再び新キャラ登場。今回はどのぐらいの出演期間になるかなー。
―――私の名前はサラ=クリィサム、13歳。
レイオード王国の学園に通う、男爵令嬢よ。
クリィサム家は王国の隅っこの、端っこの、小さな小さな領地を戴く貧しい小貴族。
貴族の末席に着いてはいるけど、
お父様は頑張ってくれているけど、こればっかりは仕方ないと思うしかないわよね。
むしろそこから私が王都の学園に通う分のお金を捻出してくれたことに感謝しないとだわ。
……その辺りの苦労を聞かされたのは、入学の為に王都へ出立するその日のことだったけど。
かけられた期待の重さに目眩がしたのも今では良い思い出よ。
そうして始まった、高位貴族との格差を日々思い知らされながらの学園生活も、どうにか問題を起こすこと無く半期を乗り越え無事長期休暇に……とはいえ級友達ならいざ知らず、その期間中に王国領の端にある男爵家領地にまで戻るのは厳しかったのよね。……主に路銀的な意味で。
かといって王都近郊に滞在するというのも、それはそれで宿代が高くつくし。
曲がりなりにも貴族家が滅多な宿は選べないし、そこで裕福な商家と宿を競り合う事態にでもなったら致命的よ。万一ふっかけられたら矜持のせいで降りるわけにもいかなくなるもの。
それらの事情及び懐具合を勘案して、休暇の間滞在することにしたのが、ここミイグルの街。
王都から(懐的に)そこそこの距離、それなりの規模、そして何より男爵家に相応な格のある(懐的に)とても良い宿を見繕うことの出来た街というのが決め手だったのよね。
……大きな荷物を宿に置いて、鞄片手に初めて街中を廻ってみたその日の内にひったくり被害に遭った時にはどうしようかと思ったけど。
おまけに、ただでさえ少ない所持金を盗られて堪るかと鞄を持つ手に力を入れて踏ん張ったら、ひったくり犯が宙返りしながら店先の商品棚に突撃していった時には、頭が真っ白になったけど。
それから……その時に証言者をまとめてくれた少年がまだ低位の冒険者だと知って、それとなく粉をかけてみたんだったわね。……経過は芳しくなかったけれど。
あれは絶対将来大成すると私の勘が言っていたのよ?
けれど私のそんな主張は、領地からついてきてくれた側仕えのフォークには通じなくって。
青田買いは成功すれば大変素晴らしいので頭から否定は致しませんが、それでもせめてもう少し信用できそうなランクの冒険者に目を付けてくださいませ、と言われてしまって。
ならばと思って声を掛けたのが───
「―――本日はお招きいただき、ありがとう存じます」
ギルドにて当人と相対したとき、私とそう変わらない年齢であることにまず驚いて。
その場で軽く言葉を交わし、物腰の柔らかさやそこそこに教養のある様子にまた驚かされて。
その話を聞いたフォークが、ならば学園で開くお茶会の練習を―――学園では日常的にお茶会が開かれているが、私はまだ主催側を経験したことが無かった―――兼ねて顔合わせをしましょうと言い出したので、あちらが泊まっている宿を介してその旨を打診して。
程なく色よい返事が貰えたので、宿に一室を借り、こうして彼女を招き入れて。
「何分浅学の身ゆえ、不作法をお目に掛けるかと存じますが、ご容赦いただければ幸いです」
目の前で披露される
「……良い香りのお茶ですね。職業柄こうした物に触れる機会が限られておりますので、月並みな賛辞となってしまい面映い限りですが」
……そういえば冒険者って、出奔した元貴族だとか身分を隠した御落胤だとかが期間を限定してなることもあるんだったっけ、なんて目まぐるしく考えちゃって―――
あー、頭の中に流れ始めた
…………やっべぇ、明らかに練習で呼んで良い相手じゃねぇよ、コレ。
「―――そろそろ、依頼について伺ってもよろしいでしょうか?」
「え……あ、そうだっ……いえ、そうですわね」
緊張の中、お茶会をつつがなく進めるのに夢中で、これが冒険者への依頼の場だということが、すっかり頭から抜け落ちていたらしい。
相手から指摘されたことにまた背筋が寒くなった。何をやってるのよ、私ぃ。
……いや、多分無意識の内に、依頼について考えたくなくなっていたんでしょうね……
「……お嬢様?」
「フォーク…………
「…………かしこまりました」
そうは言っても、今からそれらしい依頼をでっち上げることなど出来ないし選択肢なんて無い。
丁度私と同じ思考の中に居るのだろうフォークに、結論を目で訴えて―――やがて諦めた彼女が相手に見せるべく一冊の古書を取り出した。
「……そちらは?」
「先日入手した、古い書物ですの」
来訪初日にひったくりが突っ込んだ店で、弁償にと買い取った雑品の中にあった品。
何処から出た何時の時代の物かすら私にはサッパリだったけれど、暇を持て余して眺めていたら興味深いモノに気が付いたのよ。
「見ていただきたいのは書の中ほどにある―――この地図ですわ。こちら、この付近一帯の地形に酷似していると思いませんこと?」
「…………確かに」
鋭い眼差しを紙面に滑らせ、僅かの思案の後に彼女はそう頷いた。
……偵察や探知に長けた冒険者だと聞いてはいたけれど、こんな地図から断言出来るものなの?
