何であんなところにスケルトンおったんやろなあ()。
《―――ユーズちゃーーーんっ!》
「……っく!?」
「……どうしたの?」
「え、いえっ、何でもないですっ」
空に響き渡る声に、喉から漏れた声をぎりぎりで飲み込んだ。
その様子をたまたま近くで見ていたらしい冒険者に声を掛けられて、慌てて誤魔化す。
相変わらず彼女は、これに関しては一向に慮ってくれない……というか絶対面白がってるよね?
慣れているとはいっても、気まずい思いをするのは変わらないのに。もぉ。
「……(レイン?)」
声のした方向を見上げれば、何やら大慌てでこちらに飛んでくるレインの姿。
遺跡の中心の様子を見てくると言って飛んでいったはずだけど、あそこにはBランクパーティの方々も居るはずですし、何か不測の事態が起こるとは考えにくいのだけど。
「(どうしたんですか、そんなに慌てて?)」
傍まで飛び寄ってきてゼエゼエと息を―――してないので必要も無い筈では?―――整えた後。
ぐっとわたしの顔を見上げたレインは、不意に真面目な顔つきになって一言呟いた。
《…………ヤバイ》
「……(はい?)」
首を傾げたわたしに、レインはどこか冗談交じりの―――無性に腹が立つ口調で続けた。
《マジヤバイんですけどー? ホントもーマジヤバイんですけどぉー? どんくらいヤバイかって言うと、マジヤバイ》
「イヤ意味が分かりません」
思わず素で呟いてしまい、聞かれなかったかと慌てて周囲を見渡して……溜息を吐く。
そうして、また何かの冗談かと戻した視線の先にあったのは、思いのほか真剣な眼差し。
《……ユズちゃんが、死んじゃう》
「……っ!?」
一瞬、混乱しそうになった意識をどうにか引き戻して。
もう一度、今度は浅く息を吐いて、レインの黒い瞳を見返しながら聞き直す。
「……それで、今回わたしは何をすれば良いんですか?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
二人旅が始まってから、私はいつも幽霊ボディを活かして偵察、斥候を行ってきた。
それすなわち、ユズちゃんの身に迫る危機を必ず私が先に見つけてきたということでもある。
彼女の生業は危険がいっぱい冒険者。当然、命の危険を感じる機会は数知れず。
まあ、別に新米というわけでもないので、大体は自力でなんとかしちゃうんだけどもね。
ただ、明らかに次元の違う危険が迫っている、または私がそう感じたときには『ヤバイ』ないし『死ぬかも』という表現を使って伝えてきた。
それがいつもの冗談の延長なのか、本気の話なのかを切り替える私なりの合図というわけだ。
「……でも『死んじゃう』とまで言われたのは初めてですね。そんなに不味いんですか」
《うん、Bランクパが地上に戻ってくるまでに急いで説明するから》
「Bランクパ……あ、いえ、分かりました」
兎にも角にも、まずは情報の共有から。
私が墓地の地下で知り得た事を、ユズちゃんに話し始める。
ただ、全部話すにはちょっと……ちょーっと
―――遡ること数時間前、盗賊の頭目を見るも無残なボロ雑巾にしたBランクパ。
彼らが次に取り掛かった遺跡の下層、墓地部分の調査に私は同行していた。
……何故って? いやほら、そういえば先に偵察に入ったときには生きた人間を確認していったわけだけど、そういえば
……二、三千年前の遺跡に幽霊が残ってるはずが無い? うん、まあ、私も
うん、居たんだよ、ご同輩。先に言っちゃうとね。
人間が入った形跡の無いとこまで調査して、じゃあ帰ろうか、となった御一行だったんだけど、その中の一人が「なんか違和感ある」って言い出してね。
通路の壁をとんとん叩いて、「隠し扉だ。この先に空間がある」って断言したのよ。
で、何か扉を閉めてるらしい複雑な仕掛けをカチャカチャし始める。
でも壁でも何でもすり抜けられる私が、大人しく開錠されるのを待ってる理由も無いよね?
