これって転生に入りますか?   作:非単一三角形

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 王子やその周りの人間がこんな言葉遣いするのかなー、とか無駄に悩みまくってました。
 ……なんか本章そんなんばっかだな?(自業自得)

 某本好きとか何度も読み返すぐらい好きなんですけどね……。
 ロイヤルな方々の会話が違和感なく描ける人ってマジ凄い。



C7-5 未明の恐怖

 

 

 自身の中に確固たる自己を有し、果断即決を常に旨と置ける胆力の持ち主。

 ……最大限好意的に表現すれば、そんな一文を作り出すことができるだろう。

 

 

「慟哭避けじ也と堰霜を……否、遡及の限禄然も在らじ……」

 

「えへへ~……ごめんねぇ~……うへへへぇ~……」

 

 

 ───勢いで行動しないでって言ったよね? そりゃ今回は仕方ないと思うけどさあ。

 そんな意味を込めて紡いだ言葉に、返ってきたのは蕩けきった生返事。

 

 まさしく『服を着て歩いていた理想』との遭遇に、すっかり頭を茹だらせてしまった幼馴染(アルマ)へと人より少しだけ複雑な事情を抱えた少女、シフルは深く深い溜息を吐くのであった。

 

 

 

「……忌欣の業悦或らざる也」

 

 ───あれは自分達には避けようがなかった。

 痛む頭に手を遣りながら、少女は幾度も辿った思考を今一度呟く。

 

 失笑モノの演説に冷えた空気を、切り裂くように現れた煌びやかな王子様。

 突然の事に止める間もなく───そもそも自分も止めるべきだったと理解したのは、後で先輩に想定すべき『裏』を教わってからだったが───飛び込んでいった幼馴染。

 

 それはさながら砂漠で得た水。暗夜にて得た灯り。

 分かっていたところで止める手段など、初めから無かったのだから。

 

 

「……紛て、顕影然りと智えば……我が身贖きて如識に非む」

 

 ───もし、彼らの実態が教わった懸念の通りだったら……私はどうするべきだろう。

 幾度となく空転した思考を改めて声として紡ぎ、思い悩む彼女は次第に表情を暗くしていく。

 

 それでも、自分だけが逃げる、などという選択肢をシフルは考えにも上げなかった。

 何故なら此処が、幼馴染(アルマ)が連れ出してくれた此処こそが、自分にとって唯一の居場所なのだと、彼女は信じていたからだ。

 

 生来の厄事を抱え、殻に閉じこもっていた自分を、荒々しくも引っ張り出してくれた幼馴染。

 あの田舎の村で、何者にもなれず朽ちるだけの運命から、連れ出してくれた彼女の為ならば。

 

 ……いざという時は、この瞳に封じられし忌まわしき力を───

 

 

 

「よいちょまる~、シーたんあげぽよ興産ごめんやで~」

「っ、ビライザ……去処の那辺に在らじ也?」

 

「やー、あーしらマジYTN? じゃねばKCKパイセンがPFWでバリエモ~」

「…………是」

 

 ───正直、彼女が何を言っているのか半分くらいしか分からないんだよね……。

 頭の蕩けたアルマの面倒を押し付け、外出していたもう一人の友人、ビライザの顔を見ながら、シフルは心中でそう呟く。

 

 ───むしろアルマは何で分かるんだろう? 聞いても「慣れだよ!」の一言で返されたし。

 ───いったい何に対する『慣れ』があれば、こんな難解な言葉を読み解けるんだろう……?

 続く心の声を胸の内に収めた彼女は、未だ妄想の世界にいるらしいアルマへと視線を向けて。

 

 

 

「……えっ、『()()()()()からボク達に!? それ本当!?」

 

 

 

「え」

 

「あたりき~。さげぽよわずはKNにポイで、RINSにマジあざま~」

 

 そんな普段通りの調子な発言と共に、ビライザが取り出したのは丁寧にくるまれた小包一つ。

 送り主の人柄を表すかのように丁寧に包まれたそれを、喜び勇んで解いていくアルマ。

 

 

「……是」

 

 

 そんな二人の姿に少し、ほんの少しだけ溜め息を吐いたシフルは、小さく呟き、顔を背けた。

 能天気な二人と悩める自分。その対比に何を思ったか、それは当人にも説明できない想いで。

 

「シーたん、よいちょ~」

「……疑?」

 

 そんな彼女に顔を上げさせたのは、軽い響きながら親しみを感じさせる特徴的な呼び声。

 またこの不思議な友人は何を言い出すのかと身構えたシフルに、微笑んだビライザは。

 

 

 

「心配は無用です、シフル。きっと何とかなりますから」

 

「……………………え」

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───っ!!?」

 

 男の上体が、跳ねた。

 さながら、落雷にでも撃たれたかのように。

 