それこそ
「では、この地図に付けられた印は……」
「ええ、これは、その…………い、いわゆる『宝の地図』ではないかと思うのよっ」
言い切ってしまった後で、顔が熱くなってくる。
うぅ……誰よ!? 冒険者ならこんな適当な言い分でも高揚してくれる、なんて考えたのは!?
……そんな目で私を見るのは止めなさい、フォーク。分かってるからぁ……。
「すると、ご依頼の内容は……宝探し、ですか?」
「…………ええ、そうなるわ」
「……その場合、依頼の報酬はどのようになるのでしょうか?」
何だか視線に微笑ましいものを見るような温度が含まれるようになったような……。
思ったより、気を悪くされていないようで何よりだと、今はそう思うしかない。
それだけに、これから自分が言う事を聞いてもこの調子のままでいてくれるか既に胃がキリキリ痛んでしかたないのだけれど……
ええい、今更空手形は切れないのよ! 腹を括りなさいっ、サラ=クリィサム!
「……宝の有無の保証は無いので、地図に示された場所を調べていただければ依頼達成と見做し、その旨をギルドに報告します。もしも宝物が見つかったならば、その換金額を試算した上で半額を報酬として支払いますわ」
───要約すると「ただ働きしろ。もし宝が出たら山分けな」だ。
提示してしまった今になって、湧き上がっていた逡巡が罪悪感になって身の内を駆け巡る。
どう転んでもこっちの懐は痛まない……何とも『貴族らしい』言い分じゃないか。
相手が凡百の冒険者だったなら、そこまで意図を読まれる心配は薄い。
そもそも貴族からの依頼をこなした、という実績だけでも十分な報酬となるのだから、そこまで不平等な申し出でもない筈なのよ?
…………相手にとって『それ』が利益足り得るという前提あってのものなんだけども。
「…………」
案の定、目の前の冒険者はパチパチと目を瞬かせ、口を引き結んでしまった。
胃液が昇るような緊張の中、目の端で確認したフォークの顔色も悪い。
在野の冒険者への依頼としては、大枠を外れているとされる程ではない筈で。
けれど推定される彼女の出自からすれば、礼を失していると判断されても仕方の無いライン。
この方がどちらの
……下手をすれば、家にまで累が及ぶ可能性も―――い、いえ流石にそれは無いわよね?
あちらもどんな形にせよ冒険者という立場を使っているのだもの! 気を悪くされたとしても、相応の範囲に収めてくれるわよね!? ……ちょっと、フォーク? そこで目を逸らさないで!?
「―――分かりました。その内容で依頼をお受けします」
思考に沈んでいた表情―――怖いほど動きが見えなかった―――を失礼に当たらないギリギリの範囲で凝視する時間を終わらせたのは、不意に浮かんだ微笑みだった。
……その笑みが、どこか喜悦を含んでいたように見えたのは、きっと私の願望のせいだろう。
この後自分が何を言って、どんな話をしてこのお茶会を締めたのか、後から思い起こそうにも、まるで記憶に残っていなかったほどなのだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
―――これから貴族相手の依頼を受ける、ということを理由に、何故か私が礼儀作法についての教示をお願いされたのが数日前。
まあ『私』の記憶を引っ張り出せば何とかなるか、と講義の一つもしようかという矢先、宿宛にお茶会の誘いを送りつけられ、ユズちゃんあわや卒倒。
結果「背に腹は代えられません!」と即座に『緊急事態』を宣言し、全身の操作権を渡してくる彼女の姿がありましたとさ。……それでいいのかユズちゃんや。
かくして『私』こと、ヤーネ=スペクハイド嬢を模倣した私が、ユズちゃんの身体を動かす形で今回は対応することに。
毎回
あ、ちなみに『私』ってば伯爵令嬢だったよ。それにしては質素な生活してたけど。
内情は火の車でも外面では舐められないように金を掛けずに張れる見栄は徹底していた『私』。
その立ち居振る舞いは教師役の家人に手放しで褒められる程だったみたい。……スゲーなぁ。
更にダメ押しとして、以前も使わせていただいた古の女王様の経験も倍プッシュ!
マナー云々は文化が違うんで参考にはならんけど、見る者に響くカリスマ的所作は流用が利く。
あちらにしてみれば興味か戯れか、いち冒険者をお茶会に誘ったはずが、やたらと完璧な作法と溢れる
男爵令嬢とその護衛……側仕え? の両名から結構な霊力源を回収できたのがその証左だ。
私的にも、私の記憶にあるわけではないのに慣れ親しんだかのごとく優雅に身体が動かせるのはなかなか新鮮な感覚だったねぇ。
…………ますます『私』=私の魂共通説が怪しくなってきたんだけども。
ま、まあ環境が人をつくるって言葉もあるし、多少はね?
