前回のあらすじ:犠牲者一同、草葉の陰で苦笑い。
経過はともかく結果には何ら寄与してないので何もしてないといえば何もしてない主人公。
こんなに地味な異世界転生者はそうそう居ないでしょうねー。
―――村を苦しめたゴブリンの群れは無事に討伐された。
群れの頭と思しき一回りでっかいゴブリンにもそれなりの苦しみを与えられたようだし、これでミナちゃん他、犠牲になった村人達も安心して眠ることが出来るだろう。
……まあ私が何かしようがしまいが、あの冒険者達が対処したんだろうし、私の自己満足以上の意味は実質無いんだけどね。
思った以上に反応が良かったけど、ゴブリンには頭髪を大事にする習性でもあるんだろうか?
いや、どっちかというと手下ゴブリンが笑っちゃったのが致命的だったのかなー。
しかし今回で自覚したが、こと偵察任務においてこの幽霊ボディはまさに反則ですな。
地形の悪さ、視界の悪さ、相手の警戒その他もろもろ余裕の全スルー。
ふわっと浮かんで空から拠点の周辺を堂々と観察、近くをうろつく奴でも見つけて堂々と背中に憑りついてれば、後は黙ってるだけで……騒ごうが何しようが拠点へご案内。
見つけた拠点に正面からこれまた堂々と入っていって、首領の枕元にハイこんにちは。
今回は天然の洞穴だったが、例えこれが文明的な家屋だったとしても同じ事。
物理的な扉や鍵をどれだけ設けようが、どれだけ訓練された監視が居ようが、私には通じない。
……そこまで来て出来ることが、
仕事を終えた冒険者達は元の護衛依頼に戻り、商人と共に再び旅路に。
その馬車には私もちゃっかり同席させてもらっている。
……心霊スポット作るにはちょっと小さすぎたからね、あの村。
まあ、それを言ったら別に人数が少なくっても私の腹具合には問題ないんだけど。
色々と想定外の状況ではあれ折角異世界に来たわけだし、そのうちひとところに留まるにしても候補になる土地をそれなりに見て回りたいって方が本音に近いかな。
―――ああ、そうだ、腹具合と言えばもう一つ。
私があの大ゴブリンに与えたのは『恐怖』というより『怒り』だったと思うんだけど、それでも私は単に恨み返しができてスカっとする気分とは別の『充足感』を得ていた。
言わずもがな、商人一行をびびらせた時と同じ、腹が満たされる感覚、だ。
この感覚にも何か名前付けた方が良いかなー。
霊力を使い切って回復するときに消耗するんだよね。……で、霊の体力ということで『霊力』と名付けたわけだから、体力の源というと……生命力?
イヤ、今の私に『生命』は無いやろ。常識的に考えて。……常識ってなんだっけ。
それじゃ霊力の源って意味で『霊力源』―――えらく高尚な響きになった気がするが仕方ない。暫定『霊力源』で。
ともかく、私が『霊力源』を得る条件はわりかし緩いということが新たに判明した。
商人さんは私が作った……んだよね? 作ったんだろう水面の顔に驚くことで成立。
冒険者達はそれを商人さんから聞くだけで成立。
あのデカゴブリンに至っては、誰があの状況を招いたなんて当ゴブリン(?)は知る由もなく、それでも引き起こされた事態に怒り狂うことで成立。
それぞれの抱いた感情が、私の『霊力源』に転化されたわけだ。
恐怖に怒りとくれば、他の感情にも条件を満たすものがあると考えたほうが自然だな。
これは色々と検証を行うべきだろう。
とはいえどうやって、という点については全くの白紙だ。
この商人さん一行をやたら実験台に使うのもどうかと思うし。
……なんか人生観変えちゃったっぽいしね。そんな高尚なノリじゃ無いっすよ商人さん。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
―――はい、というわけで今わたくし慌ただしき喧噪の真っ只中におります。
勿論、誰にも見えておりませんが。
村を出発してから数日後、進行方向の彼方に頑丈そうな外壁が見えてきたところで、冒険者達が肩の荷を下ろすように言葉を交わし合う一幕があった。
そのやり取りを聞くに、どうやらこの街―――マースルというらしい―――が今回の護衛依頼の終着点であるそうな。
彼らの様子からして、ここまでくればもう危険もないということなのだろう。
先の村と違って十分な防衛力もあるみたいだし。
そんなわけで顔馴染み(一方通行)となった商人さんご一行とは既にお別れ(一方通行)済み。
ありがとう、さようなら、また会う日まで。
……だってあの人達、門の前で止められてるんやもん。いや、別にあの一行だけが止められてるわけじゃなく、街を出入りする人間は検問を受けるってだけなんだけど。
一行曰く、検問自体は通常通り、しかしどこか普段には無い緊張感があるんだとか。
なので同じく検問待ちに並んでた方々に幽霊ボディを活かして聞き込み(盗み聞き)をしてみたものの、その原因はよく分からず。
……これから街に入ろうって人間が、その街で起きた何某を知ってるわけないわ。当然やな。
なので一足先に街の中にお邪魔いたした次第です。……検問? 外壁? なにそれ美味しいの?
