君の気持ちを知りたい   作:烏兎 満

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気づいてほしい気持ち

 十月一日。

 少し寒くなってきた今日この頃。

 

「おはよー」

「おはよ」

 

 軽い挨拶を虹夏と交わす。

 スターリーの前で虹夏と待ち合わせをするのも当たり前になっていた。

 

「昨日の文化祭、ありがとね!」

「俺も楽しめたから、お礼なんていい。ライブ、やる側も面白いな」

「……やっぱり今回限りなんだよね?」

 

 その問い方的に俺に虹夏のバンドに入ってほしい感がすごい。

 でも、ここはきっぱり断らなければならない。

 

「そうだな。楽しかったのは別として、俺は部活もある」

「そっかー。じゃあ、しょうがないね」

「でも、いつか幻の元メンバーとして出るのは悪くない」

「その時にはユウ君の居場所なんてないぐらいすっごいメンバーがいるよー!」

「まだバンド組んでないくせによく言う」

「そうだよねー。メンバーが集まらないのも事実だし。私の周りで音楽やってるのリョウぐらいだし」

 

 まぁ、メンバー集めはゆっくりやればいい。

 一番大事なところだし。

 でも、俺よりもすごいボーカルとギターか。

 漠然とした不確定的な要素なのに、虹夏ならきっと集めてしまうだろう。

 なぜかわからないけど、そう感じる。

 

 ふと、虹夏の方を向くといつも通りリボンとして結んでいるスカーフがずれてしまってる。

 

「動かないで」

「え、なになに」

 

 不思議そうにしながらも動かないようする虹夏。

 素直だな。

 よし、いい感じに直ったな。

 

「……もー、これぐらい言ってくれれば自分でできたのに。私は子供か」

「十分子供」

「私より誕生日遅いくせに」

 

 それを言われると確かに俺の方が年下だ。

 虹夏より年下は嫌だなぁ。

 

「よし、そろそろ学校だな。今日も頑張るぞー」

「あ、話題変えた。まぁ、最近は授業ちゃんと受けてるみたいだけど」

「虹夏は後ろを向くのやめような」

「ユウ君がちゃんと受けてるか確認する義務が私にはありまーす!」

「そんな義務ない。俺は子供か」

 

 もう、十月。虹夏に会ってから半年が過ぎた。

 やっぱり、気のせいじゃない。

 出会った日から、昨日の文化祭まで。

 彼女と過ごす日々は輝いている。

 今のこの関係ってなんて言うんだろう。

 でも、この関係のままじゃ多分俺の欲しいものは手に届かない。

 俺の欲しいものがまだ明確には分かってないんだけど、なんとなくそう思う。

 

 笑顔で俺に話しかける虹夏は、俺のこの気持ちに気づいているのだろうか。

 

 

 #

 

 

 十月下旬。

 もうかなり寒くなってきた今日この頃。

 下北沢高校では体育祭が開催されていた。

 

 赤いハチマキを虹夏につける。

 今日の虹夏はいつものサイドテールじゃなくてポニーテールだ。

 

「ありがとー。私もユウ君の巻くよ」

 

 巻いてくれるらしいので、虹夏に背を向ける。

 あれ、なかなか巻いてくれないな。

 振り返ると虹夏がジト目でこちらを睨んでくる。

 

「しゃがんでくれないとできないでしょ」

「あ、そっか。身長が……。痛ッ!?」

 

 す、脛はやばい。もうこの後の学年別全員リレー無理かもしれん…!

 全く悪気なんてなかったのに。

 俺は脛を押さえながらしゃがみ込む。

 ハチマキを巻いてもらまた後、バシッと頭を叩かれる。

 

「よーし、今日は頑張ろうね!」

 

 あんな強烈な蹴りを俺の脛に放っておいてその笑顔はちょっと狂気を感じるな。蹴る時思いっきり足振ってたからね?

