八月初旬。
ニュースによると今年は去年よりも気温が高くなる猛暑日が続くそうだ。毎年毎年同じようなニュースを見るけど、いつか夏の平均気温が五十度にならないか不安だなぁ。
まぁ、それよりも不安なことがある。
例えば、今目の前で一人炎天下の中で走り込みをしているユウトとか。
去年のあの試合が相当悔しかったのだろう。暑くなるにつれて彼の自主練習は激しさを増していった。
夏休みに入ってからもそれは続いた。
インターハイについては、ついに決勝へと駒を進めた下北沢高校。当日は結束バンドメンバー全員で応援に行く予定だ。リョウとぼっちちゃんが行くかはわからないけど……。喜多ちゃんはいく気満々みたい。
飲み物をとりに一度こちらへと近づいてくるユウト。
正直、無理をしないでほしいと思う。ここは下北沢高校のグラウンドで、もう全体練習が終わっており、時刻は十二時を過ぎようとしていた。
全体練習が終わったのが十時。二時間は走っていることになる。
ユウトにお疲れ様、と声をかけてからスポーツドリンクを手渡す。
「………ん、あざす」
受け取ったスポドリを一口で半分ほど飲み干すユウト。そろそろ、切り上げさせないといけない。少し、顔色が悪かった。
「ユウト」
「いや、後少し………」
「ダメだよ、ちょっと顔色が悪いし」
「そう、見えるか?」
「二日酔いにうなされるお姉ちゃんみたい」
「それはやばい」
私の言葉を素直に受け取ったユウトは部室で着替えてくる、と言葉を残して歩いていく。
最近はいつもこんな調子だ。
去年の悔しさをバネに頑張るユウトの姿は、見ていてすごくかっこいい。でも、この環境の中走り込みを延々としているのを見ていると、いきなり倒れてしまわないか心配してしまう。
「お待たせ。毎回きてくれるのは嬉しいけど、虹夏にもスタ練とかあるだろ?」
「ちゃんと予定合わせて来てるってば」
「そうか」
無理しないで、と言葉にしようとして思いとどまる。
ユウトはユウトなりに本気で夢と向き合っているんだと思う。
だから、私の心配なんかでその歩みを鈍らせたくなかった。
私がするべきことは心配なんかじゃなくて──────
「試合頑張ってね!! 全力で応援するよ!!」
君の背中を押してあげる。
私にできることはこんなことしかない。
でも、ユウトはあたしの言葉に笑顔で返してくれる。
それが何よりも嬉しかったし、私も頑張らなくちゃって勇気をもらえる。
本当、カッコいいな。私には勿体無いほどに素敵な人だ。
「任せろ。優勝してみせるわ」
「あ、負けたら私の膝が空いてるからね!」
「勘弁してくれ……」
「にしし、去年のこの画像懐かしいなー」
「おいホーム画面にするのはやめてくれ!」
彼の困った顔も好きだ。
本当は、君と一緒にバンドを組みたかった。でも、ユウトにはユウトの夢があって、私には私の夢がある。
それぞれ見ている夢は違う。
だけど私はユウトの夢を応援して、ユウトは私の夢を応援してくれる。私にとってこの関係は、失いたくない大切なものだ。
隣で笑う君の横顔は、なによりも愛おしい。
「なんだよ、こっちをじっと見て」
「好きだよ」
「………いきなりだな。…………俺も」
私の言葉に珍しく頰を赤くして私から目を逸らすユウト。
んふふ、かわいいなー。
最近言葉で彼に愛情表現してなかったから、たまにはど直球に気持ちを伝えるのも悪くないかも。こんな反応してくれるのなら尚更ね。
ユウトなら、きっと勝てるよ。
私は応援することと祈ることしかできないけど、そう信じてる。
#
インターハイ東京予選。
天気は快晴。
最高気温は三十度を超える日になるなど、去年の試合と状況が似ている。
意外にも結束バンドメンバー全員が集まっていた。
「楽しみですねー! って後藤さんが暑さで溶けちゃってる!?」
「あはは、今日暑いからねー。リョウも無理してこなくても良かったのに」
「い、いや、これくらい平気………」
「珍しいね、リョウがこんな暑い中スポーツ観戦するなんて」
「ゆ、ユウトがどうしても見に来てって言うから………」
絶対ユウトリョウに対してそんなこと言わないって。
最近リョウがユウトに絡むことが多い。この前だって一緒に路上ライブしたって聞いたしリョウの心情が気になるところ。本当に取らないよね?
