これって転生に入りますか?   作:非単一三角形

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 視点戻ります。またちょっと短め。



C3-9 お買い物

 

 ―――急遽招かれたお茶会にて全力出して男爵令嬢をビビらせた結果、その護衛に就いて王都に行くことになっていた。

 ……何を言っているのかわからねーと思うが私も何を以下略。

 

 

 私達が女王様の墓所(デストラップダンジョン)から持ち帰った財宝は、やはり男爵家にとってもかなりの大事(おおごと)だったようで―――というか領地との手紙のやり取りを盗み見た限り、上を下への大騒ぎを起こしたらしく。

 手紙の最後に、悩み倒したような崩れた筆跡で娘へと送られた「よくやった」の一文が、彼女の御父様こと男爵様の複雑な心情を如実に物語っていたといえるだろう。

 

 サラ嬢もまた届いた手紙を読みながら青ざめたり赤くなったり涙ぐんだりと、実に情緒不安定な様を見せていた。……見ているのは側仕えさん(と私)だけだったが。

 まあ、この父娘の間でどんなやり取りがされようと、払うもん払ってくれるならこちらとしてはどうでもよかったんだけども……問題になったのが専属護衛とやらの打診だ。

 

 

 時期がくれば学園に戻るべく王都へ向かうことになる彼女達は、当然その道程に護衛を雇う。

 また将来的な解決の目は見えようとも、今現在用意できる金額にはそれなりに制限がある以上、そこそこの腕の冒険者―――例えばDランクとか―――を見繕うのは自然な流れである。

 ……しかし今回、私達に求められた役目は()()だけではなかった。

 

 聞くと、王都の学園では一人から二人程度の護衛を連れて行動することを()()しているとのことなのだが、どうもクリィサム家は入学の際に丁度良い人材を用意できなかったのだとか。

 ……お茶会にて給仕を務めていたフォークさんが腕利きだったりはしないらしい。具体的には、有事の際にお嬢様を抱えて逃げるのが精一杯とのこと。

 勿論側仕えとしては、さんじゅ……ごにょごにょ歳の大ベテランだそうだが。

 

 

 あくまで『推奨』であり、高位貴族の令嬢令息の中にはフォークさんのような見た目のいわゆる『仕事人』を傍に付けている者もいるので誤魔化しは利くが……できればちゃんと腕の立つ人材を手配したい―――というのが、盗み見で知り得たあちらの事情で。

 

 話し合いの場で提示されたのは、こちらの『債権者』の立場と支払い期限の条件から、サラ嬢に同行できるのは都合が良い―――のではないですか? という『お伺い』であった。

 ……なんかもう、どっちの立場が……とか言い出したら野暮だね、こりゃ。

 

 

 ちなみに『私』+女王様コンボを使って応対したのはあの一回きりである。

 あれは『お茶会』に誘われたからであって、冒険者としての素の対応とは別なのでね。

 あちらもその方がありがたかったのだろう。連絡と打診に訪れた際、初めてギルドで会った時の振る舞いに戻っていたユズちゃんに安堵を隠せていなかった。お二人とも。

 

 申し出に関しても、元から王都には立ち寄るつもりだったからと微笑んで快諾したユズちゃん。

 貴族様の誘いに卒倒しかけてたあの頃からは、信じられない成長振りですなー。

 

「……レインのお陰で色々見えてきましたからね。一口に貴族と言ってもその言動は色々と理由があったんだなあ、とか」

《あー……でも一般イメージ通りの貴族も居るには居るからね?》

 

「それは勿論分かってますよ? でも、その……やっぱり、同じ人間なんだなあというか……」

《……そっか》

 

 まあその間にも何度かあった話し合いの場では都度『私』による解説を入れていたし、そのうちあちらも取り繕っていても仕方ないと思い始めたのか、貴族の仮面微笑を緩ませてきていたしね。

 

 男爵様からの沙汰が届き、諸々の対応が本決定される頃には知人友人という風情で会話ができるぐらいの仲になっていたのはお互いにとって幸いというべきだろう。今後の仕事内容を考えるに。

 

 

 ―――あ、そうそう、手紙の盗み見にて発覚した『ユズちゃん他国の貴族説』については、私はなーんにも言ってません。

 これについて当人に伝えるかべきか否か、じっくり十秒ほど考えて保留を選択致しました。

 

 ……いやほら、あちらさん本当に何も言わないし聞いてこないしで、伝えても寝耳に水かなと。

 勿論、そっちの方が面白そう、と判断したのは否定しないがな!

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

《―――そんでここは……いわゆる蚤の市ってやつかな?》

「王都に一番近い街というだけあって、結構な賑わいですね」

 

 クリィサム家の紋付き馬車に乗って山間の街ミイグルを発ち、数日。

 辿り着いたのは、これまで私が見てきた中でも一際喧噪激しき商業の街シワヒであった。

 

 ……え、道中? そりゃ平和なもんだったよ?

