スキー教室が始まった。
目的地は長野県にあるスキー教室。
ちなみに俺はスキーしたことない。
バスの中では隣に座っている虹夏とは気まずい空気が流れている。
いつもなら簡単に話せるが話題が頭に浮かんでは消えて会話すらできない。
そんな移動時間を三時間ほど過ごして、ようやくスキー場に辿り着いた。
まぁ、ペア行動でスキーを楽しむっていう行事なんで気まずいのは続くけどね。
スキーの板とかスキー用のメガネとか色々装着して説明を受け、虹夏と一緒にリフトに乗りに行く。
二人きりで話すのはここしかない。
そう思ったけど何も浮かんでこない。
ま、まぁ、リフトなんて何回も乗りますし? まだ大丈夫だろ。
リフトでは案の定、気まずい空気が流れる。
虹夏の表情を伺うと、スキー場に視線を移してる。
やっぱ嫌われちゃったか。真正面から嫌いって言われたし、そりゃそうか。
泣きそうである。
リフトから降りる。スキー場の下の方を見下ろすと、少し足がすくむ。
いや、スキーしたことないんだって。かっこいいところとか見せられないから。
俺がなかなか滑り出さないからなのか、心配するよいに声をかけてくれる虹夏。
「………ユウ君。スキーしたことある?」
「恥ずかしながら、できない」
「! じゃあ、私が教えてあげる!」
今日初めて見た虹夏の笑顔。
嫌われてないのか? 困惑してしまう。
「まずは板は八の字にする。八の字は内股にすればするほどブレーキがかかるからね。曲がりたい時は曲がりたい方向とは逆の足の角度を平行にして………、よし、やってみよう!!」
なるほど。わからん。
まぁ、八の字で滑ればいいのだろう。
俺は勇気を振り絞って雪の傾斜を下っていく。
おー、なるほど、スピードがすごい。
虹夏に言われたようにブレーキをかける。
「うまいうまい! その調子だよ!」
俺の背後からついてきているのか虹夏の称賛の声が上がる。
え、そう? 才能あったりする?
麓にたどり着いてリフト乗り場へと向かう。
スキー楽しい。
その道中、慣れないスキー板のため態勢を崩してしまう。
ま、まずい。慌ててしまい態勢を直すことができず、背中を強打してしまう。
「あいたっ!?」
「あはは、初心者ならあるあるのミスだよね」
う、恥ずかしい。
自力では立たないので虹夏に手を貸してもらいなんとか起き上がる。
リフトに乗る。
また気まずい沈黙が襲うかと思われたが、そうはならなかった。
「ユウ君もできないこととかあるんだねー」
「笑うな。俺だって万能じゃない」
「ごめんごめん」
「……………俺のこと、嫌いになったんじゃないのか?」
俺の言葉に虹夏は俯いてしまう。
聞かない方が良かったか。
「ごめんね。本当は、ユウ君のこと嫌いなんかじゃないんだ」
そっか。俺のこと、嫌いになったわけじゃないのか。良かった。
「むしろ、好きだよ。大好き」
下を向いていた虹夏がこちらを向く。
目が合う。真っ白な景色を背景に虹夏の笑顔が俺の瞳に映る。
写真なんて、今はいらない。ただ、この光景を俺は無意識に脳裏に焼き付ける。
彼女の笑顔はただただ綺麗だった。
大好き。その言葉が俺の頭の中に反響する。
そっか。そうなのか。
「なんで、嫌いなんて言ったんだ?」
「………君が私のことを好きなのか確かめるために言っちゃたんだ。本当にごめんなさい」
「回りくどいやり方だな」
「そうだよね………」
彼女は儚げに笑うと下を向いてしまう。
俺も彼女に今一度気持ちを伝えよう。
「俺も、改めて言うけど虹夏のことが好きだ」
「っ! まだ好きでいてくれたんだね」
「あぁ」
「…………本当に、私のこと好きになっていいの? もっといい人がいるかも知れないよ?」
「そう言う考え方、嫌いだな」
「ごめんね。でも、そう考えずにはいられないんだ。だって、君は誰よりもかっこいいから、私じゃ、釣り合わないと思っちゃうんだ……」
