本章初の主人公視点。
ちょっぴりいつもと違うレインさんをどうぞ。
《───おっかしいとは、思ってたんだよねえ》
壁の向こう、押し流した水流の先にあったそこは、無人の教室。
《幾ら何でも、現地人の皆さんの思考おかしくない? って》
《まるで、テンプレを実現するためにあるみたいだなー、なんて》
《それこそ、ほら……賢い設定のキャラ作るために、周りの知能指数下げました的な、さ?》
言いながら、あんまり良い表現じゃないなあなんて思いつつ、
《……折角転生するなら、お嬢様になりたい。……これは分かる。スゲー分かる》
《特別な魔法とか、特殊な力とか欲しい。……激しく同意する。現代人の哀しき
《愛されお嬢様的な、ちやほやされる立ち位置になりたい。……まあ、分かる。折角だもんね》
ちょいちょい自分の古傷なんかも突っつきつつ……しっとり濡鼠で転がる
《転生させてもらったこの世界、なんだかゲームの世界みたいだなあ。……まあまあ分かる。割とそういうとこあるよね、この世界》
《貴族令嬢に転生したし……あれ、コレって乙女ゲーみたいじゃね? ……ギリ理解出来る》
《よっしゃ、乙女ゲーに見立てて逆ハーレム作ったろ! ……セーフ寄りのアウトかなぁ、既に》
やがて辿り着くは、私を盛大に泳ぐ目で見上げる
そこから一度、膝立ちで腰を落とし───目一杯力を込めて、その胸倉を掴み上げた。
《乙女ゲーには悪役も必要だよね! よーし、適当な女の子に『悪役令嬢』やってもらっちゃお☆ ───それは分からねえよ》
……まあ、なんだ。
手に入れた力でどうこうしようってのは、そいつの勝手だよ。基本的には。
その力ってのが自分で培ったモノか他から与えられた代物かで心象は変わってくるだろうけど、そこに関しては私も
けど、どっかで線引きは必要だろうよ。
他人に迷惑をかけない、とか。
人の嫌がることはしません、とか。
小学生の道徳の授業で出るような題目ぐらいしか、私も明示出来やしないけども。
どっからがアウトで、どこまでがセーフ? ……そんなの私にゃ分からんさ。
あんたがやってきたことを、セーフという奴も居るだろう。
私がやってきたことだって、アウトと言われたなら仕方ない。
勿論私は反論するさ。誰からどう言われようと、私の中でアウトな行為はしていないってね。
……あんただって、そうだろ? 自分の中ではセーフだから、やってきたんだろ? 今まで。
…………おい。なあ、目ぇ逸らすなよ。
じゃあ、何か?
この世界の人達の事を、ちゃんと『人間』だと───『
ちゃんと
ははっ、そりゃあいいね! 私もわざわざ使い古されたSEKKYOをしなくてよくなるよ!
……ぁん? いつの間に? いつからそれを?
壁に耳あり障子に目ありって知らない? つまりはそういうことよ。
まあ、私も即座に結論が出たわけじゃあないけどね?
最初も最初の時点で分かったのは、あの婚約破棄騒動の裏側に居たのが、まさかの子爵令嬢ってことぐらいだったし。
真の狙いが『悪役令嬢ざまぁテンプレ』を実現したいから、だとか。
あの時の彼も含めて『逆ハーレム成立の第一歩』とか。
そんなあんたの『野望』……野望? が分かったのは、もうちょい先の話だぁよ。
その『野望』を実現させるべく───いや、その原動力になったらしい『力』についてもね。
《───
周囲に
実際の詳細はさておき、
……いやぁ、おっどろいたんだよ? こればっかりは本当に。
まさか盗み聞きに入った御令嬢の部屋で、「自分は神様に選ばれたんだ」だの「私はこの舞台の主役なのに」なんて呟きを聞く事になるとはねぇ。
やっべコレ本物だ。モノホンの
後にあんたの『力』ってのが見えてきた辺りでようやく、そのときは
ま、私という
その『力』について、もうちょい真面目に考えるなら……まあ認識改変の極みって感じ?
