これって転生に入りますか?   作:非単一三角形

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 『銀の翼』紅一点さん視点。
 練達者から見た彼女とは。


※前話の後書きにて、描写に関する補足説明をちょっぴり追記しています。



C2-5 光炎の乙女

 

「―――よし、いいぞ」

 

 ようやく気絶した大男をしっかりと縄で縛り上げたラクス(弓使い)が、街の冒険者達に手振りで合図。

 得心した彼らが集まり、取り巻きを同じように縛り上げて数珠繋ぎにしていた輪に加える。

 そこまで見届けた後でそれぞれの縛り具合を確認、ポルト(剣士)が代表して頷いた。

 

「よし、それじゃお前らもこいつらを合流場所に連れていけ」

「「「うぃっす」」」

 

 戦いを終え、気の抜けた様子で盗賊達を引きずって行く冒険者達を苦笑混じりに見送る。

 ……個々で見れば悪くない奴もいるけど、道理であたし達にお呼びが掛かるわけよね。

 

 街にとって冒険者とは、労働力であると同時に防衛力の要とも成り得る貴重な人材だ。

 けれど何せ冒険者って奴は質が安定しない。良くも悪くも。

 軍隊でも手を焼く事態を個人で解決してしまうような御仁から、集まるだけ集まって街の治安を落とした挙句、いざ有事になると屁の役にも立たない破落戸まで、同じ『冒険者』の括りにいたりするのが困りもの。

 

 腕の良い冒険者に滞在してもらうってのは、多くの街にとって生命線と言って良い。

 けど外からやってくる腕利きが、そこに根を下ろしてくれるなんて幸運はそう多かない。

 だからこそ今現在街に居る腕利きになれそうな冒険者の育成に力を入れるってのが、その土地のギルドにとって優先すべき命題になるわけだ。

 

 あたし達からすりゃ、この手の依頼はありふれたモノだけど……ここの連中は正直期待薄よね。

 勿論、あたし達が暫く滞在して、鍛えてやることは不可能とは言わないけど―――

 

 

「そこまでの面倒は見れんさ」

「……顔に出てた?」

 

 肩を竦めるクルガン(斧戦士)に、やれやれと頭を掻く。

 

「ひよっこ共を物憂げに眺めている様を見ればな。どちらかというと見込みのありそうな奴が割合少ないことを嘆いてたんだろ?」

「サーシャは意外と世話焼きだからな」

「意外と、は余計よ」

 

 じろり、と要らない事を言ったラクスに眼光を送るが、笑って流された。

 ま、この三人との付き合いもいい加減長いし、この位で腹を立てたりはしないけどさ。

 

 

 ……でも世話焼きな女って、男好きする要素じゃない? いや、あくまで一般的にね?

 お節介とか、口煩いとかこいつらには良く言われるけど……昔からあたし以上に喧しく男の子を叱りつけてた友人に久しぶりに会った時には、優しそうな旦那さんを捕まえてたし。

 少なくともマイナス要素ではないわよね? ね?

 

 ……長く離れてた故郷に近寄るのは、相応の覚悟が要ると思い知ったわ。おのれ裏切者め。

 

 

「……そろそろ行くぞ。地下部分の調査も依頼の内だからな」

「ああ、そういやそうだったか」

「遺跡の見取り図は……」

「ああ、これね」

 

 荷物の中から、ギルドで預かった紙束を取り出す。

 何十年か前、この遺跡が盗賊の根城にされる以前に、調査隊が入ったときのものらしい。

 その時には残念ながら大した結果は出なかったそうだが、貴重な史料には違いない。

 特に盗賊達に荒らされていたら()()なので、討伐後に軽く状況調査をして欲しいとのこと。

 

「しかし素人が見て何か分かるもんか?」

「……まあ再度調査するにしても、危険がないかどうか一度冒険者を入れなきゃならんだろう」

「あとは盗賊が残っている可能性も……無いか」

「ああ、あの子の……『偵察』のお陰でね」

 

 ただでさえ目に留まる者が少ない中で、とびきり異様な輝きを放っていた女の子を思い起こす。

 ……あたしが口に出したことで三人も同じく頭に過らせたのか、一斉に視線を遠くした。

 

 佇まいや身のこなしなんかは、まあそこそこ有望かな? 程度だったけど、持っていたスキルの性能がヤバかった。……マジでヤバかった。街の冒険者から聞いていたより遥かに。

