これって転生に入りますか?   作:非単一三角形

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 新キャラがいっぱい。
 でもみんな出番はこの章だけの予定なので特に覚えなくても大丈夫です。



C2-3 銀の翼

 

 ―――同業者間での噂通り、ここ海辺の街ムフトンに高ランクパーティが立ち寄りました。

 ランクはB、男三人女一人。パーティ名は『銀の翼(シルバーフェザー)』……これ普通の名前なの? そっかぁ。

 

 パーティのリーダーだという細身の剣士、ポルト。

 重装備の斧戦士、クルガン。

 目つきの鋭い弓使い、ラクス。

 紅一点の魔法使い、サーシャ。

 

 それぞれ個人でもBランクの肩書持ちということで、周辺地域では割と有名な一団、らしい。

 そんな彼らは街に来て早々、冒険者ギルドの長から指名依頼を提示されていた。

 

 なんでも依頼自体は暫く前から存在したが、解決しようにも地元の冒険者には荷が重い為、彼ら練達者の来訪を待っていたとのこと。

 ……近々入る大きな依頼(しごと)の噂ってそういうことだったのね。

 

 

 肝心の内容は、街から約三日という距離にある遺跡を根城にした盗賊団の討伐。

 依頼の詳細および諸条件を確認した彼らは、軽い問答の後でこれを了承。

 続いて行われたのが、彼らに同行する低ランク冒険者の募集であった。

 

 彼らがどれだけ強くとも、盗賊団を逃がさず討伐となると必要になるのは頭数。

 また、この街のギルド側としても高ランク冒険者が訪れたこの機会に、なるべく地元の冒険者に経験を積ませたい。

 

 そういった事情から、依頼の条件―――強制ではないようだが―――の中には、Eランク以上の冒険者二十名程度を同行させてほしい、という要望が付記されていたようで。

 その結果、地元の冒険者達が高ランクの先達の目に留まるべく集まってきたわけだが―――

 

 

《いやぁ……意外と、見てて飽きないね》

「(……まあ、皆さん必死ですから……)」

 

 事の始まりは、剣の扱いには自信がある、と豪語した一人の男。

 ならば見せてみろ、と言われ一通り剣舞を見せた彼が浴びたは、Bランク剣士(めんせつかん)の冷めた眼差し。

 そこで動揺に揺れた瞳に何を映したのか───徐に短剣でお手玉(ジャグリング)を始めたのが皮切りになった。

 

 

 槍をバトンの如く振り回し、明らかに即席と分かる決めポーズを取ってみた槍使い。

 仲間の頭の上に乗せた林檎っぽい果実を投げたナイフで割って見せた短剣使い。

 水魔法を使って作り出した水人形で、即席人形劇を演じて見せた魔法使い―――明らかに周りとレベルが違うので即採用された―――等々、完全に方向性が()()()に固定。

 

 終いにはこのタイミングで来店した冒険者が「……あ、間違えました」とUターンしていく程。

 ……いやほんと何だこれ。唐突に何が始まったんだよコレ。

 

 

 いやまあ、実のところは始めに集まった冒険者たちをざっと見回し、必要な役割に応じて指名、という形で枠の六割程を埋めてあるので、後はもうノリで決めても良いやということなんだろう。

 そして何よりこの状況を一番楽しんでいるリーダー剣士の好み。これに間違いない。

 

 それが証拠に、見事な芸を披露した者には採用不採用関係なく大いに労いの言葉をかけている。

 他三人も「やれやれ……」と肩を竦めつつも、そんなリーダーを咎める素振りは無し。

 ある種の信頼関係と言えば間違いではあるまい。……巻き込まれる冒険者が何ともアワレだが。

 

 

《……ね、もしユズちゃんがやるなら何やってた?》

「(え? うーん……さっきの人みたいに、魔法で何かしたかと)」

 

《ほほう、つまり人形劇?》

「(……いえ、あれはわたしには真似できませんよ)」

 

 そんな混沌と化した面接会場を、離れたところから適当に駄弁りつつ見守る私達。

 ただしユズちゃんは小声でボソボソ。今は周りに人目もあるからね。仕方ないね。

 

 ……え? そりゃこの子は勿論、とっくに採用された側の席に座ってますよ?

