章組みを調整しまして、改めて新章開始。
暫くは連載中の二次作品共々、筆がノった方から更新を進めていく予定になります。
……あと今回、ちょっとした試みを行っています。読みにくかったら申し訳ありません。
C7-1 小さき導
───少女達は走っていた。
強く疲労を滲ませ、息急き切って、それでも地を蹴る足取りだけは緩めることなく。
冷たい岩肌の続く道を身を引きずるように駆けながら、皆一様に険しい表情を浮かべて。
警戒心と焦燥を顕に、忙しなく周囲を見遣る瞳に宿るのは、踏み抜いた『失敗』への深い後悔。
血と泥に塗れた顔を拭う素振りすらなく駆け抜けた少女達は、いつしか
「……ごめん。ボクが調子に乗って二人を引っ張りまわしたせいだ」
先頭に立っていた比較的小柄な少女から、普段は明るく弾んでいる声で沈痛な自戒が紡がれる。
手に構えていた剣を力無く垂らし、失意に沈む姿はさながら強く叱責を受けた仕人の如く。
「……いーや? パーティの盾を
悔恨に揺らぐ彼女に空元気混じりに応えたのは、一回り大柄な身を防具で固めた二人目の少女。
軽薄にも聞こえる言動、されど強い意志の籠る瞳を瞬かせた彼女は、幾つもの真新しいへこみを作った大盾を構え直した。
「……
そんな彼女に背負われ、細身の体に纏う黒の衣を紅色に滲ませた三人目もまた、受けたばかりの傷の痛みに呻きながらも決然と首を振る。
魔法の支点となる杖を震える指で握り締め、硬く古風な言葉選びに声音には柔らかさを込めて。
「
「
「シフル、ビライザ……そうだね。ありがとう、二人とも」
誰のせいでもあり、誰か一人に責を負わせるべきではない。
そんな結論を誰が明言するでもなく共有した三人は、互いに血の気の薄い顔を見合わせつつも、なけなしの気力を絞り微笑み合うのだった。
───そこは国を隔てる山の麓に位置した『ダンジョン』内部。その上層部。
下層へと潜れば潜るほど広大かつ煩雑を深めていくというその場所の、されど駆け出し冒険者が腕試しに用いるに程良いとさえ評されている低階層。
姿を見せた魔物の顔ぶれ、散見される罠や仕掛けも、その評価に反することはなく。
余裕綽々、意気軒昂に進攻を続けた『駆け出し少女達』の、慢心の結果こそが『今』であった。
「……だけどまさか、いきなり挟み撃ちに遭うなんてね。何とか逃げ切れたのはいいけど……」
「……
「
前人未踏の深層ならばいざ知らず。多くの先人達が踏み固めてきた上層においては、階層同士を繋ぐ最も簡易な道筋───所謂『順路』なるものが広く公開されて久しく。
一攫千金の夢を求めて未踏の区域に繰り出す程の無謀さは持ち得なかった少女達もまた、安価で手に入る上層地図と共に命綱となる『順路』の情報は確かに携えた上で事に臨んではいたのだ。
彼女達の不幸は、人の出入りが激しい最上層において危機を感じぬ程度には実力があったこと。
そして少々対処に手間取る手合いが現れる階層にて初めて、複数の魔物群による奇襲に遭遇してしまったこと。
加えて仲間の負傷に気を取られたとはいえ、『順路』から大きく外れた横道を咄嗟の撤退経路に選んでしまったことがあげられるであろう。
結果として『現在地』が分からなくなった彼女達は、当然の帰結としてこれから辿るべき帰路を判断できなくなる事態へと陥っていたのである。
……いずれも経験不足故の失策と言われれば、当人達から否定の言は出なかっただろうが。
「……ずっとここに立ち止まってるわけにはいかないよね。たぶん『順路』の上じゃないだろうし通りがかった誰かに助けてもらえるって可能性は低過ぎるもん」
「……
「あーねぇ……ケドどっちみち近場に
身を寄せ合い相談した結果として彼女達が選んだのは、この場からの移動。
遭難時の行動と考えると必ずしも得策とは呼べない選択だったが、事この『ダンジョン』という環境においては無理からぬ判断である。
なにしろ『ダンジョン』内部における魔物とは、どこかの壁や床から不定期に、そしてまさしく文字通りに『湧き』出でてくる存在なのだから。
現状、現れる魔物に全く対抗できないわけではないが、再び大群の強襲を受けることがあれば、今度こそ一巻の終わり。かといって今居る場所がいつまでも安全であるわけもない。
無論、特に気配を隠して行動する術を身につけてはいない彼女達にとって、下手に動けば付近を徘徊する魔物を引き寄せる可能性は十分以上に考えられる。
まさに往くも窮状、往かねば地獄。