冗談はさておき、私に物理的な足止めが効くわけない。ゆうれいだもの あまみ
一旦上空から街をぐるっと見渡し―――『私』曰く街の規模としてはまあまあらしい―――人がぎっしり集まっている広場のようなところを発見、着陸(?)した。
この賑わいが事件のせいなのか、はたまた普段通りなのかはまだ分からんが、それだけ人通りの多い場所なら十分な情報が集まるだろう。そう思ってやってきたわけなんだけども―――
「うええぇぇーん!! ママぁーっ!!」
……うん。果てしなく無視し辛い声が聞こえてきちゃったんだよねー。
そうだね、あっちの世界のデパートにも負けないぐらいの混雑っぷりだもんね。
親とはぐれて泣いちゃう子供の一人や二人は出てくるよね。
そんで人の喧噪ってのがまた、思ったより声を通さないんだよね。子供があらんかぎり泣いて、喚いて、叫んでても、周りには意外な程聞こえないんだこれが。
偶に近くを通った人が気付くんだけど、そういう人に限って急ぎの用事に追われてたり。
泣いてる子供を宥めるのって時間食うからね。時間と心によっぽど余裕ないとキツイ。
……さて、そこんとこ言うと私はまあ、余裕っちゃ余裕だ。特に行く当てがあるでもない。
ここが向こうの世界ならば、そして私が生きていたなら手を引いて迷子センターまで連れてってあげるぐらいのことはするところだ。名称はともかく似た場所が無くはないだろう、多分。
だがしかし、残念ながら幽霊なんだよねえ、私。
「もしもし、そこのぼく?」と話しかけたところで、相手の耳には届かないわけで。
となれば、まあ……今の私に出来る事で何か考えるしかないんだけども。
軽い物を摘んで動かす……目の前でやったらホラーでしかないな。
物を摘めるなら肩トントンぐらいは……振り返っても誰も居ない。ただのホラーだわ。
周りの壁に黒っぽい痕跡で文字を作る……ホラー系ゲームの導入かな?
水面に顔を作る……どこにあるんだよ、水面。
……少年の涙? 自分の涙に見知らぬ顔が映って動き出すとか、私でも泣いて逃げるわ。
……やっべえ、肝試し通り越して肝潰しな案しか出ないぞ、オイ。
ただでさえ心細さでわんわん泣いてる子供の心を鋸引きにする気か私は。
「ぶええぇーーっ!! びぃえぇぇーっ!!」
……どんどん泣き声が激しくなっていく。
すぐ傍に不穏な事を考えてる霊がいるから……なわけがない。……ないよね?
放置するようで心苦しいが、私に出来る事はなさそうだ。……少なくともプラス方向には。
んー……せめてもの慰めとして頭ナデナデぐらいはしていってあげるか?
今なら顔を地面に向けているし「え、誰かいた?」ぐらいの認識で済むかもしれん。
それで少しでも落ち着いてくれれば、後は自力で何とかしてくれる可能性も―――
《……うおっ、ぅ!?》
そうして彼の頭に手を触れた瞬間、何かが流れ込む感覚に息を詰まらせ仰け反った。
……何が起きた? 何か一瞬、少年の身体から青白いモノが噴き出したような―――
「…………?」
少年も何か感じるものがあったのか涙の跡の残る顔を上げ、不思議そうにきょろきょろと辺りを見回している。……私が見えているわけではないらしいけど。
いやあ良かった。なにしろ今の私、蹲る少年に触れようと膝立ちした状態から後ろに仰け反って倒れたもんで、幼気な少年の目の前で大開脚だからね。……見られてなくて良かったよマジで。
「…………」
そんな痴態を晒す私のことなど知る筈も無く、少年はゆっくりと立ち上がった。
まだ涙に濡れる眼をパチクリさせた後、幾分落ち着いた様子でポツリと呟く。
「…………もしママとはぐれちゃったら、
母親の躾の成果というやつか、逸れてしまったときにどうするかを思い出したらしい。
ぐしぐしと涙を拭い、覚束ない足取りでその場から歩き去っていった。
《…………》
そして一方、残された私も目をパチクリ。
…………いや、ていうか何だあの豹変振り。いったい私は彼に何をした?
