新章開始。あんまり時間飛ばなかったよ(ノープラン)。
※本作とは毛の先ほども関係無いですが息抜きに短編を一作書きました。
浮かんだは良いけどこちらでは到底使えそうになかったネタの供養先ということになりますが、気になる方は作者名→投稿小説リストからご覧ください。
C3-1 狐憑き?
《うーむぅ…………》
「……どうしたんですか、レイン?」
広大な山林に挟まれた街、ミイグル。
前回が海辺の街だったので、次は
そこで私は今、この世界で受けた中でも一二を争う───まではいかんわ。めちゃくちゃ色々あったし、せいぜい七八ぐらいだわ───衝撃に額を押さえていた。
《いや、その……こういう方向で来たかと。ユズちゃんは予想してた?》
「まあ、スキルによってネズミや虫を扱う姿が注目された結果なわけですからね。外から見れば」
───冒険者に付けられる『二つ名』。
それは対外的な評価及び実力の指標となる『ランク』とはまた別に、個人を表す目に見えた証。
一定以上の名声を得た者、もしくは特別な功績を挙げた者ないしその周囲が強く希望した際に、彼ら冒険者の互助組織たるギルドより与えられるものだという。
《……当人としてはどうなの? 気に入ってる?》
「良し悪しもそうですけど……感慨深いなあ、というのが大きいですね」
さて、授与の流れはそれとして、では実際の呼び名はどのように決まるのか?
基本的には、それまでの活動実績を踏まえてギルド側が
既に浸透した通り名等が存在するならば、そのままそれを採用することが多いそうだが。
「…………レインは気に入らないんですか?」
《え? ああ、いやいや、そういうんじゃないのよ? これはこれで……うん》
「……?」
今回決まった名前も特段波風立てなきゃならんような代物じゃない。
ギルド側としても、有望と見込んだ人間に不名誉な名付けをするはずもないわけで。
だから、そう……何の問題も無いんだよ? 付けられた当人の反応からしても、間違いなく。
《……でも良かったの? こう、付けたい名前があったりとかは?》
「……いえ、あまり考えたことも無かったです。第一、もっと先の話だと思ってましたし……」
例外となるのは、当人が特定の名前を強く希望した場合など。
また、どうしてもというなら再審議を求められる制度は用意されているという。
……そこまでこじれた例は本当に数えるほどしか無いらしいが。
「ああ、でも、やっぱり……自分の中に喜びがあるのを今、少しずつ実感してるところですよ」
《そう……そっかぁ》
わりと珍しい感じの笑顔になってるあたり、当人的には本当にまんざらではないらしい。
だから、まあ、何も問題は無いんだよ。……私が気にしない限りは、さ。
「Dランク冒険者―――『
……かわいいよ? かわいいんだけどもね?
いやぁ…………これが
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
《―――ちょっとその辺飛んでくるねー》
日も落ちて、宿に戻った後の事。
難しい顔で何かぶつぶつと呟いていたレインは、不意にそう言って天井へと浮かび上がった。
「え……あ、はい。いってらっしゃい?」
《うん、また明日ね。おやすみー》
「あ……」
その返答に振り返った視界に映ったのは、天井の向こうへと消えていくレインの足先。
いつも賑やかな彼女が居なくなって、残るのはシン……と静かになった部屋。
……今に始まったことでもないので、とっくに慣れているはずなのだけど。
「……ちょっと無神経、だったのかな」
冒険者として、二つ名が付くほどになれたのは正直に言って嬉しい。
間違いなくレインのお陰だと分かっているけど、それを踏まえても、なお。
……そんな風に舞い上がった気持ちでいたからなのかな。
いつも通りな筈のやり取りの中でほんの少し、彼女との間に壁を感じた気がしたのは。
───幽霊であるレインは、眠らない。
旅の間、わたしが眠っている間の番をしてくれるお陰で、寝不足で疲弊する心配もない。
それに対して《幽霊の有効活用》《まさに適材適所》とレインは笑って言うけれど、どうしても申し訳なさが先に立ってしまう。
……翌日、起きたわたしに殊更元気に話しかけてくるレインを見ていると、猶更に。
───眠らない、食べない、疲れない。
良いことばかりのようにレインは言うけれど、彼女だって元は普通の人間だったはずだ。
もしわたしがそんな身体になってしまったら、果たしてあんな風に笑っていられるだろうか。
あんな風に、いつでも明るく振る舞っていられるだろうか。
…………本当に、いつも、いつでも───
わたしが街の宿で泊まるとき、いつもレインはどこかへ飛んでいく。
始めの頃に《寝顔をじっと見られてたら寝にくいでしょ?》と言われて、頷いたのだけど。
わたしにしか見えないレインは、わたしが眠っている間、何をしているんだろう?
