これって転生に入りますか?   作:非単一三角形

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 幽霊(?)の本領(?)発揮。

 ……とある能力の詳細が草案段階から微妙に変わってて辻褄合わせにひっそり苦労してたり。



C2-7 怨霊作戦・序

 

 ―――ひと仕事を終え、街へと帰還する最中にある冒険者一行。

 捕えた盗賊を含め五十人を越える大所帯となった影響もあり、その進行速度は往路に比べ幾分と緩やかなものであった。

 

 遺跡を離れ、最寄りの街道に出たのが本日の午後。

 道なき道を突き進んできた疲れを取るべく、普段よりやや早めに張らせた野営陣地の中。

 

 その中央、一回り大きなテントの中で、『銀の翼』の面々は険しくなった顔を見合わせていた。

 

 

「……やっぱり魔法が使われてるような気配は無いよ」

「箱の方もだ。何度確かめてもおかしな罠の類は無い」

「そうか……」

 

 魔法使いのサーシャは陣地一帯の魔力反応の感知を。

 斥候役を務めるラクスは、遺跡から発掘した金の箱を再々度調べた結果を告げる。

 やはりというべきか、先日と変わらない二人の答えに、リーダーのポルトは溜息を吐いた。

 

 

「……そっちはどうだった?」

「ああ……今日の内に大体全員、念のために盗賊どもにも尋ねておいたんだがな?」

 

 こめかみを押さえつつ、次にポルトは斧使いのクルガンへと顔を向ける。

 彼が調べていたのは、一行の中に広がりつつある()()()()()について。

 とりわけそれを『聞いた』人間がどれだけ居るかであったが―――

 

 

「ほぼ全員……特別その日の寝つきが悪かったヤツを除いて、というところだ」

「……盗賊の中の誰かが犯人ってことは?」

 

「あれが演技だったら、盗賊なんぞやってないだろうよ」

 

 その『現象』に襲われた人間はみな大なり小なり「薄気味悪い」と怯えを示している。

 また一行の全員が全員、毎晩『聞く』わけではないところもまた『現象』の異質さが際立つ。

 ……実害が出ているとまではいかない点は救いとも言えるのだが。

 

 

「それじゃ確認するが……昨夜は聞こえたか?」

 

 ポルトの問いに、三人は互いに顔を見合わせながらゆっくりと頷く。

 

「あとはそれぞれが聞いた内容の擦り合わせを……それも昨日までと同じか?」

「ああ、多分……いや、初めの頃は空耳だと思ってたから、あやふやだけどね」

「……気のせいで無ければ、一昨日より音量が大きくなっていたな」

「声だけで姿は見えんが、若い女性の声で―――」

 

 

「『持ち出すこと能わず』『開けるな』『其は大いなる災いを秘めし禁忌の箱なり』」

 

 

 ―――遺跡を出発したその日の夜から、一行を襲うようになった『現象』。

 それは日々の眠りに就かんとするその時、耳元に囁かれる何者かよりの『警告』であった。

 

 

「少しずつ言い回しや順番が変わることはあるけど、大体その繰り返しだな」

「……本当に、魔法が使われた形跡はないんだよな?」

「あたしに分かる範囲はね。……昨夜なんか、あんたが眠る傍で確かめてたけど全くよ」

 

 毎度の話し合いも事態の解決には一向に結びつかず、四人の間に欝々とした空気が漂う。

 迷う視線の行きつく先は、今はテントの中央に鎮座させた金色の箱。

 

 『警告』の中に出てくる『禁忌の箱』という言葉。

 それが果たして何を指すか、予想できない者など此処には居ない。

 

「……誰だか知らないが、回りくどい事をするもんだ」

 

 ラクスが言い放った一言に、三人の目が集まる。

 そこに込められたのは、戸惑いと、どこか安寧を求め縋るような視線。

 

「やっぱり、遺跡の宝を狙った誰かが犯人……って言いたいわけ?」

「……()()()考えれば、そうだろう?」

 

 この『現象』に見舞われ、冒険者としての彼らが最初に思い至った答えは皆同じ。

 すなわち「自分達の功績を妬む誰かが、それを手放すよう仕向けている」というものだ。

 

 このような考えを抱く人間は何も冒険者に限らずともありふれているし、そういった感情を影に日向にぶつけられた経験など幾度でもある。

 普通に…………()()()考えれば、今回もそれに準じる何かと判断して相違無いのだ。

 