 

「……正直あのネズミや虫はカモフラージュじゃないかと思うんだが」

「使役しているのは確かだし、『調教』系のスキルには違いないが……」

 

 ……不思議なんだよねえ。詮索するのは良くないと分かってはいても。

 何しろ虫や小動物に偵察させたにしては情報が具体的過ぎるし、収集速度が凄過ぎるのよ。

 

 手の平に乗せる一匹は()()()()で、実際は数十匹単位で使役、情報収集をさせているんじゃないだろうかというのがラクスの意見。

 確かに情報が集まる速度に関してはそれで説明がつきそうではあるけども―――

 

「前に知り合った奴に『調教』スキル持ちがいたが、細かな情報を集めさせるのはとても無理だと言ってたぞ? 近くに他の生物が居るかどうか探知させる、ぐらいが精々だと」

 

 『調教』系スキルの中でも意思疎通に特化しているのだと街で募集した時には説明されたけど、あれは明らかにそういうレベルじゃない。

 その系統はあくまでその動物の主観による情報を何となく感じ取れるだけであるはずだ。

 

 鼻の利く動物に近くに生物が潜んでいることを察知してもらって、あるいは待ち伏せされているのかも、程度の情報を手に入れられるのが普通の『調教』スキルの使い方。

 隠れているのが人間だったとして物々しい様子か、はたまた商隊か何かが休息しているだけか、といったことを判断できる動物などそうそう居る筈がない。

 

 ……要は盗賊個々人の装備に力量の見立て、果ては今現在何をしているか―――武具の整備だの卓上遊戯だのを理解できるネズミや羽虫がいてたまるかって話よ。

 かといってそれらを『調教』していること自体は見た目にも疑いようが無いし───

 

 

「いやしかし惜しいよなあ……もうちょっと粘れなかったのか、サーシャ?」

「無理だと思うわよ? こっちから口に出す前に断られたほどだもの」

 

 相手が相手だからか緊張はしていたけど、断ること自体にはえらく慣れた様子だった。

 あれだけのスキルを持ってれば、普段から引きも切らずに勧誘に追われてるだろうからねえ。

 

 

「…………俺は、微妙だな」

「あら、どうして?」

 

「いやその……あんな子が居ると俺の存在価値がな……?」

「「「……いやいやいや」」」

 

 斥候としてBランクにまで至り、このパーティを支えてきたラクスがこの一言。

 一瞬、浮かび掛けた納得を振り払って否定した声が二人と被った。

 

「ほ、ほら、あの子の話はその辺にして遺跡の調査を始めようじゃないか。あんまりひよっこ達を待たせるのも悪いしな」

「そ、そうだね」

「あ、ああ、手早く済ませようぜ」

「ああ……本当に隠れてる盗賊も居ないようだしな……」

 

「「「…………」」」

 

 

 

 

 

 事前の偵察―――という域に収めていいのか―――によると盗賊は地下部分上層の十部屋程度を寝ぐら及び倉庫に利用していたらしい。

 襲った商人等から奪い取った家具や嗜好品を並べて、随分と贅沢を愉しんでいたようだ。

 下層に盗賊の姿は無かったそうだが、何か粗相をしでかしていてもおかしくはない。

 

 

「―――ここまでだな」

 

 永い時間が経っているにしては堅牢そうな遺跡の内壁を眺めつつ、下層へと差し掛かった頃。

 遺跡の通路―――二人以上横には並べそうにない―――の壁や床を調べながら先頭を歩いていたラクスがそう呟いた。

 

「この先には少なくとも十数年、誰も立ち入った様子が無い」

「確かか?」

 

 ポルトの念押しにラクスがしっかりと頷く。

 そのやりとりに、狭い通路に辟易していたらしいクルガンが大仰に息を吐いた。

 

「となると、特に報告する内容はなさそうだな」

「ならさっさと地上に戻ろう。こう狭い所を這いずってると、身体が固まってきそうだ」

「あんたねえ」

 

 クルガンの言い草には呆れるが、とっとと戻ることには同意する。

 正直なところ埃臭さに黴臭さ、墓地特有の薄気味悪さが同居するこの空間には依頼でもなけりゃ浸っていたいとはとても思わない。

 

 早いところ街に戻って、この陰気な感じを洗い流してしまいたいところよ。

 その為に、わざわざ街で一番高い宿をとってまで風呂付きの寝床を確保したんだから。

 ……街までまた三日はかかるんだけどさ。

 

