『少ない毛』と書いて、『
この漢字を考えた人は紛れもない天才であり且つ天才的なドSだなと見るたびに思います。
「───依頼達成を確認いたしました。こちらが報酬となります。……ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします」
「はい、それでは。……(行きましょう、レイン)」
《あいさー》
幽霊(てんこ盛りだった)船との遭遇から数日後。
そこには通過するだけの予定だった宿場町のギルドにて、冒険者の仕事に精を出すユズちゃんの姿がありましたとさ。
先日までは賑わっていたギルド内も今日は割と閑散……まあ、それもそのはず。
ここは(凡そ)月に一度の定期便により人口密度が大きな波を描く港町(海ではなく河だが)、着港直前から当日および翌々日ぐらいが最大、そこを過ぎた今が逆に最も低い時期というわけだ。
そんな過疎気味の施設内に、気怠くたむろする同業者の視線を背中に浴びつつ、
……いやあ、今更あんな
「(仕方ありませんよ。他に受けられる依頼も無かったですし……地元の方の迷惑にならないかも事前に確認しましたから)」
《ならいっそ休暇にすれば良いではないかとレインさんは思うのですよ。こんの
さてそんな中、本日は町外れの森にて軽ーく『薬草採集』をこなしてきたユズちゃんなのです。
私の冗談めかした弄りも、にっこり受け流し。奉仕の喜びを知りやがって……
……実際、他に受けられる依頼が無かったのも確かなんだ。
何せ今存在する彼女のランク相応な依頼というと、河向こうから来た商会の護衛とか……総じて町から離れる依頼ばっかりだったからねえ。
とはいえ、それも考えてみれば当たり前の話。
定期便が停まって、発っていった直後の現在。生じる人の流れは
これがもう何日か前だったなら、逆に船に乗る人間に同行する系の依頼もあったんだろうけど、そっちを受けるには町に辿り着いた時期が遅かったんだよね。もう粗方捌けた後だったという。
《……ま、その手の依頼を受けられてたら受けられてたで、あの幽霊()船に碌な調査も出来ずに乗り込む羽目になっただろうし、何が良かったと一概には言えんけどもねー》
「(ですね。いったい何が起こるんだと怯えながら乗ることになったでしょうし……これはこれで幸運だったと思っておくべきですよ)」
《せやねー、せやせや、せやかてユズちゃんや?》
「(はいはい、何でしょう?)」
《
「(ええ、
「───っ、がぁ!?」
言うが早いか……いや【念話】に答えるが早いか、彼女が振り向き放つは鮮やかな
その健全な脚を守る防具が地面スレスレの風を切り、
「っ、ぎ……! な、何でっ……ぁあ゛……ッ!?」
「『何で』って……わたしがギルドを出たところから、ずっと尾行していましたよね? おまけにその布、顔に被せる軌道でしたが……さて、わたしは何をされるところだったんでしょうね?」
強打を貰った脚を抱えて転がり悶える男。それを分かり切った問い掛けと共に、冷たい眼差しで見下ろすはユズちゃん改め、レア個体ド
しかし、あの位置が『
───私の不思議能力が一つ、【憑依】の先に存在する【記憶の部屋】。
憑依した彼女の魂(?)を部屋の中(?)に匿う(?)ことで得られる利点は、その精神および魂への干渉遮断に加えて、彼女の肉体が見ているものとは別に働く謎視点である。
……今でも謎だらけなんだよなあ、この能力。何がどうなってこうなったのやら。使うけど。
偶然に見付かったこの能力に関して地道に検証を続けること幾星霜……まではないか。
まあとにかく、この状態のユズちゃんに見える視界が所謂三人称視点───ゲーム的に言うなら操作キャラの背中を斜め上から見下ろすアレ───に近いことまではどうにか突き止めていた。
この時点で実用性の欠片は感じつつも重なる視界に苦悩していた相棒が為、能力の調整が可能となった私が『自己啓発()』を繰り返すこと幾星霜───こっちはマジでそう言いたいぐらいには苦労したわけだが、その甲斐あってこの通り。
見事に背後から接近してくる敵を『視て』対処できるという能力にまで至りましたわけですよ、おめでとう、ありがとう! ドヤァ……
「(……この上なく感謝してるのに、その顔を見てると何故か撤回したくなるから不思議です)」
