君の気持ちを知りたい   作:烏兎 満

9 / 19
君の気持ちを知りたい

 十二月中旬。

 明日は終業式。そして、終業式の次の日から一泊二日のスキー教室が始まる。二人組のペアで行動するらしく、わたしはユウ君とペアを組むことになっている。

 今日はリョウと一緒に昼ごはんを教室で食べていた。

 いつもはユウ君と食べるんだけど、今日は木下君と食べるらしい。

 

「やっと雑草生活から解放される……」

「今日リョウの分つくってきてないよ?」

「え」

 

 泣きついてきて可哀想だったから、お弁当の半分を分け与える。

 すると、上級生らしい女子が教室に入ってくる。

 何かあったのだろうか。

 

「伊地知さん、ちょっといいかな?」

 

 え、私? 

 この先輩に見覚えはないけど、何かしてしまったのかな。

 ついて行くと人気のない教室に辿り着いた。

 

「あのさ、単刀直入に聞くけどユウト君とどう言う関係なの?」

 

 うわ〜、そっち系の話かー。今までそういうことなかったけど体育祭やら文化祭やらで少し目立ってしまったからなのかな。

 ユウ君はかなりモテてる。それは文化祭の出来事や夏のサッカーの決勝戦で上級生の女子たちの間でも人気になってしまっているのは噂には聞いていた。

 そこでいつも一緒にいる私が彼とどんな関係なのか気になるのだろう。

 

 でも、彼と私の関係って友達なのかな。私の頭の中に友達以上恋人未満という言葉が浮かび上がる。

 

「えっと、先輩が思うような関係じゃないですよ」

「はっきり言って欲しいんだけど」

 

 この先輩、威圧感がすごい。私より身長が高いから少し怖い。

 人気者だなー、ユウ君は。

 私なんかが彼のそばにいてもいいのだろうか。

 

「友達、です」

「ふーん。じゃあもう彼のそばにいない方がいいよ。あなたじゃ釣り合わないし、彼は一人でいるからより魅力が際立つんだから」

 

 ちょっと過激なファンの方だったらしい。

 でも、まわりから見て私ってやっぱり彼とは釣り合わないのだろうか。

 

 薄々は気づいていた。

 ユウ君はなんでもできる。

 それに比べて私には何ができるだろう。彼より優れているのは持ち前の明るさとドラムの腕前しかない。ドラムだって彼が本気でやったらきっと私より上手くなってしまう。

 明るさだってただの取り柄だし、私には何が残るんだろう。

 

 そう思った時、急に彼の存在が遠く、遠く感じてしまった。

 

「ま、そういうことだから」

 

 先輩はそれだけ言い残して自分の教室へと帰っていった。

 

「あの先輩の言うことは聞かなくていいよ」

「リョウ………」

「ブサイクだったし、嫉妬してるだけ」

「辛辣ぅ、でもありがと」

 

 うん、大丈夫だよね。

 たまにはリョウもいいこと言うなー。

 ユウ君だって、こういう考え方嫌いだろうし忘れよ忘れよ!

 

「ってことで励まし代金頂戴」

 

 はい、リョウはいつも通りのリョウでした。

 これだからベーシストは………。

 

 

 #

 

 

 その日の夜、夢を見た。

 少し曖昧だけど、はっきりと覚えている。おかしな夢だった。

 

 真っ白い部屋に私はいて目の前には、もう一人の私。

 私は喋ろうとして口が動かないことに気づく。その場から動くこともできなかった。

 もう一人の私が私に話しかけてくる。

 それは私が心のどこかでいつも思っていることだった。

 

(あなた)は、ユウ君とは釣り合わない。だって、そうでしょ? 彼はなんでもできる。勉強だって、スポーツだって、ギターだって、歌だって」

 

 そんなことはわかってる。

 

「わかってない」

 

 わかってる!!!

 私は彼よりも優れてないし、彼よりも魅力的じゃないってことぐらい私が一番理解してる。

 

「じゃあ、問い方を変える。(あなた)よりも魅力的な人がいたとして。彼がその子のことを好きになったら、どうするの?」

 

 そ、それは彼が選んだ人なんだし、諦めるよ……。

 心が揺れる。私の頭に浮かんだのは彼の隣にいる私よりも美人で魅力的な女性。

 想像するだけで苦しくて仕方がない。

 

「その程度の気持ちで彼を振り向かせられるわけがない」

 

 わ、私は彼のそばにいたい……。

 でも、諦めない道は辛すぎるよ……。

 

