Q. また随分時間空きましたね?
A. リアルの忙しさと執筆意欲低下の合わせ技。暑さが悪いよ暑さが。
なお前話のビライザ嬢の台詞に微修正が入っています。
修正前:~じゃねばKNKパイセンがPFYで~
修正後:~じゃねばKCKパイセンがPFWで~
修正の要因は作者がユズちゃんの二つ名を「きつねずき」と読んでいたこと。
読みは「こんちゅうき」(C3-1より)なのを忘れていました。いやあ、うっかりうっかり。
気の合う者同士で肩を並べ、背を預け合い歩み征くが冒険者。
志を同じくした者が轡を揃え、隊伍を組み進攻するが騎士団員。
普段、常時に携わる『場』は違えど、有事に対し自らの腕を振るう在り方は同じ。
なれば畢竟、『ダンジョン行』なる『場』に同道せし双方は、互いへの敬意と思慮───都合を擦り合わせ力を合わせるといった意識の元、事に当たらんとするが道理。
されども、物事には必ず『例外』というものがあり。
また人の心には得てして、建前で覆った『本音』が存在するというもので。
「無いよりはマシ、と思っていたのですがね」
「……殿下」
喉奥で呟かれた一言に滲んだ、薄寒い侮りと辟易。
すぐ傍らに控えた護衛の騎士が一人、諫めるような意図を込めて
「そのような軽口は御慎みください。この距離なら聞こえはしないでしょうが……」
「……わかっていますよ」
尤も、その諫意の矛先は内容ではなく声量の多寡。
幾つもの背中の先、
貴人の身を護るべく、前に後ろに厚く敷かれた防御陣の中、隊列中央。
部下の諫言にほんの僅か、眉をしかめた王子は、囲いの外側にて奮闘する『荒くれもの』達へと再び疎ましさ混じりの眼差しを向けるのだった。
ソルカデル王国騎士一個小隊、及び招致に応じた冒険者十数名を加えた大人数───深層進出を目的とした『遠征』としては中規模相当───によるダンジョン行。
個々の質、及び事前の備えさえ足りていれば相応の成果には届くだろう道行きは、凡そ下馬評に違わぬ進度にある───というのが率いる
脇道から、背後から、あるいはすぐ側面より湧出した魔物に対応する者。
進路を開くべく前面で───己の出した指示もあり、冒険者の比率が多い───立ち回る者。
「(……元から期待などしていませんでしたが、しかし……)」
未だ浅層と呼ばれる領域であることを含めても危なげはなく、伴って士気も十二分。
これもまた自身の人心掌握の賜物、と少々の自負自賛を抱きつつ……方々に向けられていた彼の視線は、
留めたそこにあったのは、この集団の中でも物珍しい若き少女の背中、三人分。
顔見知りも多いのだろう周囲の冒険者達と共に、それぞれの役目を果たす姿で。
「───ほら! この階層の魔物はああして曲がり角に集まって待ち伏せしてることが多いから、先に一発デカいのを放り込んでやれば一網打尽に出来るんですよ!」
「おぉ凄え!? 道理で普段この辺で不意打ち喰らうことが多いなと……」
「おわっ!? ……わ、悪いな。助かったぜ、シフルちゃん」
「泡沫の砌なれども朋友也や。栢袖擦り合いて蓋し」
「……アルマちゃん、頼めるか?」
「臨時とはいえ仲間は仲間。助け合うのは当然だ、ですね!」
「お、おう…………ありがとな?」
「よいちょ~っ!! おけまる水産やばみさわ~!」
「うおっ、と……!? ちっ、横から狙われてたのか! ありがとよ、ビライザちゃん!」
「よきよき~、けどトッコーやりらふぃーはBKF?」
「…………ああ、そうだな!」
「……お前、分かったのか?」
「いや、全く。とりあえず頷いとこうかなって……しっかし何処の国の言葉なんだろうなぁ……」
「…………なんであいつらが一番活躍するかなあ」
「殿下?」
物腰柔らかな王子の顔をそのまま、若干のやさぐれ感を纏った発言に傍らの騎士が兜を揺らす。
血筋が作り出したのだろう眉目秀麗な面から吐き出された悪態(?)は、またしてもその対象に届くことなく冷たいダンジョンの床へと吸い込まれていった。
なお彼の疑問に解を示すなら、先日の『勧誘』に引っ掛かるような考え無しの冒険者達の中では異物とすら呼ぶべき向上心の持ち主であるが故───という一文になる。
平均値の低さ───魔物の基本的な習性すら調べない、集団戦を一人突出して側面を突かれる、といった
即ち彼を含むソルカデル王国騎士小隊主催の『寸劇』が主な要因と言えるわけだが、その事実に一席を演じた当人が思い至らないのは果たして幸か不幸か。
「まあ、結局この先で『使う』予定ですし、精々それまで……こほん。失礼いたしました」
「…………いえ。ええ、そうですね」
諫言の帳尻合わせか、はたまた先の方針の最終確認か。
失言の素振りにて阿る騎士にも、どこか上の空な、気のない頷きを返す王子。
聞く者が聞けば眉を顰める───どころでは済まないだろう騎士の発言を窘めることもなく。
黙り込んだ彼の思考は今一度、視界の端に揺れる『彼女』の背中へと集約されていた。
───最深部、あるいは未踏階層の探索に彼らは堪えうるか? ……否だ。考えるまでもない。
ならば集まった彼らの『使用用途』や如何に? 弾避け、肉壁、エトセトラ───それが、彼を含めた『ソルカデル王国』一隊の認識にして共通意見。
───もっと高位の冒険者が参加していれば、別の『用途』もあったのに。
その傲慢極まる皮算用を妨げた要因が何であるか、分からぬ彼らは真に恨むべき相手も知らず。
並べて当然と称し下した決断に、しかし彼だけが胸中に強く。
さりとて常人には到底説明不能な『懸念』を抱いて、
もしも、彼が今。