虹夏の瞳に涙が溜まっていく。
泣かせたくない。
どうしたらいいんだ。
虹夏の俺への好意は、俺という存在で苦しんでいたのかも知れない。
「俺だってわからないことだってあるし、ダサい時だってある」
「そんなことない……! 私から見た君はいつも、何よりも輝いて見えて、遠い存在に、思えて………」
「俺は、君のことが好きだ。大好きだ。俺が、初めて好意を持ったのは虹夏なんだ」
「でも………!」
どれだけ俺の好意を伝えても虹夏には届かない。
恋愛ってなんて難しいんだ。
覚悟を決める。
君が思っているように、俺も君のことが大好きだ。
同じぐらいの気持ちなんだって、君に伝えたい。
「虹夏、こっち向いて」
すでに涙がポロポロと溢れている虹夏の顔。
少し躊躇ってしまうが、俺の気持ちを伝えるのはこれが一番手っ取り早い。
やったことはないが、やるしかない。
君が世界で一番、好きだから。
♪
ついに今日からスキー教室。
嫌だな。
ユウ君とはペアなのでずっと一緒に行動しなければならない。
嬉しいのに、苦しい。
最近はそればっかりだ。
「虹夏、行ってこいよ」
「………うん、行ってきます、お姉ちゃん!」
お姉ちゃんからの激励を胸に、家を出る。
よし、彼に気持ちを伝えよう。
今までの卑屈な自分とはおさらばだ!
と、思っていた時期も私にはありました。
「……………」
「……………」
気まずすぎるっ!?
何かの拷問だろうか? バスの席隣同士なのに会話が一つも出てこない。
他の座席の子たちは楽しそうに談笑しているのに、ここだけ地獄のような空気だよ。
この空気を三時間耐えた私を誰か褒めて欲しい。
スキー場についてから色々と説明を受けて、必要なものを装着していく。
私はスキー経験あるけど、ユウ君はスキーできるのかな? できそうだなぁ。彼、なんでもできるし。
すぐに実力抜かされそう………。
そんなことを考えながら、リフトを降りていざ滑ろうと思った時、ユウ君が微動だにしないことに気がついた。
「………ユウ君。スキーしたことある?」
「恥ずかしながら、できない」
「! じゃあ、私が教えてあげる!」
ユウ君にもできないことがあるんだ。
まぁ、確かに最初からギターだって弾けなかったらしいし、PKだって外す時があるんだから。
でも、今の私にとってはスキーを教えられるのが、どこか嬉しく感じていた。
先ほどまで喋れていなかったのに、自然に話せる。
滑り終わった後でも彼は見事に転んでしまい、思わず笑ってしまう。
リフトに乗って前のような会話ができてる。
関係が戻ったみたいで嬉しかったけど、中身はまだギクシャクしたままだ。
「……………俺のこと、嫌いになったんじゃないのか?」
俯いたままチラと彼の方を覗くと不安そうな瞳が揺れていた。
やっぱり、前に言ってしまったことが彼にとってはきついものだったのだろう。
本当に申し訳ない。私の勝手で彼を傷つけてしまったことに罪悪感を感じる。
「ごめんね。本当は、ユウ君のこと嫌いなんかじゃないんだ」
ユウ君を嫌いになるなんてありえない。昨日そう言ってしまったことに対して、これほど後悔したことはない。
だから、嫌いという言葉を挽回する。
私の想いを。君に、気持ちを伝えたい。
彼と出会った日から今日までの君との時間は、何よりも何よりも好きだったから。
伝えられなかったこの想いを君に。
「むしろ、好きだよ。大好き」
顔をあげて君の顔を見る。
驚愕して目を見開いているユウ君。
ユウ君が驚いている顔なんてレアだ。また君の新しい一面を見つけてしまったなー。
気持ちは伝えられた。
でも、胸の内はスッキリしない。
私の暗い感情が私を喰い漁る。
「俺も、改めて言うけど虹夏のことが好きだ」
嬉しい。
だけど、苦しい。
彼は私なんかの隣に居てはいけない人なんだ。そう心のどこかで思っている。もっといい人がいるはずだ。