《はっはっはー、やめてくれ泣いちゃうぜ? ……まあ、真面目な話、こいつぐらいなら無くても対処できたでしょ?》
「(……否定はしません。でも……)そちらの方、ご友人を助けるつもりはないのでしょうか?」
心の中で無駄な会話に付き合ってくれつつ、苦しむ男を蹴りの追撃にて
言われて私も覗いてみれば、なんとまあ。似たような風体の男が青い顔で震えとるではないか。
……流れからして、ユズちゃんの『追加視点』には入ってたのかしらん? 私の視界とは微妙に違うからなあ、ソレ。
まさか、という顔をチラリと覗かせた男が、一瞬の硬直を経て弾かれるように顔を引っ込めた。
目に映ったのは、地面に転がり沈黙した相方と、その傍で仁王立ちする少女、というところか。
……逃避したい気持ちは分からんでもないが隠れてどうなるんだ。せめて仲間を助けようという漢気ぐらい見せられんのか、この推定人攫いなクズ男B氏がよ。
「(……出てきませんか)」
《だねえ。どうする? 女の子を狙ったゴミクズ男二人組とか、この場で処しときたいけど》
「(同感です。……お願いできますか、レイン?)」
《ん、あいよー》
ご指名いただきました、ありがとうございまーす。
それでは、どうにか見逃してもらえないかとチラチラこちらに顔を向けとるBさんよ。
もーちょっと壁に寄ってくれるかい? そうそう、そんな感じ……おーけー、そんじゃ行くぜ?
───私の
「っ、ぁわあぁッ!!?」
男の
驚き悲鳴を上げた彼の身体は、スっ転ぶに近い形で道の真ん中へとダイビング。
……ただでさえ
これぞ私が意識的に作成した幽霊っぽい能力その一、全力の【ラップ現象】!
その詳細は、『任意の物体、任意の場所から軋み音っぽい音を出す』、以上である!
……込める霊力の多寡で音量を変えたりはできる。一応。
ただ、どうもチート化防止処理さんが仕事するらしく、すぐ音量上限に引っかかるのだ。
結果的に超の付く地味能力に……まあ、どんなのでも重要なのは使いようですよ、ええ。
「ぅ、あ……く、喰らえぇ!!」
「……! っと」
往来の場へ転がって一拍、分かりやすく混乱しつつも顔を上げた男の眼に映るのは、当然ながらその隙を狙い澄まして接近してくるユズちゃんだ。
果たしてそれを認識した彼が錯乱に近い形相で選んだのは、急ぎ体勢を起こすこと……ではなく右手に握った黒い杖(?)を彼女に向けることだった。
……そう。こいつ、この身なりで魔法使いっぽいんだよね。いやあ、驚いた驚いた。
一見して魔法使いと思われなきゃ奇襲にもなり得るし、そういう意味では合理的な出で立ちとも言えるんだろう。おそらくは。
ま、私は勿論、壁向こうに籠ってた彼すら『視界内』だった彼女も把握済みなわけだけどさ。
「……へ? 避け、た……のか?」
杖の先から飛び出した白っぽい球を、ひょいと躱したユズちゃんに、ポカンと口を開ける男。
……イヤどんだけ驚いとんねん。そんなに弾速もなかったぞ?
確かに魔法名も無し……よくある『無詠唱』的なアレか? で撃ったのは凄いのかもしれんが、あれぐらいの速度で突っ込んでくる小鳥や蝙蝠サイズのモンスターなんかザラにおるがな。
そんで、そういうのをキチっと見切ってスパッと切り捨てるのが、うちのユズちゃんやぞ。
見た目で判断したならご愁傷様。Dランク冒険者の肩書は伊達じゃないのだよ。
「そ、んな…………いったい、なにも───」
地面に座り込み、右手に握った短杖を構えた姿勢のまま、たっぷり数秒呆けた男。
そんな隙だらけの首に、労なく近寄ったユズちゃんから叩きこまれるは無慈悲な一蹴り。
最後の一瞬、気を取り直したのか何やら喚こうとした男の身体が地面に沈んだ。
……うむうむ、圧倒的ではないか我が相棒は。
「……ふう」
《おつかれー》
「……うん、ありがとう、レイン」
男達が意識を失ったことを再度確認した後で、気を張っていた様子のユズちゃんが息を吐く。
労うつもりで声を掛ければ、ちょっぴり強張っていた頬を緩めて微笑みを返してくれました。
…………いやはや、いつの間にやら私も、随分と対人戦を見慣れちゃったもんだよ。
ただ普通に町を歩いていただけで、背後から大の男に襲われる……あっちじゃ考えらんねーな?