恨み言を吐いて許される相手が、
来る筈だった当然の
『コ ォ……カ ァ……』
「……っ!?」
何度も、何度でも、忽ち身も世も無く、裏拍を刻み始める王子の心臓。
「……殿下? どうされたのですか?」
「い、え……何か、聴こえませんか? あの辺りから……その、地の底を這うような……」
「……? いえ、自分には何も……」
「そう、ですか……」
己が呪わ……もとい、性質の悪いナニカに目を付けられる心当たりがあるかと問われたならば、生来の立場が立場である。強く否定できる由などある筈も無い。
───今まさに呪……恨みを束で買うような真似をしようとしている? いや、それに関しては未遂だし……その、ほら、何事もなく目的を果たして全員帰還、の可能性も無くはないから……」
「───殿下? 今度は誰に話しかけているのです? ……殿下?」
「……っ! ゴホン!! な、何でもありませんよ!」
「そ、そうですか……? 何やら言い訳染みた響きが……っ、はい。何も聞いておりません」
「ええ、それで良いのです。……ええ」
訝しむ騎士を目力と威厳と勢いで黙らせて。
幾分か気を取り直した彼は、胸の奥に重く溜まった息を吐いた。
『ケ ケケ……キ ィ……』
───嫌な予感がする。
この上なく、そこはかとなく、大変な何かが起きそうな予感がする。
……というかアレ絶対ガチなヤツやもん。ヤバイことにならないわけないもん。
冷静さを取り戻した(?)王子の頭は、いつしか取り繕いを放り棄てた思考を始めていた。
それだけ危機に感じたということなのか、彼自身粗野になりゆく己の心音を気に留めることなく今この場の為の思索を進めることに意識を向けていく。
───嫌だなー。怖いなー。
本当の本当に、何事もなく目的の階層まで辿り着けないかなー。……無理だよなあ。
万事恙無く済むが最善。その思いは彼の中にも至極当然として確かに在った。
抑も目標に近付く最も良い『活用法』がそれ、というだけであって彼らを『使い潰す』ことなど目的でもなんでもないのだ。軽んじてはいても憎しみのある相手ではないのだから。
しかし同時に、積んできた経験、知識および無形の感覚の全てが、そうはならないだろうことを彼に切々と告げていく。
そも現実問題として、今いる冒険者達は目標階層近辺において物の足しになりそうにないのだ。それを分かった上で、途中で『脱落』させれば良い、と判を押したのが他ならぬ彼であるわけで。
───いや、ちょっと待て? ……自分は何を訳の分からない悩み方をしてるんだ?
王子ぞ? 我、王子ぞ?
冒険者を使い捨てるのがヤバそうというなら我が止めれば済む話ではないか。そうだそうだ。
…………あれー? 我の為とか言って暴走する臣下の姿を幻視しちゃったぞー?
時には非情な判断も必要となります。此度は殿下にとって良い『教材』になりましたな……とか言いそうな顔にすんげえ心当たりあるんだけどー?
……というか絶対あいつ個人的に冒険者嫌いなだけだろ? そうなんだろ?
例の『勧誘』だって、口では色々言いながら普通にノリ気で立候補してきたしさぁ。……はあ。
「…………何事も、無ければ良いですね」
蚊の鳴くように囁いた彼の言葉は今度こそ、誰の耳にも届かなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
何も起きないまま、恙無く目的を達することは出来ないものだろうか?
そんな望みを他ならぬ王子が誰よりも強く願った瞬間から、数時間後。
それはとある階層に存在した『魔物部屋』。
大人数による野営にも堪えうると、事前に目星が付けられていた、その場所で。
『koかrosuぃkoroげsuしeeぁaaaッ……』
「………………待って?」
藪をつついて蛇を出す。
それに類する一節が次々と、彼の頭の中で沸き立つ泡の如く浮かんでは消えていく。
王子は横を見た。……誰も居ない。
その傍らに控え、身命を賭けて己を守るべき騎士の姿が、何処にも。
続いて王子は後ろを振り返った。……幾つもの遠ざかる背中がある。
己の指示を待つこともなく、我先にと逃げ出した不忠の騎士鎧達が、燦然と。
そして王子は最後に、前を見上げた。
『shきineshにineぁkoえeeがaaaッ……?』
其処に佇むは、夢と断じ、笑った姿にも酷似した…………
既存の魔物の何れとも合致しない、それでいて殺意だけは呆れるほどに放つ、異形の化け物。
…………嗚呼。どうしてこうなったのだろう。
眼前の恐怖に晒された脳が、刻んできた記憶から答えを求めて走馬灯を───
「王子様はボクが守る! ……そしてあわよくば玉の輿に! 玉の輿に!!」
『ア ォ キェ……!?』
『kierぐokiぇerokierごqyueeぬaaaッ……!』
「……………………いや本当に待って?」
呆けることも許されぬ地獄の一丁目。あるいは怪獣大決戦。
固まる身体に残された矜持で、か細い声を絞り出す王子なのであった。
ユズちゃん「なんか暫く出番無いみたいです。わぁい」
レインさん「それでいいのかユズちゃんや」
ユズちゃん「だってあの現場に居なくて済むんですよ?」(真顔)
レインさん「…………! …………………………………」(ミ〇ー顔)
実のところ、当初の案が今一つ面白くならなそうなのでプロット練り直し……を繰り返す度に、性格やら背景事情やら心内台詞が色々と変化してたりします王子殿。
ざまぁ枠、狂言回し、はたまた探索者。作者脳内ですら結末の定まらない彼の明日はどっちだ。