《―――さて、とりあえずは乗り切ったわけだがユズちゃんや。お茶会の最中に私が言ったことはどのぐらい覚えられたかな?》
「ええと……指先まで意識を切らさず、一つ一つの動作を急がず優雅に。それから―――」
そしてただ私が操縦するだけというのも勿体無いので、『私』モードで応対しつつも各人の動作および発言について、都度【念話】にて解説しておりました。
いやはや、見ようによっては非常に贅沢な授業だったかもわからんねー。
《……ふふっ》
「レイン?」
《どーよ? 私を相棒にしてて良かったっしょ? 感謝したっしょ?》
「……っ! はい、とても!」
虚を突かれたように目を見開いたユズちゃんだったが、一拍置いて満点の笑顔で頷いてくれた。
いつもは困ったような苦笑なことが多いだけに感慨も深い……というかどんだけ貴族との応対が辛かったのよ、君?
《―――んで、依頼についてだけど……これまた驚いたよねえ》
「……そうですね」
冒険者的には主題はそっちだったわけだが、これが微妙に悩ましいものであった。
受ける受けないは報酬を聞いたあの瞬間に軽く相談して、返答してあるわけだが―――
「レイン、この印の場所って……」
《うん、間違いないね》
件の男爵令嬢がどこかから手に入れたという(推定)宝の地図。
そこに記された印が指す場所を理解したとき、私達も少なからず仰天させられていた。
「《―――
おそらくあわよくば、或いはまず無いだろうけど―――という淡い期待のもと出したと思われる男爵令嬢の『宝探し依頼』は、まさかまさかの大当たり。
その場所に未だ金銀財宝が唸るほど残されていることを、他ならぬ私達がよぉく知っている。
まさにあのお嬢様は奇跡に奇跡を重ねた『当たりクジ』を見事に引き当てたというわけだ。
「……貴族の方々なら、あの
《……一般人より何とかなりそうなのは間違いない》
しかし一方で、むぅ、と懊悩するユズちゃんの姿。どうもあのお嬢様に思う所があるらしい。
提示された報酬というか、提示の仕方その他諸々に引っかかっているような節が出ている。
《地図という貢献からすれば、分け前半分ってのも暴利ではなくない?》
「……確かに損は無いとは思うんですよ。だからあの時も賛成は、しましたし。ただ……」
《ああ、まあ冒険者を歓待してみせて断りにくくするとか、わりと姑息な事はしてるよね》
「ええ……それに、もしこの依頼をわたし達以外が受けてしまったら……」
《あー……すし詰めデストラップ群に美味しくいただかれるかもねぇ》
再びむむむ、と唸るユズちゃん。……まあ、その心中は察せなくもない。
もともと財宝は自分にはとても扱いきれない代物ばかりだったし、分ける事は構わない。
断ることで別の誰かが
しかしあんな、「
《……ユーズちゃん?》
「っ、レイン?」
……私も
《あの場で出されたお茶とお菓子、覚えてる?》
「え? あ、はい……緊張して味は分からなかったですけど」
《あの状態でも!? 味覚は共有してたやん!? ……ま、まあいいや。アレの事なんだけどさ》
あれは『私』にとって非常に懐かしい味だった。なんせ
……愛飲、じゃないよ? 質素倹約を大前提に、外面を最大限繕っていた『私』が
《あのお茶ねぇ……貴族令嬢が愛飲してると言い張れるギリッギリの格で、一番安いヤツなんよ》
「え……?」
ユズちゃんの顔が困惑に染まる。
そんな彼女に畳みかけるように、私はあの場で見付けた
《お茶菓子の方も同様ね。日持ちがして、嵩張らなくて、『愛用』でギリ通る。そんでまとめ買いにも対応してくれる良いお店だったなぁ……》
「っ、レイン……それって……」
《付き人が女性一人だけだったってのも地味にヤバイ。普通はハッタリの利く護衛を一人か二人はつけるもんよ?》
「それは、その……奥に控えていたのでは?」
《そんなのが居たならそう伝えてるよ。あの令嬢一行があの二人だけなのは『探知』済み》
「…………」
……私が何を言わんとしているか、ユズちゃんも既に何となく察したのだろう。
けれど自身の常識が揺らぐというか、まさかそんなという表情を浮かべていらっしゃる。
《……貴族ならば裕福、ではないのだよ。けど周りからの視線に対しては、常に
そうだよね、『私』?
ユズちゃん「ふえぇ……助けてレイン!」
レインさん「えぇ……ヘルプだ『私』達!」
ヤーネさん「伯爵令嬢(故)にお任せ☆」
古の女王様「出番かの?」
サラお嬢様「絶対どっかの高位貴族家出身やんこのひとぉ……(白目)」
というわけでメイン……を張る予定までは現状無いサブキャラ、サラ=クリィサム嬢登場。
実は草案段階のユズちゃん没ネームの再利用だったり。
クリィサムは chrysanthemum (英語で菊)から。
何故菊? と思った方は「サラ 菊 怪談」で検索してみると笑顔になれるかも。
登場人物をそういう感じの名前で固めようかと思っていた時期もあったのです。