 

 ―――その「何者か」が、如何にしてこの『現象』を起こしているのか。

 更にそれが彼らに全く感知出来ない、という点を除けばだが。

 

 

「……普通、なあ」

「何だ? お前まで『呪い』だの『祟り』だのと言い出す気か?」

「…………()()()()?」

 

 苛立ちを浮かばせるラクスに、ポルトがぴくりと眉を上げる。

 

「……俺が話を聞いた何人かは、そんな事を言い始めてるな」

 

 その疑問に答えたのは、他冒険者達から情報を集めていたクルガンだった。

 

「どうも遺跡の祟りがどうの、と言い始めた奴が居て、それが広がったらしい。聞いた奴の中にはお守りだとか言っていかにもな御札を握ってる奴までいたぞ」

「御札って……十字架とか、女神像じゃなくて?」

 

「ああ、そっちの派閥も居たな。……そうそう、例の女の子は御札派だったぞ」

「いや、それはどうでも―――って、そういえば、その子は?」

 

 雑談のような内容を聞き流そうとしていたサーシャが、不意に気勢を上げる。

 感知、探知、索敵の類に限れば上級冒険者である自分達をも確実に凌ぐだろう人材が一行の中に含まれていた事を思い出したのだ。

 

「あの化け物染みた探知能力なら、何か気が付いているんじゃない?」

「あー……人一倍怖がって御札ばらまいてたぞ」

 

「…………そっかぁ」

「……なんか、想像つくな」

 

 彼女の脳裏を過るは、同行する冒険者の中でも一段と年少の、凄まじい『スキル』を持つ少女。

 だが同時に『正体不明のモノに殊更怯える姿』も頭の中で違和感なく像を結び……同様の思考に至ったらしい者同士で苦笑いを浮かべ合う。

 

 

「何というか……小動物? みたいだものね、あの子」

「庇護欲誘うって、ああいう子のことを言うんだなぁ……」

「……いや、あのスキルでも探知できないからこその、反応かもしれないぞ」

「! ああ、言われてみれば」

 

 それは、確かな実力を持つと自他共に認められた自分達にも、今まさに覚えのある感覚。

 己の『規格外さ』を誰よりよく知るだろう少女なら、その思いもひとしおだろう、と。

 

「……それでも、一度は協力を仰ぐべきじゃないか?」

「何か、あたしらとは違うものを感じてるって可能性もあるものね」

 

 

 それが、四人のテントに件の少女が招かれるに至った経緯であった。

 

 

 

 

「―――そ、それで、わたしが?」

「ああ……まあ、そう緊張しなくていいから、座ってくれ」

 

 彼らの前へとおずおずと足を踏み入れるは、若草色の髪を揺らす少女ユズ。

 不安げな瞳でテント内を見回し―――やがてその視線は、ある一点を捉えて硬直した。

 

「―――ひっ!?」

 

 瞬間、少女は傍目にも明らかな恐怖を宿し、両手で口を抑えて後退り。

 その予想より過敏な反応に、戸惑わされるのは『銀の翼』の四人。

 

「ど、どうしたんだ?」

「……そ、その箱、が。例の、ですよね?」

「例のって……」

 

 サーシャの目配せを受け、クルガンが一瞬考える素振りを見せた後で、頷く。

 

「俺達が箱を持って遺跡から出てきたのを見た奴と……『箱』って単語を『聞いた』奴がいるからまあ、そこそこ、話は広まってるな」

「……そう。それならしょうがな―――へっ?」

 

 『祟り』の在処(?)についてどの程度認知されているかを確認し、先の話し合いで出た少女の情報も合わせて、それならこの反応にも頷ける―――とサーシャが納得しようとしたその時。

 視線の先で広がった少女の行動に、彼女は声を詰まらせた。

 

 

 何処からともなく御札を取り出しては、べたべたと自分の身体に貼り付けていく少女。

 腕、脚、衣服に、果ては顔―――目を白黒させる四人を余所に、突然の奇行は続く。

 

「え…………えっとユズ、ちゃん? それは?」

「御札です」

 

 見りゃ分かるよ。……という言葉を寸前で飲み込む一同。

 

「いやそうじゃなく……何で急にそれを身体に貼りつけてるのかなって」

「……その箱に、良くないモノが憑いているのが分かるからです」

「……は?」

 

