これって転生に入りますか?   作:非単一三角形

2 / 74

 二次創作と違って好き放題書けるかわりに物語の縦糸作りに苦労します。
 創作の気軽さという点では決して悪い言葉じゃないですよね、ナーロッパ。



C1-2 安らかに眠れ、『私』

 

 ―――朝日が昇った。

 

 とりあえず日の光が私の身体に影響を与えることは無いようだ。

 仮に私の状態が所謂アンデッド系モンスターの一種だったら、その類が日の光に弱いというのは定番だ。先ずはそれを確かめないことには始まらないよね。

 

 その判定だと色々キツそうだから勘弁してくれと祈ってたけど、祈りが通じたようで何より……いや、推定幽霊が何に祈ってたんだ? ……まあいいか。

 

 辺りに散らばる無縁仏達に対し、何も出来ないにも拘わらずこの場に留まっていたのは、下手に動いて日の出前に光を遮れる物が見つかるかどうか不安だったからだ。

 万が一を考えて馬車の中に避難していたが、杞憂に終わったようで何よりだね。

 

 

 もう一つの理由が、スぺクハイド一行が襲われたこの場所が街道だという事だ。

 一行が元々住んでいた王都からは、幾つも街を越えた田舎道ではあるものの、道の先はどちらも人里に繋がっている。

 行き来はそれなりにされているはずで、すなわちそう遠くないうちに彼らの遺体は人目に触れることになる。……その辺りも()()()()は勘定に入れてたんだろう。

 

 ……私が生きた第三者なら、その無念を何とかしてあげたいとも思う所だが、生憎と私は死んだ第一者(?)だ。気の毒には思うものの、だからと言って何かできるとも思えない。

 

 現に私の手は彼女の遺体に触れることすらできやしない。

 土葬にしろ火葬にしろ、野晒しの遺体を弔うことすら不可能だ。

 

 私とはもう関係の無い人々……と言ってしまえばそれまでなのだが、どう処理されるかぐらいはなんとなく見ておきたい気がする。

 実際、わりと貴族にしておくのが勿体ない位に朴訥とした人々だったので、このまま田舎の地に骨を埋めるのも、彼らにとっては幸せなんじゃないかなあと思ったり思わなかったり。

 

 

 ……あ、でも最初に現れるのが人間という保証は無いのか。

 街道と言っても獣の類ぐらいはいるわけで、私は感じないけど血の臭いも漂っているだろうし、人目に触れる頃には無残に食い散らかされて……すまんがそうなったら見届けられんぞ、『私』。グロ耐性は無いからな、私。

 

 

 

 

 ―――日の出から数時間後、彼らの遺体は無事に人間に発見されました。

 いやあ、運が良いね。……良かったら死んでない? せやな。

 

 やってきたのは商人一行と思しき馬車が二台。片方は荷馬車だ。

 街道脇に転がされた馬車に気付いて一旦停車、斥候らしき人が警戒しつつ接近。

 ……盗賊が襲われた馬車を偽装して近づいてきた相手に不意打ち、って可能性もあるし、本陣を離しておいて少数で偵察ってのは大事なわけだ。

 

 斥候にきた彼は近くに転がる遺体と空っぽの馬車―――私が居たんだけど、やっぱ見えてないね―――を確認して一旦自分達の馬車へと帰還。それから一同で現場の確認を始める。

 

 その会話を漏れ聞いた限り、身分を証明出来るような諸々の物品は残らず回収されていたため、「どこかの貴族様かなあ、多分」ぐらいの認識に終わった模様。

 まあ写真や映像の情報なんて無いわけだし、没落前は有力な貴族だったといっても顔を知ってる人間なんてそうそう居ないわな。

 

 斥候役の男性を含めた四人組が商人から護衛依頼を受けた冒険者達(!)らしく、遺体についてどうするかを依頼主に相談する。

 そこは当然、何の得にもならない処理作業なんか却下する―――かと思いきや、彼は四人に死者の弔いを依頼した。

 理由としては商人としてのゲン担ぎの意味が一つ。またこの往来の激しい街道ならまず無いとは思うが、アンデッド化されたら良くない、との事。

 