……わたしの知らない所で───
「……女王様の記憶、か」
古の女王様の言葉を伝える為に、わたしの身体を使ったレイン。
そのとき、その言葉から迸った威厳と威圧で幾人もの冒険者がたちまち気を失ってしまった。
そんなつもりじゃなかったとレインは焦っていたけれど……もしかしてあれは、
「レインったら…………本当に、詰めが甘いんだから」
多分、それだけ本気で焦っていたということでもあるんだろう。
あの時わたしにした説明の中で矛盾があったことに、多分レインは気付いてない。
女王様らしい仕草について記憶から倣ったと言っていたけど……それが本当ならあの口調はどう説明するというんだ。
女王様の時代の言語と今の言語じゃ全く違っているのだと、あんなに何度も念押ししたくせに。
あんな
その源が古の女王様の記憶でないとすれば、自ずと答えは見えてくる。
「……たしか、南の山を越えたところにある国で、急死したお姫様の話があったはず」
初めて会ったときに聞いた「死んでから一月か二月ぐらい」というのが本当だったら、時期にもそこまで違いはない。
伝え聞いた話とは少し違っているけれど……女王様の言葉を代弁していたあの時の振る舞いが、彼女の素に近いのだとすれば、その違和感も少なくなる。
「……Dランク、かぁ」
件のお姫様の死因は病死ということになっているけれど、それまで全くの健康体だったお姫様が突然人前に現れなくなり、その一年後に突如亡くなったという発表がされたんだとか。
……こんなの、何か後ろめたい事があったのだと嫌でも分かってしまうじゃないか。
その上、直後吹き荒れた政変の影響で、国全体が今なお不安定な情勢にあるとも聞こえてくる。
噂に聞く限りではあるけど、継承権では遠い位置に居たはずの王子が何故か王位を継ぎ、ひどく強引な舵取りを始めたことで、急激に治安が悪くなってきているのだとか。
「…………ごめんなさい、レイン。そんな国に乗り込んで行くには、まだ全然足りない」
そして、亡くなったお姫様は非常に聡明なお方だったのだ、という話も。
彼女が健在でさえあれば、こんなお粗末な統治が行われることなど決して無かった筈だ、とか。
奇妙な死の発表をされたお姫様。
幽霊になってすぐに、嫌がらせの方法を考えたというレイン。
レインがあれほど強い幽霊になったのは、
「わたし……もっと頑張るから」
あなたの相棒として、きっと力になれるようになるから。
国の陰謀でもなんでも、跳ね返せるぐらいに強くなってみせるから。
だから……もう少しだけ待っていてね、レイン。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
《らーらーらー♪ らららららーらー♪ らーららーらーらららー♪》
ハイどうもー、陽気な幽霊レインちゃんですよー。
ただいま夜空に浮かぶお月様をバックに、適当に歌声響かせながらのヒーローごっこ中でーす。
いやー、毎度思うけどやばいねこの開放感。
下を向けば見渡す限りの大自然。上を向けば輝く星々の大パノラマ。
おまけにこの高さなら、どんだけ声を張り上げても騒音公害とか言われる心配も無いときた。
今のところ、幽霊ボディで一番得したと思ってるのが、こうやって特に理由も無くおもいっきり大声で歌えることだったりするんだよねぇ。
こんなに気持ちいいなら、前世でも尻込みせずに一人カラオケにでも行くべきだったかな?
