これって転生に入りますか?   作:非単一三角形

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 二人旅の始まりを告げて、第一章はここまで。



C1-12 霊能力者

 

 ―――自分の目に映っているモノが、他の人には見えていない。

 それが、見えているのは、()()()()

 それが、見えるのは、()()()()()

 それが、見えると言い張るのは、()()()()()―――

 

 物心ついて間もない頃から、わたしは次第にそうした事を理解していきました。

 

 たとえ、本棚の後ろから誰かがこっちを見ていても。

 たとえ、机の下から背筋が凍るような声が響いていたとしても。

 たとえ、友人の背中に青白い手が……()()()()張り付いていたとしても。

 

 それらは決して、口にしてはいけない事なのだと。

 変化していく周囲の態度や、向けられる視線から、何となく。

 

 

 わたしが生まれた国では、五歳になるとお城で『鑑定』を受ける決まりになっていました。

 この『視界』が『スキル』に拠るものだったら、誰かに話せるようになるんじゃないかと思っていましたが、残念ながら無関係だったみたいで。

 その代わりにだったのか、私には平民としては珍しく、魔法のスキルが幾つかありました。

 親類縁者にこうしたスキルを持った人間がいない中では、特に珍しいことだそうです。

 

 両親がわたしの事で喜んでいるのを見たのは、この時が初めてだったと思います。

 小さい頃から不気味な事ばかり言っていたわたしが、とても気味が悪かったようなので。

 

 

 そうして、六歳になったわたしは学校に入れられました。

 魔法スキルをはじめとする、一部の珍しいスキルを持った子供が、国のお金で通わせてもらえるようになっている学校です。

 

 両親は喜んで、わたしを寮に入れました。

 ……ああ、入寮は希望者に対する制度です。二人がそれを希望したんです。

 わたしが両親に会ったのは、入学式の日が最後でした。……ええ、まあ、そういうことですね。

 

 そこで知り合いになった子達にもそれとなく聞いてみたんですが……やっぱり同じ『眼』を持つお友達はいませんでした。

 寮の四人部屋には、始めに季節が変わるぐらいの頃まで()()()が居たりしたんですけどね。

 

 

 生きている人の声と、そうでないモノの声。

 二つが大体聞き分けられるようになり、うっかり後者に返事をしてお友達から「えっ?」という目を向けられることも少なくなってきたある日のことでした。

 

 郊外授業の一環で訪れた建物で、何となしに隅に向けた目が……合ってしまったんです。

 見えていると、バレてしまったんですよ……其処に居た、『人』に。

 

 

 それまで見てきた()()は何れも青い靄、もしくはそこから手足など体のどこか一部が伸びている姿だったのですが、その『人』は違いました。

 ネズミの背中から瘤のように人の頭が生えていて……台座にされたネズミの苦し気に喘ぐような鳴き音と共に、()()()()()()()()がぐるりぐるりと忙しなく回されていました。

 

 その瞳がぎょろりとこちらを見たとき、わたしは目を逸らせませんでした。

 叫び声を上げないようにと咄嗟に口を手で押さえて―――周りの友人や先生には見えていない、ということに気付いたのは、その直後でした。

 

 普通の人からすれば、単なる変なネズミ、だったんだと思います。

 それを青い顔でじっと見ていたわたし。

 わたしに見られていると、その『人』が確信を持つのも、当然だったのでしょう。

 その瞳が喜悦に染まっていく様を最後に、わたしの意識は途切れました。

 

 

 ―――そんなにネズミが苦手だったのか、とお友達には笑われました。

 女の子ならよくあることだ、と笑って庇ってくれる人もいました。

 けれどどちらの声も、当時のわたしの耳にはほとんど入っていませんでした。

 

 わたしの視界にあったのは、確かめるように指を曲げ伸ばしする()()()()()()

 震えながら()()に伸ばした左手は即座に、()()()()()()()て。

 

 右手首から見覚えのある『頭』が()()()瞬間、わたしは再度意識を失いました。

 

 

 右手を縄で縛りつけると、その『人』が入っている感覚が左手へと移り、左手が動かせなく……いえ、勝手に動くようになりました。

 続けてその感覚が肩を登ってきて―――頭にまで登ってくると感じて―――必死に拒絶しようとするうちに、抵抗の仕方をなんとなく掴めてきまして。

 

 そのまま身体の外に追い出すことは出来なかったですが、器の中に押し込むようなイメージで、片手の中に閉じ込めることが出来るようにはなっていきましたね。

 閉じ込めた手を縄か何かで縛ろうとすると、閉じた蓋が押し返されるような感覚があったので、その『人』をそれ以上暴れさせないために、それは諦めました。

 

 

 ―――こうしてわたしは、なるべく周りから変な子だと思われないように気を付けつつ……時折勝手に動きだす手と付き合っていくことになったんです。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 …………。

 

 

 …………おぅっふ。

 

 

 いや、まあ…………尋ねたのは私からなんだけどもね?