そして何なんだ、この、心の奥に広がる不安というか恐怖というか―――
―――あれ私、今、泣いてる……?
何で急にこんな……寂しいとか、辛いとか、頭に浮かんで……っ
《……お、母さん……?》
い、いやいやいや何言ってんの、私!?
お母さん? いや、まあ、確かに結構長い事会ってない気がするけど、感覚的にはまだ一週間と少々……って、そっか。向こうで私は死んじゃったんだから、もう二度と会えないわけで……
《お、お母、ざんに……会いた、い……っ》
い、いやいやいやいやいやだから何を口走ってるのかと!?
なんでこんな息詰まらせてマジ泣きしてんの!? 顔面ぐちゃぐちゃなんだけど!?
あ、流れる涙も霊体なんですね。頬から離れる傍から光の粒になって消えてくね。
……って、そんなことより落ち着け私ーーーっ!!?
―――新しく判明した能力。取り敢えず結果から列挙しよう。
毎度おなじみ記憶の棚に、写真っぽいものが一枚増えた。
突然ガン泣きしだした私(?)が、残していったのがこれだ。
写っているのは、前世での私の家族。
どこからこんなものが……と思うが、出所なんて一つしか考えられん。私の記憶だ。
考えてみれば『私』やミナちゃんの記憶がファイリングされているのだから、私自身の記憶から同じことができても何ら不思議はない。……落ち着いた後でやろうとしても出来なかったけど。
不安と郷愁に泣き崩れる自分を、どこか一歩離れたところから宥める自分。
まるで人格が二つになった感覚、というか完全に二つになってたね、あれは。
明らかに自分のモノじゃない感情が溢れてきて、それを自分の感情で塗り直す感じ……若干同調しちゃった部分があったせいで割ときつかったよ。
それから……今回に限ってはいまいち嬉しくないが、『霊力源』が微増していた。
……初めて飢餓感を覚えたあのとき、先に気付いたのがこっちの能力だったらと思うと、寒気がしてくるね。偶然発動した水面の顔と商人さんに感謝しないとだ。色んな意味で。
次に能力の詳細としては―――直後の少年の様子を見るに、感情を奪い取った感じか?
……なにそれめっちゃ怖い。他人から感情奪い取るとか普通に悪霊やん。
いやまあ、使い方次第だとは思うんだよ? あの少年の場合は良い事した気はするし。
でもそれ以上に怖すぎる。悪霊っぽいとかを別にしても。
生まれた人格を宥めて、落ち着いて、今はもうなんともないけど……一歩間違えれば、笑い事で済まなくなるような予感がガンガンしている。これはアカン、絶対ヤバイ。
少年の感情から生まれた人格。あれは間違いなく私ではないが、明らかに少年とも別物。
言うなれば、私の魂と少年の感情が混じりあった、得体の知れない
……鎮めることができたからいいが、もし―――というのは、できれば考えたくもない。
最後に、そして一番重要なのが、この能力の発動条件だ。
今回新しくやったことと言うと……生きた人間に触った事か?
そういえば結局あの商人一行の身体には一度も触らなかったな。
デカゴブリンから毟った時に頭皮に触れた事は……あったような無かったような。
んー、触ると発動ってことでよさそう? ……結構きつくないかそれ?
できればもう二度と発動したくないんですけど。
……あ、でも、聞き込みの途中で人の身体をすり抜けたことはあったぞ?
まあ私がすり抜けたというか、歩いて来た人が私のいる空間を通っていったというか。
とりあえず、私側に触れる意思がなければ発動することは無いとみて良し?
…………結論。当該の能力の半永久的な封印を決定します。だって怖いもん。
したがって、能力発動の恐れのある『能動的な生者への接触』も厳禁とします。
確かな回避の方策が立てられるまで、疑わしい行動は取らないとするしかない。
……いやあ、参ったな。まさかここにきてこんな問題が沸いてくるとは。
私ってば結構真面目に霊力を鍛えて、そのうち
『私』をさんざんイラつかせてくれたハゲ親父の三段腹に腹パン喰らわせてやる夢がー。
これじゃ元々ハゲてる奴には無力じゃないかよー、ちくしょー。
やけに明るい地の文=彼女の心内台詞に空元気が含まれてないとは言ってない。
転生で得た能力の難点に頭を悩ます主人公。今日もテンプレノルマ踏襲ヨシ!