いやまあ、ここまで爽快なのは空飛んでるおかげもあるだろうけどね。
飛行速度も上がって疾走感もマシマシですよ。やっふぅ。
先日は怨霊騒ぎから女王様降臨まで、一連の流れで結構な人数を大いに、しかもそれなりの日数ビビらせたおかげで『霊力源』もどっさり回収。
それによって基礎性能(?)がまたちょいと上がったわけだ。その一つがこの飛行速度。
遂に『浮遊』から『飛行』の域に入れられそうな速度になってきました。
いやはや、これで探索性能も益々上がりますなー。
いやいやしかし遊んでばかりもいられん。前回の反省と能力のより詳しい検証をしとかんと。
特に憑依状態で初めて気合い入れて声出して、
今回は結果的に面倒が減ったが、知らん能力が毎度そう都合よく作用する保証などないわけで。
……いやほんとマジで焦ったわ。アレがぶっつけ本番の恐怖か……。
【憑依】状態で『叫ぶ』ことで、謎の……本当に謎な威圧により周囲の人間を昏倒させる能力。
ただし、一定以上の実力があれば耐えることも出来るらしい。要検証。
……真面目に割と有用そうではあるよね。憑依前提の能力だから緊急時限定だけど。
ひとまず【叫喚】とでも名付けておくか。
モンスターにどの程度効くかとか、今度こそちゃんと検証しておかないとだなあ。
続いて新たな仕様? が見つかった【鬼火】君。
火のように見えるだけで、熱も無ければ着火も出来ない彼(?)でしたが、唯一御札は燃やせることが判明。更にそうすると他の人間にも見えるようになるということが分かりました。
ただしユズちゃん曰く、その場合も相変わらず熱は持っていないとのこと。
……身体に貼った状態で燃えてたし、熱あったら割とマズかったね。ぶっつけ本番の以下略。
しかしそれはそれでエネルギー保存の法則はどこへ……ファンタジーにそれは野暮か。
《―――で、後は……この
【記憶の部屋】なる名称を新たに与えた、私の中(?)に生まれた謎空間。
今までは何となく「記憶を見たいな」と意識を向けると棚が見える、みたいな感覚だったのが、今は【入室】を意識すると
……何とも形容しがたいね。変な感覚だけど、ちゃんと外の様子も見えてるし。
例えるなら特撮ロボの操縦席内と、そのメインカメラが映す景色が同時に見えてる、みたいな?
この状態でもちゃんと外にある(?)私の身体は動かせる。
……ながら運転してるみたいで行儀悪く思えてくるな、コレ。衝突の危険なんか無いけども。
内部については、広間と呼ぶほどでもないけど手狭には感じない。
床や壁は木製……に見えるけども、この辺は私が『そう』作り上げただけだよね、多分。
例外になるのは、外から取り入れられた―――
今世の『私』ことヤーネ嬢の半生の記憶を収納した棚。
初めての人里で出会ったミナ少女の、大部分が削れてしまった記憶を収めた小さな棚。
マースルの街の女性、ロザリー氏の僅かな記憶を留めた小箱。
そして今回の女王様の……九分九厘が自身の遺体に憑依中の、
……これで発狂しなかったって、覚悟ガンギマリ過ぎん? 流石女王を務めた人間か。
しかし殺風景だなー、絨毯ぐらい欲しいなー、紅い絨毯―――ああうん、出たわ絨毯。
棚の上に乗せた写真といい、四人の記憶以外は全部私の一部ってことだね、やっぱり。
……好き放題家具を出そうとしたら霊力使うんかな、これ?