 

 

 即席大喜利大会が始まるより前、最初に採用された皆さんに「推薦したい奴とか居るか?」とリーダーが質問。すると皆さん満場一致でユズちゃんを指名した。

 というのも、この街の冒険者とは既に大体一度は臨時パーティを組んだ経験があったのだ。

 

 となれば我々の有用性もまた周知の事実と言って良いわけで。

 その後、彼らから話を聞いた『銀の翼』の面々に請われ、少々の()()()()()()()()()()を見せたところで当然の採用と相成った。

 

 

「―――それにしても、意思疎通に特化した『調教』持ちかあ。普通の調教だと大体どんな気分か程度しか分からないらしいのに、凄いわね」

「え……は、はいっ」

 

 そう言って、私達を興味深そうに見下ろすは、『鋼の翼』の紅一点、金髪に赤いとんがり帽子がトレードマークのサーシャさん。『光炎』の二つ名を持つ熟練魔法使いとのこと。

 性格きつそうなつり目を今は爛々と輝かせている―――ユズちゃんの()()()()()に向けて。

 

 

「(―――チュウ)」

 

 はい、ネズミですよ。皆様のご期待にお応えして。

 いやまあ、簡単に【憑依】出来る対象なら何でも良いんだけどね。この世界だと割とどこにでも居るのよ、ネズミ。

 

「……ただ意思疎通が可能になるだけじゃなく、普通のネズミに比べ急激に賢くもなるみたいね。斥候役や小物の運搬、単純な鍵の開け閉めまでこなせるっていうのは本当?」

「は、はい。間違いないです」

「(―――チューチュー)」

 

 その声音は疑うと言うよりは、改めて性能の確認という感じ。

 確かにこうして列挙すると実にハイスペックなネズミだなぁ、我ながら。

 

「へえぇ……ちなみに今は何か言ってる?」

「(―――チュウ)」《めっちゃ見てくんなーこの人、で》

「……凄く凝視されているな、です」

 

「あっはは、そりゃ失礼」

 

 翻訳(人力)。というか硬いよユズちゃん。

 ひょっとして、高ランクの先輩に話しかけられて緊張してる?

 ふむ……ではこんなのはどうかな?

 

「(―――チュイイ)」《あと婚期気にしてそう、で》

「こん……っ!? ……お、女盛りで素晴らしいですね、と」

「…………うん、貴女は良い子ね。ところでそのネズミは絞めても良いネズミ?」

 

 婉曲化、失敗。

 あ、ちょ、そんなに睨まんでもええやないですか。軽いジョーク、ジョークっすよ。

 

 

「あっ、だ、ダメです! 素手で絞めたら汚いですよっ!」

 

「「「《……えっ、そこ?》」」」

 

 

 まさかの返答に一同総突っ込み。いやぁ、この子ったら突然何言って―――

 

 

 …………うん、私のせいだね、コレ。……知ってた? そう言わんでもろて。

 

 いやほら、この世界って衛生の概念が殆ど無くってさ。

 手洗いうがいの時点で病的な潔癖症とか言われるみたいよ。そりゃまあその度に水汲みしなきゃなわけだから、仕方ないかもなんだけど。

 

 初めの頃、偽装用のネズミを素手で取り上げようとしたユズちゃんにより、その辺りが発覚。

 不思議がる彼女に、向こうの世界の伝染病の話を中心に衛生観念の大事さを語ってみたのです。

 

 具体的には、ネズミを媒体に広がったとよく言われるアレあたりを題材に、その症状、感染力、犠牲者数を滔々と。……これが中々に衝撃だったご様子。

 以来、連れて来たネズミは決して素手で触らないよう気を付けてくれているのが伺えます。

 それ以外にも余裕があるなら手洗いうがいを心掛けさせてたり。やっぱり健康第一だからねえ。

 

 

 ……その後、会話の中で年齢を聞かれたユズちゃんが正直に「十四歳です」と答えたところ、サーシャさんの口からボソっと漏れたのは「二倍、かぁ……」という呟き。

 どうやらこの方、御年二十八歳前後のようです。

 十五で成人のこの世界だと、まあ……そっかぁ。女盛りってのもお世辞じゃないのにねえ。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 ―――道なき道を掻き分け進むは、三十余名となった冒険者達。