 少女の答えに呆気にとられたのは一瞬。次いで一同の目が一度に鋭くなる。

 顔を強張らせた三人にサーシャが目配せを送り、それぞれが小さく頷く。

 

「どういう意味かな?」

「……わたし、幼い頃から『そういうもの』が見えるんです」

 

 手持ちの御札を貼り終えたのか、少女は未だ落ち着きのない視線を箱に向ける。

 金の箱を穴が開くほど凝視し、上級冒険者達の刺す様な視線に気付く素振りもない。

 

「昔、質の悪いモノに憑りつかれたことも……『彼ら』は『見える』相手には特に敏感で、だからこうして身を守る為に御札を、でも―――」

 

 目の前を凝視しているにも関わらず、遠くを見るかのように虚ろな瞳を見せる少女。

 少女の様子を睨み付けるように観察していた一同が、知れずゴクリと喉を鳴らした。

 

「こんな御札じゃ、防ぎきれないかもしれな……ッ!?」

 

 突如、ビクっと身を引いた少女に、どうしたのかと彼らが口を開こうとしたその瞬間。

 

 

 

 

―――コトン

 

 

 

 

 四人の耳に、微かな音が響いた。

 

「「「「…………」」」」

 

 顔を見合わせ、ゆっくりと、置いていた箱の方へと顔を向ける四人。

 そこには、変わらぬ金色の光沢を湛えて鎮座する箱。

 

「…………あ」

「おい……」

 

 

 気付かなければ良かったと思えるのは、いつでも()()()()()()()()後のこと。

 職業柄、観察力に優れた彼らは誰ともなしに()()に気付く。

 

 

 ―――僅かに、それでいて確かに分かる程度に、()()()()()()()()()()()

 さらにその表面には、間違いなく先程までは無かった―――手形にも見える微かな黒ずみ。

 それはまるでたった今、誰かがそれを()()()()()()()かのような。

 

 

「……わ、わたし……もう戻っていい、ですかっ?」

 

 

 がくがくと身体を震わせ、吃音(どもり)ながらそう尋ねる少女を引き留める者は居なかった。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

《―――何だかんだ言って、なかなか堂に入った演技が出来てたじゃない》

「…………演技じゃないです。素です」

 

 テントから十分に離れたところで、疲労困憊という様子でユズちゃんがそう呟く。

 ……分かってる側からすると、ノリノリに見えたんだけどなー。

 

「開いたら死ぬ箱が眼前にあったら誰だって怯えもしますよっ」

《……さもありなん》

 

 『災い』の具体的な内容については、以前話した伝染病の強化版、的な説明をしている。

 あの話で潔癖のケが生えたぐらいだったし、あれだけ大袈裟な反応にもなるか。

 

「なのにあんなに無造作に持ち上げて……何かの拍子に開いてしまったり中身がどうかなったらと考えてしまったら、ああもなりますよ……」

《えー……そこ台本通りだったよね?》

 

「そうですけどっ」

 

 ……どうやら混じりっ気無しに本気の反応(リアクション)だった模様。

 まあ、おかげで『手に入れた宝を曰く付き扱いする』という典型的な怪しい奴認識は逃れられただろうし結果オーライですな。

 ここであの四人にどう見られるか、は割と正念場だったからねえ。

 

《他の台詞にも嘘は殆ど入れてなかったもんね》

「ええ、まあ……良くないモノが憑いている、御札じゃ防げないというのも、箱の後ろにいたのがレインである以上、嘘じゃないですし」

 

《……それは私が良くないモノだと言いたいのかね?》

「…………」

 

 これ、目を背けるでない。

 

《まあ、否定はしないがなっ》

「しないんだ……」

 

 

 

 

 遺跡から発掘されたお宝。その実態は地上を壊滅させかねない災厄。

 それを説明して納得させる、力尽くでどうにか、影響外に逃げる―――何れもまず無理である。

 

 そうなると後は、『決して開けてはならない』と何とかして認識させる。これしかないだろう。

 

 

 しかし私がどう頑張ったところで、直接触れる、話しかけることができない以上、『気のせい』ないし『アンデッドモンスターのせい』にされてしまう。

 事実、『祟り』の噂が出始めたあたりで、彼らの間ではサーシャ氏の使う『光炎』とやらで箱を炙ってみるか、なんて案も出ていたのだ。

 

