君の気持ちを知りたい   作:烏兎 満

16 / 19
ぼっちざろっく、最新巻面白すぎた。
星に手向けるあいの花…………泣いた。


面倒臭い奴ら

 六月上旬。

 俺は試合の帰り道に新宿周辺を練り歩いていた。

 美味しい飯屋ないかな。

 

 先日、虹夏の誕生日を店長と一緒に祝った。店長が言うにはサプライズ一択だそうなので、俺は死んだフリをしてドッキリ〜、って感じでサプライズをしようと思ったのだ。まさか、あんなことになるとは。

 

 状況を細かく説明すると、俺が虹夏にロインで『く、苦しい、助けてくれ………!』と送る。急いで駆けつけてくれるだろう(そうであってほしい)虹夏。俺は部屋を真っ暗にして適当に地面にうつ伏せで寝っ転がっておく。

 

 そこで事件が起きた。俺の部屋に入ってきた虹夏は本当に俺が死んでいると思い込んだのか、それはもう必死に俺の名前を呼びかけていた。本当はここで店長がドッキリー! って言って入ってくる予定が、店長入って来ないし。タイミングを完全に見失ってしまった。

 流石にやばいと感じてガバッと起き上がると、虹夏が俺の胸に飛び込んできてずーっと泣いていた。うん、やりすぎた。

 

 泣いている虹夏にごめん、ドッキリなんだ。と伝えるとバチン、とビンタを喰らって、気が済むまでずっと罵倒されました。

 なんとか仲直りできたが、二度とこんなことしないで、と真顔で言われてしまいました。ごめんなさい。

 

 それから誕生日パーティーを行い無事に虹夏との関係は修復できたのだが、俺の家の合鍵を渡すことになりました。

 目にハイライトがなかった虹夏、とても怖かったです。

 

 あの後、二人きりになった店長からの言葉が嫌に耳に残っている。

 

『このドッキリは失敗だったな。虹夏は、たぶん、昔亡くなった母さんのことを思い出しちゃったんだよ。本当に、失敗だった』

『でも、お前はそのくらい虹夏にとって大切な存在ということだ。虹夏のこと頼むぞ』

 

 本当に、虹夏には悪いことをした。

 あれから虹夏はやけにべったりとくっついてきたが、償いとして受け止めよう。悪い気持ちにはならないしね。

 

 誕生日は圧力鍋をプレゼントしました。

 

 話は戻って新宿にて道端に酔い潰れた女性がいた。格好はスカジャンにキャミワンピースに下駄というなんとも不思議な装いだ。

 男性ならわかる気はするが、女性が道端で倒れているとは珍しい。まぁ、ただの酔い潰れた酒カスだと思うので、放置放置。

 と思ったところ、足首を掴まれる。

 

「君〜! 私これからライブあるんだけど〜! 場所忘れちゃった!」

 

 よし、引き剥がそう。

 明らかに酔っているこの女性。面倒な匂いしかしない。俺の勘は当たるんだ!

 しかし、力が強くなかなか話してくれない。流石に女性を蹴るほどクズじゃない。

 というか、バンドマンかよ。こいつのヤバさに拍車がかかる。

 

「ひっく、私をライブハウスに連れて行ったら、無料でライブ見せてやるぞ〜!」

「いえ、大丈夫です」

「つれないな〜! 少年!」

 

 クソ、離してくれない。

 本当に、本当に嫌だがこいつをライブハウスに連れて行くか。ていうか、こんなに酔っててライブ大丈夫なのか?

 

 この女性、廣井きくりというらしい。

 新宿『FOLT』というライブハウスで活動しており、バンド名は『SICKHACK』。四苦八苦という四字熟語から来てそうだ。

 俺は廣井さんを背負い込んで、指示通りに目的地を目指す。バカ酒臭い。

 

「少年〜! 背高いね〜〜!」

「……………」

「え? お姉さんが美人だって? 嬉しい〜!」

 

 うざい。

 リョウなんて比較にならないほどにうざいぞ。

 本人はずっと笑っていて実に楽しそうだ。男だったら殴ってた。

 

 そのまま馬車馬のようにこき使われてようやく到着。絶対道間違えたりして遠回りさせられたよ。

 

「じゃ」

「え〜! 私のライブ見て行きなよ〜!」

 

 子供のように駄々をこねる廣井さん。あんた何歳だよ。

 ライブか。

 廣井さんに誘われたから、というわけでは断じてないのだが、最近ライブを見ていなかったな。どちらかというとやる側だったし。

 悩んでいると柄の悪そうな店長らしき人に声をかけられる。

 

「やだ〜〜〜! きくりちゃん男前な子連れてきちゃって〜! もしかして彼氏〜?」

 

 柄の悪い………店長……?