 天然の障害生い茂る悪路に辟易している者も多いが、目的地が遥か昔に滅んだ古都である以上、まともな道が残っている筈も無く。

 

 

「……おい」

「ああ、分かってる。―――休息を取るぞ!」

 

 その号令が耳に届いた瞬間、崩れるようにその場に腰を下ろした後で、普段より遥かに早い己の消耗に目を剥いているのは地元の活動歴長い冒険者達。

 特にへばっているのは冒険者となってからムフトンの街を離れたことがない、かつ街から何日もかかるような未開の地へ向かう依頼を受けた経験が無かったらしい面々だ。

 

 日銭を稼ぐぐらいが目的の低ランク冒険者だと、こういうことは結構あるらしい。

 あの街がそんな活動スタイルでも稼げる程度には大きな街というのも影響しているのだとか。

 

 

《いやぁ、みんな大変そうね》

「(……そう言うレインは楽そうですね)」

 

 さてこの子はというと、これが比較的平気な側で、のんびり探した丁度良い岩に腰掛けている。

 勿論今も疲れてないことはないだろうが、休息と聞いた途端に崩れ落ちる程ではない様子。

 

 ランクは低いながらも幾つもの街を渡り歩き、受ける依頼も選り好みしなかった結果、こうした悪路の活動にも慣れが出来ているからというのが大きな理由だろうと当人は言う。

 年齢、性別からして基礎体力で秀でているわけではないんだろうけど、それだけ歩き方や足場の緩い場所の進み方といった、体力の節約方法が身についてるんだろうね。

 

《けどまあ、草木が生い茂ろうが、足元がぬかるもうが幽霊には関係ないし? そもそもからして私、肉体的な疲労とは無縁だし?》

「(……今はちょっとだけ、羨ましいです)」

 

 そんな彼女と声を潜めてこっそり会話。私の声は彼女にしか聞こえないけど、逆は別だからね。

 普通の声量だと、彼女が虚空に向かって話しかけるイタイ人になっちゃうので仕方ない。

 

 ……あれ? でもそういえば私と出会った時に一緒に居た冒険者達からは『不思議ちゃん』とか言われてなかったかね、ユズちゃんや。

 

「(その……あの人達にはうっかり墓場で聞き込みしているところを見られたことが……)」

 

 さもありなん。

 

 

 

 

「―――全く、情けないなお前ら。街中や近場で済む依頼ばっかやってるからそうなるんだ」

「まあまあそう言うなよ。俺達だって最初の拠点を移すまでには中々時間がかかったろ? 慣れた職場を移るってのは、実力云々とは別の思い切りが必要だからな」

 

 悪路に屈してへたばる面々を呆れ顔で睥睨する強面重戦士に、まあまあと宥めるリーダー剣士。

 槍玉にあげられた一同が、倒れる寸前とまではいかないまでも―――その間際を見極めて休息を取らせたようなので―――ぜえぜえと息を切らしながら気まずそうに目を逸らす。

 

 そんな彼らを苦笑いと共に眺めるは、ユズちゃんを含む比較的余裕のある面子。

 大体が余所からムフトンの街を訪れている者で、Dランクも何人か混じっているようだ。

 

「そうは言うが―――見ろ、こっちのお嬢ちゃんの方がまだ余裕があるぞ?」

「……ふえっ!?」

 

 そう言って徐に指差しを敢行した重戦士、まさかのユズちゃんをご指名。

 当の彼女は急に矛先を向けられてアワアワ……いやいや落ち着けし(やっべ、かわゆす)

 

「「「……ぐぅ」」」

 

 そんな様子を目の当たりにした冒険者達が、誰ともなしに唸った音が重い空気に染みていく。

 まあ、遥か高位の先達が息も切らしていない、というのは仕方ないと思えても、同程度のランクかつ成人前の女の子が自分達よりも明らかに余裕を持っている、となると話は違うよねえ。

 

 始めは何故と思ったがこりゃ確かに、いちいち説明する手間も省ける便利な『教材』だ。

 そして項垂れる地元っ子たちに対し、さらなる『追い打ち』が放たれる。

 

「これでも一番楽な道を選んでるのよ? この子のネズミが調べてきてくれた、ね」

「あ、そ、それは―――」

 

 ええ、ここでも私、しっかり活躍してますですよ?