他者の手による救助も『順路』から外れた現状では期待するわけにもいかず、眼前に迫る危機の理解を確認するに留まった三人は、再び希望の見えない行軍を開始するのだった。
「……これ以上は魔物に出会わないか、出会っても一気に倒せる数なことを祈るしかない……とか言って、大群を見た途端に諦めるわけにもいかない、よね。その時どうするかは考えとこう、か」
「…………
「や~、
気付けば強張っていく身体を奮い立て、閊えつつの軽口を必死に交わす少女達。
その間にも、周囲の壁や天井を通して耳まで届く金属音に似た雑音が、祈りを込めて歩み続ける彼女達の精神を少しずつ、しかし確実に苛んでいく。
ぼんやりと発光する変化に乏しい岩肌の景色に、進めている実感の得られない空虚な道のり。
一歩間違えれば、あるいは次に踏み込む一歩先に、知れず迫っているかもしれない死への恐怖。
次第に、徐々に、少女達の口数は減っていく。
何事も無い物音さえも、恐怖を煽るように耳の奥で残響を始める。
さながら身体と精神、どちらが先に限界を迎えるかの死出の旅路。その行く末は───
「(チュウ)」
「「「えっ…………
視界の下。足元。
道の中央に堂々と(?)鎮座した一匹のネズミが、三人の思考を一瞬停止させた。
呆けたように固まる少女達に、もう一度「チュウ」と一鳴き。
くるりと背を向けた小さな影が、彼女達の脚で数歩分の距離を進み、また振り返る。
「…………こんなところにネズミが、なんで……? まさか……っ!?」
「
「ひょっとしなくてもコレ、
どこにでも居るだろう極普通のネズミ一匹が、しかし少女達の表情を劇的に変化させていく。
暗雲が晴れたとばかりに希望を瞳に宿す彼女達の脳裏には、そこから想起される幾つもの情報が早回しのように浮かび上がっていた。
───曰く、このダンジョンの入口を擁する街に最近訪れた、指折りの『スキル』を持つ先達。
曰く、無数の虫やネズミを使役し、地上に居ながらにして、未踏の区域を含めたダンジョン上層各階層の完全な地図を作成してみせた人物。
曰く、高位の魔法使いであり剣士であり斥候───単身にして高い水準で完成された実力を持つ『二つ名』付きの
「助かる……助かるよ、ボク達! あのネズミで安全な帰り道を教えてくれてるんだ!!」
「
「
「あっ……それもそうだね。それじゃ、なるべく静かにネズミを追いかけるよっ」
「
「
先の状況から一転、迷いの無くなった足取りで時折立ち止まるネズミを追い始める少女達。
時に急かされ、時に物影に身を隠し、いっそ奇妙な程に危険を感じない道のりから察せられるはネズミの───それを使役する人物の、尋常ではない感知範囲に精度。
望外の導きに驚きと、畏敬と、深い感謝の念を胸に抱いて、疲労も忘れて駆け抜けて。
過たず『順路』へと辿り着き、安全な上層へと駆け上り───やがて彼女達は、多くの同業者が行き交うダンジョンの入口、そこに建てられた冒険者ギルドへの帰還を果たすのだった。
帰還後最初に行ったのは、駆けつけたギルド職員の手配による負傷した仲間の治療。
そして次に向かう先は当然、ギルド内に併設された酒場の一席にて、今も使役する諸々に意識を傾けているのであろう『彼の人物』。
「「「
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………ええ、どういたしまして」
「最近、身に覚えのないお礼を言われる機会が増えてきた件について」
《まあまあ、ええやないの。人助け人助けってね。……しっかしキャラの濃い娘達だったなあ》
現地民寄り視点によるダンジョンの基本設定紹介回。まあテンプレもテンプレです。
作者が『ダンまち』で短編一本書いてるのもあって若干そっち寄りなイメージかも。
剣士、騎士(志望)、魔法使いの駆け出し冒険者な新キャラ三人娘。
これぞ由緒正しきテンプレですよね!
なお、いつもの使い捨てキャラとは違って、もうちょっと出番がある予定なのです。
……ただ、今話があまりに不評であれば以降の台詞は、
「(ギャル語or邪気眼)※内容」といった表記で誤魔化すことも視野に入れときます。
表記例:
「(ギャル語)※何を喋ってるか分からない? それは非常に心外です」
「(邪気眼)※まあ、そう言われても仕方ないんじゃないかなあ」
書いてる側としては楽しいんですが、読む側にとって煩わしいだけならしょうがないですので。