「ほら。ボロが出た」

「やっぱり彼への気持ちはその程度なんだ。彼は(あなた)のことなんてどうでもいいと思ってるよ、きっと」

 

 わ、私は…………。

 

 冷たい頬の感触に目を覚ます。

 汗がすごい。部屋着に張り付いて少し気持ち悪い。

 

「やっと起きたか。もう朝だぞ」

「あ、あれ? お姉ちゃん? 朝早いんだね……」

「虹夏が遅いんだよ。ほら、朝ごはんと弁当作っておいたから」

「あ、ありがと」

 

 私は時計を見る。

 時刻は七時。

 その時、部屋のチャイムが鳴った。

 あぁ、彼がきてしまった。嬉しいのに、苦しい。

 

 インターホン越しに会話する。今、顔を見られたくない。

 

『風邪ひいたか』

「ちょっと寝坊しちゃっただけだから! 先行っといて!」

『そ、そうか。わかった』

 

 私は学校の準備を始める。

 正直、かなり億劫だ。

 彼と距離をとった方がいいかもしれない。

 スキー教室、ペア組んだのは失敗だったな………。

 

 学校について教室に入る。

 

「虹夏、おはよ」

「………おはよ」

「?」

 

 今朝の夢が頭にちらつく。

 彼とは一旦距離を置こう。私の気持ちの整理がつくまでユウ君との会話は手短にして、朝の電話もなしにしよう。………きついなぁ。

 ユウ君が挨拶だけして席につく私を不思議そうな目を向けてきていた。

 

 終業式が終わってユウ君が一緒に帰ろうと、誘ってくれる。

 今日一日ずっとユウ君を避けてしまっていた。最初の方は不思議そうな顔をしていたけれど、意識的に避けられていると気づいたのか、妙に必死になって話しかけてくれた。正直、辛い。自分の気持ちに正直になりたいけど、やっぱり心の奥底にある暗い感情が叫びだすんだ。

 

 流石に帰り道は一緒なので、誘いを断ることはできなかった。

 

「虹夏」

「………なに?」

「………悩みとかあるのか?」

「いや、特にないよ」

「そ、そうか」

 

 珍しくユウ君が狼狽えている。

 その姿を見て、私はきくりさんが前に言っていたアドバイスを思い出した。思い出してしまった。

 

『グイグイ行ってあとからグッと引いてあげるの!』

『そしたら男なんてイチコロよ!』

 

 ま、まさかそんなわけないよね?

 私なんかが振り向かせられる訳ないし……。

 心苦しいけど、試しに冷たく接してみる。

 

「もう私君に朝電しないから」

「え、それは辛い」

「………あと、一緒に登下校も今日から、やめ、よう」

 

 ま、まずい。涙が、溢れて……!

 視界がぼやけてしまう。

 

「に、虹夏。本当に大丈夫か? 一回落ち着こう」

「ゆ、ユウ君なんて嫌い……!」

 

 思ってもいない言葉が口から出てしまう。ユウ君は目を見開いて驚いている。

 その後、顔を歪めて俯いてしまうユウ君。

 どうして、こんなこと言っちゃうんだろう。相手を傷つけて距離を空けられると思っているから? 

 

 違う。

 

 彼が、私のことを好きということを否定したかったからだ。

 もし彼が私のことを好きになってしまっているのだとしたら、嫌いと言われても興味なさそうにするはずなのに。私の言葉で彼は悲痛に顔を歪めている。

 

 そっか。

 私は彼を振り向かせることに成功していたんだ。

 シンプルに嬉しい気持ちと色々な感情が合わさって胸が苦しい。喉に何か大きなものが突っかかったような苦しさが私を襲う。

 自分勝手な私に自己嫌悪する。

 

 何やってんだろ、私。

 

 私はその場から逃げ出そうとした時、ユウ君に手を掴まれる。

 

「虹夏っ!」

 

 覚悟を決めたような表情をするユウ君。やっぱりかっこいいな。そう思うたびに私の胸は締め付けられる。

 その先の言葉はずっと私が彼に言って欲しかったことなのに。

 

「俺は、虹夏のことが好きなんだっ! 恋愛的な意味でっ! だから………」

「ごめんっ!!!」

 

 私は彼の手を振り解いて駆け出す。

 見慣れた道なのにどこか知らない場所を走っているような錯覚が襲ってくる。

 

 確定的になってしまった彼の想い。

 私の勘違いだったら良かったのに。

 私なんかを好きになっちゃうなんて。きっと、もっと魅力的な女性がいるはずなのに。

 