まぁ、ユウト自身ただの友達って感じで接してるから危惧する必要は無いか。いや、親友にこんな感情向けちゃダメだと思うけど、ちょっと嫉妬しちゃうなぁ。
溶けているぼっちちゃんにスポーツドリンクをかける。
あ、復活した。
「そいえば、どうしてぼっちちゃんは見に来たの?」
確かぼっちちゃんとユウトにそれほど深い関係はなかった気がする。
いつも通り俯きながら何か考えている。ゆっくりでいいんだよ。
「あの、その、えっと、えへへ」
「いや理由言って!?」
「あ、すみません。えっと、私、せ、先輩に初ライブの日、理想について聞かれて………、先輩ってどんな理想を抱いてるのか、気になって……」
理想? ユウトはぼっちちゃんに何を伝えたかったんだろ?
でも、ユウトのこと応援してくれるってことだよね! 私の彼氏を応援してくれるなんて鼻が高くなっちゃうなぁ!
「喜多ちゃんは?」
「私はかっこいい先輩を見に来ました!」
「へ、へー」
「それにしても先輩、顔も性格もイケメンですよね! 伊地知先輩が羨ましい限りです!」
「あ、ありがとねー」
目をキターンと輝かせて先輩はどうのと語る喜多ちゃん。
え、この子ユウトのこと狙ってないよね……?
ま、まぁイケメンって言ってくれるのは嬉しいんだけど、大丈夫だよね? 不安だぁ!
結束バンド崩壊しないか不安になって来たよ………。
そうこうしているうちに西が丘サッカー場に到着。
買っていた四人分のチケットを渡してから入場する。
すごい。
去年の駒沢競技場との相違点としては、スタンドとグラウンドの距離がないこと。普通はトラックとかで囲われてて離れてるんだけど、スタンドからピッチまでが目と鼻の先である。
よし、この日のためにサッカーの知識は十分学んできた!
ユウトと一緒にスポーツ観戦だってしたし、ユウトからサッカーについて教えてもらったりしたから、結構色々わかるはず!
キックオフまで選手達が出てこないから別の場所でアップとかしてるのかな?
キックオフギリギリになって、選手たちが出てくる。
あ、ユウトいた。
「伊地知先輩! 日賀先輩いましたよ! キャー!」
「あわわわわ!? す、すごい歓声、怖い………!?」
「虹夏…………スポドリ………」
「はいはい」
ダメ元でユウトに手を振ってみると、目敏くこちらを見つけて手を軽く手を上げるユウト。視力いいなー。
それにしても暑い。
日光は麦わら帽子で防いでいるんだけど、湿度も高くて蒸し暑い。ハンカチで汗を拭いても拭いても出てくるほどの暑さ。
「すごい暑いですね、日賀先輩大丈夫かな……」
「私はもうダメ………」
「リョウ先輩!? 今スポドリ入れますからね!」
リョウが暑さでフラフラしているところに喜多ちゃんが無理矢理口の中にスポドリを注ぎ込んでいる。カオスだ。
暑い。
だけど、私はユウトの努力を一番近くで見て来たんだ。
絶対にユウトなら大丈夫………!
そして、試合が始まった。
「スポーツ観戦って面白いですね!」
「ライブとは違う良さがあるからね! ちなみにユウトのポジションはフォワード。まぁ、基本的に点を取るって役割で、プレイはサイドから切り込んでからのシュートが得意! 特に右でも左でも正確なシュートを打てるところが強みなんだよ! 足も早いし、抜け出しも上手いから一度抜け出したら誰も追いつかない! その後のキーパーとの一対一は絶対に決め切る決定力も魅力的でうんぬんかんぬんうんぬんかんぬん…………」
「わー! すごいですね!」
ふふん、そうなのだよ! ユウトはすごいんだよ!
試合の展開はこちらが優勢。まだまだサッカー初心者だけど、見た感じ中盤の木下くんのボール奪取率が高いなぁ。今までの試合でもそうだけど、木下くんの運動量がすごい。
と、木下くんが奪ったボールがサイドへと渡り、ウイングの人がクロスを上げる。
ゴール前へと放り込まれたボールに飛び込んだのはユウトだった。浮いているクロスに頭で合わせてゴールイン。
やった! 先制だ!