 

 ある程度の競技も終わり、学年別全員リレーが始まった。

 俺は足の速さを買われてアンカーを務める。

 俺にバトンを渡すのは虹夏。

 

 バトンが虹夏まで渡って場面は最終局面に近づいていた。

 六クラスによるリレーはかなりの接戦だ。

 そして、コーナーをまわったところで事件が起こる。

 あまりにも接戦だったからなのか一人の女の子が転んでしまった。

 その女の子の後ろには虹夏が走っていて、巻き込まれてしまう。

 

 うわ、あの転び方は結構足首を捻っている。もしかしたら捻挫しているかもしれない。大丈夫、じゃないだろうな。

 虹夏はすぐに立ち上がって走り出す。だが、若干足を引きずってる。無理はしないで欲しい。

 

「ご、ごめん!」

「任せろ」

 

 虹夏から赤いバトンを受け取り走り出す。

 幸いなことにアンカーは半周多く走ることになっている。

 残りの他クラスの四人のアンカーは、最初のコーナーにたどり着いたぐらい。間に合う。

 足の回転速度を上げる。

 虹夏のせいで順位が下がったなんて言わせるものか。

 

 順調に最後のコーナーで追いつき三人を一気に抜かして、最後の一人。

 最後の一人は雄大だった。

 クソ、追いつかない。

 結局追い抜くことはできず、そのままゴールイン。

 

「はぁ、はぁ! 流石に彼女の前なんだから抜かさせねーよ!」

「チッ、案外足速いなお前」

「お前はあそこから三人抜くのはバケモノだぜ」

 

 一息ついてから応援席に戻る。

 クラスのみんなからは称賛の声をもらった。

 それよりも虹夏の足が心配だ。

 

「ごめん! 足引っ張っちゃった」

 

 席に座っている虹夏が申し訳なさそうに謝ってくる。若干アホ毛も萎れている。

 幸いクラスメイトのみんなは虹夏のミスを全く気にしていないようで一安心。

 

「気にしてない」

「そっか、ありがと。ユウ君速かったよー!」

「足、見せて」

 

 虹夏の運動靴と靴下を脱がせて、足首をまわす。

 

「うっ!」

「軽い捻挫だな。この後の競技でない方がいい」

「で、でも」

「捻挫は放置するのは良くない。保健室から氷を持ってくる」

「わかった………。じゃあ私が出る予定だった借り物競走、お願いしてもいい?」

「任せろ」

 

 虹夏のお願いは断れない。というか、ぜひさせて欲しい。

 保健室で氷を持ってきてから虹夏の足首の内側のくるぶしを中心にグルグル巻きに固定して圧迫させる。

 

「二十分ぐらいしたら、氷取ってもいいからな」

「わかったー。借り物競走楽しみにしてたんだけどなー」

 

 残念そうにため息を吐く虹夏。

 まぁ、怪我したものはしょうがない。

 そう諭して安静にするように言っておく。

 

「あれ、お前借り物競走出る予定だっけ?」

「虹夏の分」

「へー」

 

 借り物競走の待機場所で、実行委員としてお題を配る係らしい雄大はニヤニヤと笑う。

 うざいな。とりあえず一発殴っておく。

 

「いてぇ!? なんで殴った!?」

「顔がうざくて」

「理由がひどすぎる!?」

 

 借り物競走がスタートして雄大からお題の書かれた紙を受け取る。

 さてさて中身は。

 

『好きな人』

 

 好きな人。

 俺はすぐに自分の応援席へと向かう。

 頭に浮かぶのは彼女の顔だけだった。

 

「虹夏っ!」

「うぇっ!? 私?」

「ほら、一位取るから行くぞ」

「え、えっ!?」

 

 足を捻挫している虹夏に走らすわけにはいかないため両手で抱き抱える。こうするのは三度目なので、慣れたものだ。

 まわりから女子の黄色い歓声が響きわたるが、知ったこっちゃない。

 

「さ、流石に恥ずいよ…!」

「この前教室でバックハグしてきたくせによく言う」

「うぅ〜!」

 

 虹夏の顔から熱を帯びたかのように湯気が出る。

 

 かわいいな。

 

 俺の中での気持ちが大きくなるのが心臓の鼓動を通して自覚する。

 

「フュー、流石ユウト」

「どうだ?」

「合格合格。一位だよ」

 

