新連載との同時更新という暴挙。
あちらの執筆も順調なんですが、こちらの更新も止めたくはないのが本音なのです。
身体が足りねンだわ。
※今回、後書きにちょっとしたお知らせありです。
打ち切り云々等、ネガティブな報告ではありませんので、ご安心を。
「―――どうやら前回の贈り物も、思わしい成果は上げられなかったようだな」
深く、物憂げな溜息が年若き美丈夫の口から溢された。
そこは商業都市に居を構えるもう一つの顔役、『ブレイハート』家の大屋敷。
質実を兼ねた椅子に腰掛け、その端正な顔を曇らせるは主が嫡男メルクリオ。
「効能は確かな筈なのですが……なんとも、その、筋金入りですな……」
「ああ、我が愛しの君は随分と厄介な女神に愛されてしまったようだ」
そんな彼の眼前で、膝を折った小男が苦味の走った遠い目で呻き。
青年もまた、やれやれと肩を竦めて大仰に嘆く。
「まあ、仕方があるまい。これでなお足りないというなら、更なる品を集めるまでだ」
「ええ……とはいえ、残る手蔓はいよいよ乏しくなって参りましたが」
「む……」
姿勢を正した小男が、青年の言葉にどこか心許ない調子でそう答える。
それはどうやら許容しがたいものだったらしく、彼の眉には浅くない皺が刻まれた。
「これまでより更に良質な品となれば、それこそただでさえ引く手数多ですから。市場に出る前に押さえられれば話は変わりますが……」
「……その経路を今から開拓、は流石に難題に過ぎるか」
自己弁護を含めた小男の早口に、しかし青年は眉を寄せつつも鷹揚に頷いた。
納得を見せた主に声なき安堵を漏らした従者を見遣り、今一度息を吐いた彼は何かを探すような視線を自身の背後へと向ける。
その目の先に鎮座するのは、彼とよく似た面構えの男性を描いた肖像画。
薄く憧憬の色を瞳に乗せた青年は、自らの腕へと視線を動かし、小さく首を振った。
「かつて腕一本で財を成した血も、代を重ねればこの通り、か。かの御方の如く、自ら刃を振るいダンジョンを駆け抜けられたなら無用の悩みであっただろうに」
「……僭越ながら、些か特殊に過ぎる事例であるかと」
「はは、分かっているとも」
薄く、薄い未練の残滓を残したまま、青年は軽く笑って従者に応える。
そうして先祖の肖像画から目を離した彼は、深く座り直して顎に手を添えた。
「……今の時世で一貴族家が徒に強力な私兵を囲むわけにもいくまい。流通源に今から手を入れるというのは非現実的に過ぎるな」
「そもそも発見された品を提出させる法があったように記憶しておりますが?」
「ああ、そういえばそうだったな」
主と従者が、視線を合わせて乾いた笑みを浮かべる。
裏に含められた「建前は」の一言を、彼らは喉奥だけで共有した。
「まあ、実りの無い譫言はこの辺にしておこう。……それで、今回は何を持ってきた?」
「おや、見抜かれておりましたか」
「いい加減長い付き合いなのだぞ? その様子からして、随分と
「ご慧眼に矮小な我が身が竦む思いでございます」
「よせよせ。そろそろ鳥肌の一つも立ちそうだ。……部屋の前に控えさせているのが、それか?」
「ええ。今回こそは彼の方の憂いを晴らせる……と、良いですなあ」
「うおーい、なんか急に頼りないぞ!?」
「真っ先に
お堅い主従のやり取りから一転、昔馴染みを思わせる
その温度差を扉越しに感じたか、
「しかしながら、私はこうも考えたのですよ。効能確かな魔道具に効果が無いなれば、ここは一度発想を変えてみるべきではないかと」