 ……おおう、やっぱいるのかアンデッドモンスター。

 まあ、そういう感じのファンタジー世界を私がリクエストしたわけだけども。

 そして所謂『冒険者』という職業もあると。ビバ、テンプレ世界。

 

 

 転生時に神様に頼んだのは『リクエストに最も近い世界』であって、私がアンデッドの存在する世界を望んだというわけではないのだが、ひょっとしたらそういう世界だからこそ私は幽霊としてこの世に留まれているのかもしれないな。

 ……この先、そのテンプレ世界を私が謳歌出来るかというと、うん、まあ……うん。

 

 

 依頼を受けた四人が手際良く街道脇に穴を掘っていく。

 親子だろうと判断した二人を一つの同じ穴に、残りの二人は一人ずつ。

 ……良い気遣いだ。約一名にとっては業腹ものだろうけど、死人に口なし死人に口なし。

 

 そこで四人組の一人が徐に火を放つ。……あ、火葬ですか。

 やっぱり遺体が残ってるとアンデッド化しやすいってことだろうか。

 

 

 ―――って、スルーしかけたけど今の魔法だよね! やっぱあるんだね、魔法!

 いやそういうリクエストもしたんだけども!

 

 

 『私』の記憶に曰く、魔法を使える人間は割と貴重なようで、殆ど生まれつきの才能で使えるかどうかが決まる模様。

 才能が無ければ例え千金を積んでも習得は不可能だそうで、『私』には才能が無かった為に教養としての知識ぐらいしか与えられていなかった。

 

 ……私、ちゃんと自分が使う事も含めてリクエストしたよね?

 記憶の覚醒と共に「封印が解けられた!(誤字ではない)」的なことになる予定だったんかな。

 今となっては分からんけど。

 

 

 立ち上る煙を前に、四人と商人が黙祷する。

 ……うん、いいね。野晒しにされるよりはよっぽどいいよね、この方が。

 私には関係ない人達のはずだけど、何だか心の奥が温まる気がするよ。

 

 

 ―――安らかに眠れ、『私』。

 もう苦しまなくていいはずだから。

 貴女の無念を晴らす……予定は特にないけど、余裕があったら考えておくから。

 ……今のところそんな余裕は全く無いんで、期待はしないで頂きたいけど。

 

 あ、それからもしそっちで神様に会ったらよろしく言っといてね。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「―――やっぱりどっかで見た様な気がするなあ」

 

 再度出発してから十数分後、馬車と平行して歩く護衛の一人がそう呟いた。

 

「さっきのホトケさん達か?」

 

 隣を歩くもう一人の問いに、最初の男が「ああ」と頷く。

 残りの二人は商人が御者を務める馬車の中で腰を落ち着け休憩中。護衛と言ってもずっと馬車と並走するわけにも いかないし、こうしてローテーションを組んでいるらしい。

 

「……王都を出る前に酒場に入り込んできたお嬢ちゃんのこと覚えてるか?」

「ん? ……ああ、あれか、あの世間知らずの」

 

 ふむ? 在りし日のヤーネ嬢を見た事があるのかな、この二人。

 ちょっと記憶の棚を漁ってみるか。ええっと、王都の酒場ー酒場とー。

 

「護衛を引き受けてくれって、昼間から管巻いてる連中に絡んでたあの娘か。報酬の額もさることながら酒場で直接募集するってあたりが斬新だったよなあ」

「きっと冒険者に依頼を出すなんて初めてだったんだろうな」

 

 ……あったあった。確かに一度、酒場に乗り込んで直接依頼しようとしてるね。

 何でかって言ったら……冒険者ギルドとやらにも早晩『連中』の手は回ってたから、かぁ。

 

 擦り付けられた汚名が広まる前じゃないと、誰も引き受けてくれなくなるから。

 ギルドを通しての依頼なんて、悠長なこと言ってられなかったから。

 暇の有る冒険者が集まるだろう酒場で直談判しか可能性が無かった、と。……うわぁお。

 

 

