これって転生に入りますか?   作:非単一三角形

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 特に意味のない台詞を考えるのって難しい。



C5-6 騒がしき古砦

 

 

 ───え~、皆様。右手をご覧ください。

 

 あちらにけぶるように見えておりますのが、先ほど出発しました宿場町。

 けして小さな規模の町ではないのですが、この距離この高度からですと、豪商向けの豪華な宿も懐に優しい趣の宿も、同じく豆粒にしか見えませんねー。

 

 

 さて、続いては左手をご覧くださーい。

 

 これが私の左手でございmげふんげふん。……ひとりで何やってんだ私は。誰だよ皆様って。

 うむ、夜通し空を飛んでたもんだから、どうもテンションがおかしくなっておる。自制、自制。

 

 

 気を取り直して……あの小山の辺りが、警備兵に詰められたA氏がゲロった拠点の位置。

 話によると、打ち棄てられた砦を利用していたとのことだが……なんであんなとこに砦が?

 

 ……いや、国境付近に砦が建ってるのは別に何もおかしくはないのか。

 両国の関係がよろしくなって必要なくなったとか、そんな感じの背景かな? 知らんけど。

 

 

 吐いた奴さん曰く、町から砦まで片道にかかる時間は約三日。

 森を突っ切るとまでは言わないが、かつて使われていただろう道は長い年月で獣道に近い状態になってるらしいし、人の足だと確かにそんなもんだろうか。

 

 ……この距離じゃ私も、在ると知らなきゃ調べに来ることは無かっただろうね。

 もうちょっと近くにあってくれたら色々と、()()()()()()()()()()()()()んだけどねえ。

 

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 あー……まあ、アレだ。

 残念ながら……? 第二目標だった『霊能力者との接触』は()()()()()()()()やね。

 

 

 だって、ほら……居るんだもん。幽霊。

 

 それも、一人や二人ではなく───

 

 

 

 

 

《───あらおはようござ《ちょっと聞いてくださる奥さ《おい昨日の話はどう《あの子達かわいそうに《すみませんうちの人見かけま《爺さんったらまたそんな《あの野郎どこ行って《うるせえな人が折角《暇してんだろ面貸して《俺達いつまでこうして《ボクの彼女知りませ《思ってたよりあの世って騒がし《誰だ今足踏ん《ほら見て岩の中《暇だー《これも試練なのですか神よ《くわだいみょ《おい日の出見に《やはりここから離れることは出来な《最近の若いもんは《羊が十二万五千《めしはまだかいの《なあ良いだろちょっとぐら《ヒゲひっこ抜きてえ《あらかわい《今頃どうしてるかしらあの子《踏まれる足なんかねえだ《こんなに騒がし《待てよ見えないならあの子の前で《お前天才か《どいつもこいつも《三八の笹《壁の中飛ぶのも飽きてき《あいつら生贄って本気で《何故我々はこうも《いくつに見え《うるさい追いかけてくるなって《狭いよ寄るな《ネズミがそっちに《あの石なんなんだろう《俺の金が《ねえ聞いてるの《何が神様だ《向こう行けって《これはなん《どこまで《何を聞い《やだよ《星を《ここ床が割れ《やだ蜘蛛の巣が《誰だ今の───

 

 

 

 

 

 お お い よ。

 

 幾らなんでも多過ぎるわ、バカ野郎! ギッチギチじゃねえか砦の中!!

 都心の通勤電車だってここまでひどくねえわ! いやテレビ越しにしか見た事ないけども!!

 

 いやあ、まだ遠目からだと言うのに、もう耳と頭が痛くなりそうな大喧噪。

 幽霊って集まるとあんなことに……なるわけねえんだよなあ、二重三重の意味で。

 

 

 ……だがまあコレで分かったわ。あの幽霊(が一杯乗った)船を形成した『霊寄せ品(仮)』が輸入された後で何処に行ったのか。

 あの砦に一括で集められてたんだわ。だからこそ町に着くまでの道中で幽霊集団に遭遇したりもしなかったし、不自然に幽霊が集まる人里を見かけたりもなかったんだ。

 

 あの人口密度……霊口密度(?)に関しても、タイ○ニック級の大型船n隻分の乗員が一箇所に集まってると考えれば、そこまで理解できない光景というわけじゃない。直視は辛いが。

 

 生きた人間なら足の踏み場も無くなるとこだが、そこは踏む床を必要としない幽霊集団。

 頭の上から天井までの空間にだって収容可能。これが本当のデッドスペース(死人用空間)……やかましわ。

 

 

 そして判明した点が、もう一つ。

 仮称『霊寄せ品』は単に霊を引き寄せ、形を保つだけの品じゃない。どー見ても。

 

 寄せた霊を元気にするというか……騒がしくさせる効能があると見た。じゃなきゃ、あの人数があの押しくら饅頭状態で口々に喋り続けられるわけがない。各々精神状態どうなってんだよアレ。

 

 霊能力者が居ないだろうと判断したのも同じ理由。

 この距離にいる私が耳も頭もおかしくなりそうだってのに、()()()で『視える』人間が片時でも拠点として過ごせる筈がねえ。聞き流すにも限度があるわ。

 

 

 