 

「……殿下? いかがなさいましたか、キラキア殿下?」

「…………いえ、何でもありません。少々、()()()()()()()ようです」

 

 異常を感じて飛び込んできた騎士の一人に、暫し焦点の合わない瞳を向けて。

 数秒という時を要して呼気を整えた男は、急ぎ取り繕った表情で、そう答える。

 

 時刻は早朝。場所はダンジョンを擁するこの街の、最も格式高い宿の一室。

 それでも王族が使用するには些か格の足りない寝具の中、部屋番を任せていた騎士を下がらせた彼は、閉じた扉に視線を合わせながら今一度、深く深い息を吐いて。

 

 

 ───くだらない夢だ。

 

 

 山を隔てた『ソルカデル王国』が第二王子、キラキア=ラテラル=ソルカデルは。

 自身に言い聞かせるかのように、その一言を喉奥で燻ぶらせるのだった。

 

 

 

 

「───こちらが本日までに同道の意思を示した冒険者の一覧となります」

「ふむ……」

 

 中天にかかる日を窓に臨んだ宿の一室。揃いの姿勢を取る集められた騎士達。

 内一人より提示された報告書に視線を滑らせた彼は、暫しの思考を経て厳めしく愁眉を寄せた。

 

「実際に各冒険者と対面したのは貴方達ですね? ここに記した者達について所感を述べなさい」

「はっ。率直に申し上げて、質、量ともに芳しいとは言い難くあるかと。最もランクの高い者でもD()()()()()()()となっておりますので」

 

「……まあ、ある意味では想定通りと言えます。仕方がありませんね」

 

 紙上に列挙された名前。付記された各人の冒険者ランク。

 実力の尺度として分かりやすいそれらを踏まえた彼の言は即ち、擦り合わせを兼ねた問い掛け。

 

 その意図を汲んだか、はたまた偽りなく当人の認識から出た言葉か。騎士から返った望み通りの答えに鷹揚な頷きを一つ。

 声音には微かに憂いを混ぜながらも、元より淡い期待、として彼は首を横に振った。

 

 

「では彼らについては、当初の予定通りの運用を具申いたします。戦力として数えられそうな者は少ないですが、()()()()()には十分ですからな」

「……ええ、それがいいでしょう」

 

 そんな彼の傍ら、腹心として控えた小隊長から、意を受けたとばかりの結論が述べられる。

 口髭を湛えた男の言葉に、とりわけ否定の必要を見なかった彼は、また無感動に頷いた。

 

「『踏破』の希望に釣られて、もう五、六人ばかり実力者が集っていたならば、別の運用も視野に入れられましたが、無いものねだりもまた不毛の極み。彼らには殿下の御立場を確かなものとする礎の一つとなってもらうとしましょうぞ」

「そう、ですね…………」

 

「……殿下?」

「…………ひとつ、確認しておきます」

 

 淀みなく展望を語る腹心に諾を示しつつも、どこか気もそぞろに視線を泳がせる王子。

 不思議に思った男の呼び掛けに瞬きで答えた彼は、先の騎士へと向け、ゆらりと口を開いた。

 

 

 

「ここに記された冒険者の中に…………()()()()()()()は、居ましたか?」

 

「……はっ? …………いえ、その容姿に該当しそうな者は、覚えにありませんが……?」

 

 

 

 突然の指定に戸惑いつつ「そもそも年少の女性冒険者は稀ですから……」と重ねて答える騎士。

 他の者達の困惑を視界の端で見遣りながらも、王子は再び目を伏せ、思考の海へと沈んでいく。

 

 思い返すのは、つい今朝がた経験した、()()()()()()()()()

 たった一晩のそれが、脳裏に焼き付いてしまったように感じるのは、果たして何の所以か。

 

 

 ───肩口で切り揃えられた黒髪。風変りな誂えの赤い服。可憐な少女……だったように思う。

 夢の中で、一人の冒険者として同行していた『彼女』の姿を、至極当然と認識していて。

 他の者達と共に、期待通りの働きを見せるその様を、騎士達の背中越しに眺めて。

 

 恙無くダンジョン内部を突き進んでいた自分達の前に、突如現れた───今にして思い返せば、夢の産物と即座に分かる、狂想極まりない異形の怪物。

 それを危険と判じた夢の中の己は、即座に『彼女』を含む冒険者を、()()()()()()()()使()()()()騎士達に手厚く守られた場所から指示を出し。

 

 異形の凶牙に貫かれ、血飛沫に染まった身で、逃げ去っていく己を見た『彼女』は───

 

 

 

 

     『よ く も だ ま し た な』

 

 

 

 

「───ッ!!?」

 

 

「……殿下?」

「い、え……っ、何でも、ありません……」

 