 事前に確認しておいた目印―――特徴的な地形や植物など、ギルドから提供された情報―――を上空から視認、比較的『楽』にそれらに辿り着けるルートを逐次調べているのです。

 そしてユズちゃんからBランクパーティの皆さんへ伝達、割と簡単にルート提案が通りました。

 多分、彼らとしても彼女の有用性を早い内に確認したかったんだろうね。

 

 

「「「…………」」」

 

「……何かこいつら思ったよりショック受けてないかい?」

「……ああ、ほら、こいつら俺達よりこの子と付き合い長いわけだから……」

「情報の狂いの無さを良く知ってるってことか。……しかし本当に凄いな、この子」

「昨日も下手すればオレより早くモンスターの接近に気付いてたしなあ……」

 

 

 ……とまあ、その辺りを知らされた面々。一様にがっくり顔を落として放心。

 そして道の良し悪しの評価は元より、モンスターの襲来まで正確に察知とあっては熟練の彼らもそろそろ下馬評を確信に移さざるを得ないようで。

 街を出発してから一日と少し、ユズちゃんの評価は未だ爆上がりの真っ最中である。

 

「…………あうぅ」

 

 真面目っ子ユズちゃんの心労もマッハで更新中。

 だから『それ』も含めて君の能力だってばー。早いとこ割り切れるように頑張れー。

 

「……貴女、本当にまだEランクなの?」

「あ、はい。もうすぐ昇格に必要な実績が溜まりますけど」

 

「そう……それじゃDランクとして……んー……」

 

 つり目のサーシャ姉さん、ユズちゃんの傍で何事か思案を開始。

 しかしまあ、同じ事を考える人間の顔は、全く同じとまで言わないまでも似通ってくるもので。

 実績のある人間なら似たような判断をすると、彼女もここ数ヶ月で良く知っているわけで。

 

「え、えと、勧誘でしたらお断りします。すみませんっ」

「えっ、あ、あら……どうして?」

 

 Eランク冒険者がBランクパーティの勧誘を断るなど普通は有り得ないだろう。

 その上、口にする前に断られたのは流石に予想外だったか、素で驚いた様子のサーシャさん。

 やりとりに気付いた男三人も、口にはしないが非常に意外かつ割と本気で残念がっている模様。

 

「ええと、その……理由は言えないんですけど……ごめんなさいっ」

「そ、そう…………なら、しょうがない、わね」

 

 かなーり惜しそうにしながらも、それ以上は尋ねず引き下がってくれる彼らは流石は高ランクになるまで大成した冒険者と言えるだろう。

 個々の事情に許可なく立ち入らないこともまた、冒険者の鉄則なのだから。

 

 

 

 

 …………うん、まあ、理由は言えないんだよね。これが。

 仮にパーティを組むとしたら、『幽霊が見えること』が条件なんだもんね。

 条件に嵌らない相手には言えない。そして言える相手には言う必要が無い。

 

 この条件については私から出した意見ではない。ユズちゃんの方から言い出したことだ。

 なんでも当人曰く、臨時パーティならともかく固定パーティを組むならその全員が私が見える、認識出来るということを最優先にしたいのだとか。

 

 

 いやいやいや、そういう本物の霊感を持った人間ってほぼほぼ居ないよね?

 パーティが組めそうなぐらい見付かる当てでもあるの?

 ……等々と尋ねたところ、これまでに一人だけ、すなわち師匠しか知らないと返されました。

 その師匠さんも、ユズちゃんが初めて出会った同類だと言っていたそうです。マジかー。

 

 ……ユズちゃんは勿論、冒険者として果たした功績で国の要職にまで就いたらしい師匠さんでも一人だけって、それとんでもなくレアなんじゃない?

 事実上パーティ組む気は無いって言ってるようなもんじゃない?

 その辺も含めて「本当にそれで良いの?」と何度も確認したけど、当人の意思は固いようで。

 

 

 いやはやなんとも、出会った頃からすると随分と随分な心境の変化っぷり。

 何でそこまで『そこ』に拘るかについては未だに教えてくれないんだけども。

 

 

 …………何があったんだろーね? 本当に。

 





 何があったんやろなあ()。
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