「……まあ、それはそうだな」
「確かな品に頼れぬならば、いっそ不確かなモノに目を向けてみてはどうかと」
「うむ。……うむ?」
「すなわち───餅は餅屋。悪霊騒ぎには『お祓い屋』だと」
「…………おう?」
従者からの思わぬ提言に、ふむふむと頷いていた青年が硬直した。
暫し、鴨の行進でも見守るように流れた沈黙を、しかし彼からの華麗な応手が破る。
「其奴は男性か?」
「女性です」
「ならば良し!」
いいんかい。
「……若の前でミコル様に別の男を近付けるわけがないでしょうが。私も相当な無茶を言っている自覚がありますし、もう少し別の視点から気にしてもらいたかったですな」
「それだけ八方塞がりということであろう? やらせるだけやらせてみれば良いのだ。万に一つを我らが拾えんとも限らん」
呆れたように苦言を呈す小男。ひらひらと手を振る青年。
期待などしていない、とばかりに答えた彼が、ふと表情を引き締めた。
「…………それに、だ。ややもすれば、
「若?」
「いや、何でもない。……そろそろ呼んでやってはどうだ? 扉の前で気を揉んでいる頃だろう」
「そうですな。───お入りくださいませ」
…………あー、隣国。成程ね。
ある程度のとこには広まって、ほうほう。
ま、私らが気にすることじゃないかんね。
ほれほれ、入ってきんさい。
「……お祓いの依頼を受けて来ました。Dランク冒険者の『狐鼠姫』です」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「―――今日はいつにも増して君の笑顔に陰りが見えるね。また礼儀作法の勉強で食器を割りでもしたのかい? それとも、廊下で躓いて花瓶を落としちゃったのかな?」
「あ、今日は両方……こほん! い、いえ、そういうわけでは……」
はい。『ローズ家』に仕える一介のメイドでございます。
お久しぶりでございま……誰に挨拶してるんでしょうか、私?
下らないこと考えてないでお仕事しましょう、そうしましょう。
華やかな庭園に目を向ければ、お嬢さまと一緒に白いテーブルを囲む婚約者様の御姿。
美少女に美丈夫。実に目の保養になります。ご馳走様でございますです。
……なお、ミコル様のポンコツ具合には目を瞑るべしなのです。ええ。
婚約者様もまあ、そんなお嬢様に熱の籠った眼差しマシマシなあたり、「だがそれがいい」状態なんでしょうけども。やはり破れ鍋に綴じ蓋の極みですよね、このお二人。
「そ、その……メルクリオ様? 今日は、お聞きしたいことがあるのです」
「おや、何かな? 私に答えられることなら何だって答えるよ」
そう言ったお嬢さまの目が、その細指を彩る指輪に向けられました。
……あれ、指輪ですか? 確か、贈られた順番で言えば……あれ? いつの品なんでしょう。
「指輪……私の最初の贈り物だね?」
「はい、その……どういった由来の品なのか、今更ながら気になってしまいまして……」
「ああ、なるほど。どこかで価値を知って、とても十年前の私が用立てられるような品ではないと気付いてしまったのかな?」
「は、はい、そんな感じです」
……十年前、ですか。道理で私の記憶に無かったはずです。雇われるずっと前ですもん。
急に気になったというミコル様もミコル様ですが、メルクリオ様はどのように……うわ。なんか喜んでいらっしゃいます? もしかしてずっと尋ねて欲しかった的な?