いや、外の何かに対して働きかける能力ならともかく、私の中(?)を改装(?)してるだけなわけで……何にせよ必要性を感じないから放置でいいや。誰に見せるでもないんだし。
…………しかしまあ、不思議だ。……何がってほら、ちょいと異色過ぎやしないかとね。
私がイメージする『幽霊』に掠りもしてない気がするんよ。この【部屋】関連の能力だけが。
今までの「やってみたら出来ちゃった」な各能力が見付かったのは「幽霊っぽさ」から連想して「出来るかも」から「やってみた」のが要因であることが殆どだ。
けれど【記憶の引き受け】(暫定)に【成仏促進】(暫定)、ついでに【感情吸収】にしても、能力を見付けたその時に「出来そうかな」と思った覚えは全くもってありゃしない。
そう考えるとやはりこれらは、私とは別の『何か』が関係しているのではないだろうか。
それに最近忘れてたが、私が『誰の』幽霊なのかもいまいちハッキリしないし……
いやそもそも幽霊なのかどうかもいよいよ怪しく……ぬむむぅ───
…………もういいや、考えるのメンドクサイ。
第一、考えて答えが出るような問いとも思えん。
何故か彷徨える霊を成仏させられる、陽気な『幽霊っぽいナニカ』。略して幽霊。
もうそれで良いじゃないか。正式名が分からなくて困るわけじゃなし。
《……よし。気を取り直して杖の名前でも考えよう、そうしよう》
ユズちゃんの生存率を上げるべくちょいと強引に握らせた、元は女王様の副葬品である例の杖。
普段は目立たないよう先端だけ露出するように布を巻いた上で、腰に差す形で携帯されている。
壊れにくさなんかもバッチリだし、これは間違いなく今後長い付き合いになるだろう。
ならば格好良くて、しっくりきて、愛着が沸くような名前を考えてやらなきゃーね。
……本人は正直どーでもよさそうだったけど。良いじゃないか、私の自己満足でも。
今はそのぐらいどーでもいい事に頭使ってたい気分なんよ。
《さて、無難なのは神話なんかの有名どころからとってくることだけど……》
今回それは問題あるのよなー。主に約一名から断固たる抵抗を受ける構図しか見えない。
あと変に捻った名前付けて、説明が必要になるのもよろしくない。こういうのは最低限字面からイメージ沸くのが条件よ。
となると特に説明の必要無しに分かる名前でー……あと可能なら私の
今朝決まったばかりのユズちゃんの二つ名、『
……虫と鼠を操る様から「
いや
とまあ冗談はさておき……「その手の」依頼を解決してきた実績に紐付いた名前なんだろうね、真面目に考えると。ギルド側はその辺り把握してたってわけだ。
そんで「そういうもの」と「狐」を結びつけるのは世界を隔てても共通だったと。多分だけど。
《……あ、いっその事その方向で、怪談からとってみるとか?》
神話や英雄譚を由来にするよりは、ユズちゃんの心のハードルも低くなるかもしれん。
さてさて、それなら何か良さげな怪談は―――
『あああああああああああああああーーーーーーーーーーッ!!?』
…………誰だよ、こんな時間に大声で叫んでるのは。近所迷惑な。
どの口が言う? いやいや私はちゃんとその辺り配慮して
ご近所の安眠妨害にならないよう、こうして誰の耳目も届き得ない遥か上空に―――
…………おう、待て、
ここ上空何百メートルだと思ってんだ。
気が乗ってぐんぐん飛んでたもんだから、森や山が足の方向に広がる高さだぞ。
そんな私にこうして
『あ、貴女は何者ですかっ!?』
……こっちの台詞だ。ばかやろう。
色々考えちゃった結果、何やら覚悟完了しちゃったユズちゃん。
色々考えてたけど、結局謎だなあ、で思考停止したレインさん。
温度差よ。とりあえず人違いです(断言)。