「あんな金額じゃ、隣の村にだって……いや、新米を二、三人なら雇えないこともないか? ま、その辺りが限界だがな」

「それで目的地は王国の隅っこの村だったからな……王都から離れれば離れるほど危険は増すし、あの五倍、いや十倍は出してもらわなきゃ割に合わんぜ」

 

 ……手元に残った全財産だったんだよねえ、それが。

 動かせるお金はとっくにみんな押さえられた後で、残ってたのは自分とお父さんの懐に入れてた分だけだったんだ。

 調度品やらを換金出来てれば別だっただろうけど、そんな余裕も無かったし。

 

「……で、さっきのがその時のお嬢ちゃんだって? いやいや、酒場のお嬢ちゃんはもっと普通の服だったじゃねえか。さっきのあの連中の服装はどう見てもお貴族様だっただろ。馬車にしても、こんなみすぼらしい木目の馬車じゃなく、貴族様専用の黒塗り馬車だったしよ」

「まあ、そうなんだがな」

 

 馬の手綱を握る商人から「みすぼらしくて悪かったな」という呟きが漏れる。

 肩をすくめて苦笑する二人。

 

「あの後お嬢ちゃんには冒険者への依頼の仕方を丁寧に教えてやってた物好きがいたろ? 今頃はちゃんとした手続きを踏んで冒険者を雇ってるか、田舎町への相場を知って諦めてる頃だろうさ」

「まあ、正規の金額が払えるようには見えなかったしな」

 

 酒場に入る前に、普通の服を譲ってもらってたからね。……物々交換で。

 お嬢様な恰好で酒場に入ったら面倒が増えただろうから。

 ……で、当然というか、誰にも引き受けてもらえず仕方なく身内だけで出発。

 まあ、仮にそこで奇跡が起こってたとしても、結果は同じだったかなあ。

 

 

 ―――なんというか、やっぱりチクチクと腹立ってきたな。

 ヤーネ嬢はヤーネ嬢であって、もう私ではない、とは思ってるんだけど。

 この記憶の中の『私』の孤軍奮闘ぶりを見ていると、やるせないところはある。

 

 ……幽霊の私が苛立ったところで何がどうなるもんでもないんだけどさ。

 だって今もこうやってふわふわと漂って聞き耳立ててるだけで、他人の視界にも入らなければ、物に触れる事も出来ないんだよ?

 

 

 

 

 …………ん? ちょっと待て、ウェイト(wait)

 今、私どうなってる?

 

 『私』達の遺体が綺麗に埋葬された後、何も無くなったところに漂ってるのもアレだからって、彼らの馬車にこっそり相乗りして……相乗り?

 

 

 …………馬車、乗れとるやん。

 

 えっ、昨夜は地面にすら触れなかったのに?

 足の下、というか腰掛けた太ももに木の感触を感じてますですよ?

 

 馬車の中の壁に向かって、徐に手を伸ばす。……手が木の壁を貫通。

 腕を一旦引っ込めて、今度は「触るぞー」と念を込めて再び伸ばす。

 

 ……手が止まった。

 手の平に微かに、木を触っている感触があった。

 腕を押し込んでも手は動かない。何か違和感があるのは壁から押し返される感覚が無いからか。作用反作用の法則って奴だね。私の受験勉強は無駄ではなかった。

 

 幽霊の手だから押し返す力を感じないのか、押す力が弱すぎて返ってくる力がいまいち感じられないのか……その辺はちょっと分かんない。

 手の平から「触ろう」という意識を抜いて―――おっとっと、肩まで貫いちまったい。

 

 

 んー……これは現世に干渉出来てる、のかな?

 ひょっとして『私』を嵌めた『連中』を一発殴ってやることも可能?

 ふーむ、これは……

 

 

 無念を晴らす予定は無いと言ったな『私』よ。あれは撤回することになるかもしれんぞ。

 ……まあ、どこまで出来るかは分からんし、引き続き期待せずに待ってておくれやす。

 





 現状、存在からモチベーションまでフワッフワな雨巫さん。
 多分メンタルだけは強い。鋼というよりは衝撃吸収材かもしれないけど。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。