると聞いた。八重神子は蘇生を試みるが、電気を流してもただただ鬼太郎の体が跳ねるのみ。

 

「い、嫌じゃ! 鬼太郎!」

 

「神子!」

 

後ろから声をかけられて振り返ってみればそこには雷電将軍とその護衛である宗政が立っていた。

 

雷電将軍は八重神子に視線をやると、首を横に振った。

そう、大規模な戦闘を行ったこの無想刃狭間の地下に2人はなんとかやって来たのだ。雷電将軍が方向音痴なせいで3日もかかってしまい、着いた頃には戦いは決着しており、倒れている鬼太郎と八重神子が見つかったというわけだ。既に鬼太郎には蘇生が試されており、八重神子と同じように雷電将軍の雷による電気ショックも全て無駄に終わった。

 

「......悲しいですが、彼は...もう...」

 

「...我らが遅かったばかりに」

 

 

「......う...うぅ......うぁぁああぁぁ!!!」

 

怨念渦巻く哀しき洞に八重神子の慟哭が響いた。

 

 

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「や、八重神子様...お食事の用意が整いました...」

 

「......うむ」

 

八重神子が見る世界から色が失われてしまった。

鳴神大社の巫女たちは八重神子の身を案じたが、まるで寝ぼけているかのような返事しか返ってこなかった。

 

何百年もの間共にすごした者との別れは八重神子の想像の何倍も辛く、残酷であった。

 

時折雷電将軍が一心浄土に呼び出しては様子を見ているが、八重神子はまるで抜け殻のようであった。

 

 

 

食事処に通された八重神子はいつもの席に座り、他の巫女も続々と席に着き始めた。

 

そうして席はあっという間に満席となった。

 

 

 

 

 

ん? 満席?

 

いつもは一席空いているはずだ。そこに鬼太郎が座るはずだったから。自分の隣には人一人分のスペースができていた。

 

恐る恐るといった具合に左を見ると、

 

「神子さん。音頭まだ? 俺腹減ったんだけど」

 

そこには鬼太郎がいた。

 

「......ぁ...え? ......は?」

 

「いやね。俺終わった後に『死ぬほど寝たい』って言っちゃったのよ。そんで本当に死ぬって言うね。ホントに困っちゃうよnごばぁっ!?」

 

八重神子は横から思い切り鬼太郎に飛びついた。

 

「ご、ごめん神子さん! ホントにミスなんだって! 言霊が本当に発動するとは思ってなくて...」

 

「そんな事はもうよい...もう...逃がさぬ♡‬」

 

この時鬼太郎は怨念と対峙した時かそれ以上の恐怖を感じたと言う。

 

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「離せーー!!! 嫌だァァァァァ!!」

 

「喚くな、ちょっとチクッとするだけじゃ」

 

時は流れて一心浄土。鬼太郎は八重神子に引き摺られて雷電影と宗政の前に連れてこられた。

何をするのか、鬼太郎はマトモな説明をされていなかった。八重神子に聞いてもはぐらかすだけで、本能が警戒アラートをけたたましく鳴らしていた。

 

「来ましたね」

 

「......来てしまったか。鬼よ」

 

「頼んだぞ、影」

 

「あんたたち何する気だよ! 怖いよ! 説明求む!!」

 

まるで注射を嫌がる子供のように鬼太郎は暴れた。ここで抵抗しないと何か恐ろしいことが起きる気がしたからだ。

 

「動かないでください。動くと死にますよ」

 

「嫌だ!! 俺は逃げるぞ! そこのお兄さんも止めてよこの2人!!」

 

「......案ずるな。特段悪いことをしようとしている訳ではない」

 

「え? そうなの。ならちゃっちゃとやっちゃおう」

 

((チョロい...))

 

そして、雷電影は鬼太郎に刻印を刻み込んだ。

眷属の刻印。これさえあれば...

 

「神子さんと同じくらい生きられるってこと?」

 

「そうじゃ、喜べ。ただし影が死んだら妾たちも死ぬがな」

 

「実質不老不死みたいなものじゃん。もう神子さんと結婚したってことでいいよね?」

 

そう言いながら横を見ると、八重神子を顔を真っ赤にしてぷいと逸らした。

 

「は? 何この人可愛いんだけど。今から犯すね」

 

「なっ!? ちょ、ちょっと待たんかこのバカ鬼!」

 

「結婚したんだからいつやろうが自由でしょ?」

 

こうして晴れて鬼太郎と八重神子は(戸籍的にも肉体的にも)結ばれた。これから2人はまた何百年、何千年もの間、大量の子供に囲まれて幸せに過ごしましたとさ。

 

めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、帰るぞ、影。.......影?」

 

「..........す...」

 

雷電影は宗政の裾を掴んで上目遣いで、

 

「わ、私も...ほ、欲しいです...」

 

「.........」

 

 

こうして、過去雷電影が自らの精神統一の為に生み出した一心浄土は色欲に包まれた。

雷神とその眷属の狐は乱れに乱れ、雷電将軍がブチ切れて乱入してくるまで宴は続きましたとさ。

 

今度こそ、めでたしめでたし。

 





後書き、特になし!!

暇だったからね。書いちゃった。

ぜひ活動報告にリクエスト書いてね。
そこで情熱にまみれた変態怪文書書いてくれたら優先的に着手する(と思う)ゾ!!

こんな文章で良ければ喜んで書くのでリクエストよろしくな!
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