 以前の話の中で出た、憑依に関してそこまで怖がる理由とか気になっちゃったわけでね?

 

 眠る度に身体を乗っ取られてないかと怯えたり、とか。

 会話中に突然手が暴れ出して怪訝な目で見られたり、とか。

 そんな肉体的にも精神的にも地獄のような日々を滔々と語られるとは思わなくてですね?

 

 

 ……思った以上に過酷やん。霊能力者ライフ。

 静まれ俺の左腕(ガチ)とか、中二病患者も真っ青だよ。

 

 考えてみれば十五で成人なこっち基準でも未成年な彼女が一人旅してるとか、その時点で確実に闇深案件だったよね。聞く限りだと主にご家庭がですけども。両親からの扱いよ……

 私だったら絶対耐えられん。胡散臭いとか思っててマジすいませんでした。

 

 

《……それで、まだそっちの手の中にいたりするわけ……?》

「あ、いえ、もういないです。師匠に祓っていただきましたから」

 

 

 そこから語られたのが酒場でも少し聞いた、師匠とやらとの遭遇。

 

 要約すると、特別講師として招かれた高ランク冒険者だったそうで、当時のユズちゃんの状態に一目で気が付き、何てモノをくっつけてるんだと目を剥いたそうな。

 そこでネズミ憑依霊をささっと祓った後、現在の彼女が持つ御札の製作方法といった対抗手段の数々を短い講習期間に大急ぎで仕込んでくれたらしい。

 

 

 ―――『見える』ということは、人よりそうしたものを引き付けやすいとも言える。

 当時の彼女に対し出来れば自分の手元に置いておきたいとも言ったそうだが、生憎どこぞの国で功績を残した際に職を授かってしまった多忙の身。

 さりとて他国から未成年の有望な学生―――その辺、彼女の評価は割と高めだったとか―――を勝手に引き抜けるような権限も無い。

 

 仕方なく自分が仕える国の情報と、自分に公的に会うにはこのぐらいの冒険者ランクが必要だ、と講習日の最後に告げて去っていったのだとか。

 

 

《―――で、その師匠さんに会いに行くのがユズちゃんの目標ってわけね》

「はい。……まあ、まだまだランク的にも地理的にも遠いんですけどね」

 

 しかし彼女にとってはそこまで焦がれるようなモチベーションでもないらしい。ここまで聞いた私にとっては意外だったが。

 遠い明日にまた会えれば良いな、ぐらいの気分で旅を続けているそうな。

 案外メンタル強い……というか『痛み』に対して鈍感になっちゃってない? マジで大丈夫?

 

 ま、まあ、それはそれとして私は会ってみたいね。霊能力者であることはまず間違いないし。

 彼女より霊に詳しそうなその御仁から見て、私がどういう存在に映るのかもわりかし気になる。

 彼女に同行する理由がまた一つ増えた、ぐらいで良いかなとも思うけどさ。

 

 

 一通り話し終えた彼女は、ふう、と息を吐いて馬車から見える景色に目を向けた。

 そこには昨日の酒場で席を並べた冒険者も数名いて、視線に気付き手を振る者もいる。

 和やかに見えるが、これでも商人の護衛依頼の最中、かつ彼女も依頼を受けた冒険者の一人。

 

 基本は後衛魔法使いだという彼女は、主に馬車内にて不測の事態に備えておく役割を任された。

 つまり、何事もなければ普通に乗合馬車の客状態なわけだが……魔法の使える冒険者というのが勝ち組扱いされる所以がよく分かる一幕である。

 

 

 まあ、今回に限っては既に多大な貢献をしている……ということになっているのだ。

 何故ならば―――

 

 

《……十時の方向、ゴブリン五匹》

「えっ、あ……し、進行方向左にゴブリンですっ、数は五体っ!」

 

 彼女のややどもりながらの指示に、「またかっ」「マジかっ」「本当凄えな!」と馬車の周りに展開した冒険者達が三々五々に動き出す。

 街から出た頃は半信半疑だった彼らも、こう何度も()()()()()()()()モンスターに遭遇すれば、最早疑う余地はない。

 

 

