これって転生に入りますか?   作:非単一三角形

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 説明台詞多め回。



C2-2 旅は道連れ世は……

 

《―――ねー、ユズちゃん》

「むぐ、何ですか?」

 

 現在お食事中のユズちゃん。献立は店の名物だという海鮮丼。

 彩豊かな海の幸が、この近くで作られているというお米(ちょい細長い)の上で躍る様は非常に美味しそう―――とは思うのですが、食欲は沸きません。自分、幽霊なもんで。

 しかしながら、ただ見ているだけしか出来ないわけではないのですよ。

 

《ひと口ちょーだいっ》

「あ……はい。良いですよ」

 

 よそってもらって、あーん……ではありません。それじゃ食えないっす。幽霊ですので。

 ではどうするって? ふふふ……私の『ひと口』とは、()()なるのです。

 

 

《承認確認っ、【憑依】!》

「……んっ」

 

 

 はい、ユズちゃんに憑依します。でも身体は動かしません。そういう約束なので。

 この憑依状態を維持したまま、一口食べてもらいます。

 

 こうすれば宿主の感覚を共有して……うむ、うまぁい。

 産地直送、魚介類の旨味! ここまでの新鮮さは前世の世界でもなかなか味わえんよ!

 

 

 ―――以前彼女から聞いた先達氏の話を参考に、毎度の如く出来るかなーと思ってやってみたら出来ちゃったんよね、【憑依】。

 

 とはいえ、最初から人間を相手に実行するのは色々と懸念が―――主に以前、迷子の少年相手に意図せず発動した【感情吸収】(暫定)の問題が―――あったので、ここは先人に倣ってネズミを対象にした実験に踏み切ることに致しました。

 結果、当初の懸念は見事杞憂のままに終了。やったぜ。

 

 ついでにネズミ以外の生き物もということで、猫やら小鳥やら……ちょっと興味本位で虫への【憑依】なんかも試してみることに。

 ……何というか、一定以上の知能が無ければ大丈夫かなあ、なんて思いましてね?

 

 こちらも結果だけ言えば、どの対象にも問題無く【憑依】に成功いたしました。

 推測が合ってたかどうかは分からんけど、まあ何にせよ、せーふせーふ。

 

 

 ……あ、知能がありそうな相手には試してないよ。怖いから。

 具体的にはモンスター諸兄ね。ゴブリンとか人間の子供並みにはあるらしいから……ね?

 

 

 以来、飛行壁抜け等々私の幽霊ボディを活かした偵察を他人の前で使う時には、そこらの適当な生き物に憑依して彼女の手の上で報告する……振りをするという形式をとっております。

 動物の使役に関するスキルは希少ながらもいくつか有るそうで、その上で使役した動物と会話が出来るとまでいくと相当珍しいけど、説明がつかないレベルではないとのこと。

 

 そこで今後は、ちょいと特殊な『調教スキル』持ちという触れ込みで活動することに。

 スキル開示を求められる状況なんてよっぽど特殊な犯罪でもやらかさない限り有り得ないんで、それで十分誤魔化しが利くんだってさ。

 これでもう神のお告げ扱いされる心配は要りませんなー。

 

 

 さて、具体的に【憑依】することで何が出来るかという話なんだけども……

 対象を小動物かそれに準ずるモノに絞った場合、まあ役には立たない。先の偽装以外には。

 例えばネズミを対象にした場合、ネズミに出来る以上の事はほぼ出来ないと言って良い。

 ……猿回しで覇権を取れる? やだよそんな異世界生活。

 

 要は普通に私が幽霊状態で物を動かそうとする時の力……【念動力】でいっか。それ以上の力はまず出せないんよね。大型の生物に憑依出来るなら別かもしれんけど。

 それに感覚をある程度共有している(?)こともあって、体を可動域以上に無理矢理動かそうとすれば宿主が感じる痛みを同じように受ける。

 憑依中に宿主が死んだらどうなるかは気になるけど、万一を考えると試す訳にもいかんしなあ。

 

 

 第二に調べたのは、死体への【憑依】は可能か。……結論から言って不可能と同義だったよ。

 より正確には、一応憑依は成立するが全く動けない、ときたもんだ。

 

 ネズミに憑依したらネズミに出来ることしか出来ないんだから、死体に憑依したら死体に出来ることしか出来ないのでは、というのがユズちゃんの見解。

 へんじがない。ただのしかばね、に憑依しただけの幽霊だってわけだね。ぐうの音も出ねえや。

 

 

 ……で、ここまで検証を重ねてから最後に確認したのが人間相手。

 

 これについては、流石に赤の他人を被験者にするわけにはいかなかった。倫理的に。

 となると頼む対象は、ユズちゃんしか居ないわけで。

 しかし過去に質の悪いモノに憑依された経験から彼女は強い忌避感を示していたし、その当時の話を聞いた私としても好き好んで試したいとは思わなかった。

 

 けれども不意に意識を失うような事態に陥った際に私が憑依して難を逃れることができるかもと考えると、何が起きるか分からない仕事を生業にする冒険者として試さないわけにもいかず。