「やったー! 先制点だ!」
「すごいですね! 頭で決めるのって見てて痛そうです………!」
「今度ユウトの頭がどうなってるのか調査しなければ………」
「か、かっこいい………!」
「そうだよ、ぼっちちゃん! ユウトはかっこいいんだよ!」
歓声が湧き上がる。
ユウトが仲間たちに囲まれながら、喜びを分かち合ってる。
木下くんに抱きつかれて吹き飛ばしていたのは面白かったな。
前半も終わって後半戦。
徐々に暑さで敵も味方も足が止まって来ていた。
それでも、やはりここまで勝ち上がって来たチームだ。お互い勝利のために無理矢理にでも足を動かしている。
その中でもユウトの運動量が落ちないのはすごい。
やっぱり、自主練習の走り込みが生きて来てると思うと感動してしまう。
ユウトの努力を私は誰よりも見て来た。
大丈夫、ユウトなら勝ってくれる。
そして、後半戦も中盤に差し掛かった時だった。
ペナルティエリアに侵入したユウトがドリブルで切り込んだ時、背後から相手選手がユウトの足目掛けてスライディングをしてしまい、それがファールとなる。
下北沢高校はPKを獲得したのだ。
ここで決めればダメ押しゴールとなって2対0。勝つ確率がグッと上がってくる。
もちろん、キッカーはユウトだった。
私たちはそのゴール裏で観戦していたので、目の前でこのPKを見ることとなる。
「な、なんだか緊張しますね……!」
「………うん、大丈夫。ユウトなら決めてくれる」
「ユウト、がんば」
ボールをセットしたユウトが助走を取る。見ただけでわかる。若干肩に力が入っているから、多分緊張してる。
去年を思い出してしまう。揺るぎない信頼はあるんだけど、やっぱり私が蹴るわけじゃないのに緊張してしまう。
その時、スタンドでも張り詰めた空気感に支配されている状況を切り裂く声がピッチとスタンドに響き渡った。
「が、頑張れえええええ!」
最後らへんは上擦ったような声になっていた。
声の発生源はまさかのぼっちちゃん。
こんなにも注目されるとは思ってもいなかったのか、たくさんの視線を向けられて口から泡を吐き出している。
ユウトはこちらに気が付いたのか、若干口角をあげて肩の力も抜けている。
あ、あたしだって負けないもん!
本当はPKのところで大声出すのはキッカーにとって逆効果だけど、あたし彼女だし!
「ユウトぉ! ガツンと決めちゃえー!!!」
「せんぱーい! 頑張ってー!」
リョウはなんかよくわからんポーズをしていて、応援? してた。
ユウトは私たちの声援が届いたのか笑顔で返してくれる。
再び緊張感に包まれる西が丘サッカー場。
ユウトはゆっくりと走り出す。
それからは一瞬だった。
ユウトが軽く蹴ったボールはゴールの真正面へとふんわり進んで行った。
キーパーは予測して右にジャンプして動いていたので、正面に行ったボールを取ることができず。
呆気なくゴールへとボールが吸い込まれていった。
一瞬の静寂。そして、スタンドから、ベンチから、フィールドから熱気を伴った歓声が響きわたった。それは、ライブハウスとはまた違う盛り上がりを見せていた
全身に張り巡らされていた緊張の糸が解ける。
真ん中に蹴るなんてどんな精神してるんだい!
見ているこっちがハラハラしちゃったよ!
…………でも本当に、
「良かった………!」
「虹夏、泣いてるの?」
「な、泣いてないし!」
緊張が解けると、途端に目元に涙が溜まっていく。
この一年間、努力して来たことが報われて思わず涙が溢れてくるのも仕方ないと思う。
本当に、本当に、良かった!
ユウトがこちらを、いや私を指差して、どうだ、と言わんばかりにドヤ顔をしている。
もー! 心配させといて、なんだその笑顔は!
最高にかっこいいじゃん!!!
ほんとに私の自慢の彼氏だよ!