……台無し? ひどい? せやな。
まあまあ、それはさておき……隠し通路の奥にあったのは、密閉された小さな部屋に大事そうに箱を抱えた骸骨一つ。
なんとその中に
以前私達は、死体に憑依するのは不可能と同義って結論出したけど、あれは憑依して
考えてみれば他の幽霊にとって憑依の目的って、型崩れ―――あー、ここは『記憶の劣化』って言おうか。それを防ぐことだからね。
死体に憑依すると死体に出来ることしかできない。……つまり、何も出来ない。
動く、喋るが出来なくなるのは当然、五感も酷く不鮮明に。ハッキリしてるのは思考だけかな。
それでも『記憶の劣化』だけは、何とか防げるみたいだよ。……真似したくはないけどさ。
…………自分が死んだってことは、
死んだ直後、自分の遺体を見下ろしながら何故この意識が残されているのかと考えて……自分に『役目』が与えられたのだと思い至ったんだってさ。
この場所が誰かに見つかってしまった時、自分諸共葬った『箱』について、その発見した誰かに伝えなければならない……って、ね。
ところが、ただまんじりと過ごしているだけで自身の記憶は削れてく。
このままでは役目を果たせないと泡を食った彼女は、あるとき偶然にも自分の遺体に入り込めば記憶の劣化を防げることに気付いちゃった。
代わりに地獄と呼ぶのも生温い無限の退屈を味わう羽目になったわけだけども……この『箱』を
動けない、何も出来ない。許されるのは思考だけっていう状態で―――三千年。
動こうとしなけりゃ霊力消費も無いし、そりゃ理論上はだけど……想像も出来ないよね、うん。
まあ、時間の感覚なんて、もう欠片も残ってなかったみたいだけどさ。
……訪れた相手にどうやって伝えるつもりだったかって?
それが彼女、自分が普通の人に見えない、声も聞こえない状態だってこと知らなかったんよ。
幽霊になってから誰も近くに来る人間がいなかったんならそうなっちゃうよね。そりゃ。
でも、仮にユズちゃんが来てても駄目だったと思うよ。……何でって?
じゃあ聞くけど、三千年前の国の言語で喋られて何言ってるか分かる? ……だよね。
……ああ、私には分かるよ、今ならね。
当然、読みにも書きにも全対応。
彼女の―――三千年前の女王様の記憶、貰ったからね。
そうそう、前に一度話した、私の中(?)にある【記憶の本棚】なんだけど……何か、今見たら部屋みたいになってるのよね。
今まではボヤっとした本棚等々のイメージがあって、意識を向けると一人称視点で記憶の鑑賞が出来るって感じだったんだけど、今は壁も床もあるしっかりした部屋になってて、意識を向けるといつの間にかその部屋の中に立っている。
で、そこにある本を手に取って広げると同じように記憶を覗ける、って感じになったのよ。
蔵書数というか、記憶の量が増えたからシステム更新、みたいな? 三千年分入ったからなー。
今後は【記憶の部屋】とでも呼称しようかね。
……ああ、ごめん、話戻すね。この辺の考察は後にしようそうしよう。
さて、何が問題かって言うと、この女王様が抱えてた『箱』の中身なのよ。
何でも、三千年前に栄華を誇った彼女の国を瞬く間に滅ぼした『災い』だとかなんとか。
……ヤバイじゃないですか? うん、ヤバイね。だからそう言ったじゃん。
で、その『パンドラの箱』―――底に希望は入ってないだろうなあ―――が、現在Bランクパの手によって地上に向けてばく進中というわけだよ。
……滅茶苦茶ヤバイじゃないですか? うん、滅茶苦茶ヤバイね。だからそう言ったじゃん。
……い、一応これでも頑張ったのよ?