 家のドアの中に逃げるように入り込み、ドアをバタンと閉める。

 足に力が入らずドアを背にしてその場に座り込む。

 涙が止まらない。

 

 彼は今どんな気持ちなんだろう。

 悲しい気持ちになっているのか。怒っているのか、呆れているのか。

 

 もしかしたら、もう私のことなんてどうでもいいと思っているかもしれない。

 高校入ってからは彼とずっと一緒にいたけど、今日ばかりは彼の気持ちがわからない。

 

「君の気持ちを知りたいよ………」

 

 

 #

 

 

「ただいま、ってうわ!?」

「…………」

「虹夏、私に話して」

「…………お姉ちゃん」

 

 あれからどのくらい時間が経ったのかはわからないけど、お姉ちゃんが帰ってきたってことは随分と夜遅くなってしまったらしい。

 私はお姉ちゃんに連れられてリビングのソファに座らされ、泣き腫らした顔を見られたくなかったから膝を抱える。

 

「で、なにがあったの?」

「…………」

 

 正直、どう話せばいいのかわからない。

 悪いのは全部私だし、勝手にウジウジと悩んでいるだけだ。

 

「………お姉ちゃん、そんな頼りないか?」

 

 そんなことない。

 私はゆるゆると首を振って否定する。

 私はゆっくりと今日の出来事と私の気持ちについて話し始めた。

 

「なるほどな。チッ、あいつもう一発殴っときゃ良かったな」

「……なんでそうなるの」

「まぁ、そこは置いておいて」

 

 一度咳払いをするお姉ちゃん。

 

「要は虹夏はあいつとは釣り合わないって思ってるんでしょ? で、距離を置きたくて少し距離を置いたらあいつの気持ちに気づいてしまった。告白されて、私なんかって気持ちで振ってきた訳だ」

「………ちょっと違うけど、大体そんな感じ」

 

 お姉ちゃんは盛大にため息を吐く。

 何そのため息。お姉ちゃんだって恋愛のことなんてわからないでしょ。

 

「虹夏はあいつのどこが好きなの」

「…………全部」

「うわ………。お前ら気が合うな」

「ユウ君は私なんかじゃ釣り合わないよ………」

「私が言えるのは自分の気持ちに素直になれ、ってだけだな」

「…………そうできたらそうしてるって」

 

 チラッとお姉ちゃんの方を見てみると、頭をガリガリと掻きながら悩んでくれている。

 やっぱりお姉ちゃんは優しいな。

 

「虹夏はあいつの気持ちを踏み躙るのか?」

「……………そんなつもりは」

「じゃあ、あいつの気持ちに応えてやれよ」

「ユウ君の気持ちなんてわからないよ………!」

「本当はわかってるんじゃないのか? 知らないふりをしているだけで。勝手に釣り合わないとか決めてんじゃねー! 虹夏は私の自慢の妹だ!」

「っ! お姉ちゃん……!」

 

 私はまっすぐにこちらを向くお姉ちゃんの胸に飛びつく。

 さっき散々泣いたのに涙がまた溢れてくる。

 もしかしたら、振ってしまって嫌われちゃったかもしれない。でも、私は自分の気持ちと向き合ってみようと思う。

 

 明日のスキー教室で、私は自分の気持ちを伝えよう。

 でも、今だけはお姉ちゃんに甘えようかな。

 私はお姉ちゃんの胸の中で未だに溢れてくる涙を流した。

 

 

 €

 

 

 もう十二月中旬。早いもので明日は終業式。

 明後日からスキー教室だ。

 正直、スキー教室で虹夏に告白しようと思ってる。

 最近は虹夏の姿を目で追ったり、虹夏の笑顔で心臓が破裂しそうになるから気持ちを隠すことに我慢できない。

 

 今日は虹夏からの朝電がなかったためもしかして風邪でもひいてしまったのかと心配になったが、ただの寝坊らしい。

 

「虹夏、おはよ」

「………おはよ」

「?」

 

 教室に入ってきた虹夏に挨拶すると素っ気ない返事が返ってくる。

 怒ってる?

 いや、そんな雰囲気じゃなかった。

 なにか変なことしたっけ?

 

 それから終業式まで目も合わせてくれず、会話も最小限。

 無視された時は本気で焦った。胸の中に変な焦燥が浮かび上がってきて、嫌な予感がした。

 

 嫌な予感ってのは的中するもんだ。

 

 帰り道。なんとか虹夏と帰ることができた。

 何か悩みでもあるのかと思って聞いてみるが、特になし。

 

 嫌われてしまったのだろうか。

 

「………一緒に登下校も今日から、やめ、よう」

 

 ポロポロと涙を流す虹夏。

 だ、大丈夫か!? 