「…………本当に、私のこと好きになっていいの? もっといい人がいるかも知れないよ?」
「そう言う考え方、嫌いだな」
ごめんね、でも卑屈になっちゃうんだ。こういうところも彼の隣にふさわしくない。
涙が溢れる。
「ごめんね。でも、そう考えずにはいられないんだ。だって、君は誰よりもかっこいいから、私じゃ、釣り合わないと思っちゃうんだ……」
本当に、私は弱い。彼の隣にいる勇気がないんだ。お姉ちゃんからもらったはずなのに、これだけじゃ足りない。
このままじゃ、私の手で大好きな彼を遠ざけてしまう。
呆れられてしまう。
離れていってしまう。
でも、それでいいのかも知れない。
気持ちは伝えられた。
満足だ。
君の声が聞こえない。
必死に何か訴えてくれるけど、私の心に響かない。
「虹夏、こっち向いて」
今更君の顔なんて見れないよ。
もう、私は諦めかけていた。
でも、最後ぐらいは彼の顔を見る権利が私にもあるんじゃないかと思えた。
俯いていた視線を君に送る。
ユウ君は覚悟を持った目で私を見ていた。
「ッ!!!」
唇を奪われる。
ユウ君の思いもよらない行動に思考が追いつかない。
キス、されたんだ。それを自覚した時顔に熱が広がっていく。
嫌、なんかじゃない。嬉しい。嬉しすぎるよ……!
キスから彼の気持ちが伝わってきたような気がして。
心の中の暗い感情が晴れた気がした。
すぐにユウ君は私から離れると照れくさそうに笑っていた。
その笑みは私が今まで見てきた君の笑顔の中で、最高の笑顔で。
いつも無表情で何にも興味を示さない魅力的な君が私にその笑顔を向けてくれている。
「俺は、虹夏が世界で一番好きだ。いや、好きなんて言葉じゃ足りない」
彼は一呼吸おいてから、
「愛してるよ、虹夏」
君の笑顔が脳裏に焼き付く。
魅力的な、私への笑顔。
嗚呼、私はなんてバカだったんだろう。
君の気持ちの強さを見誤っていた。
私が思っている以上に、彼は………ユウ君は私のことを好きだったのだ。
もう、うじうじなんてしてられない。
自分の気持ちを棚に上げることもしない。
彼の隣にいていいのは、いなくちゃいけないのは私なんだ。
もう、誰にも彼の隣は譲ってやらない。
「私、本気にしちゃうよ?」
「俺はもっと前から本気だったよ」
「えへへ、そっか。うん、約束して」
「何を?」
「私をずっと見てて。そして、一生そばにいてほしいな」
「喜んで」
リフトから降りる。
こんなに長く話していたから、かなり上の上級者コースまで来ていたようだ。
「………高いね」
「高いのは苦手なのー?」
「少し」
「そっかそっか〜、行ってこいっ!」
「うわっ!?」
私は彼の背中を押す。
きっと彼なら大丈夫だろう。
私も彼の後についていく。
案の定、彼はもう私よりも上手にスキーを楽しんでいた。
でも、そんなことでもう私は落ち込んだりしないよ。
だって、君は私のことをずっと見ててくれるって約束したから。
「うはは〜! 気持ちいい!」
「虹夏っ! スキー楽しいな!」
「うん!」
頬に感じる冷たさを堪能しながら、私とユウ君はスキー場を滑る。
彼の背中を追いかける。
ずっと遠く感じていた彼の背中は、今はすぐ近くにあるように感じる。
私は思いっきり君への想いを叫ぶ。
「ユウ君、愛してる〜!!!」
「なんていったんだ!?」
もー! 肝心なところ聞いてないんだから!
でも、これからはいつでも君に想いを伝えられるから。
ありがとう、ユウ君。
君と出会えて、本当に良かった!!!
よし、もう完結なのでは?
いや、次で完結だよ。完結してからも原作もやるんだよ()
今回の話、自分で書いてて感動してしまいました。
誤字報告とか毎度毎度ありがとうございます!
最後まで見届けてください!
エタらないでなんとか漕ぎ着けそう。
ではではー!