 廣井さんの説明によると心は乙女なだけのただのおっさんらしい。

 廣井さんのバンドメンバーらしき人たちにも声をかけられる。

 

「うちの廣井がすみません。連れてきてくれてありがとうございます」

「わーお、スーパーイケメーン! 仲良くしてねー!」

 

 どことなくクールな女性の志麻さん。廣井さんとは真逆で礼儀正しい。

 そして、自己紹介によれば金髪の女性はイギリス人でイライザというらしい。

 凸凹バンドって感じがするが、バンドってそういうもんだわな。

 

「廣井を連れてきてくれたお礼として私たちのバンドでも見ていってくれませんか? 時間があればですけど」

 

 そんなこと言われたら見ないといけなくなるでしょうが。

 

「わかりました。でも、チケットなら払いますよ」

「わ〜、少年律儀だね〜!」

「………………」

「あ、君もしかしてもう私と話してくれない感じ? 寂しいな〜〜!」

 

 うるさい。酔っ払いは無視して早速ドリンクを購入してからその客の多さに驚く。

 ざっと見たところ二百人はいる。なるほど、『SICKHACK』とはかなり人気のバンドらしい。

 周りを見渡すと、後ろの方のベンチに座りかかっている謎の少女を見つけた。うん、無視しよ。というか気配を消さないと………。

 

「ユウト、なんでここにいるの?」

 

 謎の少女から背を向けて逃げようとして時すでに遅し。

 振り返ると目の前には山田リョウがいた。面倒だ。

 

「え、無視?」

「……………」

「手繋いじゃうよ?」

「離せーーー!?」

 

 こいつに手を握られるのは本当に鳥肌が立つ。それに、俺の手を握って良いのは虹夏だけだ。

 しょうがないので、会話に付き合ってやるか。

 

「リョウも『SICKHACK』のバンド見にきたのか」

「うん。ユウトもファンだったとは、見る目あるね」

「成り行きだよ」

「んんっ、SICKHACKのライブはサイケデリック・ロックを主としていて、1960年代に流行したドラッグによる幻覚作用とうんぬんかんぬんうんぬんかんぬん…………」

 

 あ、ライブが始まるな。

 てか、廣井さんベース兼ボーカルなのか。志麻さんがドラムでイライザさんがギター。

 

 不思議な音楽だ。今まで聞いたことのない心を揺さぶるような音楽。

 それにしても、ベースでボーカルをやるとはすごいな。俺はギターボーカルだが、ギターとボーカルはどちらかというとドラムとベースに支えられるような立ち位置だ。特にボーカルは支えがないとリズムが崩れる。

 ベースというリズム隊を粉しながら、バンドで最重要といっても過言じゃないボーカルを務めるのは並の実力じゃ到底できない芸当だ。

 

 酔っているとは思えない大胆かつ繊細なベースの音の壁。

 他のバンドメンバーもかなりの腕前だが、廣井さんが頭ひとつ抜きん出ている。

 吸い込まれるような波に呑み込まれるような。そんな錯覚を抱くほどの変拍子。

 

 面白い。

 

 全身に鳥肌が立つのを感じる。

 ここまで聴く側として感動したのは初めてだ。

 この音楽の中核を担う廣井さんが酔っ払いとは、ある意味頷ける。

 

 そして、何よりも驚いたことはその圧倒的なカリスマ性のある歌声だ。俺とはまたベクトルの違う人を惹きつける天才的な歌声。

 

「どうだった?」

 

 ライブも終わり、ホール内のベンチに座る。

 リョウが何故か自慢げにドヤ顔をしてそう聞いてくる。いや、お前関係ねーから。

 

「面白かったな」

「今度アルバム全部持ってくる! 初心者はうんぬんかんぬんうんぬんかんぬん………」

 

