これって転生に入りますか?   作:非単一三角形

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 めげない、しょげない、クヨクヨしない。それが今作の主人公雨巫さんです。

 作者が過去に書いたオリキャラと被らないよう苦心した結果だったり。



C1-7 教会訪問

 

 ───二日前の深夜、街の領主様の館に泥棒が入り、『何か』が盗まれた。

 逃げ去る泥棒を数名の使用人が目撃しており、領主の指示で直ちに街の封鎖が行われた。

 その後について領主より沙汰はないが、街の出入りに関して厳しい検問が続けられている以上、犯人は街中に潜伏を続けていると思われる。

 

 ……小一時間程の聞き込み(盗み聞き)の成果が以上となります。

 何というか、ありがちな感じだね、うん。

 

 

 盗まれた物が何かについては、指輪、首飾りといった装飾品類という説が有力な模様。

 変わり種として泥棒の正体はご令嬢を誑しこんだ間男、とかいう「盗んだのは貴女の心です」な発想も聞いたりした。自由だなオイ。

 ちなみに如何にもお花畑な最後の説には、そもそも領主の子供はいい年した男だ、という素敵なオチが付いている。……まあ噂話なんてそんなもんだよね。

 

 これが今も忙しそうに街中を警備してる衛兵さん達から聞いた話だったら、もっとしっかりした情報も出てきたんだろうけど、そこまで本腰入れる意味があるのかと考えちゃうとね。

 何をどんだけ聞いたところで、幽霊の私にたいしたことは出来ないわけだし。

 

 平和な国で培われた一般市民の価値観的には、衛兵(おまわり)さんに協力しようという考えが無いでもないけど、姿も見えなきゃ声も聞こえない幽霊が協力なんていってもねえ?

 

 

 現世の事は現世に生きる人達に任せて、私は私のやるべきことをやりませう。

 ……てなわけで今回、私がやってきたのはこちらになります。

 

 

 周囲の家屋から頭一つ抜けた、真っ白な威容。

 黄金色の鐘が取り付けられた小屋根の上に鎮座する十字架。

 地上に下りて正面に立てば、両開きの大きな扉に、ご丁寧にもう一つ十字架の印。

 

 

 ―――ええ、見ての通りの『教会』でございます。

 特徴的な建物だったおかげで、ちょっと空から見下ろすだけですぐ見つかったよ。

 

 さて幽霊の弱点っぽいものとして、日光に塩、銀ときてお次は聖なる物に挑戦だ。

 これまでに比べて若干ふわっとした定義なんで、ここで確認できるかどうかは分からんところがあるけども、とにかく自分にとって何が脅威になるのか確かめておくこと、これ大事。

 

 ……敷地を跨いだ瞬間強制成仏とか無いよね? ……無いんちゃう? 無いやろ(根拠無し)。

 ええい、試してみないことには始まらん。というわけでお邪魔しまーす。

 

 

 

 

 …………。

 

 

 ……………………。

 

 

 ……うん、とりあえず中に入ってみたけど何ともないね。

 

 正面の教壇まえには神父らしきお爺様。ずらっと並んだ椅子にはまばらな人影。

 丁度お説教の最中だったみたいね。礼拝って言った方が良いんかな?

 

 むにゃむにゃと一本調子で喋り続けるお爺さん。

 キラキラ熱心な眼で聞き続ける人もいるかと思えば、既に首をかくっと落として轟沈中の方も。

 ……周囲が起こそうとする気配はない。良いのかそれで。

 

 

 ふよふよと漂いつつ、広げた分厚い本に目を落とすお爺さんの目の前まで移動してみる。

 ―――反応は無い。

 

 くるっと振り返って、起きている人間や、傍で控えているシスターさんの視線も確認。

 ―――やはり反応は無い。

 

 こういう場所なら霊感のある人間の一人や二人、と思ったけど、どうも当てが外れたようだ。

 ううむ……一人ぐらい反応してくれてもいいのよ?

 

 

 ……そういえばこの国、というかこの世界の宗教ってどうなってんだろ?

 教団の後ろにはそれっぽい女神の石像があるし、とりあえず偶像崇拝系?