女王様の骸骨動かして「祟りじゃー」ってやって追い払えないかってさ。
普通にモンスターだと思われたよ。……そう、スケルトン。まあ、そりゃそうだよね。
ぶん殴られて頭の骨粉々にされた上に、何か金色の炎で灰も残さず滅却されますた……
聖なる炎がどうとか言ってたし、供養にはなったって。たぶん。
……憑依では遺体は動かせないはずじゃないかって? ふふ、憑依では無く【念動力】です。
ああ、新能力ってわけでもないよ? 今まで手で触る―――つもりでやってた事を一度に三か所以上、手を使わなくても出来るようになったってだけ。
射程としては大体腕の届く範囲ぐらい? にある物だけ。砕けて散った頭蓋骨を拾い集めようとしたらぎりぎり届かなかったよ。馬力については相変わらずだし。
粉の表面に凹み作るのが精々だった頃から考えれば、十二分に進化してるんだけどねー。
「…………で、わたしにどうしろと?」
《それは、ほら、危険だから元の場所に戻せって説得、とか?》
「……無理です」
危険性を知っているのは私と会話が出来るユズちゃん一人。
その情報源も「幽霊から聞いた」という、信じられる要素ゼロの一点のみ。
……これで他人を納得させられたら、舌先で国を盗れるような逸材ではなかろうか。
《それじゃ……人目に触れる前に、箱を奪い取って逃げる》
「もっと無理です」
他の冒険者の成果に手を出そうという時点で一発アウト。おたずね者一直線。
そもそもからしてBランクパの4人相手にEランクのユズちゃんが腕尽くにしろそれ以外にしろ、立ち向かえるはずもない。
「こっそりと、中の危険だけを排除する手段は無いんですか?」
《少なくとも女王様の記憶には無いねぇ》
当時の叡智でもどうしようもなかったからこそ、女王様本人が自身のみが知る隠し部屋を使い、自分ごと葬り去るという最終手段を取ったわけだし。
ちなみに正確には国を滅ぼした『災い』の分け身……一部があの箱に入っているらしい。
じゃあ本体はと言うと……現在ここら近辺に人の営みがあるわけだから、三千年の内に何某かの要因で消え去ったんだろうけど、それを地下で朽ちていった女王様が知るはずもない。
「……レインなら、箱を開けずに中を確かめられますよね? どうだったんですか」
《あー……少なくとも、『災い』はそのまま残ってるかなあ》
いつかの水樽よろしく箱に顔突っ込んでみたところ、中には試験管的な容器が詰まっていた。
女王様の記憶も参考に考えるに、ありゃ細菌兵器の類じゃないかね?
今の時代、ここら一帯の人間が生きているのは三千年の内にその抗体を得たからという可能性も考えられないこともないが、そんな分の悪い賭けにユズちゃんの命を賭けるわけにもいくまい。
《被害が局所的なものだったら、とにかく逃げてもらうことも考えられるんだけど……》
「……ダメなんですね?」
例えるなら感染力と、ついでに致死率も極高の細菌兵器。
伝染病の知識どころか衛生の概念すら乏しいこの世界で、そんなものがひとたび解放されれば、あっという間に大陸中を覆うことは想像に難くない。
《今日明日中に海の向こうの大陸に行けるとかならワンチャン》
「これまでで一番無理ですね」
……可能だったら大陸丸ごと見捨てて逃げたのかって?
そらそうよ。こちとら聖人でも英雄でもない、いち冒険者(ついでに幽霊)ですよ?
何よりも優先すべきは自分らの命。まあ私はもう持ってないから、実質ユズちゃんの命唯一つ。
それがこのままでは風前の灯火。だからこそめっちゃ焦ってるわけで。
《…………仕方ない。ここはプランBだ》
「……何故かそこはかとなく不安なんですが?」
失敬な。全く考えなしという意味ではないぞ、今回は。
というか何故にこのネタが通じるのかね。……雰囲気で? なら仕方ない。
《というわけで、ユズちゃん》
「……はい」
……そんな「嫌な予感がする」って顔全面に書かんでもえーやん。
こちとらちゃんと実績もある
ただね、私一人じゃいかんせん
《今回は、君の演技力に期待する》
「…………はい?」
大丈夫、大丈夫。
人間死ぬ気になれば何とかなるって。
実際、ダメだったら死んじゃうし。……頑張って。いやマジで。
彼女達は