対象にした人間の思考やら、感情やら、常識───まあとにかく、あんたが「やって欲しい」と思った行動を取るように認識を変える。そんな趣きの何某でしょ。
本来のその人なら絶対にありえないような行動を取らせることも可能。
その代わりと言うべきか、周りから違和感を指摘されると効果がリセットされる。
そこで本命は勿論、周囲の人間にも違和感に気付けないって程度の改変を施していた───と、まあこんなとこ? ……当たらずしも遠からずみたいね、その様子だと。
ところが何ぁ故かそれが効かない人間が紛れ込んでいて、ついでとばかりに『改変』を一斉解除されちゃったもんだから大いに焦ったってわけだ。まあ分からんでもないよ、そう思えば。
何とかして
…………困ったのはそこからの行動がとにかく意味不明だったことだよ。
あんなくっだらないこと続けて何がどうなると思ったんよ? 小学生じゃあるまいし。
それで、もしかしてと思ったんだけどさぁ……あんた、さては
あんな悪ガキじみた発想、その手の不愉快な
バカは死ななきゃなんとやら……ってのもアテになんないんだねぇ。ハァ、やだやだ。
……自分が何してようが、お前には関係ないだろ? だーからさっきからそう言ってんじゃん。
私は聖人でもなきゃケーサツでもない。ああ、一応言うけど神様が遣わした『お仕置きキャラ』とかでもないよ? 勿論。
現地人巻き込んでどうこう……ってのに顔をしかめはしてても、こっちに『実害』が出ない限り何をする気だってなかったさ。
《けど、あんたさぁ…………私の
───声を潜めて会話するのが面倒だからと、【念話】の為に逐一【憑依】していたから。
あの学園内の人間の中で、ユズちゃん唯一人がこいつの(推定)転生特典───認識改変能力を防げていた理由が、ソレだ。
それが証拠に、ちょっと人目が無いからと憑依抜きの会話をしていただけで……
つまりこいつずっと、ずぅっっとユズちゃんの認識を書き換えようと……駒に仕立て上げる気で『攻撃』し続けてたわけですよ。……そら私かてキレますわ。キレさせていただきますわ。
先にそっちからやられたから、やり返した。
人を撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ。
色々御託は並べたけども、結局私が言いたいのはそんだけよ。
……うん、そうそう。こっちの主張はこれで一通り。
というわけで、さあ、そこの濡鼠さん?
反論が、あるなら、どぞ?
《……し……知ら、ないわよ……》
《あ……あたしの他に『プレイヤー』が居たなんて聞いてないもの!》
《そ、それにこの『力』は神様が……そう、そうよ! 神様がくれたからには、この使い方だって『仕様』の内よ! あたしは何も悪くない!》
《他にプレイヤーが居ると知ってればあたしだって……というか! いったいこれは何なのよ!? あんた、あたしに何をしたの!? あんたの友達に絡んだことなら後で謝ってやるから、さっさとあたしをあたしの身体に戻しなさ───》
《イヤお前の身体じゃねェだろ。あの子爵令嬢ちゃんの身体やろがい》
推定『憑依型』転生者。……公爵令嬢さんの言葉も加味するに、おそらく割と最近の。
それ自体についての是非は私が論ずるようなことじゃないけどさぁ。せめてもうちょっと身体の持ち主に敬意とかないんか、お主?
……許可を得て身体を動かすのだって、割と緊張するんやぞ?
うっかり怪我でもさせたらどうしようとか、ちょっとでも考えたりせんもん?
逐次相談しながらでもそれなのに……意識まで乗っ取ってソレってお前ェ……。
しかもプレイヤーだの、神様のせいだの……お前、人の話聞いてた?
何? 現地人だって生きた人間なんやぞ、とか、やっぱ古臭い説教せなアカン流れなん?
死んでも死にきれなくて、僅かな思い出を糧に擦り減る様に存在し続けた女の子の話とか!
自責の念と責任感で、地獄も地獄な数千年を乗り越えた女傑の話とか!
そんなん私の口から拙く語るだけ興醒めだろうが、バカヤロー!
《あぁー…………もういい。もう分かった。あんたをどうしてやろうか、腹ぁ決めたよ、私は》
《……っ、な、何よ!? これ以上あたしに何する気!?》
《んー、これ以上、ね。そこは、ちょぉっとあんたにも意見聞きたいとこなんだけどさぁ?》
《い、意見……?》
握ったままの胸倉───私のそれにも似たどこぞの制服に力を加えながら、問いかける。
《身体から抜け出ちゃった憑依転生者。これってさ───
《…………は?》
……大丈夫。
イケるイケる。
今こそ『やってみたら出来ちゃう』の本領発揮の機会やぞ、我がパ○プンテボディよ。
《身体から抜け出しちゃった彷徨う魂。……まあ『生霊』でも良いよ? 判定としては『幽霊』にギリ入るっぽかったし。……あんたは知らんだろうけどさ》
《な……何なの、あんた……? さっきから何を言って───》
そいつの言葉は、そこで途切れた。
端から視界に
忽ち真っ青になった顔が向いた先は、自身の胸元。
目の前に居る私のことすらも意識から外して、そいつは、叫ぶ。
《Rogamusあ……ぇ、Aptansあ───!!?》
けれどその叫びは、
そいつの声とは確実に無関係な、彼方から響く無機質な音に。
生きた虫の如く体表を滑る───
《お、まAptans……っ!? なん、なのよコCurritレ!??》
埋め尽くす。
這いまわる。
言葉に表すならばそんな表現となるだろう、悍ましくもどこか神々しい光景。
《あんたいったSolinsenondoletい、あたしに、何を───ッ!?》
怖いのだろう。
恐ろしいのだろう。
先に何が待つかも分からぬ怯えに、震える口より絞り出されるは縋るような問いかけ。
不遜な態度も傲慢な物言いも、砂の如く崩れ去ったその様を前に、私は、答えてやった。
《…………ごめん、わかんない。ナニコレ?》
《はァ!??》
……いやぁ、その、なんていうか……
なんかこう、イイ感じに神様のとこに送り返せないかなー、ぐらいのノリだったというか……え、マジで何コレ? 何が起きてんの?