 私を転生させてくれた神様だったりするんだろうか。とりあえず情報プリーズ(please)だ『私』。

 

 

 …………オッケー、把握。

 一柱の女神様を主に置いた、よくある一神教が主流のようですな。

 女神の名前を宗教名にも使って『シャニム教』。

 主な教義は基本、『汝隣人を愛せよ』的な融和重視。

 版図はこの国全域、及び周辺国いくつか。

 

 少々離れた国になると、ちょっと毛色の違う神が祀られたりもしているようだけど、少なくともここ数十年の内に宗教を理由としたいがみ合いは起きていないらしい。

 

 

 ……おん? モンスターに関する認識も宗教絡みで何かある?

 ええっと……世界の淀みから生まれた忌子、ですか。

 ひいては敬虔なる一信徒としてガンガン狩ろう、と。

 

 ……うん、まあ、その辺は私が口を出すようなことではないな。

 実際この世界のモンスターがどういう経緯で生まれてるかなんて知らんし。

 私はただ剣と魔法のファンタジーな世界を転生先にリクエストしただけだ。

 

 ……何度も言うが、私のリクエストで世界が生まれたんじゃなく、リクエストに最も近い世界を神様が選んでくれただけだからね? ……誰に言い訳してんだ、私。

 

 

 両手の平を空に向けて広げ、慈愛の微笑みを浮かべる女神像。

 これが私が会った神様なのかどうかについては分からない。あの時、姿は見てないしなあ。

 『私』曰く、この『シャニム像』が宗教施設には必ず鎮座させてあり、木製かつ手の平に収まる程度の大きさの物をお守りとして持ち歩く事が多いらしい。

 

 さて、ご利益があるかと言われると……『私』も肌身離さず持っていたわけだからなあ。

 

 そのあたりの想いを込めた目で女神像を見つめる。

 聖なる力、的なモノを感じるかと言われると……何となく雰囲気で、という感じだ。

 とりあえず指先に霊力を込めてつついてみる。

 

 

 ……うん、石だね。何の変哲もない石でしかない。

 敢えて何か言うなら、滑るような手触りってことぐらいかな。

 その調子で、次は神父様が首から下げたロザリオをタッチ。……何ともないね。

 

 

 これで聖なる物系も制覇って事で良いかな?

 いや、あとはあれだ、聖水的なものが有ったりはしないだろうか。

 ……弱いモンスターを近寄らせないようにする聖水が教会で売られてる? 了解だ『私』。

 

 教会の中を見て回り、そういった物を扱う物販スペースを発見。

 ロザリオに木彫り女神像、薬草やらと一緒にありますね、聖水。

 瓶の中に詰めてあるが……瓶を透過して水面に指を突っ込む……さて、指の状態は?

 

 

 ……システム、オールグリーン。

 モンスター向けアイテムと明言されている物でも、私に影響を与えることは無いようだ。

 

 

 うわー、前は冗談混じりに言ったけど、割とマジで私無敵じゃね?

 『死んでる』以外に弱点無くね? 何されても平気っすよ、もう死んでるし! ……ふう。

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 ―――こちら、教会敷地内に併設された墓地であります。

 弱点検証の次はお仲間探しというわけで、やってきましたわけですよ。

 

 ここでの葬送の様式は火葬が主流……アンデッド化という要素がある以上そうなるわな。

 残った遺灰なり遺骨なりを埋葬、その上に墓標を立てるという方式らしい。

 骨壺的な慣習も無いとのことで、仮に掘り返したとしてもよほど埋葬されてすぐでもない限りは土しか出てこないというわけだ。

 

 

 そして私の視界には今、墓前に佇む一人の男性と、彼に寄り添う一体の霊が映っております。

 

 …………うわぁい、なんという既視感。

 

 

 以前の光景との違いは二つ。

 一つは、男の方がしきりに人目を気にしつつ墓標の前に蹲っているということ。

 もう一つは霊の方が……もう『霊』と呼ぶしか無いほど、原型を残していないことです。

 前回のように、一部だけ形が残ってたりもしません。完全に青白い靄です。……うわぁい。

 

 男に近付くような素振りが無いでもないので、ぎりぎり自我は残ってるのかなあ。

 多分、男の関係者なんだろうし。あの様子だと兄弟か、親子か、はたまた夫婦……。

 

 

