ちょっぴり短め。
※歌詞使用にギリ引っかかるかなあ、と思った箇所を削除しました。(2023/3/27 14:45追記)
―――僕の名前はラビ。先日、
冒険者と言ってもまだ名ばかりで、こなせる仕事は便利屋、雑用係と言われそうなものが精々。
一応、叩き売りされていた金属製の短い剣を買い、そこの店員さんに教わった通り毎日手入れはしていましたけど、鍛錬以外で振り回したことなんて殆ど無くて。
依頼の為に立ち入った森の中を歩く時に、邪魔になった蔦や枝を薙ぐのに使うぐらいでした。
…………そう。そうだ。僕は、森の中を歩いていた。
ギルドで受けた依頼、『薬草採集』を目的に、馴染みの採取地に向かっていたんだ。
あ、いえ、結構どこにでも自生していて繁殖力も強い植物なので、特に採取地と決まった場所があるわけじゃないんです。
けど何度目かの同じ依頼を受けて採取していた時に、まとまった量が群生しているところを偶然見付けていまして……
だからその日も朝早くから、真っ直ぐその場所に向かって―――
気が付いたら僕は、空に浮かんでいたんです。
いつからなのか、仰向けになって、流れていく雲をじっと眺めていて。
「どうしてこんな事してるんだっけ……?」と思った瞬間、初めてその状況に気付きました。
それからすぐは訳が分からなくて、とにかくその場で叫んだり騒いだりしていた筈です。
そのうちに飛ぶ……と言って良いのか、思う方向に進めるようにはなったので、とにかく地上を目指して降りた後で、街に向かって飛んでいきました。
それで、街門のところで顔馴染みの門番さんを見付けたので、声を掛けたんですが―――はい、気付いてもらえませんでした。まるで僕が見えていないみたいに……
気付いてもらおうと肩に伸ばした手がすり抜けてしまうのを目にして、いよいよどうしていいか分からなくなったんです。
―――そうして途方に暮れていたその時でした。
空のずっと上の方から、とても楽し気な、美しい歌声が降りてきていることに気が付いたのは。
身体の芯を突き抜けるその歌声に、不安や心細さが柔らかく溶かされていくようでした。
まるで心の奥深くにまで暖かく語りかけてくるようで……それで理解したんです。
ああ、この声は―――迷える者を教え導く、女神様の歌声なのだ、と。
この歌声の導く先へ行けばいい。
そう思った僕は、夜空に向かって飛び始めました。
じきに歌は聞こえなくなりましたけど、僕の中にもう不安はありませんでした。
そうして飛んで、飛んで、飛んで―――
いつもの森が足元に小さく見えるぐらいにまで飛んだところで、僕は見付けたんです。
月明かりを背に、不思議な衣装に身を包んだ神秘的な女性の姿を―――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
《―――私は女神およびその眷属的な
長々と語らせておいてなんだが、取り敢えずそれだけは大声で主張させてもらう!
というか人の与り知らないところでどんな解釈をしてくれてるんだ少年よ!?
……ええい、ショックを受けた様な顔になるな!
神秘的な衣装って、こりゃただの学生服だよ、学校指定の!
ほんともう、何でどいつもこいつもそういう誤解をするかな!?
つーか歌声聞かれてたよ。べた褒めされたよ。一種の吊り橋効果か? こそばゆいわ!
《で、では、僕はどうしたら……》
《知るかっ!?》
見ず知らずの人間にいきなり導師扱いで進退全てを託されても困るわ!
おいこら、そんな捨てられた子犬のような目をするんじゃねえ。
というかお前幾つだ? 十六? ……タメ年じゃん! マジかよ!?
……
思わず突き放してしまったが、今の彼にとって相談出来る相手というのが極端に少ないことを、他ならぬ私が誰よりもよく知っているではないか。
ひとまず彼の証言で分かったことを整理しよう。そうしよう。
夜空の中、雲と並走する私の前に突如現れたこの少年。
生身でこんな上空に来れるはずも無く、当然霊体だ。透けてるし。
そして当人の証言からして、自分の身に何が起きたのか、今の自分がどんな状態なのかを何一つ理解出来ずに混乱を極めた状態で私の歌声に……誘われてきたというのが大筋の経緯らしい。
『導く』というのも全くの勘違いとも言えん。……その、ほら、最悪私に触れば
だがしかし……うん、まずは色々と確かめるべきだ。思い込みで行動に移すのはよろしくない。
私が転生する原因になったどこぞのトメさんがくれた教訓だ。……今頃どうしてるんだろうね、轢き殺されるとこだった嫁さん。確かめようもないけどさ。
《……君はその状態になってからどのぐらい時間が経ってるか分かる?》
《え―――あ、は、はいっ! え、ええと時間は……あれ……?》
《
《み、見てません。……と、思います》
すると大体半日、最長で一日、かな。
それでも既に結構……普通はこんなに速いもんなのか。記憶の欠落って。
あらためてラビ少年の姿をじっくりと観察。
……全体的に青白くて、輪郭がところどころボケてきている。あ、でもまだ足はあるな。
髪が辛うじて黒髪だったと分かるぐらいだし、肌の色なんかもうサッパリだね。
これがもう少し時間経つと人型も保てなくなって、言葉も《オァァ……》になるんだね。
……あれはほんと怖かった。ミナちゃんには悪いけども。
《あ、あのう……それで、これから僕はどうしたら……》
《んー……》
…………さて、どうする?