そして、そのまま試合は続いていき、十五分後試合終了の笛が鳴った。
#
「結局膝枕はするんだね」
「………別にいいじゃん。減るもんじゃないし」
「あはは、改めて優勝おめでと!」
「ありがと」
試合後、ユウトの家で寛ぐ私たち。
帰って来た途端、甘えん坊と化したユウトは実に可愛い。
「はー、疲れた」
「お疲れ。プロのチームから声がかかったんでしょ?」
「うん、まぁね。夢に近づいたことが実感できるよ」
「私も頑張らないと!」
「後三週間ぐらいだっけ? ライブ」
「そうだよー。見に来てよね! 最高の曲も出来上がったし!」
ユウトは試合後プロサッカーチームのスカウトさんから声をかけられていたのだ。相当すごいことだと思う。
「大学とかどうするの? いくの?」
「虹夏と同じところに行きたいな。まだあのプロチーム行くかは決めてないし。こういうのは精査するのが大事なんだよ」
その言葉にちょっと安心してしまう。
大学でも一緒なのは嬉しいなー。
彼の頭を撫でる。シャワー浴びた後だからか仄かにシャンプーの甘い匂いが漂ってくる。
ユウトは夢に近づいた。
嬉しいけど、どこか置いて行かれてしまったような気分にもなってしまう。
よし! 負けてられないよ! ここで下を向くのは絶対に違う。こういう時こそ前を向かないといけない!
って強がって見せたけど、私の夢は時々無謀なんじゃないかって思ってしまう。彼が夢への階段を登るたびに、その気持ちは強くなっていく。
「虹夏?」
「なに?」
「………」
ユウトは膝枕状態からいきなり起き上がる。
そして、私の背中に手を回して抱きしめる。
「わわっ! いきなりどしたの?」
「いーや、別に理由はないね」
「ふーん」
暖かい。
自然と気持ちが落ち着く。
もしかしたら、私の不安な気持ちが顔に出ちゃっていたのかもしれない。
私も彼の背中に手を回して抱きつく。
やっぱりユウトは私よりも一回り大きい。密着しているからか、彼の心臓の鼓動が伝わってくる。
「あのね、自分の夢がもしかしたら無謀なのかも、って思う時があるんだ」
君の顔は見えないけど、きっと真剣に話を聞いてくれている。
私は続ける。
「ユウトが夢に近づいている一方で、私はどうなのかなって。そう思うと少し苦しくて夢を追いかけるのが怖くなるの………」
声が震えてしまう。
私はコアラのように足も彼の腰に絡ませてぎゅっと全身で抱きしめてユウトの体温を感じる。
ユウトが背中を優しくさすってくれる。
「俺だって夢を追いかけるのは怖いさ。特に、去年の今頃は特にその思いが強かったな」
「ぷふ、確かにあの画像見たらそう思っちゃうかも」
「おい、その画像そろそろ忘れろ。んんっ、まぁそうだな。でも、どれだけ苦境に立たされて、厳しい現実が虹夏に立ちはだかったとしても俺は虹夏の味方だ。一人じゃない。それに、虹夏にはバンドメンバーだっている。自分が信じられないのなら、俺やあの子達を信じろ」
私の味方、か。
わかっていたことだけど、言葉にされるとこんなにも頼もしいことはないって思う。
やっぱり、ユウトは人を奮い立たせるのが上手だなぁ。カリスマ性っていうやつ? いや、それは人を惹きつける能力のことだっけ?
「ありがと、元気出た!」
「おう、あとこれ以上くっついてくると俺の理性がゴリゴリと削られてるからそろそろ離れようか」
「えー、もうちょっとこのままー」
「今日の夜、虹夏の家に悪いオオカミが出てくるからやめような」
何悪いオオカミって。
ちぇー、名残惜しいけど仕方なく離れる。
「ま、ライブ頑張れよ」
「うん! 期待して待っているといい!」
「そりゃ楽しみだ」
まだ胸の内には不安はある。
でも、私は前を向いて夢への第一歩を進んでいきたい。
今日の君の姿から勇気をもらったから。
次は、あたしの番だ。
日間ランキング20位ありがとうございました!
テスト期間に書いちまったよ、終わりだよもう。
あと誤字報告とかありがとうございます!
いやー、私の作品も随分と高評価されるようになってしまい、本当ありがとございます!
では、また次回!
男式キャラメーカーで主人公作った。見たい?
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