私の手から……というか、
うわ、ちょ、待っ……腕だけじゃねぇ!? 足から頬から……なにこれなにこれなにこれ!?
《自分でやっといて分かEaresattingerepotestんないってあんたそんSalinsenondoletな無責任Argentiinsenondolet……こらぁ!?》
ええ、はい! おっしゃる通りですね、こればっかりは!?
う、うおお……何だこの今までに無い盛大なバグり方は……!?
……あれか? やっぱ憑依転生者の魂を幽霊扱いは無茶振りが過ぎたか?
イヤ、でも、出来んなら出来んでいいからもうちょっとささやかに主張してくれんかなぁ!?
何この心臓に悪すぎる絵面!? 私今どーなってんのコレェ!?
《こ、こんなわけわかFaciemsuaminsuperficieaquaeponerepotest》
《やり直しをようきゅMarcamnigramrelinquerepotestinquacumqueretetigerit》
《聞いてるのかこのNotaenigraeinfaciesvertipossunt》
お、おおぅ……もう何も言えてねえよ、あいつ。文字列さん達の殺意が高過ぎる……。
いやしかしこれ私も傍観してるわけにいかんぞ。こうしてる間にも身体がどんどん解けていくというか……とにかくどうにかして元に戻さんと───
…………。
……あれ?
なんだろう、見た目めっちゃショッキング映像垂れ流しなのに……
絵面はホント……手から脚から胸から糸が解けるみたいに文字列が飛び出して、虫食いみたいにボコボコ身体に穴開いていってるんだけど……だからといって痛みとかあるわけじゃないし。
めちゃくちゃ驚きはしたけども……うん、なんだろう、
始めは
無茶振り染みた『やれるかな?』に、このトンチキボディが応えてる最中なんだわ、コレ。
……それにしたってもうちょっと見せようがないのかと言いたくはなるけども。
Petitio tua accepta est.
……ぅおっと?
いや、違うぞコレ、
ま、まあ冗談はともかくとして、これは───
《……っ!》
《なSutraslegiturapudmonachos,quoddoletdesuoっ!?》
……何かに引っ張られてる? しかもどうやら、あいつも一緒か。
さっきの文字列……いや
《あ、あんた今度は何をSacraeresinsenondolet》
《まあ、そう騒ぎなさんなって。……多分、あんたもお望みの所じゃないかな?》
《はぁ!? 望みってEasomniorumimpedirepotest》
《いやいや、私も割と同感ではあったんよ? ……あんたが貰った『力』についてとかさ》
まあそれ以前に……
何が決定的な切っ掛けになったとかは分からんけど、機会が得られそうなのは良い事だ。
《とにかく一緒に
Salve.
Carus {n[nuUrit[n[.
.
.
.
Hello.
Dear {n[nu Urit[n[.
.
.
.
Dear
Amami Itoyama.
おまけコーナー:作中に登場した固有名詞の由来紹介 ~キャラ名編(C3~)~
・ラビ(C3-1~6 生霊系ラブコメ男子)
ラブコメ → Love → ラビ。ちょっぴり
・サラ=クリィサム(C3-7~ ヒキがヤバイ系男爵令嬢)
C3-7後書き参照。
・フォーク(C3-7~ ハリボテ系側仕え)
皿といえばフォークやろ。
・ディッシュ=クリィサム(C3-8 幸運といえば幸運系男爵)
dish = 皿(英語)。
・ロクシーヌ=プルーヴァ(C4-1~ 婚約破棄られ系公爵令嬢)
C4-1後書き参照。
・エモン(C4-1 真実の愛系出オチ男)
公爵令嬢さんと由来は同じ。(い)エモン。
・ファルファ・ティーグ(C4-3~ 憑りつかれ系子爵令嬢)
fowl fatigue → 鳥 疲労 → とり つかれる → 憑りつかれる。