これもまた一つのテンプレ……?
───夜空で一人リサイタルを楽しんでいた私の元へ引き寄せられた幽霊(仮)少年ラビ。
彼がその姿となった経緯を求め、またその肉体の所在を求め、山林を捜索すること凡そ一晩。
捜索の末にオークの住居という場所で彼の身体を発見したそのとき、私達はとんでもない驚愕を突き付けられることと相成った。
……息してたんだよね、彼の身体。イヤ意識は無かったんだけども。
え、じゃあコレ他人の空似? と呟いた私に、いや間違いなく僕ですよ!? と返した少年。
しかし現にこの少年は生きてるし……と首を傾げる中で、私はある不思議な現象に気付く。
なんと少年の霊体(?)が、目の前に横たわる身体に引き寄せられているではないか、と。
未練を残して死んだ人間の幽霊かと思いきや、肝心の未練に心当たりのない霊体。
一方、意識は無いながらも確かに呼吸を続け、近付いた件の霊体を引き込まんとする肉体。
当人は私が指摘するまで気付いていなかったが、両者に何らかの繋がりがある事だけは明らか。
一見矛盾した少年の状態に、私の頭にある一つの単語が浮かび上がった。
───ひょっとしてコレ、『生霊』ってやつなんじゃね?
何かの拍子に身体から飛び出してしまった魂。
彼をそんな存在だと仮定すれば、意識を失う瞬間が記憶に無く、また未練という言葉とも無縁でありながら霊体化した理由にもどうにか説明は付く。
まあ実際の理屈なんぞ私にゃ分からんが、ともかく肉体側からの反応もあるわけだし、このまま彼の霊体を突っ込めば無事に解決万々歳───なんて訳にはいかなかったんよね、うん。
何故って、だってほら……ここ、オークの住処だったんだってば。
家主たるオークの様子を窺ってみれば、彼の身体を前にひたすら何かの準備を進めている最中。
具体的にはまるで何らかの『薬』でも作るかのように、石を削った器に草や虫など様々なモノを放り込んではすり潰しておりました。
……え、こんな文明的な行動するの? というのが私が受けたカルチャーショックその一。
更にその行動の理由について『私』に知識を求めたところ───私は再びの文化的衝撃と共に、取り敢えず急ぐ必要は無いのかな……? という結論を出すに至る。
何故ならこのオークが、
何というか、その…………あんまり
《…………『雑食系』、かぁ》
「全ての個体が、というわけでは無いそうですよ? それに一説によると『面食い』なのだとか」
曰く───この世界の
しかも美味しくいただく(意味深)為に元気になる(意味深)薬まで御作りになる、と。
……ねぇ『私』? 何でそんなこと知ってたの? 助かったけど。……ねぇ? ねぇってば。
「わたしも改めて見たいとは思わないですし、結果的には彼が意識を失っていて良かったですね」
《…………せやな》
睡眠か───げふんげふん。ちゃんと意識がある相手じゃないと、その……
その、ほら……物理的に
いやぁ…………この世界に来てから一、二を争うレベルの衝撃情報だったよ。今度こそは。
道理で住処にお持ち帰りされた彼の扱いが丁重だったわけだよねー。……はぁ。
彼を起こすだけなら、この時点で霊体を肉体に突っ込めば多分何とかなったと思う。
ただそうするとバリバリの底辺冒険者である彼に、それなりの実力を求められる対オーク戦へと挑ませることになる。……敗ければ即お亡くなり(貞操的な意味で)になる戦いに。
ここで私一人での解決を断念、夜明けを待ってユズちゃんを連れてくる事態となったわけだ。
……まさかその日の内に捜索依頼になってるとは思わなかったし、それを受注した直後ってのも予想外だったんだって。いや、ホントに。
「それはまあ、もう良いですけど。……それよりレインこそ良かったんですか?」
《ん? 何が?》
「その……彼からレインにはお礼の一言も無かったじゃないですか。一番骨を折ったのは―――」
《いやいやそれはしょうがないでしょ。彼の主観じゃ
さて目出度く
当初は今回の件について、説明および口止めを―――私について女神云々と何処かで語られても困るので―――予定していたのだが、こちらでも想定外の事態に見舞われることになる。
肉体に戻った時点で私の声が聞こえなくなるのは想定内だったし、どれだけ軌道修正を試みても輪郭ふにゃふにゃな生霊の彼にはどうも通じなかった為、その辺の口止め云々は事が済んでからと考えていたところ―――その必要はキレイさっぱり無くなっていたのだ。……彼の記憶ごと。
失われていた記憶の範囲は、採取の途中で足を滑らせてからオークの巣穴で目を覚ますまで。
すなわち、生霊だった期間だけがスッポリと。
……あまりにも都合が良すぎるので色々と尋ねてみたが、少なくとも彼に演技の様子は見えず。
そもそもが圧倒的高ランク―――彼から見て―――であるユズちゃんの詰問に恐縮しきりだった少年の様子に、そこまで疑う気になれなかったというのも正直なところ。
藪をつつくという程でもないが、仮に記憶が残っていて何処ぞで口にしたとしても、彼が正気を疑われるだけでは? という結論に至り、それ以上の追及は止めることにしたのだった。
「それに……いまひとつ彼に『助けられた』という意識が無かったのがなんとも……」
《そりゃあモンスターの無残な死体だけ見せられて、これに襲われるところだったんだよ、なんて言われても実感沸かないでしょ》
頻りに首を傾げつつ洞窟から出てきた彼は、まず出口に佇んでいた見覚えのある高ランク冒険者および傍らに転がる無残なオークの死骸に硬直。
捜索依頼を出されていたこと、意識を失ってから約一日経過していることにさらに瞠目。
高ランク冒険者から詰問を受けつつの下山に、街に戻ってきた頃にはすっかり憔悴。
ギルドにて二、三の事務手続きを終えた後は、感謝の言葉もおざなりに、ふらつく足取りで街の中へと去っていってしまったのであった。
これにはユズちゃんも依頼完了の手続きをしてくれたギルド職員さんと一緒に苦笑い。
まあ、この程度で気を悪くするような狭量な心根はしてないからね(後方腕組み感)。
《それに彼の周りの人間からは、彼の分まで溢れるぐらい感謝されたわけだし》
「あー……ええ、そうですね……」
一方、彼の捜索依頼を出した女性およびその同類の皆さまは実に凄まじかった。
どこから聞きつけてきたやら、私達が街に戻る頃にはズラリとギルドに揃い踏みである。
……イヤ、一箇所に集まって大丈夫? 戦争始まらない? と心配したのも束の間、あちらから少年の姿が見えた瞬間、歓声と共に猛烈な勢いで突撃開始。
手続きの最中も次々と少年に話し掛け、彼の視線の外では無言の睨み合い。
諸々を終えて帰路に就かんとする彼に「五月蠅い」とばかりに邪険にされても構う様子も無く、そのまま背中にくっついていった者も何名か。
……あれもうツンデレどころかヤンデレ化してるのも半分ぐらいいるよね?