 耳の奥にこびりついた、地獄の底より這い出でたような怨嗟の声。

 異様なまでの実感を伴った一晩の記憶が、氷の如き怖気となって彼の総身を駆け巡る。

 

 

 ───単なる夢、だ。……あるいはこの身に、悔悟の情が……? ……馬鹿げたことを。

 

 

 己の内から零れた声、あるいは戯けた幻聴に否を唱え、深く息を呑み。

 そうして再び泰然とした笑みを作り上げた彼は、信を置く騎士達に悠然と言い放った。

 

「そう、ですね……実際にダンジョンに赴く前に一度、集まった者達に私から声掛けをする機会を作りましょう。士気高揚にもなるでしょうし……何より、『冒険者寄りの王子』を印象付けておく必要がありますからね。……有事に備えて」

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───あっ! 王子様! ボク達に会いに来てくれたんですね! ありがとうございます!」

 

「ぉ……っ!?」

 

 

 変な声が出た。

 王子の喉から。

 

 

 明くる日、同行の意思に王子が感謝を示す場だと説明され、集められた冒険者達。

 期待半分に集った彼らの前へと姿を見せた瞬間、元気溌剌視界に飛び込んできたは実に珍しくも女性三人で組まれた冒険者パーティ、その内の一人。

 

 

「…………ああ、貴方は。あの日、いの一番に参加を表明してくれた冒険者ですね」

「わぁっ!! 覚えててくれたんですね!! はいっ! Eランク冒険者のアルマと申します!! 今後とも末永くよろしくお願いしますっ!!!」

 

「(……末永く?)え、えぇ、こちらこそ……。ところで、その…………っ」

 

 やや慌てた様子で駆け寄ってくる残りの二人を、異様な勢いで迫る彼女の背中越しに見つつ。

 何故か酷く早鐘を打つ胸を堪えた王子は、改めて少女の出で立ちを目に映した。

 

 髪色、服装、肌の血色……いずれも取り立てて印象に残ったわけではない。

 ただ一点───少女の胸元に下げられた『それ』を目にした瞬間、彼の臓腑は再々度、打撃でも受けたかの如く引っ繰り返って。

 

 

「そ、その、()()()()()()()()は、いったい……?」

「あ、これですか? これはこの前、尊敬する先輩から貰った『厄除のお守り』なんです!」

 

「厄、除……?」

 

 

 何とも元気の良い返答に目を瞬かせつつ、彼は再び、今度は気を張りながら『それ』を見遣る。

 ()()()()、白い肌。額から一枚の紙……札? が顔を隠すように貼られた、掌程の人形を。

 

 首の後ろから掛け紐が伸びているせいか、少女の胸元に垂れ下がる姿は然ながら首吊り〇体。

 各部の装飾から稚い少女を模したことは分かるものの、貼り付けられた札に隠れて表情は───

 

 

 

 …………え、待って? 今、札が揺れた拍子に、目が合───

 というか、さっきから何か聴こえ……いや、明らかに、こっちを、睨───

 

 

 

 

     『オァ……オオォ……』

 

 

 

 

 …………いや、これ…………とりあえず、『厄除』ではない気がするのですが?

 じゃあ何、って聞かれたら、そりゃ、呪───いえいえ馬鹿な。

 

 

 

「ボク達、王子様の為に精一杯頑張りますから! だから、もし良かったら今度白馬に───」

     『ァ……キョ オァ……』

「我が友の亡羊誠哭き難く! 那辺諮れじ栢徒にて、蓋し謀鴉啼かず也!」

 

「激チルあざまる水産マジ卍~、あーしらバイプステンアゲでDYS~?」

 

 

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………ええ、期待していますよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《我々はベストを尽くしました》

「なぜベストを尽くしたのか。……どうなのかなぁ、アレ……」

 





 『狐鼠姫』印の厄除のお守り、首吊り市〇人形(手のひらサイズ)。
 今なら霊験あらたかな御札も付いて大特価(?)配布中!(限定一品)

アルマちゃん「『狐鼠姫』さんから貰った厄除のお守り!? 分かった! 付けておくね!」
シフルちゃん「……蓋し万理を糾し絶苞或る也(……確かに色々追い払ってくれそうだけど)」

アルマちゃん「あれ? なんかさっき見た時より髪が伸びてるような」
シフルちゃん「なにそれこわい(なにそれこわい)」



  人形作成中のユズちゃん「あれ、今、目が動い…………ッ!!」(無言の御札叩きつけ)
デザイン指示中のレインさん「無意識領域強すぎわろた」

Q. 新能力?
A. C5-4以来となる第一部最終話にて僅かながら触れられていた能力の応用。ギリ既存。
  なお今更ですが、該当話のサブタイトルを「Epi ~」から「C4-8 ~」に変更しています。

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