 ……ううむ、しかし……どうすんだ、アレ。

 え、というか、私が何とかするのか? ……何とかしなきゃだよなあ。

 

 三日後だか四日後だか分からんが、近い内に冒険者向けにここを襲撃する依頼が出るわけで。

 それをユズちゃんも受ける予定でいるわけで。

 そしたら当然、彼女も他の冒険者と一緒に、()()に突入しなきゃならなくなるわけで。

 

 その場合、他人の目がある以上、成仏作業に勤しむわけにもいかんわけで。

 この喧噪の中を、いつものように何でもない振りをしなきゃならんわけで。

 

 ……そんな目に合わせるわけにはいかんわなあ。何としても。

 

 

 

 …………うん。切り替えよう。

 

 逆に考えるんだ。あれなら元々の第一目標『敵陣の把握』に関してはチリ一つの漏れなく情報を得られそうじゃないか。

 なお、精査にかかる労力は考えないものとする。……はぁ。

 

 

 …………あの中に今から入ってくのかぁ。

 

 ……すげえ熱気だなあ、オイ。いや幽霊だし熱は無いけど……

 

 よし……行くぞ。行く……ふぅ。

 

 

 

 

 ───成仏すっる人この指とーまれェ!!

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「…………む?」

 

 

 それは、夜明けの光が差し込む砦の一室。

 己の手元を注視していた男が、ふと何かに気付いたように顔を上げた。

 

 

 それは、まるで周囲を押し包んでいた何かが唐突に消え失せたかのような。

 

 それは、まるで耳朶を震わせ続けていた何かが唐突に途切れたかのような。

 

 

 風の悪戯か、はたまた虫の知らせとはこのようなものであったのか。

 そんな漫然とした思考を浮かべながら、彼は再び作業に戻るべく視線を戻し───再度、確かな音を拾った耳に、知れず眉を上げる。

 

 それは、古き砦の石床に響く規則的な足音、一人分。

 自身の元へと向かって来るそれを認識した彼は、両の手にある道具を手放し、軽く息を吐いた。

 

 

 彼の眼前にあるのは、かつて執務の類が行われていたのだろう、細かな傷が刻まれた木目の机。

 近付く音に要件を見当つけつつ、そこに鎮座させた品々を男はどこか恭しい目つきで見遣る。

 

 

 男の目に艶やかな黒色を映す、堆く積み上げられた拳半分程の石。

 男の手に先程まで握られていた、その手首から肘まで程の長さに誂えられた黒い短杖。

 男が常に手に取れる位置に置いていた、分厚い表紙に包まれた黒い()()

 

 

 

「───お目覚めでしたか、()()()

 

「うむ、何かあったかね?」

 

 

 蝶番の軋む扉を開け、入室してきた人物の呼びかけに、鷹揚に頷く教祖と呼ばれた男。

 彼の前で直立した()()()は、胸元に片手を添え、静かな声で問いに答えた。

 

 

「『御欠片』の設置を除き『儀式場』の準備が整いましてございます。後は町に向かった者達が、不足分の『巫女』を招いて戻り次第、儀式に入れるかと」

「ほお、そうであったか。いや、よくやってくれた」

 

 色良い報せに相好を崩した教祖の労いに、教団員が無言のまま一度顔を伏せる。

 やがて、下げられていたその視線が傍らの机へと注がれ───その意図に気付いた彼は、口元に蓄えた髭に暫し手を当てた後で、重々しく首肯を返した。

 

 

「つきましては、『御欠片』の設置について指示を頂きたく」

「……そうだな。これ以上は『神杖』の充填も必要あるまい」

 

 瞳に黒の輝きを映し、どこか名残惜し気に()()を見遣る教祖。

 その言外の意を受けた団員が再度頷き、懐より取り出した布を手に机へと向かう。

 

 

「……招聘した『巫女』達の様子はどうだ?」

「大事ありません。多少、暴れる者も出たようですが、『神杖』による『洗礼』にて、その者達も己の名誉ある役割を理解いたしました」

 

「ふむ、重畳重畳……では町へ行った者達が戻り次第、始めようではないか」

 

 

 ゆっくりと、恭しく、広げられた布の中へと移されていく石を、熱の籠った瞳で眺めて。

 深く皺の刻まれた顔に、四肢に朱を差しながら、教祖は何かに浮かされたように言い放つ。

 

 

 

「我らが戴きし偉大なる神───『破壊神ヴィクティーマ』様、降臨の儀を!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

《…………うっわぁ、なんかめんどくさそうな連中がめんどくさそうな事やってれらぁ……》

 





 信者が教祖を呼ぶときって、どう呼ぶんだろう? という疑問からちょっと調べましたところ、意外と宗教ごとに特色があることが分かりました。
 しかし、それらを使うと特定の宗教に紐付けるみたいになるので、シンプルに『教祖様』採用。
 ……まあ、この漢字のまま別の読み方をするパターンもあるらしいのですが(ry

 また『教典』、『経典』、『聖典』も似通った物を指しつつ微妙に差異があるようなのですが、「経」は特定宗教に繋がる危険性が、「聖」は『破壊の神』という字面に合わないということで、最もスタンダード(?)な意味を持つらしい「教」の字を起用。


 この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありませんのです(念押し)。

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