 当然ながら、彼女が突如として予知能力やら探知系やらのスキルを得たわけではない。

 ……そういう事例が無いわけではないそうだが。

 彼女の相棒たる私が常に馬車の上空百メートル程を漂い、モンスターを見つけては降りてきて、その旨を伝えているだけである。

 

 

 以前は馬車の速度以下だった私の浮遊速度だが、マースルの街で溢れんばかりの信仰心(?)を注がれた結果、足回り(?)が一気に改善されていた。

 体感的には五十メートル走を十秒台というところだろうか。

 

 ……小学校低学年の全力疾走ぐらいってことです。めっちゃ改善されたのよ、これでも。

 

 

「―――いやはや……女神様も太っ腹だねえ、こんな力を授けてくれるなんて。ねえユズ?」

「え、あ、は、はいっ、そうですね」

 

 

 酒場でも親しく話していた女冒険者氏―――何度か臨時で組んで仕事をこなした仲だとか―――に話しかけられ、ややあわあわしつつも応対するユズちゃん。

 彼女のような以前からの知り合いについては、何某か聞かれた際にはこう答えよう、というのを昨夜の時点でいくらか決めておいた。

 

 基本的には「枕元に女神様が立っていて、祝福をいただきました」で通すことにしてある。

 冒険者相手にこう言っておけば、女神さまに祈りを捧げる冒険者も増えることだろう。

 信仰をしこたま横取りしちゃった疑惑に対するお詫びの一環ってことでね。

 ……まあ、その辺についてはユズちゃんにも秘密なんだけども。私の感覚の話だからなー。

 

 

 そうこうするうちに、隠れていたゴブリン達を討伐してきた冒険者達が戻ってきた。

 馬車を守りながらだったならこの規模でも多少苦労、というか面倒な相手だっただろう。

 これに限らず非常に楽をさせて貰っている彼らの顔は一様にホクホク顔だ。

 

 前衛冒険者は楽を出来て、後衛冒険者は暇が出来て、商人は積荷が無事。

 誰一人損をしていない、我ながら素晴らしい活躍ではないか。

 

「……なんか、ダメになりそうです」

 

 真面目やなー。

 

 

 

 

「…………前々から思ってたんだ。あんたは何かあたしらと別のモノを見てるってね」

「え……」

 

 ……うん? 何か真剣な雰囲気の話になってるな。

 

「嫌な気配がする所でも、あんたの言う通りに進んでりゃ、無事に抜けられたってことが何度もあったし……」

「あ……それは―――」

 

 

 ……後でユズちゃんから聞いた話だが。

 

 勘の鋭い冒険者が時々言う『嫌な気配がする場所』、というのはほぼ、『同業者が死んだ場所』だったそうだ。彼女が見た限り。

 なのでその都度、死んだその場から動いた気配の無い幽霊の存在から罠の位置を悟ったり、まだ話の出来る死にたて幽霊から安全な出口を聞いたり……というのをこっそりとやってたんだとか。

 

 どうやらたまたま彼女と即席パーティを組むことが多かったこの女性は、そういう状況に何度か出くわす内に、自然と霊感体質について理解を寄せてくれていた、ということだったらしい。

 ……不思議ちゃんやら変人扱いやらせずに、ちゃんと見ててくれた人も居たんやねえ。

 

 

「それで思ったんだけどさ。……あんたが女神さまから貰った力ってのは、本当はもっと凄いものだったりしないかい?」

「ふぇ? ……い、いえ、そんな事は……」

 

 ……うん、まあ、ちょっとしたスキルや魔法に比べたら、より凄いモノなのは間違いない。

 女神様から賜ったんじゃなく、あくまで話し合いの結果パートナーになったんだけども。

 

 そんなことを思いつつ見守っていたところ、彼女の口からとんでもねぇ解釈が飛び出した。

 

 

「例えば、そう……女神様に直接お尋ね出来るようになった、とかだったり―――」

「はぇ……? い、いえ、そういうわけでは……」

 

 

 ……リアルタイムに神託受け取ってる、的な?

 もしそうならフットワーク軽すぎでしょ、女神様。

 

 しかしなるほど。傍から見たら神託(オラクル)的な何某に見えるのか。まあ別にその認識でも―――いや、それ不味くない? 信仰心的なモノ横取り疑惑再燃しない? ……あ、やっべ霊力源増えとる(お腹にきちゃってる)!?

 ちゃうんです。そんなつもりはないんすよ、女神様。どうかご容赦下さいませ、平に。平に。

 

 

 ……これは早急にそれっぽい偽装を考えんとだなぁ。

 





 特に使命とか背負ったりしてない霊能力者と幽霊(?)の旅路。
 この先も、のんべんだらりと続きます。
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