「確かに流石に当時の私に好きに使える金などは無かった。しかし何と言っても初めての贈り物、用意できる最高の物を贈りたいと、父上に相談したんだよ」
「は、はあ……」
「そこで父上は私を屋敷の古い倉庫に入らせ、ここにある物の中から一つ、己が最高だと思う品を選べと仰られたんだ」
…………要は目利きをさせたのでしょうか? 小遣いを渡せない時分の子供に。
きっと貴族令息の教育としては正しいのでしょうけど、子ども同士の贈り物ぐらいもうちょっと気楽に出来ないものなんでしょうか。……出来ないんだろうなあ。
「それがこの指輪……選んだ際には、何と言われたのですか?」
「流石だ、と褒めてもらえたよ。どうやら我が家秘蔵の宝物だったそうだ」
「秘蔵、の」
「ああ。勿論、当時の私にとっては、君に似合うかどうかが全てだったけれどね」
……あのでっかいお屋敷に収められた秘蔵の宝、ですか。幾らするんでしょうねえ、それ。
そんなモノを入れてる倉庫に子供入れるなよ。『流石だ』じゃねえよ。
……こほん。言葉が乱れました。失礼いたしました。
ああ、小市民には理解しがたい世界ですー。
「……と、まあ、そういうことだ。納得してくれたかな?」
「は、はい! ……うふふ……」
婚約者様からの説明を受け、改めて指輪を嬉しそうに眺めるお嬢様です。
……うん、好きにしてくださいの極みでごぜーます。
それにしても……あまりジロジロ見るわけにはいきませんので、遠目に何度か見た限りの印象になりますが、そんなに凄そうな指輪でしたっけね?
中央に嵌まった、
「そうそう、今日は君に会わせたい人物がいてね。あちらの扉の前に控えて貰っているんだけど、紹介させてもらっていいかな?」
「え……。は、はい! 勿論です! ……ご友人ですか?」
「んー、いや。私のというよりは、君の友人になってくれそうな女性かな? きっと君とは相性が良いと思うんだよ」
ああ、そういえば。
メルクリオ様の御一行に帯同していた冒険者の方がおられたのを思い出しました。
多少の会話を交えた限りですが、冒険者にしては随分と洗練された所作の持ち主でしたし、実は貴い身分の御生まれだったりするのでは、などと思っていました私です。
お嬢様の友人にとなるとより可能性が高まります。冒険者と侮らず丁寧に接して正解でしたね。
……ぞんざいな態度をとった同僚が顔を真っ青にしたのが見えました。
こういう時に察して動ける人間が危険を回避できるのですよ。ご愁傷様です。
「………………あ」
「ご紹介に預かりました、Dランク冒険者の『狐鼠姫』です。……
ご生家は分かりませんが、冒険者という立場で優雅に礼をとられた女性を目にして、ミコル様が硬直あそばされました。……どうされたのでしょう。
メルクリオ様は……あ、笑いを堪えていらっしゃる。しかも爆笑レベルですね、あれ。
……うん。知らない方が良いヤツですね! 私はなーんにも気付いておりませんとも!
「し、失礼いたしました……。こちらこそ初めまして、ですわね」
「はい。……こちらの国の形式と異なることは承知しておりますが、出会いの『祝福』を送らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「出会いの『祝福』、ですか?」
何やら変わった挨拶を言い出された冒険者様に、ミコル様が首を傾げられます。
そのままメルクリオ様に目線で問い掛けて……ああ、頷きが返されました。どうやら、彼の方もご承知のようです。それなら問題ありません。
所違えば作法も様々異なるものですし……さて、どこの国の御方なのやら。今度暇があるときに他国の作法についても調べておくべきかもしれません。リスク回避リスク回避。
「ええ、『祝福』です。……『祓い』は致しませんし、『お預かり』もしませんよ?」
「っ!? も、もう! 分かってますわよ!!」
…………指示されるままお嬢様が差し出された手に、冒険者様の手が重ねられました。
触れるか否かというところまで近付いた手が、銀色の光を───あれは、水?
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《はいはい、天丼天丼。並べて世は事も無し、ってね》
なんか名前すら付けてないモブメイドっ娘が無駄に濃くなってきた気がする今日この頃。
初めはレインさん視点で書くつもりだったのに……なんでかなー。なんでだろー。
天丼で片付けられた彼(?)の背景については次回、の予定です。
※以下、前書きにも述べましたお知らせ
昨日の夕方に活動報告を上げております。
今後の執筆活動に関して少々お願いがございますので、詳しくはそちらをご一読くださいませ。