 そもそも王都近郊の街道で、そうそう事件が起きるわけないじゃないっすか。やだなあ。

 

 

 街の中央を縦断する大きな通りの両側を、所狭しと軒を連ねる露店達。

 宣伝呼び込みの声を高く張り上げる人間の姿もあれば、積み上げた商品の影で「好きに見ろ」とばかりに間口を広げる店の姿も。

 

 向こうの世界の駅前商店街の雰囲気まんまやなー。……あ、でも冒険者用の武具とか魔道具とか並べてるとこあるわ。あの辺の一角だけはわりとファンタジーしとるね。

 

 

「―――さあ、この街に来たからには掘り出し物を探しますわよ、ユズ様!」

「ふふ……ええ、お供しますね、サラ様」

 

 今晩の宿の手配を側仕えに任せ、意気揚々と市場に繰り出すはサラお嬢様。

 肩を竦めるフォークさんと一瞬の目配せの後、微笑みと共にその傍らに付くユズちゃん。

 ひと月程の付き合いですが、すっかり慣れたようで何よりです。しかしテンション高いなー。

 

「(件の古文書を手に入れたのも、こういう露店でのことだったそうですから無意識の内に期待が高まっているんじゃないでしょうか)」

 

 さもありなん。

 とはいえ幾らテンプレ世界ったって、そんな出会いがそうそうあるとも思えんけどね。

 

 

 

 

「―――こっちはごく普通の地図。こちらは……ああ、どなたかの日記ですわね」

「そんなのいったいどういう経緯で売り物に……?」

《……落とし物拾ったとか? いや知らないけど》

 

 

「―――魔法スキル用の杖……私には縁の無い代物ですわね……はぁ」

《ほうほう普通の杖ってこんな感じかー……うむ、違いが分からん!》

「…………」

 

 

「―――普通に綺麗な首飾り、ですわね」

「……普通に綺麗な首飾り、ですね」

《イヤ君ら首飾りに引っ張られ過ぎじゃない?》

 

 

 そうして始まった二人の異世界版ウィンドウショッピング(ガラス板(ショーウィンドウ)は無い)。

 いやしかし貴族のお嬢様のお買い物というと、もっと次々荷物が増えてくもんだと勝手に思ってたけど、本当に商品を見て歩いとるだけやね、この二人。

 

 まあ領地の経済状態が急に上向きになったからといって財布の紐が急激に緩んだりはしないか。

 ……にしても、ここだけ切り取ると普通にショッピング中の女友達やね。

 

 

「―――あ、これ隣の領地で作られている絹織物ですわ」

「わぁ、綺麗ですね……手触りも良いですし、とても丈夫そうです」

《ほほう、こんなのがあるということは養蚕を確立してる場所があるわけだ》

 

 

「これが元はモンスターの吐いた糸だとはとても思えませんわね」

《……えっ》

「ええ……しかもかなり凶暴なモンスターなんですよね」

 

 

「あら、ユズ様は戦った経験がおありなんですの?」

「はい、以前依頼で……その時は冒険者十数人で挑みましたけど、大変な仕事でしたよ」

《えっ……あれコレ、マジで言ってる……?》

 

「普段は繭に籠り獲物が通りがかるのを待っているので近付かなければ無害なんですが……目的がその繭糸であって逆に討伐してはならない相手なので、複数人で足止めしている間に繭を回収する必要が……しかもこれだけ丈夫な糸を吐くだけあって、本体の頑強さも尋常ではなく……」

「まあ、そんなに……」

《…………》

 

 

 …………なにそれ私の知ってる蚕業と違───いや、うん、何でもない。

 最近、本当にカルチャーショックってのを感じてばっかだなぁ……。

 

 

 

 

「───そちらのお嬢様方。指輪に興味はありませんか?」

 

「え?」

「あら?」

 

 そのありふれた呼び掛けが発されたのは、居並ぶ露店の一つ。

 そこには広げた布の上に並べられた幾つもの指輪を前に座り込む、小綺麗な男の姿があった。

 

 

「お勧めはこちらの宝石をあしらった指輪ですよ」

「あら……綺麗な宝石ね」

「綺麗な宝石ですね」

 

 

「お二方によくお似合いと思いますよ」

「そうねえ、私によく似合いそうだわ」

「そうですね、わたしによく似合いそう……あ」

 

 

「…………」

「…………えと」

「……おやおや?」

 

 

「お、お譲りしますわっ」

「い、いえいえこちらこそ……」

「ふむ? 失礼ですが、お二方の関係は……」

 

 

 

 

「実質的な立場はユズ様の方が上ですわ!」

「わたしは只の冒険者ですよ! サラ様は男爵令嬢なんですから!」

 

「…………なるほど。では───」

 

 

 

 

「ではこちらを頂いていきますわね。……行きましょうか」

「ええ、よくお似合いですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………え、ちょ、何? 何が起きたの? 急に揃って黙り込んじゃったと思ったら……それに頂いていくってその指輪……ちょ、ちょっとお二人さん? お二人さーんっ!?

 





 言うまでもないですが主人公(レインさん)視点です。さてはて?
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