これが特段珍しい光景じゃないこの世界に生まれて、私と出会うずっと前から冒険者をしてきた彼女にとっては大したことではないんだろうけど……もし、私が幽霊()じゃない形で生きようとしていたら、果たして……なーんて、今さら考えても仕方ないか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
───人通りの少ない時期の町とはいえ、それなりには人目のあった大通り。
加えて言えば、冒険者ギルドから大した距離も無い場所での犯行(未遂)だったというわけで。
その後は私達が何かをする必要もなく、騒ぎを見た誰かの報せにて駆け付けた衛兵……警備兵? とにかく治安関係の方々により気絶したまま連行されていくクズ男共でしたとさ。どっとはらい。
……前にスリを引き渡した時にも思ったけど、国境勤務だけあって屈強そうな方々だったねえ。
よくもまあ、あんな方々の目と鼻の先で犯罪行為に走れるもんだ。ぼくにはとてもできない。
《というか、それを脇に置いても不思議な輩だったよね。大して鍛えてるわけでもなさそうなのにわざわざギルドから出てきた冒険者を狙うって……返り討ちになるとか考えんかね?》
「…………ああ、それは多分……ギルドから見ていたから、だと思いますよ?」
ほむ? どゆこと?
「わたしの見た目と今日受けていた依頼から判断したなら、登録したての
《……成程。良い仕事が無いなら雑用でも
要は、割としっかり『碌な抵抗も出来ないだろう女の子』を見定めて事に及んだというわけだ。
……うん、情状酌量の余地が微塵も無えな! いっそ清々しいレベルで!
そこでユズちゃんに当たっちゃった所は天罰覿面、ではあるけども……尾行から忍び寄るまでは慣れた雰囲気だったことからして絶対初犯じゃないよな? あ~、けったくそわりぃ。
……今日一晩は詰所的なトコの牢獄入りよな? ……毛毟り幽霊がアップを始めたようです。
「…………レイン。ちょっと今晩は頼みたいことがあるんですけど……」
《おけ把握。毟るぜー、超毟るぜー》
「え……? あっ、いえ、そうではなく」
《……んえ? ちゃうのん?》
幽霊()的嫌がらせへのGOサイン、かと思いきやストップが入りました。何故ェ。
ままま、他に優先して欲しいことがあるなら勿論そっち優先ですよ。嫌がらせはあくまで単なる嫌がらせであって、それ以上の意味や実利は全く無いのでね。
「まあ、嫌がらせについては止めませんけど……二人目の男性が持っていた短杖、でしょうか? 押収されていたあれがどうなるのか、それだけは確認しておきたいな、と」
ご注文は杖ですか?
勿論良いけど……何か気になることでもあったの?
この世界で見かける一般的な杖と比べて妙に短いんで、ちょいと変には思ってたが……携帯性を重視した一品、とかじゃないの? その分、杖としての性能が犠牲になってるとかありそうだが。
何より私に杖の性能云々を調べてと言われても全く分からんぞ。
「…………あの杖から、白い球のような攻撃が出たのは、見ましたよね?」
《え……うん、見たよ? 変わった魔法だなあ、とは思ったけど───》
「あれ、『
………………
今話に至って初めてユズちゃんの戦闘力をボンヤリ設定することにしました。遅っそい。
これまでの描写の都合上、これぐらいは出来なきゃおかしいよね、ということで結構お強く。
レインさんに出会う前から続いていた未成年少女一人旅。そりゃ不埒な男には容赦しませんよ。
Q. 斜め上から見下ろす三人称視点?
A. スーパー○リオ64のジュ○ムカメラ追加、的なイメージ。
視点切り替えとかカメラ固定とか3Dゲーム黎明期のはずなのに完成度ヤバイですよね、あれ。
また今回、第一部最終話にてシレっと登場していたレインさんの新能力、その内の一つを言及。
一応、既に描写済み能力ということで「作っておいたのさ!」という体で描きましたが、今後はどうしようかと少々悩み中です。
話の展開に合わせて「実はこんな能力も作ってました!」を繰り返すのはちょっとねぇ……