あの状態で何故ああも鈍感でいられるのか。最早あれこそ
「喜ばれたのは良いんですが……正直、気疲れしました」
《何人か、ちょい険悪な視線も向けてきてたよね。こう……増えるのか? 的な》
「その内、そんなつもりは無いと分かってもらえたのか、多少マシになりましたけどね……」
依頼人および人相書きを用意した職員さんは掛け値無しの感謝を口にしてくれたんだけどねえ。
問題は後からやってきたお歴々。表面上は感謝を口にしつつも「また彼の周りに女性が増えた」と言わんばかりの冷視線を思い思いに注いでくれやがりました。
……まったく、うちの子を何て目で見てくれやがる。
どこぞの男のハーレムパーティになんぞ入れる訳ねえだろーが。
少なくとも私の目の黒い内はな! ……既に黒くねえな、私の場合。
「……だからレインの子になった覚えはありませんからね?」
HAHAHA。
《そんなことより、あの後ハーレ……書き割りの中にいた御令嬢から依頼持ちかけられてたけど、どうするの? 受けるの?》
「言い直した方がより酷くなってるような……そうですね。受けるつもりでいます」
ラビ少年の話には、「良家のお嬢様」としか出てこなかった令嬢さん。詳しく聞くに、王都から学園の長期休業を利用して遊びに来ている男爵令嬢さんとのこと。
依頼内容自体は後で説明するとのことだけど、捜しモノの依頼で実績を重ねるユズちゃんに直接ということは、まあ……そういう感じの頼み事でしょうな。
―――ちなみに彼との『馴れ初め』は、この街の中でちょっとした揉め事に巻き込まれた折に、彼(を含む周囲の通行人十余名)に助けてもらったんだとか……それ彼から認識されてますかね?
まあ、彼の口からも出てきたし、全く印象ゼロってこともないんだろうけど。
ただまあ、あれだね。他の面々に比べると熱量はそこまででも無かったかな?
彼に対する視線も、どちらかというと青田買い的な方向で期待を寄せてる感じだったし。
確かにあれだけ主人公染みた体質の持ち主になら、万馬券的な意味で手を付けとくのはアリかもしれんよね。……関わり過ぎると
《初の貴族相手の依頼……あ、でも私と出会ったときも領主様からの依頼だったわけだしそんなに構えてもないかな?》
「いえ、そんなことはないです。不安です。すごく」
お、おう……軽く聞いたら何か強く主張された。
依頼主当人とはさっき割と普通に話してたやん。どうしたんだね、ユズちゃんや。
「そこで、その……レインに協力して欲しい事があるんですが……」
あら珍しい。まあ私に出来ることなら、いっくらでも頼ってくれちゃってくれて良いですわよ?
……とは言っても貴族相手の交流なんて、私に大した事が出来るとは―――
「……わたしに、礼儀作法を教えてくださいっ」
…………
Q. 雑食系?
A. 雑食系。
Q. 雑食"性"じゃなく?
A. 雑食"系"なのです。
・雑食性
食性の一。動物質・植物質の両方を食物とする性質。
(出典:デジタル大辞泉(小学館))
・雑食系
好みに偏りがないことや、ストライクゾーンが広いことを積極的にアピールすることに使用されている場合もあり、「見境が無く」何でも食べるよ。という意味合いを持つことが多い。
(出典:Wikipediaより抜粋)
Q. つまりどういうことだってばよ?
A. ラビ君はラブコメ主人公属性持ちの男の子でした。
彼を発見したオークはメスでした。つまりそういうことだ。
……以下、真面目()な解説。
雑食系()なオーク(雌)はラビ少年を召し上がる()目的でお持ち帰り()してました。
また彼女()が目的()を果たすには起きた彼に特製()の薬()を飲ませる必要があった為、意識を失っている限り彼は安全()でした。
更に『生霊』として身体から魂が抜け出てしまっていたので、不意に起きてしまう恐れも無し。
前々話にて主人公達が彼の救助を急ぐ必要が無いと判断していたのはそういう理由からでした。
前々話のレインさん「私にグロ耐性は無いからねー……」
これには前々話のユズちゃんも草葉を刈りつつ苦笑い。
しかし今回は結構展開予想されちゃいましたね……精進せねば。