『型崩れ』の防止手段なら私は知っている。教えることもまあ、出来なくはない。
しかし様々な方法によって延命(?)しようとした先達の末路もまた見聞きしてしまってる。
誰かをビビらせて―――というのを長く続け、目的意識以外が削れ去ったらしい前例に始まり、生きた人間への【憑依】なんかは、昔のユズちゃんが経験したトラウマ体験を誰かにさせるということになる。……これこそ悪霊ルートだよね、思いっきり。
骨への【憑依】はその辺の問題こそ無いんだけども……ちょっとだけ『追体験』してみた限り、あれは発狂しなかった女王様が例外過ぎると思うんよね。凄過ぎて参考にならんやつ……。
というか、そもそも延命……うん、敢えて『延命』と言わせてもらうが、させてどうするんだ?
何の意味があって『延命』するんだ? 幽霊が。
何か未練を残して死んで……というならそれを果たすために、でもいいだろうけど―――
《…………あれ?》
《ど、どうしたんですか?》
《いやその……君、何か未練があったの?》
《……えっ?》
そうだよ、そもそも何かしらの『未練』が無けりゃ幽霊にはならんはずじゃないのか?
少なくともこの世界の幽霊はそういう仕組みのはずだ。ユズちゃん曰く。
……私の事は早めに横に置いとく。『(略して)幽霊』は話に入ってくんな。ややこしくなる。
私が知っている二つの前例―――ミナちゃんにロザリーさん―――は、どちらも死に際に抱いた強い感情が原因で幽霊になったらしいと思える。それぞれの記憶を見る限り。
時間経過で削れていく中でも原因となった記憶だけは最後まで克明に残るはずだ。……彼女達はそれでひどく苦しんでいたわけだが。
だがさっきの話にはその辺が出てこない……どころかそもそも彼は自分が死んだ瞬間のことさえ認識していない。
それでもこうして幽霊になっているとなると―――
《未練というか、こう……病気の母親の為に薬代を稼いでた的な何かがあったりは?》
《はあ……?》
これは古の女王様の幽霊化パターン。実は彼女も自分が死んだ瞬間を明確には認識しておらず、その以前から抱いていた非常に強い目的意識が要因となったっぽいんよ。
自分達が遺してしまった過ちを何が何でも後世に伝えなければ、という思いが彼女の魂を現世に留まらせたのだと考えられるんだよね。
このケースを考えるに、前々から「どうしても」という想いを何かしら抱いていれば死ぬ瞬間を認識出来なかったとしても、幽霊になることはあり得そうなんだが―――
《いえ、特にそういうのは。家族もみんな元気にしてますし、冒険者になったのも他に出来る事が無くて仕方なくでしたから》
むう、空振りか。ますます解せぬ。こいつ本当に幽霊か? ……鏡見ろ? 映らんよ。
冗談はさておき、彼に何があって今の状態になったのか調べてみないと判断出来んな、これ。
《……よし、さっきの話に出てきた採取地っていうの見せてもらおうか。案内して》
《え……? わ、分かりました。こっち……かな? はい、こっちです》
チラチラ向けられる彼の視線を無視して、少々強引に案内させる。
……こいつまだ私の事を女神様的なナニカと認識してるな、言の端からして明らかに。
既に記憶が削れ始めていることもあって、のんびりと説明してる時間も無いし行動を促す分にはその方がむしろ好都合ではあるけども。
……今すぐに手を触れて【成仏促進】させてしまってもいいのかもしれない。
しかし彼の状態には微妙に謎が残るし、万が一幽霊以外の何かで、それを成仏させてしまったとしたら、何というか、ちょっと……気分が悪い。
後から【記憶の部屋】を活用したとしても、その謎が解けるとは考えにくいしねえ。
それにしても、生きた人間に触れば感情を吸収、幽霊に触れば成仏って……ちょい危険物過ぎやしませんかね、私? とんだ悪霊だな。さすが『狐』? やかましいわ。
どっちも使い方次第であって、一概に悪い事とは言えんのだけども……むむむぅ。
「幽霊判定で成仏させてもいいのかなぁ、この幽霊(仮)……?」by 幽霊っぽいナニカさん
……なんだこれ。