 発見した時にスケルトン―――彼らの認識ではそうなっている―――が現れた事から、その手のモンスターが関わっているのではというところに及んだらしい。

 『中身』を心配して却下してくれたのは良かったと言うしかない。彼らと私達とではその心配の方向が全く異なるけども。

 ……古代の叡智で作られた箱がその程度でどうかなるとは思わんけど、心臓に悪いわっ。

 

 

 魔法やモンスターが実在するこの世界で、それらとは異質な『ナニカ』であると意識させるのはなかなかに難しい。

 必要なのは、そうした(この世界的に)常識的な考察を否定してくれる存在。

 要は怨霊(私)の仕業というのをどうにかして納得(?)させる。むしろそれ以外ありえない、というところに思考を誘導する役目が必要となるわけだ。

 

 

 当然ながらこの役目は『生きた』人間にしか出来ない。

 そして事態を把握できている生きた人間など、ユズちゃん以外にいるはずもない。

 しかしながらこの役割、分かっててやるとなると相当な演技力を要求される。

 ……この真面目っ子ユズちゃんに嘘と見抜かれないような演技をさせる? ……どうやって?

 

 ―――嘘がつけないなら、つかせなければ良いじゃない。

 というわけで数日の時間を使い、私が色々と種を蒔いておいたわけである。

 

 

 彼らを襲った『現象』とは、言うまでもなくご存じ【夢枕の囁き】だ。

 また今回は多数に聞かせるべく、頃合いを見て陣地中央で声を張り上げてました。喉痛い。

 見張りや何やらで寝てない人間もいれば、単純に寝つきが悪くて入眠のタイミングがズレる人もいたりするんでこれで聞いたり聞かなかったりという状況が生まれます。めっちゃ喉痛い。

 

 なお、私の声が素通しで聞こえちゃうユズちゃんは耳塞いで寝てました。

 これも結果として『件の少女は人一倍怖がっている』という噂を補強してくれたみたいね。

 

 

 次に御札のばらまき。……一枚作るのに結構苦労するらしくて、ユズちゃん割と渋顔でしたが、こういう仕込みは手を抜いちゃいけないのでね。

 ……実際に囁きを防ぐ効果があるか? あるんじゃないかな? 分からんけど。

 

 私本体には全く無力な御札氏ですが、前に私が作った『壁鬼』こと【霊痕】を消せたわけだし、私の能力に対してある程度干渉出来るのは間違いない。

 しかし、その人が眠ったタイミングと私がリサイタルしてた時間が一致してたかは分からんし、以前の領主親子のように私の能力抜きに普通に悪夢を見る可能性だってある。

 

 ……事前に検証してなかったのが悪いと言えばそうなんだけども、これに関してはなー。

 なんせ睡眠中の相手が対象という面倒な条件に加えて、安眠妨害にしかならなそうなこの能力をこんな形で使うことになるとは()()()思わんかったんやもん。

 そのせいで今困ってると言えばそうなんだけども……この件については、この辺にしとこうか。

 

 

 そして本日、これらの仕込みの結果が出たわけですな。

 狙い通りの呼び出し、からの『ナニカ』の存在を臭わせ、仕上げは【念動力】+【霊痕】!

 効き目についても私にはすぐに分かるのだよ。『霊力源』という形でな! いやぁ甘露甘露。

 

 

「……これで手放してくれるでしょうか?」

《盛大にビビってるのは間違いない。けどやっぱ止めの一押しは必須かなー》

 

「うぅ……」

 

 ()()()()()()用意した台本がよっぽど気が重いのか、ユズちゃんがこれまた渋顔をつくる。

 ……とはいえやらんわけにいかんよ? マジで命掛けなんだから。

 

 それじゃもう一度細かい台詞合わせと小道具の点検を―――

 

 

「……何だかいつもより生き生きしてませんか、レイン?」

 

 …………気のせいじゃにゃい?

 





 レインさん「怨霊が出たと嘘を吐くのが難しい? なら心霊現象起こしまくれば
       嘘じゃなくなるから大丈夫だよね」
 ユズちゃん「いや、そのりくつはおかしい」


 スキル制テンプレ世界故に、視覚以外の感知手段や気配察知といった能力も存在しています。
 なまじベテラン揃いなばかりに、その手の能力(スキル)を(何も知らずに)全無視してくれる誰かさんのせいでガクブル状態です。かわいそうに。
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