 本当に不安だ。情緒が不安定すぎる。

 

「ゆ、ユウ君なんて嫌い……!」

 

 頭が真っ白になる。

 

 嫌われた……?

 

 ここ最近の出来事を記憶から掘り返してみるが、とくに何かした覚えはない。

 呼吸が荒くなる。目の焦点が合わない。

 好きな人に嫌われるのはこんなにも辛いことなのか。

 ショックのあまり思わず自分の口から気持ちが溢れ出てしまう。

 きっと、離れて行こうとする虹夏を引き止めたい想いが暴発してしまったのだろう。

 

「俺は、虹夏のことが好きなんだっ! 恋愛的な意味でっ! だから………」

「ごめんっ!!!」

 

 言い切る前に虹夏は、俺の手を振り解いて走っていってしまった。

 最後に見た彼女の顔は酷いものだった。

 そんなに俺のことが嫌いだったのか。

 

 大きく息を吐き出す。

 きつい。

 俺が今まで振ってきた女子はいつもこんな気持ちだったのだろうか。悪いことしてきたな。

 

 空を見上げると青い空。

 何がいけなかったんだろうか。

 いくら考えても彼女の気持ちがわからない。

 

「はぁ、君の気持ちを知りたい………」

 

 ここまで強く他人の心に興味を持つのは初めてだった。

 

 

 ☆

 

 

「店長………」

「あ? お前か……って酷い顔だな」

 

 まだライブハウスが始まっていない時間に訪れたのは虹夏の友達のユウトだった。

 イケメンで部活でも活躍しているらしい。

 ギターを二週間ほど教えたが、コイツには才能がある。これからしっかりと練習していけばプロにも届くほどだ。

 歌なんて元バンドマンとして正直気持ち悪いほどのポテンシャルを持っている。

 コイツはバンドマンを目指さないらしいが、勿体無いことだ。

 あとまぁ、なんとなくだがここ最近の虹夏はコイツに好意を寄せていることには薄々と気づいていた。

 妹の恋愛事情に首を突っ込みたいし、虹夏が取られたようで少し強めに当たってしまう。

 

「何があったんだよ」

「虹夏に振られた……」

「えっ!? 虹夏を振ったんじゃなくて振られたのか!?」

「まぁはい」

 

 覇気のない彼の顔を見て、疑問に思う。

 虹夏はなぜコイツを振ったんだろうか。

 あの子のことだ。自分の自信でも無くしてしまったのかもしれない。

 

「まぁ、一発殴らせろ」

「ぐはっ!? 未婚パンチ……」

「ふんっ!!!」

「首は、本当に死んじゃいます……!?」

 

 お前が無駄なこと言うのが悪い。

 私だって、ちょっと気にしてんだぞ。虹夏に先を越されそうで怖いんだ………。

 

「死ぬかと思った。まぁ、店長の意見でも聞きたいと思いまして」

「あー? バイトのシフト入ってくれるんなら考えてやるよ」

「任せてください」

「そうだなー。虹夏は明るい反面、マイナスな感情が湧くと極端に自分に自信がなくなることがある」

「そんな出来事なかったっすよ」

「……………はぁ、そんな顔すんなよ。いい顔が台無しだ」

 

 まさかこいつが虹夏のことを想っていたとは。全然気づかなかったな。

 まぁ、あれだな。仕方ないからアドバイスでもしてやるか。

 

「ま、気が向いたから私から一つ言葉を送ってやろう」

「魔王様、お願いします!」

「おいコラ」

 

「私はしつこい男は嫌いだが、諦めの悪い男は嫌いじゃない」

 

 自信満々に言ってやったが、表情が乏しい。

 が、ちゃんと心に響いたようだ。

 コイツにしては珍しく覚悟を決めたような笑みを作って言った。

 

「ありがとう、ございます。もう少し粘ってみようと思います」

「そうか、ネットで調べた言葉がお前の心に響いて何よりだ」

「感動が台無しだよ!?」

 

 ま、虹夏を任せられる男だから簡単に諦めて欲しくない。

 癪だが、本当に癪だが少し応援してやろう。

 

 だって、世界で一番仲のいい姉妹の姉は妹の恋愛を応援するもんだろ?

 




難産だった。
あと二話で完結。の予定。エタらなければ。

UA10000突破!!! お気に入り300突破!!!
ありがとうございます!!!
なんとか完結まで漕ぎ着けそうです。
応援お願いします!!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。