 リョウの戯言は無視して、廣井さんに会いたいな。歌声を真似することなんてできないし、しようとも思わないが、そのカリスマ性はどこからきてるのか気になるところだ。

 

「あーーー!? あんた! 文化祭の!!!」

 

 リョウが隣で永遠に何か話してるのを聞き流しながら、廣井さんを待っていると、変なツインテールの女の子が話しかけてきた。

 見た感じ俺のセンサーが言ってる。面倒だと。今日で3回目だぞ、これ鳴るの。俺試合で疲れてんだわ。このサイケデリック・ロック聴いてより疲れた気がする。

 

「……………」

「え、無視っ!?」

「あれ〜? 大槻ちゃん、今日ライブあったっけ〜? あ、私のバンド見にきてくれたのか〜〜!」

「あ、姐さん! 今日のライブ最高でした!」

「ありがと〜!」

 

 よし、帰ろ。

 リョウ、大槻さん、廣井さん。やばいメンバーの集まりに参加などしたくない。

 ダッシュで逃げようとした時、大槻さんに手を掴まれて止められてしまう。ちくしょう。

 

「ちょっと待ちなさいよ! あんたイケメンだからすぐわかった! あの文化祭のギターボーカルあんたでしょ!」

 

 バッとスマホの画面を見せつけられると、去年の九月ごろに行った下北沢高校の文化祭ライブの映像が流された。ふむ、懐かしいな。確か動画撮影は禁止だったはずだが、まぁこの時代そんなルール守る奴はいないか。

 

「いや、俺じゃないよ」

「あ、それ私たちじゃん」

 

 山田ァ!!!

 なにしてくれてんだ。面倒だ、絶対面倒臭いのがくる。

 

「今日からあんた、私のライバルよ!!!」

 

 ビシッと俺を指差して高らかに宣言する大槻さん。

 今から嘘をつくのは流石に無理がある。正直、廣井さんのバンドを定期的に見にこようと思っていたが、大槻さんがいるならもう来れないや………。

 

「じゃあ、そういうことで」

「待ちなさい、あんたどこのバンド入ってるか教えなさいよ」

 

 どうやらあの動画にはMCは入っていなかったらしい。説明が面倒だ。

 

「俺バンドやってない」

「は?」

「じゃ」

「え、え、ちょ、ちょっと待ちなさい。これじゃあ私が一人で勝手に盛り上がっていたみたいじゃないの!」

「いやその通りなんだよ」

 

 そう言った時、胸ぐらを掴まれる。身長差で持ち上げられるより下に引き寄せられたって感じで。なかなか強引だな。

 

「その腕前でバンドをやってない? ふざけないで!!! ギターはまだまだ粗いけど、歌声に関してはプロを狙えるレベルなのよ!!」

 

 あ、確かにそういう感じのメールやら声はかかっていたが、俺には他の夢があるからな。どこから俺のメールアドレスをゲットしたのやら。まぁ、全部断ったんだが。

 俺が本当にバンドをやっていないと知ると、先ほどの勢いはどこへやら。不安に震えるチワワのようになる大槻さん。

 

「え、ほんとにやってないの? 嘘とかじゃなくて………?」

「うん」

「もしかして、人違い?」

「うん」

「いや、それは違う」

 

 山田ァ!!

 何か悔しそうに歯軋りする大槻さん。これ以上は怖いので、リョウの手を取って新宿『FOLT』を脱出する。

 

 疲れた。サッカーの試合の後にこれは精神的な疲労で頭がやられてしまいそうだ。

 

「ユウト、手を握られるのは嫌なんじゃないの?」

「今回だけだ。もう離せ」

 

 こいつがライブハウスに残ると何を口出しするかわかったもんじゃないので、連れ出してきた。

 いつも通りの無表情でこちらを見上げるリョウ。

 

「じゃあ、一緒に帰ろ」

「嫌だ」

「でも、帰る道はどうせ一緒」

「お前、一緒に帰ったら俺の家に来るだろ」

「うん」

 

 ごめん、虹夏。虹夏に押し付けるわ。

 

 疲労で鈍い体を引きずるように歩きながら、山田リョウの相手をする。

 

 虹夏に会いたい。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。