 最終的には、緊急時を除き勝手に憑依しない、申告無しに身体を動かさないという約束のもと、被験に及ぶことと相成った。

 

 

 さて、やってみると【憑依】自体は何事も無く成功した一方、彼女側は何かを吸い取られそうになるような感覚があったとのこと。

 ……これはやはり【感情吸収】が発動してたのだろうか? ……本当に、私の能力の中でも特に困ったヤツだよキミは。

 

 続けて聞けば、憑依への抵抗と似たような要領で防げたのだという。

 非常にありがたい……と思うと同時に、彼女以外の人間は憑依対象にするわけにはいかないなと結論付けた瞬間でもあった。……いやまあ、する気も無いけどさ。

 

 

 さて【憑依】の感覚としてはまあ、ネズミその他とそこまで違いは無し。

 了解を得てから身体を動かしてみたけど、これもまあ、問題無し。

 

 最後に本人が動かそうとするのと逆の方向に手足を動かしてみる、という実験をしたところ……何の抵抗も無く―――私の感覚では―――指定した方向に動かせちゃったんだよねぇ。

 これまた後で聞いてみて曰く、「以前に憑依されたときが子供に引っ張られる感じだとしたら、大人五人ぐらいにめいっぱい押さえ付けられたような感覚」だったそうです。……マジやばくね?

 

 それを聞いて即、本当に本当の緊急時以外には使わないよと約束した私でありました。……絶対トラウマ直撃だからね、仕方ないね。

 

 

「むぐ……美味しいですか?」

《うん、うめえ。やっぱり朝採れたばっかの魚介を使ってるだけあって、新鮮さが違うよね》

 

「あー……それは確かに」

 

 まとめると【憑依】の使い道は誤魔化し、緊急回避、そしてこの食事の感覚共有の三つ。

 今の状態になって食欲も無くなれば、そもそも『食べる』という行為が出来なくなった私でも、こうして料理の味を堪能することが出来るというわけだ。……うん、地味。そして、美味。

 

 

《ん……ほい、ありがとね》

「あれ、もう良いの?」

 

 結局食欲が無いことには変わりないしね。ただただ味を楽しむだけで。

 そして【憑依】にも霊力は消費してるし。……憑いた対象を動かそうとしなけりゃ、ごく微量で済むんだけども。あとは多分、動かす身体の大きさに比例かな?

 

 過去にユズちゃんに憑りついた霊が、たまにしか手を動かさなかった理由がよく分かる。

 『型崩れ』から逃れる目的の憑依で、収入以上の霊力を使ってたら世話無いわな。

 

「……何度も言いますけど、その『型崩れ』って言い方はどうかと思います」

 

 こういうのは分かり易さ第一なんよ。

 

 

 

 

《まあそんな事より、この街にはどのぐらい滞在する予定なの?》

「ん……同業者の噂では、そろそろ一つ大きな依頼(しごと)が入るそうなんですけど……」

 

 ユズちゃんの冒険者スタイルは、気ままに旅して気ままに依頼をこなす、これに尽きる。

 旅を急ぐ理由があるでも無し、目標である冒険者ランクについても焦ってもしょうがないので、辿り着いた街でランク相応の依頼をある程度こなしたら次の街に向かう、という流れを繰り返してここまでやってきたそうな。

 

 一応、師匠が言っていた国を目指してはいるが、地形や国情から一直線に向かえるわけもなく。

 今も迂回に迂回を重ねた長い旅路の途中とのこと。

 

 

 ……あれ、待ってユズちゃん齢幾つ? え、全盛期(じゅうよんさい)!? ……あ、いや、何でもないよ?

 ええと……学校の卒業が十二歳の時で? そこから冒険者歴二年? え、それ進路指導とか……一年は国内で活動する決まりがあるけど、それを過ぎれば自由の身と。……マジかぁ。

 

 

「大きな依頼ほど普通よりも昇級に近くなりますから、参加できるかは分かりませんが、どちらにせよ顛末を見てからにしようかと」

《なるほどねぇ……まあ、ユズちゃんの好きなようにしたらいいよ》

 

「…………わたしも一応聞きますけど、良いんですか? どこか行きたい場所があったりは……」

《良いの良いの。私がユズちゃんに憑いていきたくていってるだけなんだからさ》

 

 

 彼女に同行するようになってから早数ヶ月。

 今となっては彼女から離れるという選択肢なんて、私の中ではまずもって有り得ない。

 

《第一、行きたい場所なんてあるんなら勝手に行くってば。国境が云々、地形が云々なんて障害、この幽霊()の前で意味があるとでも?》

「……そっか……そうですよね」

 

 どこにでも行くだけは行けるだろうけど、一人じゃどこへ行ってもしょうがないんだもん。

 物理的にもそうだけど、精神的にも、ね。

 

 

「……何ですか?」

《や、なーんでも?》

 

 

 何処にだって、いつまでだって、『憑いて』いくよ。嫌だって言われない限りはさ。

 





 お互いに少なからず救われてはいます。
 微妙に熱量に差がある節が無くも無いですが。
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