 俺の腕の中で丸くなってる虹夏を見せると、呆れたようにため息を吐く。

 

「よし、席戻るか」

「………ユウ君のバカ」

「なんで?」

 

 なんでバカって言われないといけないんだ。一位取ったんだぞ、喜べ。

 

「結局、お題はなんだったの?」

「………秘密」

「え〜、教えてくれてもいいじゃん!」

 

 言いたい気持ちはある。だけど、今は胸の中に閉ざしておきたい気分だな。

 

 俺は彼女に対しての自分の気持ちがはっきりした。

 今まで抱いたことのない気持ちだ。

 いつか、この気持ちを彼女に伝えたい。

 

 こうして、下北沢高校の体育祭は終わりを迎えた。

 

 

 ♪

 

 

 ピンポーンとチャイムが鳴る。

 事前にユウ君から遊びに来るとロインで知らされていたので、躊躇いなくドアを開ける。

 

「はーい、急に会いたいだなんてどうしたの?」

 

 会いたい、なんて好きな人から言われたら舞い上がってしまうのは自然なことだと思う。現に先ほどまでの私は舞い上がっていました。

 

「面白いゲームを見つけてきた」

「ふーん。とりあえず上がって上がって」

「お邪魔します」

 

 手提げに入っているものが気になったけど、何するんだろう。

 

「罰ゲーム付きのゲームをしよう」

「よかろう! で、罰ゲームの内容は?」

「終わってからのお楽しみ」

 

 いつも通り無表情なユウ君。

 でも、どことなく何かを楽しみにしているような雰囲気を感じるなー。

 よーし、負けないぞー!

 

「愛してるゲームって知ってる?」

「なにそれ」

「お互いに、愛してるって言って照れた方が負け」

 

 なんだそのラブラブなカップルがやりそうなゲーム。どっからそんな情報手に入れてきたんだ。

 しかし、これ私に不利すぎない?

 彼がこのゲームで負ける未来が想像できないし、私が真っ先に照れる自信がある。

 

「罰ゲームの内容教えてくれたらやってあげようかなー、なんて」

「しょうがない。負けたらこれをつける」

 

 ユウ君が持ってきていた手提げの中には、猫耳のついたヘッドバンドが。

 

「これをつけて、勝った方の言うことを聞く」

 

 ハードルが高い!? これ友達同士でやるようなゲームじゃないよ!?

 

「はい、じゃよーいスタート」

「いきなり!?」

 

 感情を無にするんだ。

 逆にこれに勝てば猫耳ユウ君を好きなようにできる。

 

「愛してる」

 

 が、我慢我慢。心が蕩けそうだけど、これはゲーム。

 そう、ゲームなんだから本心からくるものじゃないんだ。

 よし、耐えた!

 私の番だけど、ここは必殺技を使うしかない!

 私はユウ君を押し倒してから、顔と顔の距離がゼロ距離になるところで囁く。

 

「っ!!!」

「……愛してるよ」

 

 わ、私照れてないよね? 顔に出てないよね!?

 というか、ユウ君が手を口にして目を合わせてくれない。これ照れてるよね? 可愛い。このまま襲っちゃいたい。なんか女の子に見えてきた。

 あ、私の勝ちじゃん。

 

「よ、よし! 私の勝ち!」

「………ズルくない?」

「ふふん、何をしても勝ちは勝ちなのだー!」

 

 ユウ君は渋々と勝ってきた猫耳バンドを私に渡す。

 この猫耳、金色なんだけど私に勝つ気満々だったでしょ。

 

「さぁ! 私が飼い主だよー! 猫ちゃん!」

「にゃ、にゃー」

 

 あ、やばい鼻血が……。

 

「ゆ、ユウ君」

「にゃに?」

「ぐはっ」

「虹夏ーーー!?」

 

 できればこの時の写真を収めたかったです。




あと数話で完結する予定っす。
でも、原作という名の後日談を延々と書く予定。たぶん。完結したら。

いつか主人公TSとかしたりするかも。カップルの男の方がTSするの好きな同志いない?
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