 

「まあ、盗賊どもが骨やミイラにまでは興味が無かったってことに感謝して―――」

 

 振り向いたラクスがあたしに……じゃない。その周囲に目を遣って、不自然に動きを止めた。

 「どうした?」と尋ねるポルトに一瞬目配せを送り、考え込むように口元に手を当てる。

 

「一瞬、違和感があった。何が、と聞かれても分からんが……」

「……お前の勘を今更疑いはしないさ。気が済むまで調べろ」

 

「……おう」

 

 狭い通路内でなんとかすれ違い、ラクスが再び先頭に立って来た道を戻る。

 真後ろに来ることになったあたしの耳に、壁を触ってはぶつぶつと呟く声が聞こえるように。

 ……あたしも勿論こいつの勘は信じてるけど、黙って考えられないのかしらね?

 

 

 そんなことを考えながらラクスの後頭部を眺めること数十分。

 再び立ち止まった彼が今度は突然脇の石壁を小突き始めた。

 

 音を確かめるように数回、場所を少しずらしてまた数回。

 壁に走るヒビを覗き込むようにしながらまた数回。

 

 

「―――ここだ。……この先に不自然な空間がある」

 

 

 確信を持ったようにそう呟き、壁の表面に指を這わせて何事か始めていて。

 よくよく見れば、壁に付いた小さな石が彼の指先で複雑に動かされている。

 

 ……カラクリ仕掛けの扉か。

 

 それなりの格式のある建物―――神殿だの城だの―――には、魔法による隠蔽を施した隠し扉はありふれてるけど、特別秘匿性の高い場所は魔力を介さない()()()で隠されていることが多い。

 魔法に頼る隠蔽はそれがどれだけ優れていても、魔法による探知の可能性が残るからだ。

 

 その点、こういう仕掛けは特別な情報が無ければ、いわゆる勘に頼る他ないところがある。

 その分だけ防犯性を高められる……ってのは、ウン千年前からの常識だったってことかしらね、こんなところにそれが存在していたとなると。

 

 

「……一応確認したけど、地図には載ってないね」

「だろうな」

「古の遺跡の隠し扉……か」

 

 ラクスの作業を見守りながら、自然口端が上がりそうになるのを何とか堪える。

 ポルトとクルガンも似たような顔していることだろう。振り向かなくっても分かる。

 

 ……これで奮い立たなかったらとても『冒険者』は名乗れないものね。

 

 

 

 

「―――開いたぞ」

「……随分厳重だったな」

 

 発見からさらに十数分。悪戦苦闘の末に何とか開いた扉を前にラクスが疲れを滲ませる。

 その顔のまま振り向いた彼に、あたし達は三人揃って強く頷いた。

 

 ……一番槍は譲るわよ。当然の権利としてね。

 

 あたし達の顔―――三人揃って似たような顔をしていたに違いない―――に頷き返したラクスが通路へと身体を押し込み、あたし達がその後を追う。

 似たような広さの通路を暫く通った先に、開けた空間が見えた。

 

 

 一辺が大人二人腕を伸ばせる程度の、正方形の部屋。

 身体を縮めるようにして進んできた通路を思えば、えらく広い場所に出たように思える。

 

 部屋の中央には、控えめな装飾の小さな椅子。

 そこに俯いた姿勢で佇む一体の……古い襤褸切れを纏った骸骨。

 特に目に付くのは、その膝の上に抱えられた手に収まるほどの大きさの金色の箱。

 

「……宝の守り人、か?」

「宝を抱えたまま死ぬってのも、凄い話だが……」

 

 

 たった今、ラクスが開けるまで何千年も開かれた形跡の無かった隠し通路。

 その先にあった窓一つ無い小さな部屋で、静かに座ったままだった躯。

 

 ……何だか、ちょっと、気後れするわね。流石に。

 

 

「これ、取っていいものなのかしら……?」

「それは……だが、ここまで来て……なあ?」

 

 言わんとすることは皆同じだったのか、宝を抱いた骨を前に四人で顔を見合わせる。

 暫くの沈黙の後……ラクスが首を振って呟いた。

 

「……この人物にとってどれだけ大切なものだったかは分からないが、結局は何千年も前の話だ。今さら気にする必要もないだろう」

「あ……」

 