 ―――コツ、と。

 教会の方から聞こえた物音に、男は弾かれたように走り去っていった。

 後に残るは、人型の欠片すら無くした霊魂一つ。

 遠ざかる背中に、伸ばす手すらなくユラユラと。

 

 

 …………さて、と。

 あの霊にまだ意識があるのなら、手を差し伸べてみるとしますか。

 前回みたく穏やかに成仏させられる保証は無いけど……相当、辛いみたいだしさ。

 

 

 近付く私に、彼とも彼女ともつかない霊魂さん(仮)が気付く様子は無し。

 ひょっとするともう、何も見えてすらいないのかもね。

 

 靄というか、もはや蝋燭の煙のような、青白い筋に手を伸ばしてみる。

 その途端、所在なさげに漂っていた靄が伸ばした私の手に絡まるように集まっていく。

 ほんの少し、さっき迷子の少年に触れた時と同じような、感情の波が伝わってきた。

 

 

 ……さっきの少年といい、その前の少女(ミナちゃん)の時といい、何が何やら分かんない状態だったから、こうしてじっくり過程を見るのは初めてだね。

 やっぱりどっちも同じ現象だったんかな。対象が生きてるか死んでるかの違いだけで。

 

 そうなると目下の疑問は、何でまた私にこんな事が出来てるんだろうかってとこだけども……。

 こればっかりは考えても仕方ない。そもそも今の私が出来る事って、大体『なんかやってみたらできちゃった』だし。水面の顔やら、痕跡作りやら。なんという考察泣かせなボディなんだか。

 

 

 ―――と、完了か。本当にごく僅かだな。

 ヤーネ嬢を大棚、ミナちゃんを小棚とするなら、学習机の物入れサイズの小箱だ。

 

 前回のように生前の姿が見えることも無く、靄のままでその箱の前に佇んでいた。

 それでも消えていく様子はミナちゃんのときと同じだったので、そういうことだろう。多分、きっと。おそらく。そういうことにする。

 

 

 いやしかし、何で異世界にまで来てお祓い屋みたいな事やってんだ、私?

 しかも、自分自身が寧ろ祓われる側であろう状態で。

 ……深く考えるのやめとこうか。彼らが救われたなら良い事ですよ、うん。

 

 

 気を取り直して、遺された記憶に目を通す。

 いつにも増して断片的だけれども、彼女―――記憶を見るまで分からなかったけど、女性だった―――が感じた恐怖と、無念の想いだけは伝わってきた。

 

 死んでから何週間も経つと、こうもぐっちゃぐちゃになっちゃうもんなんだね。

 ……あれ、私ってばあれから何日経ってるっけ? ま、いっか。

 

 

 結果として、分かった事は三つ―――いや、四つだな。

 

 一つ。今、街を騒がせる泥棒の正体は、さっきの男―――彼女の兄である。

 二つ。領主館から盗み出されたのは、元は生前の彼女が持っていた指輪。

 三つ。その指輪はつい今しがた、持ち主の墓前に届けられている。即ち私の目の前に。

 

 

 ……領主館からねぇ。『盗品』がねぇ。本来の持ち主がねぇ…………ハハハ、こやつめ。

 

 

 そして四つ目―――どうやらまた、私の『自己満足』の標的が現れたらしい。

 大部分が消えてしまっている記憶にも関わらず、一通り見ただけで経緯が把握できるあたりに、彼女の執念を感じるね。

 

 

 しっかし、まあ……胸糞悪い。

 前回がモンスターの被害というある種『仕方ない』事例だっただけに、今回は特に頭にくる。

 

 

 今回もまた、私が何もしなくっても、やはり解決はするっぽい。

 先程の泥棒さんはその辺を考えた上で盗品を置いていったのだ。この()()()()()という場所に。

 『被害者』である彼女にしても先ほど安らかに逝ったのだ。これ以上は誰が得するでもない。

 

 

 しかし、まあ、折角だもんね?

 少しばかり脇から()()()()したところで、文句を言う奴は居るまいね?

 

 

 さてさてさぁて……愉快で無頼な騒霊(ポルターガイスト)のお出ましだ。盛大に祟ってやるべぇよ。

 





 次なるターゲット決定のお知らせ。
 ただしやれることは賑やかしオンリーな模様。賑やかせー。
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