囚われの黒猫   作:天塚 瑠唄

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Episode00
拾い猫


鎮目町の一角にある、バー『HOMRA』。

木の匂いがしそうな艶やかなカウンターに、板張りの床、上品にまとめられたインテリアが並んでいる。

そこのオーナーである草薙出雲は、洗ったグラスを丁寧に磨いている。

 

「んー…、どないしよ」

「どうしたんですか?草薙さん」

「いやぁ、新しいメニュー考えてんねん」

「んー、そうですねぇ。こんなのは…」

「こんなのはどうですか!」

「おい!今は俺が喋ってたんだぞ!!」

「えー、いいじゃんか。オレとさんちゃんの仲だろ?」

「お前と俺の仲ってなんだよ!!」

「はいはい、静かにしような」

 

王様が起きてまうで?

草薙は苦笑しながら、グラスを持っていない手で人差指を唇の前に立てた。

それを聞いた二人は「うっ……」と押し黙った。

そこで、カランカランと入口のベルが鳴った。

 

「ただいまー」

「おー、十束おかえり………って、その背中の子誰や?」

「ん?拾ってきた」

 

十束はいつもの笑顔でさらっとトンデモナイ事を言った。

草薙は小さく溜息をつき、磨いていたグラスを置く。

 

「あぁ、そうなんや……って!拾ってきたってなんや!!今すぐ元の場所に戻してきなさい!!」

「えー、外は雨が降り始めてるのに?」

「ぐっ……」

「いーじゃん、ね?」

 

草薙が反論に詰まっていると、十束は近くにあるソファへ連れ帰ってきた少年を寝転がせた。

猫の耳が付いたような真っ黒なフード。

そこから覗く、肩に届くくらいの黒くボサボサな髪。

年齢は八田たちと同じくらいだろうか。

身長に対しておよそ平均体重に届いていないであろう痩せた身体。

 

「…」

「あ、アンナ」

 

二階から降りて来た真っ赤なドレスのような服を着た少女は、十束ではなくその近くでソファに倒れている少年に目を向けた。

 

「………この子、怪我してる」

「え?本当??」

 

アンナの言葉に十束が少年に触れようとした時だった。

いきなり目を開いた少年は、勢いよく自信の身体を起こし猫のような身軽さで後方に飛んだ。

 

「ビックリしたぁ……」

「………」

 

視線が一気に少年へと集中する。

それぞれが驚いた反応を見せるなか、十束は優しい笑みで少年に近づいていく。

少年の真っ赤な目が十束を強く睨む。

だが、十束はそれを意に返さず声をかける。

 

「大丈夫?」

「……………っ………」

 

床にすれている腕がだらりと下がっている。

少年はそれを気にもせず、ただ動物のように十束を威嚇している。

十束が少年の腕に触れようとした時、彼の服を引っ張るアンナの姿があった。

 

「アンナ?」

「ダメ。………怖がってる」

 

アンナは自分よりも大きい少年を、真っ赤な瞳で見つめた。

見ると、少年は何かに怯えるようにカタカタと身体が震わせていた。

 

「大丈夫……私たちは貴方に何もしない」

「…」

「ね……?」

 

アンナの言葉を聞き、糸が切れたように少年の身体が倒れる。

それを十束がギリギリ抱える。

 

「アンナ、何か見えたんか?」

 

草薙の質問にアンナは静かに頷いた。

でも、と小さく答える。

 

「少ししか、見えなかった…」

「なにが見えたの?」

 

再び倒れた少年の隣に座った十束がアンナに聞く。

アンナは少し言いにくそうに、口をつむぐ。

 

「言いにくかったら、言わなくてもいいよ?アンナ。

…………もしかして、さっきこの子が怖がってたのに関係してる?」

「……うん」

 

アンナは小さく頷いた。

その時、眠っていたフードを被っている少年がゆっくりと瞼を開けた。

 

「………っ」

「大丈夫だよ」

 

十束は優しくそう言うと、少年の身体の震えが少しだけ収まる。

大人しくなった少年の腕を取り、アンナが言っていたケガの治療を始めた。

草薙から受け取った救急箱を開ける。

ダボダボに伸びた袖をめくると、そこには鋭い刃物で何回も傷付けられたようなひどい傷があった。

その傷は塞がっていないものも多く、血が滲んでいる。

少年の手当てをしている十束をカウンターから眺めていた草薙は、今日二度目の溜息をついた。

 

「なんや、ここに置く勢いやな……」

「草薙さんって十束さんに甘い所がありますよね」

「そないなことないでー?」

「ちょ、草薙さん!頭ッ割れる割れる!!」

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