 箱に近づくラクスにポルトが手を伸ばしかけたが、止めはしなかった。

 あたしもそうだが、クルガンも同じ気持ちだろう。

 

 ……ここまできて、手ぶらで帰るのはありえないわよね。

 

 

 止めもせず、さりとて続きもせず、ラクスの背を見守っていたその視界の中に、何か奇妙な物が見えたような気がした。

 ラクスもそれが見えたのか、一瞬立ち止まって……また椅子に向かって足を進める。

 

 

 

 

―――カタン

 

 

 

 

 ラクスの足が再び止まった。

 あたしの息も止まった。

 

 だって、ありえない、よね。そんな、()()が、動く、わけ―――

 

 

 

 

―――カタカタ カタ ガタン

 

 

 

 

「あ……?」

「お、い……」

 

 

 骨、が。

 

 

 箱を抱えて、佇んでいただけの、骸骨が。

 

 

 カタカタと、乾いた音を立てて、立ち上が、って―――

 

 

「いや落ち着けっ! ただの『スケルトン』だろっ!」

 

「「…………あっ」」

 

 

 ポルトの一喝で、意識が切り替わった。

 

 そうしてあたしが杖を構えたのと、ラクスが動き出した白骨───スケルトンから距離を取ったのはほぼ同時。

 ……うん。何を慌ててたのよ、あたし。別に骨が動いたっておかしくないじゃない。

 そういうモンスターぐらい売るほどいるわよ。すっかり雰囲気に騙されてたわ。

 

「特別な装備もしていなけりゃ、骨の色も……下位種のスケルトンだな」

「……ったく、脅かしやがってっ!」

 

 苛立ち紛れのラクスの拳がスケルトンの頭蓋骨を殴りつける。

 ……いや、あんた弓士でしょうが。弓使って……骨系には効果薄いか。

 

 八つ当たり気味に殴り飛ばされた頭蓋骨がバラバラに砕けて床に落ちる。

 破片の幾つかがまた浮き上がろうとして……諦めたように転がった。

 

 

―――ガタガタガタ ガタン

 

 

 頭を砕かれた影響か、手足を出鱈目にガタガタ振り回すようになったスケルトン。

 普通の魔物ならこれで止めになるんだけど……この手のモンスターは魔石をどうにかしない限り動き続けるのよね。全く面倒な……って、あら?

 

「……このスケルトン、魔石が見当たらないわよ?」

「そういえば……」

 

 同じスケルトンでも魔石の位置が微妙に違う事は偶にある。

 大体は心臓の位置、でなければ頭蓋骨の中、なのだけど……前者ならアバラの隙間から丸見えのはずだし、後者であっても遮蔽となる頭蓋骨はバラバラになって床の上。

 なのにこいつは、残った身体が未だがたがたと喧しく存在を主張している。

 

「あー……腰や脚の太い骨の中にでもあるのか? 探すのも面倒だな」

「……それじゃ、あたしが一気にやっちゃって良いわよね?」

 

「……八つ当たりか?」

「うるさいっ」

 

 あたしをラクスと一緒にするんじゃないわよ、全く。

 そりゃ、まあ……ちょっとだけ驚いたけど。……ちょっと、その、鳥肌立ったけど。

 ……ああ、もう、さっきからガタガタうるさいわね! この骨野郎がっ!

 

 

「浄滅せよっ、【セイントファイア】ッ!」

 

 

 あたしの二つ名、『光炎』のもとになった金色の炎。

 『炎魔法』スキルに『聖気』スキルを練り合わせた、あたしの十八番。

 ……本当はもっと高位のモンスター、特にアンデッドに対する切り札なんだけど。

 まあ、いいでしょ。アンデッドには違いないし。

 

 

 ……コラそこ、「なんという、オーバーキル」「八つ当たりいくない」とか言うんじゃない。

 しょうがないじゃない、魔石が見当たらないんだから丸ごと塵にするしかないじゃない。

 

 

 八つ当たりじゃないわ、正当な制裁よ。

 悪いのはあたしを驚かしてくれたこいつなんだから。

 





 サーシャさん にじゅうはちさい 乙女です
 乙女と言ったら 乙女なのです

 まさかの視点キャラ抜擢。登場させた時は半モブのつもりだったのになあ。


Q. 偽装甘過ぎない?
A. 神様云々疑惑さえ回避出来ればそれで良かったので……。
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